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堕ちた神盾
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人知れず町の外に出たメロディアは申し訳程度に背負ったシオーナへ布をかけた。そうして簡単な収集クエストを任された城下の少年を装うと、街道を歩き始めたのだ。
草原のそよ吹く風を浴びながら、機を伺う気配を殺しながら歩みを進めた。戦うにしても話し合うにしてもシオーナのレッグパーツがネックとなる。レッグがネックになるなんてつまらない洒落も気にならないほど、メロディアは集中していた。
やがてドロモカと簡単な会釈をしてすれ違った時、布にくるんだ仰々しい荷物を確認する。十中八九、あれがシオーナのパーツと見て間違いないだろう。メロディアは素早く踵を返すとソレを引ったくるために一縷の隙を付く動きを見せた。
だが、それはシオーナに絶妙なタイミングで邪魔されてしまった。
「ドロモカ」
わざわざ身を潜ませたと言うのに、それを全く理解していないような戦犯ムーブをかます。おかげで取り戻すのを邪魔されたばかりかドロモカに警戒心を与え、僅かな隙さえも消されてしまったのだ。
メロディアとドロモカは互いが互いの出方を伺い、牽制をし合う。特にドロモカにしてみれば得たいの知れない少年に素性がバレているという心理的なダメージもあった。が、それもシオーナが布を取り払い顔を見せるまでの話だった。
「落ち着いて」
「!? し、シオーナ様…?」
「え?」
「どうか話をする機会を作ってほしい」
シオーナの言動にすっかり拍子を狂われ、毒気まで抜けた二人はゆるゆると構えを解いた。
しばらく続く気まずい沈黙の中、何をどうすればいいのかを考えていたメロディアだったが、街道脇にあったふかふかな草原を指差して言う。
「話と言うことでしたら、取り合えずそこに座ってお茶でも飲みますか?」
「…ご馳走になります」
「またお茶…お腹チャポチャポになりそう」
◇
どこからともなく机と椅子を取り出したメロディアは慣れた手つきでソレを配置すると、あっという間にお茶会の準備を整えた。先ほどのシオーナとは違い、クッキーやスコーンを紅茶で頂くという西欧風なティータイムが始まる。
草原のど真ん中でのお茶会は滑稽にも、風流にも見えた。
しかし椅子に腰を掛けた後も、二人は気を抜いた訳ではなかった。
なのでお茶や菓子に手はつけずにいた。その内に唯一橋渡しができるであろうシオーナへメロディアとドロモカの視線は移っていった。
「紹介する。こちらは私と同じく八英女のドロモカ」
「…ドロモカでございます」
「あ、どうも。メロディアと言います」
「して、メロディア様はどのような御仁で?」
「聞くまでもありませんが、勇者スコアと魔王ソルディタはご存じですよね?」
「勿論でございます」
「僕はその二人の子供です」
「…」
てっきり今までの七人のように驚天動地な反応をすると思っていた。メロディアもいつの間にやらドロマーに感化されて、自分の正体を知ったときの八英女のリアクションが少々楽しみになっていた。しかも事実上、彼女が最後の八英女。正体を明かして驚かせるのも見納めになる。さて、どんな反応を示すのだろうか。
だが、その期待とは裏腹にドロモカは顔色一つ変えず、じっと目の前の少年を見続けるだけだった。
そして自分の中で整理がつけられたのか、
「左様ですか」
と呟いた。
これにはメロディアの方が面食らった。
「驚かないんですか?」
「その不可解なオーラの正体が分かったという納得感の方が大きゅうございます。それにスコア様がお子を授かったという話は風聞にて聞き及んでおりました。あれほどの御仁の子を身籠る奥方がどのような方か、そしてなぜ奥方様の噂はほとんど聞かないのか、答えを知ってしまえばそれしか考えられないというのに…自分の浅慮を恥じるばかりです」
「なるほど…?」
凄いな。伝承以上に礼儀正しく、それでいて想像以上にポーカーフェイスな人だと思った。
いついかなるときでも冷静さを失わず、勇者一行の屋台骨として下支えを担ってきたことはある。父さんも何をしてもドロモカが取り乱すことはなかったから、冷静沈着に物事を判断することができたと言っていたし。
これが「神盾のドロモカ」という人なのか。
けど…なんだろう。今までの七人と違って明確に堕落しているってことが分かりにくいな。魔族の気配だってしないし、本当に堕ちているのかと勘ぐってしまうほどに雰囲気が滑らかだ。
「取り合えずお茶をどうぞ」
「頂戴します。毒を警戒していましたが、こうなってしまってはそれを疑うことも無用ですね」
「ええ。お茶をしながらお話をしましょう」
「承知しました。私もご相談したいことがあります」
そういってドロモカは優雅にティカップを持つ。そして…それを口ではなく目に運んでいく。
目で紅茶が飲めるわけもなく、カップの中身は全てドロモカの顔面に流れ出ていった。
「ちょっと!?」
「す、すみません。急に目で紅茶を飲みたくなったのですが、無理でした」
