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裏世界編
夏季休暇の始まり
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婚約破棄されてから初めてのテセウス殿下の誕生日パーティーを、アステル様のおかげで乗り切ったあたしは、一学年と二学年の試験も何とかクリアした。
もちろん同じ時間に受けるなど不可能なので、エリザベスは一人だけ早朝に行い、終わったと同時にトイレで着替えてリジーとして一学年の教室に滑り込むのだ。この計画には学園長や教師陣の他、アステル様やリューネにも協力してもらった。殿下は大勢の監視員たちに囲ませるつもりだったようだけど、そんな事をすればあたしだけでなく、他の生徒たちも緊張で試験どころじゃないのでは……?
ともあれ無事夏季休暇を迎えたあたしは、実家であるボーデン男爵領に戻ってきていた。久しぶりの我が家にゆっくり羽を伸ばしたいところだけど、あたしにはやる事がある。
「おとうさん、男爵領の財政状況を教えてほしいの。あと特産品とか……」
「どうしたリジー? お金の事なら心配は要らない。もし公爵に金返せと言われても、いつでも突き返せる準備ぐらいはしているから」
「そうじゃなくて……男爵領のために、役に立ちたいのよ。あたしだっておとうさんの子でしょ?」
あたしがそう言うと、おとうさんはじーんと感動してがばっとあたしを抱きしめた。
「お前ってやつは……なんて親孝行な娘なんだ!」
「リジー、気持ちは嬉しいけど、まずあなたが幸せになってくれる事が私たちの望みよ。婚約者のディアンジュール伯爵とはもうお会いしたの?」
「うん、とてもいい人でね。夏季休暇にはぜひ遊びに来てくれって……」
「な……っ、まさか泊まり……いや、いくら婚約しているからと言って、それはまだ早い……」
アステル様と思った以上に仲良くなっているあたしに、おかあさんは目を輝かせ、おとうさんは狼狽えている。エミィに詳細を問い質している横で、あたしは男爵領について書かれた書物を紐解いていた。
この地域には元々鉱山があり、発掘作業のためにやってきた者たちの家族を住まわせる目的で作られたのが始まりのようだ。その後、鉱物は粗方掘り尽くされたものの、今度は古代王国の財宝が眠るという噂でやってくるトレジャーハンターを相手に観光業が興った。そしてそれも既に発見されている。
あたしにとっても他人事ではない、神託を信じて黄金の遺跡を求めていた何代か前の国王がその発見者なのだけど……遺跡の倒壊に巻き込まれて死亡。以後そこは彼の陵墓として、王家以外は立ち入り禁止になっている。
その後、領民特有の病が流行。長らく伝染病と考えられて領地ごと封じられていたけれど、医学の発達により風土病である事が判明。男爵領は作物が育ちにくく家畜は痩せている――鉱山に近いのも原因なのだろうが、土も水も生物にとっては毒になるのだ。しかしそんな中でも、毒でさえ栄養にしてたくましく育つ植物があったのだ。
「やっぱりこの地にしか存在しない薬草と、それを調合した薬が男爵領の売りよね。風土病もそのおかげで鎮静化したし……ただ、それが国で認可されないとなると」
アステル様から知らされた魔法の存在を思えば、王家がこの地域の薬が特許を取るのを認めない原因には『魔力』が関わってきているのかもしれない。つまり男爵領の薬師たちは、そうとも知らぬまま魔法薬を開発してしまったという事。
「この辺りはアステル様に聞いてみないと分からないわね。何人か領内の学者や薬屋に接触して聞いてみないと」
「お嬢様、熱心なのはいいですが、せっかく帰った娘が構ってくれないと、旦那様も奥様も寂しがられていますよ」
エミィの母でメイド長のマーサがワゴンでティーセットを運びながら、書物に夢中になっているあたしに呆れた声を投げかけた。
もちろん同じ時間に受けるなど不可能なので、エリザベスは一人だけ早朝に行い、終わったと同時にトイレで着替えてリジーとして一学年の教室に滑り込むのだ。この計画には学園長や教師陣の他、アステル様やリューネにも協力してもらった。殿下は大勢の監視員たちに囲ませるつもりだったようだけど、そんな事をすればあたしだけでなく、他の生徒たちも緊張で試験どころじゃないのでは……?
ともあれ無事夏季休暇を迎えたあたしは、実家であるボーデン男爵領に戻ってきていた。久しぶりの我が家にゆっくり羽を伸ばしたいところだけど、あたしにはやる事がある。
「おとうさん、男爵領の財政状況を教えてほしいの。あと特産品とか……」
「どうしたリジー? お金の事なら心配は要らない。もし公爵に金返せと言われても、いつでも突き返せる準備ぐらいはしているから」
「そうじゃなくて……男爵領のために、役に立ちたいのよ。あたしだっておとうさんの子でしょ?」
あたしがそう言うと、おとうさんはじーんと感動してがばっとあたしを抱きしめた。
「お前ってやつは……なんて親孝行な娘なんだ!」
「リジー、気持ちは嬉しいけど、まずあなたが幸せになってくれる事が私たちの望みよ。婚約者のディアンジュール伯爵とはもうお会いしたの?」
「うん、とてもいい人でね。夏季休暇にはぜひ遊びに来てくれって……」
「な……っ、まさか泊まり……いや、いくら婚約しているからと言って、それはまだ早い……」
アステル様と思った以上に仲良くなっているあたしに、おかあさんは目を輝かせ、おとうさんは狼狽えている。エミィに詳細を問い質している横で、あたしは男爵領について書かれた書物を紐解いていた。
この地域には元々鉱山があり、発掘作業のためにやってきた者たちの家族を住まわせる目的で作られたのが始まりのようだ。その後、鉱物は粗方掘り尽くされたものの、今度は古代王国の財宝が眠るという噂でやってくるトレジャーハンターを相手に観光業が興った。そしてそれも既に発見されている。
あたしにとっても他人事ではない、神託を信じて黄金の遺跡を求めていた何代か前の国王がその発見者なのだけど……遺跡の倒壊に巻き込まれて死亡。以後そこは彼の陵墓として、王家以外は立ち入り禁止になっている。
その後、領民特有の病が流行。長らく伝染病と考えられて領地ごと封じられていたけれど、医学の発達により風土病である事が判明。男爵領は作物が育ちにくく家畜は痩せている――鉱山に近いのも原因なのだろうが、土も水も生物にとっては毒になるのだ。しかしそんな中でも、毒でさえ栄養にしてたくましく育つ植物があったのだ。
「やっぱりこの地にしか存在しない薬草と、それを調合した薬が男爵領の売りよね。風土病もそのおかげで鎮静化したし……ただ、それが国で認可されないとなると」
アステル様から知らされた魔法の存在を思えば、王家がこの地域の薬が特許を取るのを認めない原因には『魔力』が関わってきているのかもしれない。つまり男爵領の薬師たちは、そうとも知らぬまま魔法薬を開発してしまったという事。
「この辺りはアステル様に聞いてみないと分からないわね。何人か領内の学者や薬屋に接触して聞いてみないと」
「お嬢様、熱心なのはいいですが、せっかく帰った娘が構ってくれないと、旦那様も奥様も寂しがられていますよ」
エミィの母でメイド長のマーサがワゴンでティーセットを運びながら、書物に夢中になっているあたしに呆れた声を投げかけた。
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