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裏世界編
届いたドレス
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殿下の誕生パーティー当日、あたしは学園長の家で準備をしていた。エリザベスの部屋や城の控室ではどんな嫌がらせをされるか分かったものじゃない。前日、リジーの格好のままエミィと共に、届けられたドレスを持って移動していたのだ。
「まあっ、素敵!」
ドレスを広げた学園長は感嘆の声を上げる。地毛のまま鏡の前で宛がってみたあたしは、あまりにも着せられている感がして自信がなくなった。
「ドレス負けしていないかしら……?」
「平気よ、これから仕上げていけばいいんだから。着たところも見せてちょうだいね」
うきうきと退室する学園長を見送り、エミィに着付けてもらう。殿下を見返すつもりだったあたしも、着けたカツラをアップし、メイクが施されるにつれ、だんだんと別の心配事に思考が移っていった。
(アステル様は、どう思われるかしら?)
いつも図書館で会っていたのは、リジーの方だ。去年、同級生だったアステル様とはすれ違う程度にしか付き合いはなかったのだけれど、婚約者として、エリザベスとしては初めての顔合わせになる。
化け物伯爵と悪役令嬢の組み合わせ……笑い者になる事は確定だけれど、そんな周囲など逆に笑い飛ばせるほど、堂々と振る舞わなければ。
支度ができると、エミィを伴い部屋を出る。学園長は満足げに頷き、あたしの背を叩いた。
「とても綺麗よ。あまり生徒を比べる事はしたくないのだけれど、パーティーに参加する誰よりもね。幸運を祈るわ」
「学園長……ありがとうございます。きっと乗り切ってみせます」
「あら、ちょうどディアンジュール伯爵がお迎えに来られたわ」
ビクッと体が跳ね上がりそうになるのを堪え、開かれた扉の外へ踏み出す。門の外、馬車の前で待っていたアステル様は、いつものマスクを被っていたけれど、服装は黒を基調とした、いかにも貴公子らしい姿だった。
「おはようございます、アステル様。本日は、よろしくお願いいたします」
「……」
「アステル様?」
「あ、お、おはよう……」
マスクなので表情が全く動かないアステル様は、何を考えているのかさっぱり分からない。ドレスを贈ったはいいものの、実はそれほど似合っていなかった……だったらどうしようと身構える。
「あの……ドレス、ありがとうございました。サイズはぴったりでしたが、あ……わたくしには合っていなかったでしょうか?」
「っ!? いや、そんな事はない。ただあまりにも君が眩し過ぎて……僕の隣に置く事で穢してしまわないか怖くなって」
「そのような事、今更です。わたくしはとっくに、穢れていますから」
胸元を彩るコサージュにそっと手を置きながら笑ってみせると、アステル様にその手をぎゅっと握られた。
「僕が君に似合うよう作らせたドレスなんだから、似合わないはずがない。もっと自信を持って」
「ではアステル様も、自虐はお止めください。これからわたくしたちが向かうのは戦場です。気後れしていては、あなたもわたくしも飲まれてしまいます」
あたしの言葉に一瞬息を飲み、強く頷いたアステル様は、肩に手を回し馬車へと誘った。
さあ、いざ殿下たちが待ち構える城へ――!
「まあっ、素敵!」
ドレスを広げた学園長は感嘆の声を上げる。地毛のまま鏡の前で宛がってみたあたしは、あまりにも着せられている感がして自信がなくなった。
「ドレス負けしていないかしら……?」
「平気よ、これから仕上げていけばいいんだから。着たところも見せてちょうだいね」
うきうきと退室する学園長を見送り、エミィに着付けてもらう。殿下を見返すつもりだったあたしも、着けたカツラをアップし、メイクが施されるにつれ、だんだんと別の心配事に思考が移っていった。
(アステル様は、どう思われるかしら?)
いつも図書館で会っていたのは、リジーの方だ。去年、同級生だったアステル様とはすれ違う程度にしか付き合いはなかったのだけれど、婚約者として、エリザベスとしては初めての顔合わせになる。
化け物伯爵と悪役令嬢の組み合わせ……笑い者になる事は確定だけれど、そんな周囲など逆に笑い飛ばせるほど、堂々と振る舞わなければ。
支度ができると、エミィを伴い部屋を出る。学園長は満足げに頷き、あたしの背を叩いた。
「とても綺麗よ。あまり生徒を比べる事はしたくないのだけれど、パーティーに参加する誰よりもね。幸運を祈るわ」
「学園長……ありがとうございます。きっと乗り切ってみせます」
「あら、ちょうどディアンジュール伯爵がお迎えに来られたわ」
ビクッと体が跳ね上がりそうになるのを堪え、開かれた扉の外へ踏み出す。門の外、馬車の前で待っていたアステル様は、いつものマスクを被っていたけれど、服装は黒を基調とした、いかにも貴公子らしい姿だった。
「おはようございます、アステル様。本日は、よろしくお願いいたします」
「……」
「アステル様?」
「あ、お、おはよう……」
マスクなので表情が全く動かないアステル様は、何を考えているのかさっぱり分からない。ドレスを贈ったはいいものの、実はそれほど似合っていなかった……だったらどうしようと身構える。
「あの……ドレス、ありがとうございました。サイズはぴったりでしたが、あ……わたくしには合っていなかったでしょうか?」
「っ!? いや、そんな事はない。ただあまりにも君が眩し過ぎて……僕の隣に置く事で穢してしまわないか怖くなって」
「そのような事、今更です。わたくしはとっくに、穢れていますから」
胸元を彩るコサージュにそっと手を置きながら笑ってみせると、アステル様にその手をぎゅっと握られた。
「僕が君に似合うよう作らせたドレスなんだから、似合わないはずがない。もっと自信を持って」
「ではアステル様も、自虐はお止めください。これからわたくしたちが向かうのは戦場です。気後れしていては、あなたもわたくしも飲まれてしまいます」
あたしの言葉に一瞬息を飲み、強く頷いたアステル様は、肩に手を回し馬車へと誘った。
さあ、いざ殿下たちが待ち構える城へ――!
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