1 / 1
悔やんでも君は還らない
しおりを挟む
東京の喧騒から少し離れた高級住宅街に立つ、ガラス張りのモダンなマンション。3LDKの広々とした部屋に、十七歳の女子高生・彩花(あやか)は一人で暮らしていた。両親は金持ちだが、かつての仲睦まじさは今となっては遠い過去のもの。 今は仮面夫婦として別居しそれぞれの愛人と暮らしている。せめてもの愛情なのかはわからないが、彩花に高校生にしては過分な仕送りと高級な住まいだけを残して。
彩花は学校や人前では明るく振る舞い、クラスでも人気者だったが、彼女の言動はどこか無神経で、その発言が投げられた側の心に鋭く刺さることがままあった。
「まぁ、いいじゃん、考えすぎ!!」
それがが彩花の口癖で、どうも深く物事を考えるのは苦手なようだった。……というよりは、考えないようにしていたのかも知れない。
一方、彩花の数少ない親友である美咲(みさき)もまた、十七歳の女子高生だった。美咲の人生は彩花とは対照的だった。
物心つい た頃は母子家庭で貧困に喘ぎ、食事もままならない日々が続いた。しかし、中学進学と同時に母が地元の有力な議員・森崎と再婚したことにより、生活は一変。豪邸に移り住み、金銭的な不自由はなくなった。だが、その代償はあまりに大きかった。森崎の息子で義理の兄となった貴明(たかあき) は、実父と継母が再婚してすぐに美咲を強引に犯し、それから性的虐待を何度も繰り返した。母はそれに気づきながらも、議員の妻としての地位を守るため見て見ぬふりをしていた。美咲は心を閉ざし、到底誰にも相談できずにいたのである。
彩花と美咲は、同じ高校のクラスメイトとして出会い、表面的には気楽な友情を築いていた。彩花の軽快な性格は、美咲にとって確かな安らぎであり温かな陽だまりだった。しかし、美咲が抱える闇を打ち明ける勇気はなかなか持てないでいた。
何故なら、彩花は機嫌が良い時は美咲にとても優しいが、そうでない時は非常に冷徹だったからである。恐らく『身内』認定している相手には得てしてそうなのだろうと美咲は察していた。それに彩花から聞く家族の愚痴は、自分の悩みとは異なるけれどそれはそれで辛いのが解るだけに、その裏表の激しさに何も言えなかったのだ。彩花が美咲に甘えているのだと、理解できたから……。
ゴールデンウィークを目前に控えた4月末。彩花は朝から不機嫌だった。たまたま父からの仕送りが遅れ、母親からの電話はいつものように冷たく、そのくせ口煩く……それに対し苛立ちを隠せなかった。
学校の帰り道、美咲と一緒にカフェに立ち寄ったが、彩花の態度はいつもの不機嫌な時以上にそっけなかった。
美咲は、彩花の不機嫌を気にしながらも、意を決して口を開いた。
「ねえ、彩花、ちょっと話したいことがあるんだけど……」
彼女の声は震えていた。義兄からの度重なる虐待……あれは尊厳の殺人だ。そして実母の無関心。大型連休は彩花との約束がないと、日常は閉ざされた地獄でしかない。だから、彩花の気まぐれでいいから誘いが欲しい。そのためでもあるし胸に溜まった 重い言葉を、美咲はようやく吐き出そうとしていた。
……だが、彩花は話を遮ったのだ。
「え、なに? また暗い話? 朝からムカつくことばっかりで、ぶっちゃけ今そんな気分じゃないんだ けどさ……はあ、美咲は良いよね。親もきょうだいも義理とは言えちゃんといて。私なんか孤独の真っ只中にいるのに、美咲は何をそんなに悩んでんの?」
その言葉は、まるでナイフのように美咲の心を切り裂いた。彩花は軽い調子で続ける。
「ほら、連休なんだし、楽しくいこ うよ!! 悩みなんてさ、考えなきゃなくなるって!!」
美咲の目は潤み、唇が震えた。
「......ごめん、変な話して。私、もう帰るね」
彼女はそう呟き、自分の分のお金を置いて急いでカフェを後にした。彩花はちらりと一瞬だけ後ろ姿を見つめたが『まぁ、 すぐ機嫌直すでしょ』と気にも留めなかった。
美咲はカフェを出た後、溢れそうになる涙を堪えながら家とは反対方向の公園に向かった。夕暮れ時、薄暗い木々の間を歩きながら、頭の中は彩花の言葉と下卑た義兄の顔でいっぱいだった。つい先日、彩花との会話で連続強姦殺人事件の話題が出たたことを思い出していた。都内で起きているその事件は、被害者が性的暴行を受けた後に首を絞められ、殺されるという残忍なものだった。
「怖いよね、こんなのが近くで起きてるなんて」
