作られた悪役令嬢

白羽鳥(扇つくも)

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学園祭開催編

魔法の存在

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 あれは、『エリザベス』の私室に置いてあった火時計!? でもエミィに回収してもらって、アステル様に渡したはず……どうしてテセウス殿下が持っているの?

(待って、休暇中はずっと火時計は部屋に置きっぱなしだったわ。そのせいで荒らされた時に壊れて上手く作動しなくなったと思ってたけど……)

 違和感に気付かず手渡した時、アステル様は一瞬変な反応を見せなかっただろうか。
 まさか、偽物とすり替えられていた……?

「これはエリザベスの部屋にあったものだ。特定の時間になれば仕掛けが作動し、中の火が点いたり消えたりする……特徴としては炎に他のものを燃やせるだけの温度はなく、単純に明かりとしての機能のみを果たす装置という事だ。
そして調査の結果、これを作ったのは『女神の火』と同じくディアンジュール伯爵領の職人であり、その原理には魔法が使われている事が分かった」

 ぞっとしていると、テセウス殿下は火時計についての詳細を語り出す。観客たちは動揺を隠せないようだが当然だ。この国で魔法と言えば、絵本やお芝居の中だけのおとぎ話。それを王家が公式に認めるなど、前代未聞だったのだ。しかも……

「諸君らは、魔法が実在する事に懐疑的なようだな? 無理もない、建国以来王家がそのようにしてきたのだから。魔法など悪魔か、それに魂を売り渡した魔女の所業だとな。
だがクラウン王国は代々、その悪魔の力を借りて発展を遂げてきた。時には王族の一人を生贄に捧げる事によってな。そして我が弟、アステリオス=ラ=クラウンもまた……」

(え、王家が隠匿してきた真実を、こんな場所で暴露してしまうの!? テセウス殿下は何を考えて……)

 戦慄を覚えるあたしは、何気にアステル様の本当の名前を知れたというのにそれどころではなく焦っていた。あたしに限らず、講堂内の者たちはパニックになりながらもテセウス殿下の発言を指摘する。

「恐れながら殿下、悪魔との契約など神殿が許すでしょうか……たとえ王家と言えども、女神の教えに背くなど――」
「ハハッ、本当におめでたい奴らだな。まだ分からないのか? お前たちクラウン王国民がありがたがって拝んでいる女神こそが、王家が魂を売り渡して契約した悪魔だと言う事を。
少なくとも、国外の人間であればアモレアが邪悪な存在であるというのが共通認識だ。私たちはずっと、悪魔の眷属にさせられてきたんだよ」

 ついに殿下は、この王国の根幹に関わる秘密を口にしてしまった。生まれた時から信仰してきたクラウン王国の者たちは、ただ目を見開いて固まっている。信じる信じない以前に、戸惑うしかないのだ。
 たしかにテセウス殿下の言う通り、悪魔崇拝の邪教と分かったのならその時点でやめてしまえばいいとは思う。あたしだって、アモレアがアステル様にした所業を許せないもの。

(だけど……そう簡単にいくものなの?)

 クラウン王国が女神アモレアの加護と恩恵を受け続けていたのは事実だ。正体が悪魔だからと言って契約を反故にするなど、可能なのだろうか?

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