24 / 112
学園サバイバル編
初めての友達
しおりを挟む
血の気が引いた。
リューネ様は秘密をよそにバラしたりする人じゃない、と分かっているとは言え、他がそうである保証はどこにもない。そう、リューネ様が気付いたのであれば、これから別の誰かに知られる可能性もあるのだ。
「落ち着いて、リジー! 私は殿下に……いいえ、誰にもこの事を言うつもりはないわ。あなたが正体を隠す事情は分かるもの」
「ああ、リューネ様……お気遣いありがとうございます。どうしてあたしが、エリザベスだと?」
冷めたハーブティーを飲んでから、リューネ様は説明してくれた。
「普段からリジーは大人しい方だけど、とりわけ午前中はほとんど喋ろうとしなかったじゃない? 何となく雰囲気も違うし、よく見たら瞳の色も違うのよね。だから別人と入れ替わってるのには気付いてたけど、訳ありなのにまだ親しくもない私には話してくれないんだろうなとは思ってた。
特定できたのは、社会学習の絵本を読んでる時ね。エリザベス様を、まるで自分の事のように話していたわ。だけど誰にでも見破れるとは思えないわ。子供たちは気付かなかったんでしょう?」
リューネ様の指摘に、完璧には隠し切れていなかった事に落ち込む。よっぽど注目していないとバレないらしいけど、クラス委員でもあるし、殿下やジュリアンと接触する機会は今後も増えていく。これまでと同じやり方では隠し通せないかもしれない。
あたしは、リューネ様に王妃や学園長、孤児院の院長と協力して二重生活を送っている事情を話した。殿下に潰された刻印を見せてくれと言われたので、見ていい気分のものじゃないと前置きした上で、胸元を寛げる。リューネ様は顔を顰めていたけれど、目は逸らさずにじっと刻印を観察し、時々手で触れた。
「ありがとう、見せたくなかったでしょうに」
「いえ、こちらこそ……黙っていてごめんなさい。あたしの問題だから、他の人は巻き込みたくなくて」
「それなんだけど、リジー。私も仲間に入れてくれない?」
はい? と首を傾げるあたしの肩を、リューネ様はがっしり掴んだ。目がキラキラ輝いている。
「王妃様は、心を許せる友人を作れっておっしゃったんでしょう? 私、許せないの。テセウス殿下の女の子に対する外道な所業もそうだけど、怒らずに受け入れてしまっているリジー、あなたにもよ」
「何とも思っていない訳ではないですが……だって、王妃様でさえ強く言えないのですよ? それに、殿下がこのような仕打ちをなさるのは、神託のせいで……」
「それよ、そもそも王家の人たちは、神託に囚われ過ぎじゃない。そりゃ、自分の死に関する事なら分かるけど、今の代では王太子妃がどんな人かって内容でしょ? それを避けるために痣を焼きごてで潰すのは、どう考えてもやり過ぎだわ。
それにこの件に関して、陛下が何もおっしゃらないなんて変よ。絶対に何か裏があるはずだわ」
リューネ様に言われ、あたしは目から鱗が落ちた。婚約した時から感じていた、殿下の神託への憎悪が凄まじくて、理不尽な仕打ちも仕方がないと受け入れてしまったが、確かに他にやりようがあった気がする。あの御方を前にして、間違った振る舞いをしていないかばかりを気にしていたので、殿下の言動のおかしさについて考えた事もなかったのだ。
「あたしもきな臭さは感じていましたが、陛下も関係していたとするならば、単に婚約者への不満では収まらない事情があるのかもしれませんね」
「それが何なのかはまだ分からないけど……婚約破棄した後もああやって追い込もうとするなんて、きっとまだあなたを利用しようって思惑があるのよ」
リューネ様による推察に、ぞっとして自身を抱きしめる。悪役令嬢エリザベスは何のために、誰のために必要だったのか? 婚約が破棄されてからは単にラク様をいじめから守るための囮ぐらいに思っていたけれど……ひょっとして本当の『悪役への断罪』は、ここからが始まりじゃないのか?