と彩花は軽く言っていたが、美咲にはなぜか現実感があった。何故ならそんなことを平気でをやりかねない存在……義兄がすぐそばにいたからだ。首を絞められたことはないが、酷い時は殴られた。鳩尾はもちろんのこと、顔を叩かれたことも一度や二度ではない……。
公園の奥、木陰に差し掛かったとき、美咲は異様な光景を目撃し た。若い男が、抵抗する女性を地面に押さえつけ、首を絞めていたのだ。
女性の声はすぐに途絶え、男の荒々しい息遣いだけが響いた。美咲は恐怖で動けなかった。男が顔を上げた瞬間、彼女と目が合った。
後にその男自らが名乗ったが、男の名前はショーン。十九歳、日本人の風俗嬢と中東系の外国人の間に間に生まれたハーフの青年だった。高校を中退した後は無職で、連続強姦殺人犯として警察に追われながらも捕まっていなかった。ショーンは美咲に女を殺す場面見られたことに気づき、彼女を追い詰めた。
「お前、今見たよな? いいか、黙ってろよ、じゃなきゃ……」
だが、美咲の反応は予想外だった。彼女は震えながらも、 だがはっきりとこう言った。
「……お願いがあるの。私の義兄を殺して。そした ら、私のことも殺していい。……汚れた体でもよければ、死んだ後なら好きにしていい から。ううん、むしろこの身体の痕跡を、消して欲しい」
ショーンは一瞬、言葉を失った。美咲の目には絶望と決意が宿っていた。彼女は義兄からの虐待、母の裏切り、そして彩花の冷たい言葉を語り始めた。ショーンは貧困と差別に苦しんだ自分の過去を重ね、奇妙な同情を抱いた。
「……わかった。 約束する」
思わず承諾してしまったが、その時のほっとした彼女の笑みに心臓が跳ねるのを感じていたのである。
その夜、ショーンは美咲の義兄・貴明を待ち伏せた。いったん家に戻った美咲から母が再婚した時の家族写真のスナップ撮りしたものを受け取っており、名前と顔は確認していた。普段の行動パターンについても……。
そしてその情報をもとに発見し跡をつけ、繁華街で泥酔した貴明がふらふらと路地に入った瞬間、ショーンは彼を襲い、普段は使わないナイフで喉を掻き切った。貴明はほとんど抵抗できず、血の海の中で息絶えた。
翌朝、ショーンから連絡を受けた美咲は、約束の場所である廃墟ビルの屋上に向かった。彼女は静かに微笑み、
「ありがとう、ショーン……私じゃ出来なかったことをしてくれて」
と呟いた。ショーンは心残りを晴らした彼女の最後の微笑みの美しさに心を揺さぶられながらも、約束を果たした。白く細い、彼女の首に両手を掛け……何人もそうしてきたように絞め上げた。手に伝わった、骨の折れる瞬間と声も上げず息絶えた美咲の最期。
ただ、首に手を掛ける直前、美咲は最後に一つだけお願いをしていた。
「あのね、これだけ約束して。……お願いだから、もう誰も殺さないで」
「…………」
ショーンが頷くのを見届けると、彼女は目を閉じた。そして、その目が開くことは二度となかったのである。
連休明け、近隣で人妻、 貴明、 美咲の遺体が相次いで発見され、街はパニックに陥った。彩花は美咲の死を知り、呆然とした。
謝ろうと思っていた暴言、軽はずみな態度。それがもう永遠に取り返しのつかない事態になったことを悟り、彼女は自室で泣き崩れた。
「美咲……」
美咲と貴明の葬儀が週末に行われ、彩花は制服姿で参列した。美咲の母は涙を流していたが、彩花にはその涙が偽りにしか見えなかった。
また葬儀の最中、義父と思しき人物がやや年上の男性から喫煙所で叱責を受けている場面も見てしまった。その内容と言うのが『あの娘をうちのドラ息子にくれてやる約束だったじゃないか。どうしてくれる』というもので、彩花は酷い憤りを覚えた。しかもそのドラ息子とやらは話によればどうも四十歳前後らしい。そんなオジサンに、美咲は嫁がされるかもしれなかったのか……。
帰り道、彩花は人気のない公園で頭を抱える青年を見つけた。気になって声をかけると、彼は彩花の制服を見て思わず尋ねてきた。
「お前、美咲の知り合いか?」
驚いた彩花が
「なぜあなたが美咲を知ってるの?」
と聞き返すと、ショーンは彩花に全てを告白した。自分の犯した連続殺人、美咲との出会いと頼まれたこと、最後の約束と彼女の死……。
彩花は怒りに震え、ショーンに掴みかかろうとした。だが、ショーンはその衝動に逆に喜ぶような表情を見せた。
「お前が俺を殺してくれるのか?」
「……どういうこと?」
ショーンは自分の過去を語り始めた。貧困、いじめ、母の客だった外国人への憎しみ。繁華街で男にしなだれかかり、平気な顔で不倫する人妻への怒りが殺人衝動に変わっ たこと。そして、美咲を殺した後、彼女の『もう誰も殺さないで』と いう言葉が頭から離れないこと……。
彩花は彼の苦しみを感じ取り、複雑な感情に苛まれた。
「そんなに死にたいなら、 自分で死ねば?」
彩花の問いに、ショーンは
「自殺に見える方法で終わらせたい。頼むから手伝ってくれ。そうすればあんたも俺に復讐出来るだろ。それに、あんたには絶対迷惑かけないから」
と懇願した。彩花は迷ったが、美咲への罪悪感と復讐心から、同意したのである。
凶悪犯はまだ捕まっていないが美咲らぼ葬儀から約一週間後学校が再開し、彩花は美咲のいない教室で孤独を感じていた。そんな中、事件を追う若手刑事・悠太(ゆうた) と出会った。 二十八歳の悠太は明るく軽い性格だが、 刑事としての誇りは持っていた。 彩花はショーンとの計画のアリバイ作りのため、 悠太に捜査協力を申し出た。
それから半月間、彩花は悠太の相棒のように振る舞い、事件の詳細を知る中で美咲の過酷な人生を理解した。義兄の性的虐待、母の無関心、義父の打算。美咲が何度も自分に悩みを打ち明けようとしていたことを思い出し、彩花は自責の念に苛まれた。
「あの時、ちゃんと聞いあげていれば.......]
しかし、そんな折に悠太の上司に彩花の関与がバレ、彼女は捜査協力から外された。ちょうどその時、ショーンから『準備ができた』 という連絡が入った。
その日の夜、彩花は事前に調べておいた監視カメラに映らないルートを使って家を抜け出し、ショーンが指定した廃倉庫へ向かった。そこには、首に縄をかけたショーンが立っていた。彩花がたった一本縄を切 れば、彼は確実に死ぬ仕組みだった。彩花は迷いながらも、美咲の顔を思い出し、目をぎゅっと閉じて縄を切った。
彩花の目の前で、ショーンは痙攣しながら息絶えた。しかし彩花は復讐を果たしたというより、自分自身を壊したような感覚に襲われていた。
数日後、悠太から連絡を受けた彩花は、指定されたネットカフェに向か った。彩花が受付で来客に呼ばれた旨を伝えると、従業員が悠太の取った個室の隣に案内する。制服のスカートを片手で握りしめながら扉を開ける彼女の目は、ドアの隙間から覗き見た悠太にも分かるほどかつての明るさを失っていた。
悠太は彩花が来る前にあらかじめ起ち上げておいたパソコンのチャットにメッセージを送り、事件の顛末を彩花説明した。自殺と思われる男性の死体が発見され、そこにあった遺書から彼がショーンという名で、件の連続強姦殺人犯だと判明したこと。
これまでショーンが捕まらなかった理由が、ショーンは子供の頃急性白血病になり骨髄移植をして助かったが、その副作用で体液(精液)と血液の型が異なっていたせいだったこと。
しかし、悠太は腑に落ちない点に気づいていた。それはショーンの死のタイミングや僅かな目撃情報などに、彩花の微妙な関与の痕跡が見られたからだ。
「……彩花、俺、正直に聞きたい」
悠太はそう打ち込んだ後真剣な目でパソコンのチャット欄を見た。
『……何?』
彩花の答えがすぐ返ってきた。悠太は緊張に震える指で核心に迫る問いを打ち込んだ。
「ショーンの死について、君は何か知ってるんじゃないか?」
その返事までは一瞬、間があった。 その間、悠太は彩花の否定する返答を祈って待つ。……長い、長い数秒、いや、数十秒か? しかしそこに表示されたのは
『..... 証拠はあるの?』
その言葉は冷たく、 まるで吹雪のように悠太の背筋を凍らせた。そして今度はすぐに次の言葉が表示される。
『証拠がないなら、私を疑うのは時間の無駄よ。刑事さんなら、わかるでしょ?』
悠太は言葉に詰まった。彩花の態度は、捜査に協力すると申し出た頃の彼女とは別人のようだった。 彩花の言う通り、決定的な証拠はない。むしろ下手をすれば連続強姦殺人犯に関わった女子高生……被害者の友人を捜査に協力させたことが公になれば自分の立場が危うくなる。上司の一人には気付かれたが、上司曰くこれ以上彼女をこの件に関わらせなければ黙っていてやると……悠太にはもう何も言えず、何も出来なかった。
しばらくの沈黙の後、悠太は隣室から彩花が立ち去る微かな気配を感じながら、胸に引っかかるものを抑えきれなかった。彩花のあの冷めた瞳の裏に、深い悲しみと罪の意識が隠れているように思えたのも原因だろう。
