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第二話
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「アレか」
一晩の野営を挟み、翌日の昼過ぎ。
森を抜けたところで、辺りを展望できるほど広い丘の上に立った勇者は干し肉を齧りながら呟く。
草原の中に一本だけ蛇のような道が続いていて、その先には柵に円形に囲まれた町があった。
勇者の旅立った王のいる街と比べるとやはり数段は見劣りするが、それでもこの辺りの流通や移動の要になっている町であるので、活気と賑わいは勝るとも劣らない。
街に入るための関税所を通過すべく、勇者は列へと並ぶ。順番を待っている傍ら、カバンの中からこの街の地図と向かうように指示されている教会の場所と待ち合わせの相手の名をもう一度確認する。どうやら運悪く、よりにもよって一番遠い関税所を選んでしまったようで、街に入ってからほとんど横断する形になってしまった。
けれども、さして広い町でもないし、生まれて初めて故郷の町を離れたのだから丁度いい機会と開き直り、勇者は半分は観光の気分で露店や出店を眺めていた。
するとその時。
「きゃあああ」
という女の甲高い悲鳴が響き渡った。
何事かと、声のした広場へ行ってみるとすでに野次馬の人だかりができていた。
頭の隙間から皆が見ている何かの様子を伺う。そこには散乱する荷物の中で男に絡まれている女がいた。どういう経緯かは知らないが、少々度が過ぎている。
「おい、離してやれ」
勇者は声を出し人混みを躱して前へ躍り出た。勇者のごくごく傍にいた何人かは、鮨詰めの人だかりをまるで風のようにすり抜けた勇者にただならぬ気配を感じ取っていたが、女の手を掴む男はそれには気が付かず、大声で威嚇してきた。
「あん? 何だテメエは?」
「オルティンという。事情は知らないが、乱暴はやめとけ」
「すっこんでろや、ボケが!」
男は遠慮のない拳を手加減なく繰り出してきた。が、十年もの歳月の間に王都の精鋭の騎士たちによって鍛えられてきた勇者にとっては、まるで相手にはならない。入隊したての新兵の方がよっぽどましだ。尤も、相手は町人なのだろうから無理からんことではある。
拳を手の平で受けると、手首を持つ。男の殴りかかってきた勢いを殺さずにひねってやるとお手本のように宙を舞った。
「ぐはああ」
と、男は短く呻き声を出した。まだ意識はあるようで、何かを呟いてきたが、それは観衆の歓声に掻き消されて上手く聞き取れなかった。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございます」
そうして散らばった荷物を一緒になって拾っていると、群衆の中にいた男の一人が棍棒を振り上げて飛び掛かってきた。
「よくも兄貴をっ!」
しまった。仲間がいたのか。
棍棒の攻撃を避けること自体は難しくはなかったのだが、いかんせん位置が悪かった。避けてしまうと女に被害が及ぶ。
まあ、大したダメージにはならないか。と、諦めて受けの姿勢を取る。
が、飛び掛かってきた男は突如として目の前から消えてしまった。どこからともなく強力なつむじ風が吹いてきたかと思うと、器用に男だけを吹き飛ばしてしまったのだ。
「ぐわっ」
狙ったのかどうかまでは知らないが、吹き飛ばされた棍棒男はさっき勇者がのした男の上へと落下した。
何が起こったのかと傍観していると、横から旅人風の男がペン回しのように小型の杖を回しながら勇者に近づいてきた。どうやらこの男が魔法を使ったらしい。
「油断大敵ってね」
「あんたは・・・」
「神官からのメッセージがあったでしょ? 俺がアンタをサポートするように頼まれた『魔術師』のレオンだ。よろしくね、勇者さん」
そうやって握手を求めてきたが、一つ疑問がある。
「なぜ、俺が勇者だと?」
尋ねると、魔術師・レオンは愛嬌よく微笑んで答えた。
「だってさっき名乗っただろ、オルティンって。手紙書いてあったよ。それに・・・その剣」
「剣?」
「ああ。柄の所に刻まれた紋章は、神官が勇者と認めたものにしか与えることを許さないものだったはずだ」
なるほど。魔法の実力と洞察能力、知識の量は本物だ。頼もしい仲間ができた嬉しさを、勇者は握手で表現した。
一晩の野営を挟み、翌日の昼過ぎ。
森を抜けたところで、辺りを展望できるほど広い丘の上に立った勇者は干し肉を齧りながら呟く。
草原の中に一本だけ蛇のような道が続いていて、その先には柵に円形に囲まれた町があった。
勇者の旅立った王のいる街と比べるとやはり数段は見劣りするが、それでもこの辺りの流通や移動の要になっている町であるので、活気と賑わいは勝るとも劣らない。
街に入るための関税所を通過すべく、勇者は列へと並ぶ。順番を待っている傍ら、カバンの中からこの街の地図と向かうように指示されている教会の場所と待ち合わせの相手の名をもう一度確認する。どうやら運悪く、よりにもよって一番遠い関税所を選んでしまったようで、街に入ってからほとんど横断する形になってしまった。
けれども、さして広い町でもないし、生まれて初めて故郷の町を離れたのだから丁度いい機会と開き直り、勇者は半分は観光の気分で露店や出店を眺めていた。
するとその時。
「きゃあああ」
という女の甲高い悲鳴が響き渡った。
何事かと、声のした広場へ行ってみるとすでに野次馬の人だかりができていた。
頭の隙間から皆が見ている何かの様子を伺う。そこには散乱する荷物の中で男に絡まれている女がいた。どういう経緯かは知らないが、少々度が過ぎている。
「おい、離してやれ」
勇者は声を出し人混みを躱して前へ躍り出た。勇者のごくごく傍にいた何人かは、鮨詰めの人だかりをまるで風のようにすり抜けた勇者にただならぬ気配を感じ取っていたが、女の手を掴む男はそれには気が付かず、大声で威嚇してきた。
「あん? 何だテメエは?」
「オルティンという。事情は知らないが、乱暴はやめとけ」
「すっこんでろや、ボケが!」
男は遠慮のない拳を手加減なく繰り出してきた。が、十年もの歳月の間に王都の精鋭の騎士たちによって鍛えられてきた勇者にとっては、まるで相手にはならない。入隊したての新兵の方がよっぽどましだ。尤も、相手は町人なのだろうから無理からんことではある。
拳を手の平で受けると、手首を持つ。男の殴りかかってきた勢いを殺さずにひねってやるとお手本のように宙を舞った。
「ぐはああ」
と、男は短く呻き声を出した。まだ意識はあるようで、何かを呟いてきたが、それは観衆の歓声に掻き消されて上手く聞き取れなかった。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございます」
そうして散らばった荷物を一緒になって拾っていると、群衆の中にいた男の一人が棍棒を振り上げて飛び掛かってきた。
「よくも兄貴をっ!」
しまった。仲間がいたのか。
棍棒の攻撃を避けること自体は難しくはなかったのだが、いかんせん位置が悪かった。避けてしまうと女に被害が及ぶ。
まあ、大したダメージにはならないか。と、諦めて受けの姿勢を取る。
が、飛び掛かってきた男は突如として目の前から消えてしまった。どこからともなく強力なつむじ風が吹いてきたかと思うと、器用に男だけを吹き飛ばしてしまったのだ。
「ぐわっ」
狙ったのかどうかまでは知らないが、吹き飛ばされた棍棒男はさっき勇者がのした男の上へと落下した。
何が起こったのかと傍観していると、横から旅人風の男がペン回しのように小型の杖を回しながら勇者に近づいてきた。どうやらこの男が魔法を使ったらしい。
「油断大敵ってね」
「あんたは・・・」
「神官からのメッセージがあったでしょ? 俺がアンタをサポートするように頼まれた『魔術師』のレオンだ。よろしくね、勇者さん」
そうやって握手を求めてきたが、一つ疑問がある。
「なぜ、俺が勇者だと?」
尋ねると、魔術師・レオンは愛嬌よく微笑んで答えた。
「だってさっき名乗っただろ、オルティンって。手紙書いてあったよ。それに・・・その剣」
「剣?」
「ああ。柄の所に刻まれた紋章は、神官が勇者と認めたものにしか与えることを許さないものだったはずだ」
なるほど。魔法の実力と洞察能力、知識の量は本物だ。頼もしい仲間ができた嬉しさを、勇者は握手で表現した。
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