「生まれてはじめて聞いた言い訳!」
「テーブルを汚してしまいました。布巾をお借りします」
「落ち着いて、ドロモカ。これは布巾ではなく、私の髪の毛」
「表情変わんねーけど、大分動揺しているな!?」
草原のそよ吹く風を浴びながら、機を伺う気配を殺しながら歩みを進めた。戦うにしても話し合うにしてもシオーナのレッグパーツがネックとなる。レッグがネックになるなんてつまらない洒落も気にならないほど、メロディアは集中していた。
やがてドロモカと簡単な会釈をしてすれ違った時、布にくるんだ仰々しい荷物を確認する。十中八九、あれがシオーナのパーツと見て間違いないだろう。メロディアは素早く踵を返すとソレを引ったくるために一縷の隙を付く動きを見せた。
だが、それはシオーナに絶妙なタイミングで邪魔されてしまった。
「ドロモカ」
わざわざ身を潜ませたと言うのに、それを全く理解していないような戦犯ムーブをかます。おかげで取り戻すのを邪魔されたばかりかドロモカに警戒心を与え、僅かな隙さえも消されてしまったのだ。
メロディアとドロモカは互いが互いの出方を伺い、牽制をし合う。特にドロモカにしてみれば得たいの知れない少年に素性がバレているという心理的なダメージもあった。が、それもシオーナが布を取り払い顔を見せるまでの話だった。
「落ち着いて」
「!? し、シオーナ様…?」
「え?」
「どうか話をする機会を作ってほしい」
シオーナの言動にすっかり拍子を狂われ、毒気まで抜けた二人はゆるゆると構えを解いた。
しばらく続く気まずい沈黙の中、何をどうすればいいのかを考えていたメロディアだったが、街道脇にあったふかふかな草原を指差して言う。
「話と言うことでしたら、取り合えずそこに座ってお茶でも飲みますか?」
「…ご馳走になります」
「またお茶…お腹チャポチャポになりそう」
◇
どこからともなく机と椅子を取り出したメロディアは慣れた手つきでソレを配置すると、あっという間にお茶会の準備を整えた。先ほどのシオーナとは違い、クッキーやスコーンを紅茶で頂くという西欧風なティータイムが始まる。
草原のど真ん中でのお茶会は滑稽にも、風流にも見えた。
しかし椅子に腰を掛けた後も、二人は気を抜いた訳ではなかった。
なのでお茶や菓子に手はつけずにいた。その内に唯一橋渡しができるであろうシオーナへメロディアとドロモカの視線は移っていった。
「紹介する。こちらは私と同じく八英女のドロモカ」
「…ドロモカでございます」
「あ、どうも。メロディアと言います」
「して、メロディア様はどのような御仁で?」
「聞くまでもありませんが、勇者スコアと魔王ソルディタはご存じですよね?」
「勿論でございます」
「僕はその二人の子供です」
「…」
てっきり今までの七人のように驚天動地な反応をすると思っていた。メロディアもいつの間にやらドロマーに感化されて、自分の正体を知ったときの八英女のリアクションが少々楽しみになっていた。しかも事実上、彼女が最後の八英女。正体を明かして驚かせるのも見納めになる。さて、どんな反応を示すのだろうか。
だが、その期待とは裏腹にドロモカは顔色一つ変えず、じっと目の前の少年を見続けるだけだった。
そして自分の中で整理がつけられたのか、
「左様ですか」
と呟いた。
これにはメロディアの方が面食らった。
「驚かないんですか?」
「その不可解なオーラの正体が分かったという納得感の方が大きゅうございます。それにスコア様がお子を授かったという話は風聞にて聞き及んでおりました。あれほどの御仁の子を身籠る奥方がどのような方か、そしてなぜ奥方様の噂はほとんど聞かないのか、答えを知ってしまえばそれしか考えられないというのに…自分の浅慮を恥じるばかりです」
「なるほど…?」
凄いな。伝承以上に礼儀正しく、それでいて想像以上にポーカーフェイスな人だと思った。
いついかなるときでも冷静さを失わず、勇者一行の屋台骨として下支えを担ってきたことはある。父さんも何をしてもドロモカが取り乱すことはなかったから、冷静沈着に物事を判断することができたと言っていたし。
これが「神盾のドロモカ」という人なのか。
けど…なんだろう。今までの七人と違って明確に堕落しているってことが分かりにくいな。魔族の気配だってしないし、本当に堕ちているのかと勘ぐってしまうほどに雰囲気が滑らかだ。
「取り合えずお茶をどうぞ」
「頂戴します。毒を警戒していましたが、こうなってしまってはそれを疑うことも無用ですね」
「ええ。お茶をしながらお話をしましょう」
「承知しました。私もご相談したいことがあります」
そういってドロモカは優雅にティカップを持つ。そして…それを口ではなく目に運んでいく。
目で紅茶が飲めるわけもなく、カップの中身は全てドロモカの顔面に流れ出ていった。
「ちょっと!?」
「す、すみません。急に目で紅茶を飲みたくなったのですが、無理でした」
「生まれてはじめて聞いた言い訳!」
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