彩花はマンションの自室に戻り、ベッドに倒れ込んだ。窓の外では、東京の夜がネオンの光で輝いていたが、彼女の心は暗闇に沈んでいた。机の上には、以前美咲と一緒に撮った写真シールが置かれていた。
「美咲、ごめんね」
彩花は写真シールを手に取り、胸に抱いた。
「あの時にちゃんと聞いてあげられてたら、美咲をを傷つけずに済んだかもしれないね。あんな人生の終末選ばせなかった、救えたかもしれないよ……ね」
涙が頬を伝い、写真シールのシートに 滴り落ちた。
「今更悔やんでも、君は還らないよね。わかってる、わか ってるよ。……でも、でもね」
彩花はベッドから立ち上がり、クローゼットから一通の手紙を取り出した。それは、美咲が死ぬ前に彩花に送ろうとしたものだった。葬儀の後、美咲の母から泣きながら渡されたが、しばらく怖くて開けられずにいたのだ。
震える手で封を切り、便箋を広げた。そこには、良く知る美咲の丁寧な字でこう書かれていた。
彩花へ
いつもありがとう。あなたと過ごした時間は、私にとって唯一の光でした。辛いことがたくさんあって、話したいのに話せなくて、ごめんね。彩花はいつも明るくて、ちょっと無神経なとこもあるけど(笑) それでも大好きだったよ。 もし私が勇気を出して全部話せてたら、彩花ならきっと、受け止めてくれたよね。
……あのね、お願いが一つあるの。 私がいなくなっても、彩花はどうか笑っていて。あなたの笑顔が、私の一番の幸せだったから。
美咲
彩花は手紙を読み終え、声を上げて泣いた。美咲の優しさ、彼女 の孤独、そして彩花への信頼。それを裏切った自分自身が許せなかった。
「美咲、 ごめん……ごめ………なさ……」
彼女は手紙を胸に押し当て、床にうずくまった。
……どれぐらい泣いていただろう。
夜が更け、身体を起こした彩花は涙を拭い、窓を開けた。冷たい夜風が部屋に流 れ込み、彼女の髪を揺らした。 彼女は美咲の写真シールを手に、夜空を見上げた。
「美咲、約束するよ。あなたの分まで、ちゃんと生きる。笑顔で生きるよ。…………でも、時々はさ、こうやって泣いてもいい、よね?」
遠くで聞こえる街の喧騒の中、 彩花は小さく微笑んだ。それは、悲しみと希望が交錯する、儚い笑顔だった。
翌朝、彩花は制服を着て家を出る。鞄の中には、美咲の手紙が大切にしまわれていた。学校への道すがら、彼女は空を見上げ、泣きそうな表情で微笑みかける。それは美咲のあの笑みに良く似ていた。
悔やんでも君は還らない
振り絞る声よどうか
届け君のもとへ
君の儚げな笑みが
僕の胸を貫くよ
君があの日言った
言葉を思い出すよ
震えた声で「ごめんね」
泣き出しそうな表情(かお)して
僕は君にあんな
酷い言葉を投げた
それなのにどうして
君が謝るのだろう
君にもう会えない
そう判ってたら
ナイフのよな言葉
突き立てなかったよ
空に広がる白雲
集め翼にして
何も干渉をしない
世界どうか連れてって
振り絞る声よどうか
届け君のもとへ
君の儚げな笑みが
僕の胸を貫くよ
僕の言葉君は
どう受け止めたのだろう
苛立ちをただぶつけた
幼い僕の感情
君の心に傷
負わせ立ち去った僕
絶望をいだいた
君の痛みも知らず
二度ともう会えない
そう判ってたら
少しでも優しく
してあげたかったよ
胸が潰れるくらいに
痛み悲鳴あげる
すべて夢だったらいい
だけどこれが現実だ
溢れ出す涙どうか
届け君のもとへ
君の儚げな笑みが
僕の胸を貫くよ
空に広がる白雲
集め翼にして
何も干渉をしない
世界どうか連れてって
振り絞る歌よどうか
届け君のもとへ
君の儚げな笑みが
僕の胸を貫くよ
https://youtu.be/8xn2TsHmJ_U?si=weYZXGrY6z1stJpT
彩花は学校や人前では明るく振る舞い、クラスでも人気者だったが、彼女の言動はどこか無神経で、その発言が投げられた側の心に鋭く刺さることがままあった。
「まぁ、いいじゃん、考えすぎ!!」
それがが彩花の口癖で、どうも深く物事を考えるのは苦手なようだった。……というよりは、考えないようにしていたのかも知れない。
一方、彩花の数少ない親友である美咲(みさき)もまた、十七歳の女子高生だった。美咲の人生は彩花とは対照的だった。