「では、これからどうしたら……今のあたしには、隠れて逃げ回る事しか」
「だーかーら、逃げるにしても手札を増やしておくのよ。情報収集をしたり、頼りになる仲間を見つけてね。
差し当ってリジー、私と友達になりましょう? いつまでも様付けじゃ寂しいから、『リューネ』って呼んで」
「えぇっ!? そ、それは……」
「実家の爵位を抜きにしても、本当は一年先輩なんでしょ? 呼ばないと私も『エリザベス様』って呼ぶから」
「は、はい……リューネさ、リューネ!」
「うんうん、敬語もなしでね」
友情の証に手を取り合えば、リューネの耳が嬉しそうにぴこぴこ揺れる。照れ臭いけど初めてできた学園での友達に、胸が熱くなるのを感じた。
リューネ様は秘密をよそにバラしたりする人じゃない、と分かっているとは言え、他がそうである保証はどこにもない。そう、リューネ様が気付いたのであれば、これから別の誰かに知られる可能性もあるのだ。
「落ち着いて、リジー! 私は殿下に……いいえ、誰にもこの事を言うつもりはないわ。あなたが正体を隠す事情は分かるもの」
「ああ、リューネ様……お気遣いありがとうございます。どうしてあたしが、エリザベスだと?」
冷めたハーブティーを飲んでから、リューネ様は説明してくれた。
「普段からリジーは大人しい方だけど、とりわけ午前中はほとんど喋ろうとしなかったじゃない? 何となく雰囲気も違うし、よく見たら瞳の色も違うのよね。だから別人と入れ替わってるのには気付いてたけど、訳ありなのにまだ親しくもない私には話してくれないんだろうなとは思ってた。
特定できたのは、社会学習の絵本を読んでる時ね。エリザベス様を、まるで自分の事のように話していたわ。だけど誰にでも見破れるとは思えないわ。子供たちは気付かなかったんでしょう?」
リューネ様の指摘に、完璧には隠し切れていなかった事に落ち込む。よっぽど注目していないとバレないらしいけど、クラス委員でもあるし、殿下やジュリアンと接触する機会は今後も増えていく。これまでと同じやり方では隠し通せないかもしれない。
あたしは、リューネ様に王妃や学園長、孤児院の院長と協力して二重生活を送っている事情を話した。殿下に潰された刻印を見せてくれと言われたので、見ていい気分のものじゃないと前置きした上で、胸元を寛げる。リューネ様は顔を顰めていたけれど、目は逸らさずにじっと刻印を観察し、時々手で触れた。
「ありがとう、見せたくなかったでしょうに」
「いえ、こちらこそ……黙っていてごめんなさい。あたしの問題だから、他の人は巻き込みたくなくて」
「それなんだけど、リジー。私も仲間に入れてくれない?」
はい? と首を傾げるあたしの肩を、リューネ様はがっしり掴んだ。目がキラキラ輝いている。
「王妃様は、心を許せる友人を作れっておっしゃったんでしょう? 私、許せないの。テセウス殿下の女の子に対する外道な所業もそうだけど、怒らずに受け入れてしまっているリジー、あなたにもよ」
「何とも思っていない訳ではないですが……だって、王妃様でさえ強く言えないのですよ? それに、殿下がこのような仕打ちをなさるのは、神託のせいで……」
「それよ、そもそも王家の人たちは、神託に囚われ過ぎじゃない。そりゃ、自分の死に関する事なら分かるけど、今の代では王太子妃がどんな人かって内容でしょ? それを避けるために痣を焼きごてで潰すのは、どう考えてもやり過ぎだわ。
それにこの件に関して、陛下が何もおっしゃらないなんて変よ。絶対に何か裏があるはずだわ」
リューネ様に言われ、あたしは目から鱗が落ちた。婚約した時から感じていた、殿下の神託への憎悪が凄まじくて、理不尽な仕打ちも仕方がないと受け入れてしまったが、確かに他にやりようがあった気がする。あの御方を前にして、間違った振る舞いをしていないかばかりを気にしていたので、殿下の言動のおかしさについて考えた事もなかったのだ。
「あたしもきな臭さは感じていましたが、陛下も関係していたとするならば、単に婚約者への不満では収まらない事情があるのかもしれませんね」
「それが何なのかはまだ分からないけど……婚約破棄した後もああやって追い込もうとするなんて、きっとまだあなたを利用しようって思惑があるのよ」
リューネ様による推察に、ぞっとして自身を抱きしめる。悪役令嬢エリザベスは何のために、誰のために必要だったのか? 婚約が破棄されてからは単にラク様をいじめから守るための囮ぐらいに思っていたけれど……ひょっとして本当の『悪役への断罪』は、ここからが始まりじゃないのか?
「では、これからどうしたら……今のあたしには、隠れて逃げ回る事しか」
「だーかーら、逃げるにしても手札を増やしておくのよ。情報収集をしたり、頼りになる仲間を見つけてね。
差し当ってリジー、私と友達になりましょう? いつまでも様付けじゃ寂しいから、『リューネ』って呼んで」
「えぇっ!? そ、それは……」
「実家の爵位を抜きにしても、本当は一年先輩なんでしょ? 呼ばないと私も『エリザベス様』って呼ぶから」
「は、はい……リューネさ、リューネ!」
「うんうん、敬語もなしでね」
友情の証に手を取り合えば、リューネの耳が嬉しそうにぴこぴこ揺れる。照れ臭いけど初めてできた学園での友達に、胸が熱くなるのを感じた。
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる
千環
恋愛
第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。
なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
捨てられた悪役はきっと幸せになる
ariya
恋愛
ヴィヴィア・ゴーヴァン公爵夫人は少女小説に登場する悪役だった。
強欲で傲慢で嫌われ者、夫に捨てられて惨めな最期を迎えた悪役。
その悪役に転生していたことに気づいたヴィヴィアは、夫がヒロインと結ばれたら潔く退場することを考えていた。
それまでお世話になった為、貴族夫人としての仕事の一部だけでもがんばろう。
「ヴィヴィア、あなたを愛してます」
ヒロインに惹かれつつあるはずの夫・クリスは愛をヴィヴィアに捧げると言ってきて。
そもそもクリスがヴィヴィアを娶ったのは、王位継承を狙っている疑惑から逃れる為の契約結婚だったはずでは?
愛などなかったと思っていた夫婦生活に変化が訪れる。
※この作品は、人によっては元鞘話にみえて地雷の方がいるかもしれません。また、ヒーローがヤンデレ寄りですので苦手な方はご注意ください。
※表紙はAIです。
悪役令嬢だったので、身の振り方を考えたい。
しぎ
恋愛
カーティア・メラーニはある日、自分が悪役令嬢であることに気づいた。
断罪イベントまではあと数ヶ月、ヒロインへのざまぁ返しを計画…せずに、カーティアは大好きな読書を楽しみながら、修道院のパンフレットを取り寄せるのだった。悪役令嬢としての日々をカーティアがのんびり過ごしていると、不仲だったはずの婚約者との距離がだんだんおかしくなってきて…。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
悪役令嬢の逆襲
すけさん
恋愛
断罪される1年前に前世の記憶が甦る!
前世は三十代の子持ちのおばちゃんだった。
素行は悪かった悪役令嬢は、急におばちゃんチックな思想が芽生え恋に友情に新たな一面を見せ始めた事で、断罪を回避するべく奮闘する!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる