作られた悪役令嬢

白羽鳥(扇つくも)

文字の大きさ
67 / 112
異世界人編

殿下の頼み事

しおりを挟む
 殿下からの呼び出しなど、断れるはずがない。とは言え、今まで目立たず過ごしてきたはずの『リジー』に一体何の用だと言うのだろう。まさかあんな事言って、やっぱりカンニング疑惑が……

 ――なんて考えていたら、もうクラス委員会が始まっていた。休暇明けは始業式だけなので当然だったが。

(困ったな……アステル様に相談するタイミングが)

 キョロキョロと周りを見渡したけれど、気配を消しているのか見当たらない……自分の婚約者なのに。そう言えば休暇中にマスクを新調すると言っていた。前学期では魔法の存在など疑わしいものだったのだが、伯爵領であんな体験をした後では信じざるを得ない。

「在学中のエリザベスの部屋を学園長宅で用意すると通達があってな……特定の生徒を贔屓すべきではないと抗議したんだが、寮の部屋が襲撃に遭った事によるやむを得ない措置だと突っぱねられてしまった」

 口惜しそうに言い捨てる殿下だけど、それはそうでしょうよ。むしろベクトルは違えど『エリザベス』もラク様も殿下は特別扱いしてる上に、生徒会主導で生徒たちに強いているんだから。
 プクーッと頬を膨らませていると、殿下と目が合ってしまい、慌てて俯く。ううっ、バカみたいな顔してるとこ見られちゃったわ……しかもジュリアンからも刺すような視線が。

「……まあ、今のところは表向き問題になるような行動は取っていないから、学園長には監視役として特別に行動を共にする事を許可した。試験の結果など、かなり疑わしかったがな……教師にも何度も確認して、カンニングを行える状況ではなかった上での七位だという事だ」

 えっ、あたし二学年の試験、総合で七位だったの!? す、すごくない? 去年はどう頑張っても十位より上に行けなかったのに、これだけ妨害されて七位って! これもアステル様のおかげね!

「何をニヤけている。真面目に聞いてろ」
「は、はいっ!」

 ジュリアンが唸るように低い声で威嚇してきたので、つい勢いよく返事してしまう。一気に注目され、冷や汗をかきながらも座り直すと、咳払いした殿下に引き続きエリザベスの監視を行うように伝えられ、解散となった。


 ……さて。

「残ってもらって悪かったな」
「いいえっ」

 会議室には殿下とあたし、それに何故かラク様だけが残されていた。漂う緊張感に声が震えそうになり、意識して張り上げる。少しでも気を抜くと『エリザベス』に寄ってしまうのだ……あるいはバレたからこその呼び出しなのかしら?

「それで、頼みたい事というのは……言いにくいのだが、ラクと友人になって欲しいのだ」
「は……ラク様と、あたしが……ですか?」

 あまりにも予想外の展開に、あたしは目が飛び出そうなくらい驚いた。だってラク様と仲良くしろだなんて、殺害未遂容疑のある『エリザベス』だったら絶対にあり得ないじゃない?

「何だ、不服か?」
「とと、とんでもございませんっ! ただ、あたしはまだ一学年でっ、何故ラク先輩と、その……」

 殿下に命令されれば、たかが男爵令嬢としては受けざるを得ないのだけれど、それでも一応、どういうつもりかは聞いておかなければ。後でアステル様とも相談しなくちゃいけないし。

しおりを挟む
感想 103

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。

パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。 将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。 平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。 根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。 その突然の失踪に、大騒ぎ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

処理中です...