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呪われた伯爵編
秘密の共有
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アステル様は本棚から一冊抜き出し、中を覗く――違う、外の様子を窺っているのだ。そう言えばあれだけの騒ぎになったのに喧騒は聞こえなくなっているし、あたしたちの声にも気付かれなかったようだ。
「そろそろ出ても問題ないだろう」
「あの……アステル様。また詳しい話をお聞きしたいのですが……会っていただけますか?」
「ん? そうだな、君さえよければ……できれば他の者には言わないで欲しいんだが」
それは、リューネにもだろうか。せっかく友達になったのだから、隠し事はしたくないんだけど。
「魔法というのは、一度見破られてしまえば解けてしまう。このマスクのようにね……。君の友人には、僕に会った事だけ伝えてくれないか?」
「……分かりました」
そうしてアステル様は、この秘密の場所に入る方法を教えてくれただけでなく、『魔道具』と呼ばれるアイテムまでプレゼントしてくれた。
「火時計という……セットされた時間になると、蝋燭が尽きるまで勝手に火がともる。カバーを付ければランプとしても使えるだろう」
「! ありがとうございます。とても役に立つと思います」
夜の間、エリザベスが部屋にいないのは殿下にも知られているだろうから、これがあればアリバイ作りになるだろう。ひょっとしてアステル様も、あたしがどうやって学園生活を送っているのか知っていたのかしら。……まあ、婚約者になるのですものね。
そしてアステル様と別れ、こっそりと図書館を抜け出したあたしはエミィを訪ね、火時計を渡してエリザベスの部屋に置いてもらうよう頼んだ。
「お嬢様、ディアンジュール伯爵とお会いしたのですよね? どんな人ですか?
「とても優しかったわよ」
「いえ、そうではなく……その、噂通りの?」
言われて、エミィが彼の容貌について聞いていると気付いた。アステル様が、必死になって素顔を隠そうとしていたのを思い出し、眉間に皺が寄る。
「エミィ、伯爵は他人の心の痛みが分かる御方よ。見た目にあれこれケチつけるのはおかしいわ」
「し、失礼いたしました! 差し出がましい真似を……」
恐縮させてしまってから、どう考えてもエミィの反応の方が自然だと思い直し、あたしからも謝っておく。亜人でもないのに、あの顔の造りは異常なのだ……アステル様も、魔法によるものと言っていたではないか。ただ、あたしにとって大事なのはそんな事ではないだけで。
「お優しい方だったのですね? お嬢様が、ご自分を貶されたように怒るほど」
「ええ、そりゃあ初めて見た時は驚いちゃったわよ。だけどきっと、殿下の時より上手くやれそうな気がするのよね」
それは良かった、とエミィが微笑んでくれたので、あたしは誇らしい気分になった。
「そろそろ出ても問題ないだろう」
「あの……アステル様。また詳しい話をお聞きしたいのですが……会っていただけますか?」
「ん? そうだな、君さえよければ……できれば他の者には言わないで欲しいんだが」
それは、リューネにもだろうか。せっかく友達になったのだから、隠し事はしたくないんだけど。
「魔法というのは、一度見破られてしまえば解けてしまう。このマスクのようにね……。君の友人には、僕に会った事だけ伝えてくれないか?」
「……分かりました」
そうしてアステル様は、この秘密の場所に入る方法を教えてくれただけでなく、『魔道具』と呼ばれるアイテムまでプレゼントしてくれた。
「火時計という……セットされた時間になると、蝋燭が尽きるまで勝手に火がともる。カバーを付ければランプとしても使えるだろう」
「! ありがとうございます。とても役に立つと思います」
夜の間、エリザベスが部屋にいないのは殿下にも知られているだろうから、これがあればアリバイ作りになるだろう。ひょっとしてアステル様も、あたしがどうやって学園生活を送っているのか知っていたのかしら。……まあ、婚約者になるのですものね。
そしてアステル様と別れ、こっそりと図書館を抜け出したあたしはエミィを訪ね、火時計を渡してエリザベスの部屋に置いてもらうよう頼んだ。
「お嬢様、ディアンジュール伯爵とお会いしたのですよね? どんな人ですか?
「とても優しかったわよ」
「いえ、そうではなく……その、噂通りの?」
言われて、エミィが彼の容貌について聞いていると気付いた。アステル様が、必死になって素顔を隠そうとしていたのを思い出し、眉間に皺が寄る。
「エミィ、伯爵は他人の心の痛みが分かる御方よ。見た目にあれこれケチつけるのはおかしいわ」
「し、失礼いたしました! 差し出がましい真似を……」
恐縮させてしまってから、どう考えてもエミィの反応の方が自然だと思い直し、あたしからも謝っておく。亜人でもないのに、あの顔の造りは異常なのだ……アステル様も、魔法によるものと言っていたではないか。ただ、あたしにとって大事なのはそんな事ではないだけで。
「お優しい方だったのですね? お嬢様が、ご自分を貶されたように怒るほど」
「ええ、そりゃあ初めて見た時は驚いちゃったわよ。だけどきっと、殿下の時より上手くやれそうな気がするのよね」
それは良かった、とエミィが微笑んでくれたので、あたしは誇らしい気分になった。
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