物心つい た頃は母子家庭で貧困に喘ぎ、食事もままならない日々が続いた。しかし、中学進学と同時に母が地元の有力な議員・森崎と再婚したことにより、生活は一変。豪邸に移り住み、金銭的な不自由はなくなった。だが、その代償はあまりに大きかった。森崎の息子で義理の兄となった貴明(たかあき) は、実父と継母が再婚してすぐに美咲を強引に犯し、それから性的虐待を何度も繰り返した。母はそれに気づきながらも、議員の妻としての地位を守るため見て見ぬふりをしていた。美咲は心を閉ざし、到底誰にも相談できずにいたのである。
彩花と美咲は、同じ高校のクラスメイトとして出会い、表面的には気楽な友情を築いていた。彩花の軽快な性格は、美咲にとって確かな安らぎであり温かな陽だまりだった。しかし、美咲が抱える闇を打ち明ける勇気はなかなか持てないでいた。
何故なら、彩花は機嫌が良い時は美咲にとても優しいが、そうでない時は非常に冷徹だったからである。恐らく『身内』認定している相手には得てしてそうなのだろうと美咲は察していた。それに彩花から聞く家族の愚痴は、自分の悩みとは異なるけれどそれはそれで辛いのが解るだけに、その裏表の激しさに何も言えなかったのだ。彩花が美咲に甘えているのだと、理解できたから……。
ゴールデンウィークを目前に控えた4月末。彩花は朝から不機嫌だった。たまたま父からの仕送りが遅れ、母親からの電話はいつものように冷たく、そのくせ口煩く……それに対し苛立ちを隠せなかった。
学校の帰り道、美咲と一緒にカフェに立ち寄ったが、彩花の態度はいつもの不機嫌な時以上にそっけなかった。
美咲は、彩花の不機嫌を気にしながらも、意を決して口を開いた。
「ねえ、彩花、ちょっと話したいことがあるんだけど……」
彼女の声は震えていた。義兄からの度重なる虐待……あれは尊厳の殺人だ。そして実母の無関心。大型連休は彩花との約束がないと、日常は閉ざされた地獄でしかない。だから、彩花の気まぐれでいいから誘いが欲しい。そのためでもあるし胸に溜まった 重い言葉を、美咲はようやく吐き出そうとしていた。
……だが、彩花は話を遮ったのだ。
「え、なに? また暗い話? 朝からムカつくことばっかりで、ぶっちゃけ今そんな気分じゃないんだ けどさ……はあ、美咲は良いよね。親もきょうだいも義理とは言えちゃんといて。私なんか孤独の真っ只中にいるのに、美咲は何をそんなに悩んでんの?」
その言葉は、まるでナイフのように美咲の心を切り裂いた。彩花は軽い調子で続ける。
「ほら、連休なんだし、楽しくいこ うよ!! 悩みなんてさ、考えなきゃなくなるって!!」
美咲の目は潤み、唇が震えた。
「......ごめん、変な話して。私、もう帰るね」
彼女はそう呟き、自分の分のお金を置いて急いでカフェを後にした。彩花はちらりと一瞬だけ後ろ姿を見つめたが『まぁ、 すぐ機嫌直すでしょ』と気にも留めなかった。
美咲はカフェを出た後、溢れそうになる涙を堪えながら家とは反対方向の公園に向かった。夕暮れ時、薄暗い木々の間を歩きながら、頭の中は彩花の言葉と下卑た義兄の顔でいっぱいだった。つい先日、彩花との会話で連続強姦殺人事件の話題が出たたことを思い出していた。都内で起きているその事件は、被害者が性的暴行を受けた後に首を絞められ、殺されるという残忍なものだった。
「怖いよね、こんなのが近くで起きてるなんて」
と彩花は軽く言っていたが、美咲にはなぜか現実感があった。何故ならそんなことを平気でをやりかねない存在……義兄がすぐそばにいたからだ。首を絞められたことはないが、酷い時は殴られた。鳩尾はもちろんのこと、顔を叩かれたことも一度や二度ではない……。
公園の奥、木陰に差し掛かったとき、美咲は異様な光景を目撃し た。若い男が、抵抗する女性を地面に押さえつけ、首を絞めていたのだ。
女性の声はすぐに途絶え、男の荒々しい息遣いだけが響いた。美咲は恐怖で動けなかった。男が顔を上げた瞬間、彼女と目が合った。
後にその男自らが名乗ったが、男の名前はショーン。十九歳、日本人の風俗嬢と中東系の外国人の間に間に生まれたハーフの青年だった。高校を中退した後は無職で、連続強姦殺人犯として警察に追われながらも捕まっていなかった。ショーンは美咲に女を殺す場面見られたことに気づき、彼女を追い詰めた。
「お前、今見たよな? いいか、黙ってろよ、じゃなきゃ……」
だが、美咲の反応は予想外だった。彼女は震えながらも、 だがはっきりとこう言った。
「……お願いがあるの。私の義兄を殺して。そした ら、私のことも殺していい。……汚れた体でもよければ、死んだ後なら好きにしていい から。ううん、むしろこの身体の痕跡を、消して欲しい」
