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学園祭開催編
演劇【血塗られたエリザベス】①
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「あるところに、エリザベスという、それはそれは美しいお姫様がいました。お姫様の白金の髪はきらきらと輝き、瞳はまるでエメラルドのよう。人々はこう思います。『こんなにも美しいお姫様は、その心も美しいに違いない』」
開幕から始まったのは、絵本の朗読。舞台の上にはちゃちなセットと、『エリザベス』役の女子がぼーっと突っ立っているだけ。観客の困惑の中、ひたすら【血塗られたエリザベス】を読み上げる声が響く。
(これ、原作者的にどうなのかしら……予算なんてウィッグがいちばんかかってるわよね)
横の反応が怖くて見れない。
そのうち、クライマックスに差しかかったところでようやく舞台上に変化が訪れた。ど真ん中に突っ立っていた『エリザベス』が舞台脇まで移動したかと思えば、数人の鎧騎士たちが新たに登場した少女を取り囲んで斧を振り上げる。そこへ金髪の男子が乱入して少女を庇った。なるほど……イメージ演出ね。ちなみにリューネはラク様役で、もふもふの耳は黒髪のウィッグで隠してあるのでいつもと違った印象だ。
「こうして王子様は薔薇の痣の乙女と結ばれ、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし……これは、その後のお話です」
朗読係が絵本をパタンと閉じる間に、『エリザベス』と鎧騎士たちは退場し、異世界の少女 (リューネ)と王子役が残される。
『そうなるはすだったのに、近頃の君は憂いてばかりだ。何を心配する事があるんだい? 君を殺そうとしたエリザベスも、捕えて断罪できたんだ』
『その事なのですが、殿下。私を襲ったのは、本当にエリザベス様だったのでしょうか……あの時は混乱していて、それが真実だと思い込んでいましたが、もしも万が一冤罪で投獄してしまったのだとすれば、この先一生私は悔いる事になるでしょう』
「なんだと……」
地の底から響くような声が隣から聞こえてきて、身が竦む。事前に聞いていたが、殿下の許可を得る際、演劇部はざっくりと【血塗られたエリザベス】を題材にするとしか伝えなかったらしい。そして細かいシナリオは、本番まで外部に漏れないよう徹底されていた。まあ、絵本を否定する内容なんて分かってたら潰されていたし。
でもいくら気に入らないからと言って、劇の最中に乱入するほど理性をなくしたわけではないらしい。そっと窺うと殿下は舞台を睨み付けてはいたが、体勢は腕を組んだままだった。
『君はなんと優しい女性なのだ、世界一心の醜いエリザベスとは大違いだ。だが、確かに状況証拠だけで捕らえてしまった部分はある。ここは確実にエリザベスが犯人だと証明するためにも、今一度検証を行おうではないか』
『さすがは殿下は寛大な御方。私のような異世界の者の意見も聞き入れてくださるのですね。この謎が解けたのなら、私も憂いなくあなた様の手を取りましょう』
舞台上の二人は表向き『エリザベス』を貶めテセウス殿下を持ち上げるという体を装っている。これには殿下も大っぴらに劇を批判できず、時々ピクリと身を震わせながらも見守るしかないようだった。
開幕から始まったのは、絵本の朗読。舞台の上にはちゃちなセットと、『エリザベス』役の女子がぼーっと突っ立っているだけ。観客の困惑の中、ひたすら【血塗られたエリザベス】を読み上げる声が響く。
(これ、原作者的にどうなのかしら……予算なんてウィッグがいちばんかかってるわよね)
横の反応が怖くて見れない。
そのうち、クライマックスに差しかかったところでようやく舞台上に変化が訪れた。ど真ん中に突っ立っていた『エリザベス』が舞台脇まで移動したかと思えば、数人の鎧騎士たちが新たに登場した少女を取り囲んで斧を振り上げる。そこへ金髪の男子が乱入して少女を庇った。なるほど……イメージ演出ね。ちなみにリューネはラク様役で、もふもふの耳は黒髪のウィッグで隠してあるのでいつもと違った印象だ。
「こうして王子様は薔薇の痣の乙女と結ばれ、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし……これは、その後のお話です」
朗読係が絵本をパタンと閉じる間に、『エリザベス』と鎧騎士たちは退場し、異世界の少女 (リューネ)と王子役が残される。
『そうなるはすだったのに、近頃の君は憂いてばかりだ。何を心配する事があるんだい? 君を殺そうとしたエリザベスも、捕えて断罪できたんだ』
『その事なのですが、殿下。私を襲ったのは、本当にエリザベス様だったのでしょうか……あの時は混乱していて、それが真実だと思い込んでいましたが、もしも万が一冤罪で投獄してしまったのだとすれば、この先一生私は悔いる事になるでしょう』
「なんだと……」
地の底から響くような声が隣から聞こえてきて、身が竦む。事前に聞いていたが、殿下の許可を得る際、演劇部はざっくりと【血塗られたエリザベス】を題材にするとしか伝えなかったらしい。そして細かいシナリオは、本番まで外部に漏れないよう徹底されていた。まあ、絵本を否定する内容なんて分かってたら潰されていたし。
でもいくら気に入らないからと言って、劇の最中に乱入するほど理性をなくしたわけではないらしい。そっと窺うと殿下は舞台を睨み付けてはいたが、体勢は腕を組んだままだった。
『君はなんと優しい女性なのだ、世界一心の醜いエリザベスとは大違いだ。だが、確かに状況証拠だけで捕らえてしまった部分はある。ここは確実にエリザベスが犯人だと証明するためにも、今一度検証を行おうではないか』
『さすがは殿下は寛大な御方。私のような異世界の者の意見も聞き入れてくださるのですね。この謎が解けたのなら、私も憂いなくあなた様の手を取りましょう』
舞台上の二人は表向き『エリザベス』を貶めテセウス殿下を持ち上げるという体を装っている。これには殿下も大っぴらに劇を批判できず、時々ピクリと身を震わせながらも見守るしかないようだった。
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