ショーンは一瞬、言葉を失った。美咲の目には絶望と決意が宿っていた。彼女は義兄からの虐待、母の裏切り、そして彩花の冷たい言葉を語り始めた。ショーンは貧困と差別に苦しんだ自分の過去を重ね、奇妙な同情を抱いた。
「……わかった。 約束する」
思わず承諾してしまったが、その時のほっとした彼女の笑みに心臓が跳ねるのを感じていたのである。
その夜、ショーンは美咲の義兄・貴明を待ち伏せた。いったん家に戻った美咲から母が再婚した時の家族写真のスナップ撮りしたものを受け取っており、名前と顔は確認していた。普段の行動パターンについても……。
そしてその情報をもとに発見し跡をつけ、繁華街で泥酔した貴明がふらふらと路地に入った瞬間、ショーンは彼を襲い、普段は使わないナイフで喉を掻き切った。貴明はほとんど抵抗できず、血の海の中で息絶えた。
翌朝、ショーンから連絡を受けた美咲は、約束の場所である廃墟ビルの屋上に向かった。彼女は静かに微笑み、
「ありがとう、ショーン……私じゃ出来なかったことをしてくれて」
と呟いた。ショーンは心残りを晴らした彼女の最後の微笑みの美しさに心を揺さぶられながらも、約束を果たした。白く細い、彼女の首に両手を掛け……何人もそうしてきたように絞め上げた。手に伝わった、骨の折れる瞬間と声も上げず息絶えた美咲の最期。
ただ、首に手を掛ける直前、美咲は最後に一つだけお願いをしていた。
「あのね、これだけ約束して。……お願いだから、もう誰も殺さないで」
「…………」
ショーンが頷くのを見届けると、彼女は目を閉じた。そして、その目が開くことは二度となかったのである。
連休明け、近隣で人妻、 貴明、 美咲の遺体が相次いで発見され、街はパニックに陥った。彩花は美咲の死を知り、呆然とした。
謝ろうと思っていた暴言、軽はずみな態度。それがもう永遠に取り返しのつかない事態になったことを悟り、彼女は自室で泣き崩れた。
「美咲……」
美咲と貴明の葬儀が週末に行われ、彩花は制服姿で参列した。美咲の母は涙を流していたが、彩花にはその涙が偽りにしか見えなかった。
また葬儀の最中、義父と思しき人物がやや年上の男性から喫煙所で叱責を受けている場面も見てしまった。その内容と言うのが『あの娘をうちのドラ息子にくれてやる約束だったじゃないか。どうしてくれる』というもので、彩花は酷い憤りを覚えた。しかもそのドラ息子とやらは話によればどうも四十歳前後らしい。そんなオジサンに、美咲は嫁がされるかもしれなかったのか……。
帰り道、彩花は人気のない公園で頭を抱える青年を見つけた。気になって声をかけると、彼は彩花の制服を見て思わず尋ねてきた。
「お前、美咲の知り合いか?」
驚いた彩花が
「なぜあなたが美咲を知ってるの?」
と聞き返すと、ショーンは彩花に全てを告白した。自分の犯した連続殺人、美咲との出会いと頼まれたこと、最後の約束と彼女の死……。
彩花は怒りに震え、ショーンに掴みかかろうとした。だが、ショーンはその衝動に逆に喜ぶような表情を見せた。
「お前が俺を殺してくれるのか?」
「……どういうこと?」
ショーンは自分の過去を語り始めた。貧困、いじめ、母の客だった外国人への憎しみ。繁華街で男にしなだれかかり、平気な顔で不倫する人妻への怒りが殺人衝動に変わっ たこと。そして、美咲を殺した後、彼女の『もう誰も殺さないで』と いう言葉が頭から離れないこと……。
彩花は彼の苦しみを感じ取り、複雑な感情に苛まれた。
「そんなに死にたいなら、 自分で死ねば?」
彩花の問いに、ショーンは
「自殺に見える方法で終わらせたい。頼むから手伝ってくれ。そうすればあんたも俺に復讐出来るだろ。それに、あんたには絶対迷惑かけないから」
と懇願した。彩花は迷ったが、美咲への罪悪感と復讐心から、同意したのである。
凶悪犯はまだ捕まっていないが美咲らぼ葬儀から約一週間後学校が再開し、彩花は美咲のいない教室で孤独を感じていた。そんな中、事件を追う若手刑事・悠太(ゆうた) と出会った。 二十八歳の悠太は明るく軽い性格だが、 刑事としての誇りは持っていた。 彩花はショーンとの計画のアリバイ作りのため、 悠太に捜査協力を申し出た。
それから半月間、彩花は悠太の相棒のように振る舞い、事件の詳細を知る中で美咲の過酷な人生を理解した。義兄の性的虐待、母の無関心、義父の打算。美咲が何度も自分に悩みを打ち明けようとしていたことを思い出し、彩花は自責の念に苛まれた。
「あの時、ちゃんと聞いあげていれば.......]
しかし、そんな折に悠太の上司に彩花の関与がバレ、彼女は捜査協力から外された。ちょうどその時、ショーンから『準備ができた』 という連絡が入った。
その日の夜、彩花は事前に調べておいた監視カメラに映らないルートを使って家を抜け出し、ショーンが指定した廃倉庫へ向かった。そこには、首に縄をかけたショーンが立っていた。彩花がたった一本縄を切 れば、彼は確実に死ぬ仕組みだった。彩花は迷いながらも、美咲の顔を思い出し、目をぎゅっと閉じて縄を切った。
彩花の目の前で、ショーンは痙攣しながら息絶えた。しかし彩花は復讐を果たしたというより、自分自身を壊したような感覚に襲われていた。
数日後、悠太から連絡を受けた彩花は、指定されたネットカフェに向か った。彩花が受付で来客に呼ばれた旨を伝えると、従業員が悠太の取った個室の隣に案内する。制服のスカートを片手で握りしめながら扉を開ける彼女の目は、ドアの隙間から覗き見た悠太にも分かるほどかつての明るさを失っていた。
悠太は彩花が来る前にあらかじめ起ち上げておいたパソコンのチャットにメッセージを送り、事件の顛末を彩花説明した。自殺と思われる男性の死体が発見され、そこにあった遺書から彼がショーンという名で、件の連続強姦殺人犯だと判明したこと。
これまでショーンが捕まらなかった理由が、ショーンは子供の頃急性白血病になり骨髄移植をして助かったが、その副作用で体液(精液)と血液の型が異なっていたせいだったこと。
しかし、悠太は腑に落ちない点に気づいていた。それはショーンの死のタイミングや僅かな目撃情報などに、彩花の微妙な関与の痕跡が見られたからだ。
「……彩花、俺、正直に聞きたい」
悠太はそう打ち込んだ後真剣な目でパソコンのチャット欄を見た。
『……何?』
彩花の答えがすぐ返ってきた。悠太は緊張に震える指で核心に迫る問いを打ち込んだ。
「ショーンの死について、君は何か知ってるんじゃないか?」
その返事までは一瞬、間があった。 その間、悠太は彩花の否定する返答を祈って待つ。……長い、長い数秒、いや、数十秒か? しかしそこに表示されたのは
『..... 証拠はあるの?』
その言葉は冷たく、 まるで吹雪のように悠太の背筋を凍らせた。そして今度はすぐに次の言葉が表示される。
『証拠がないなら、私を疑うのは時間の無駄よ。刑事さんなら、わかるでしょ?』
悠太は言葉に詰まった。彩花の態度は、捜査に協力すると申し出た頃の彼女とは別人のようだった。 彩花の言う通り、決定的な証拠はない。むしろ下手をすれば連続強姦殺人犯に関わった女子高生……被害者の友人を捜査に協力させたことが公になれば自分の立場が危うくなる。上司の一人には気付かれたが、上司曰くこれ以上彼女をこの件に関わらせなければ黙っていてやると……悠太にはもう何も言えず、何も出来なかった。
しばらくの沈黙の後、悠太は隣室から彩花が立ち去る微かな気配を感じながら、胸に引っかかるものを抑えきれなかった。彩花のあの冷めた瞳の裏に、深い悲しみと罪の意識が隠れているように思えたのも原因だろう。
彩花はマンションの自室に戻り、ベッドに倒れ込んだ。窓の外では、東京の夜がネオンの光で輝いていたが、彼女の心は暗闇に沈んでいた。机の上には、以前美咲と一緒に撮った写真シールが置かれていた。
「美咲、ごめんね」
彩花は写真シールを手に取り、胸に抱いた。
「あの時にちゃんと聞いてあげられてたら、美咲をを傷つけずに済んだかもしれないね。あんな人生の終末選ばせなかった、救えたかもしれないよ……ね」
涙が頬を伝い、写真シールのシートに 滴り落ちた。
「今更悔やんでも、君は還らないよね。わかってる、わか ってるよ。……でも、でもね」
彩花はベッドから立ち上がり、クローゼットから一通の手紙を取り出した。それは、美咲が死ぬ前に彩花に送ろうとしたものだった。葬儀の後、美咲の母から泣きながら渡されたが、しばらく怖くて開けられずにいたのだ。
震える手で封を切り、便箋を広げた。そこには、良く知る美咲の丁寧な字でこう書かれていた。
彩花へ
いつもありがとう。あなたと過ごした時間は、私にとって唯一の光でした。辛いことがたくさんあって、話したいのに話せなくて、ごめんね。彩花はいつも明るくて、ちょっと無神経なとこもあるけど(笑) それでも大好きだったよ。 もし私が勇気を出して全部話せてたら、彩花ならきっと、受け止めてくれたよね。
……あのね、お願いが一つあるの。 私がいなくなっても、彩花はどうか笑っていて。あなたの笑顔が、私の一番の幸せだったから。
美咲
彩花は手紙を読み終え、声を上げて泣いた。美咲の優しさ、彼女 の孤独、そして彩花への信頼。それを裏切った自分自身が許せなかった。
「美咲、 ごめん……ごめ………なさ……」
彼女は手紙を胸に押し当て、床にうずくまった。
……どれぐらい泣いていただろう。
夜が更け、身体を起こした彩花は涙を拭い、窓を開けた。冷たい夜風が部屋に流 れ込み、彼女の髪を揺らした。 彼女は美咲の写真シールを手に、夜空を見上げた。
「美咲、約束するよ。あなたの分まで、ちゃんと生きる。笑顔で生きるよ。…………でも、時々はさ、こうやって泣いてもいい、よね?」
遠くで聞こえる街の喧騒の中、 彩花は小さく微笑んだ。それは、悲しみと希望が交錯する、儚い笑顔だった。
翌朝、彩花は制服を着て家を出る。鞄の中には、美咲の手紙が大切にしまわれていた。学校への道すがら、彼女は空を見上げ、泣きそうな表情で微笑みかける。それは美咲のあの笑みに良く似ていた。
悔やんでも君は還らない
振り絞る声よどうか
届け君のもとへ
君の儚げな笑みが
僕の胸を貫くよ
君があの日言った
言葉を思い出すよ
震えた声で「ごめんね」
泣き出しそうな表情(かお)して
僕は君にあんな
酷い言葉を投げた
それなのにどうして
君が謝るのだろう
君にもう会えない
そう判ってたら
ナイフのよな言葉
突き立てなかったよ
空に広がる白雲
集め翼にして
何も干渉をしない
世界どうか連れてって
振り絞る声よどうか
届け君のもとへ
君の儚げな笑みが
僕の胸を貫くよ
僕の言葉君は
どう受け止めたのだろう
苛立ちをただぶつけた
幼い僕の感情
君の心に傷
負わせ立ち去った僕
絶望をいだいた
君の痛みも知らず
二度ともう会えない
そう判ってたら
少しでも優しく
してあげたかったよ
胸が潰れるくらいに
痛み悲鳴あげる
すべて夢だったらいい
だけどこれが現実だ
溢れ出す涙どうか
届け君のもとへ
君の儚げな笑みが
僕の胸を貫くよ
空に広がる白雲
集め翼にして
何も干渉をしない
世界どうか連れてって
振り絞る歌よどうか
届け君のもとへ
君の儚げな笑みが
僕の胸を貫くよ
https://youtu.be/8xn2TsHmJ_U?si=weYZXGrY6z1stJpT
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
【1話完結】あなたの恋人は毎夜わたしのベッドで寝てますよ。
ariya
ファンタジー
ソフィア・ラテットは、婚約者アレックスから疎まれていた。
彼の傍らには、いつも愛らしい恋人リリアンヌ。
婚約者の立場として注意しても、アレックスは聞く耳を持たない。
そして迎えた学園卒業パーティー。
ソフィアは公衆の面前で婚約破棄を言い渡される。
ガッツポーズを決めるリリアンヌ。
そのままアレックスに飛び込むかと思いきや――
彼女が抱きついた先は、ソフィアだった。
【完結】私が愛されるのを見ていなさい
芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定)
公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。
絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。
ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。
完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。
立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
嫌われたと思って離れたのに
ラム猫
恋愛
私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。
距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。
悪役令嬢は手加減無しに復讐する
田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。
理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。
婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
『お前を愛する事はない』なんて言ってないでしょうね?
あんど もあ
ファンタジー
政略結婚で妻を娶った息子に、母親は穏やかに、だが厳しく訊ねる。
「『お前を愛する事は無い』なんて言ってないでしょうね?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる