6 / 31
6
しおりを挟む
金髪の少年はちらりと隣の三人を見て言う。
「君たちもそうだろう?」
「今の話を聞く限り、儂らには無理じゃろうな」
「だね~。チカも無理だと思う」
「…」
やはり四人は拒絶的な反応を示す。不安や疑問から駄々をこねたり、我儘を言っている風ではない。確固たる意志の元にアタシ達を拒否している。どうして?
その疑問はアタシの代わりに彩斗が尋ねてくれた。
「一体どうして? 不安かも知れないけれど、まずは、」
「まだ気が付いていないのか、間抜け共。僕たち四人は人間じゃない。全員が『吸血鬼』だぞ?」
「…え?」
この子たちが吸血鬼…?
エオイル国と戦争をしている種族。
人を襲い、生き血を啜る怪物。
そう聞かされた途端、四人の雰囲気が変わった気がした。暗い地下室の中で、四人の瞳と口元から覗く鋭い牙がキラリと光る。ゾクリと背筋が寒くなり、冷や汗が出る。するとその瞬間、戦う能力の乏しい召喚士や大臣が悲鳴を上げた。
「う、うああぁぁぁああっ!!??」
悲鳴は混乱を呼び、訓練を積んでいるはずの兵士たちも取り乱して地下室から逃げ始めた。それでも彩斗と豪胆さを持った何人かは武器を取り戦う姿勢を見せる。
そしてその戦闘態勢を見た瞬間、アタシの中で何かが切れた。
気が付けばアタシは前に躍り出て、身を挺しながら四人の吸血鬼を守ろうとしていた。
アタシのそんな行動を見て全員の緊張と混乱と興奮は更に昂った。
「架純、何をしてるんだ!?」
「彩斗こそ何をするつもり!?」
「殺すに決まってるだろ! 吸血鬼だぞ!?」
「相手は子供なんだよ」
「関係あるか!」
彩斗は正真正銘の殺気をアタシにぶつけてきた。ビクリと体が強張った。けれどその分、心がどんどんと熱くなったのが分かる。
「架純は実際に吸血鬼を見たことがないだろう? 奴らは人を襲う怪物だ。例え子供だって人間の犯罪者よりも凶悪だ」
「…勝手過ぎるよ。彩斗もエオイルの人達も。自分たちの都合で無理矢理召喚しておいて、期待外れだったから処分するって事? あなたたちの方がよっぽど凶悪じゃない!」
「話にならない。どけっ!」
「どかないっ!!」
アタシは万年筆を取り出してペン先を彩斗に向けた。自分でも名前が付けられない感情が魔力に乗っかっているのが感じられた。
ペン先から飛び出すインクは、いつかの時のような細い蛇とは違う。
どんどんと寄り集まっては人の形を成していく。そして最後にはいつか絵本で見たことのある魔法のランプから現れる魔人のような大男になった。
「なっ!?」
立て続けに予想外のことが起こり過ぎたのだろう。流石の兵士たちもとうとう体が反応しきれなくなっている。その隙をついて筋骨隆々のイフリートは丸太のような太い腕でアタシの前にいた兵士と彩斗を無理から壁に押し込めた。
「ぐあぁぁっ!!」
その声をきっかけにアタシは後ろの四人に向かって叫ぶ。
「逃げるよっ! 着いて来て!」
アタシは四人の吸血鬼たちと徒党を組んで地上へ出る階段を駆け上った。出口には恐る恐る様子を伺っている人たちがいたが、アタシの後ろを駆ける吸血鬼を見た瞬間に叫び、蜘蛛の子を散らす如く逃散し始める。
走り出したはいいものの、どこに行けばいいかは全然わからなかった。だってエオイルに来てから城壁の外に出れたのは一度きりの事だったから。いや、だからこそ城から抜け出すには、唯一知識として知っている城の裏にある出入り口を目指すしか選択肢がなかったのだ。
すると逃げる途中で騒ぎを聞きつけたのか、メイリオが廊下の角から顔を出した。まさか召喚に応じたのが吸血鬼だとは思いもしていないだろう。走り寄るアタシ達を見た瞬間、「は?」というなんとも間抜けな顔を晒してきた。そしてその顔を見たアタシの右手が勝手に動き、すれ違いざまに思い切りよくビンタを食らわしていた。
メイリオがその時にどんな顔をしていたのか、走り去ってしまったのでそれは分からない。
けれども「ぎゃぉっ!?」という、普段の彼女からは想像できない程に素っ頓狂な悲鳴と壁に頭をぶつけるような鈍い音は耳に届いていた。それだけで十分だった。
唐突に四人もの吸血鬼が城内に現れたものだから、瞬く間に火をつけた様な混乱が広がる。
そのおかげかアタシ達は大した障害もなく城を抜け出すことができた。唯一知っている出入り口のすぐ近くは鬱蒼とした森が広がっていたはず。ひとまずはそこに身を隠すことだけを考えていた。
「君たちもそうだろう?」
「今の話を聞く限り、儂らには無理じゃろうな」
「だね~。チカも無理だと思う」
「…」
やはり四人は拒絶的な反応を示す。不安や疑問から駄々をこねたり、我儘を言っている風ではない。確固たる意志の元にアタシ達を拒否している。どうして?
その疑問はアタシの代わりに彩斗が尋ねてくれた。
「一体どうして? 不安かも知れないけれど、まずは、」
「まだ気が付いていないのか、間抜け共。僕たち四人は人間じゃない。全員が『吸血鬼』だぞ?」
「…え?」
この子たちが吸血鬼…?
エオイル国と戦争をしている種族。
人を襲い、生き血を啜る怪物。
そう聞かされた途端、四人の雰囲気が変わった気がした。暗い地下室の中で、四人の瞳と口元から覗く鋭い牙がキラリと光る。ゾクリと背筋が寒くなり、冷や汗が出る。するとその瞬間、戦う能力の乏しい召喚士や大臣が悲鳴を上げた。
「う、うああぁぁぁああっ!!??」
悲鳴は混乱を呼び、訓練を積んでいるはずの兵士たちも取り乱して地下室から逃げ始めた。それでも彩斗と豪胆さを持った何人かは武器を取り戦う姿勢を見せる。
そしてその戦闘態勢を見た瞬間、アタシの中で何かが切れた。
気が付けばアタシは前に躍り出て、身を挺しながら四人の吸血鬼を守ろうとしていた。
アタシのそんな行動を見て全員の緊張と混乱と興奮は更に昂った。
「架純、何をしてるんだ!?」
「彩斗こそ何をするつもり!?」
「殺すに決まってるだろ! 吸血鬼だぞ!?」
「相手は子供なんだよ」
「関係あるか!」
彩斗は正真正銘の殺気をアタシにぶつけてきた。ビクリと体が強張った。けれどその分、心がどんどんと熱くなったのが分かる。
「架純は実際に吸血鬼を見たことがないだろう? 奴らは人を襲う怪物だ。例え子供だって人間の犯罪者よりも凶悪だ」
「…勝手過ぎるよ。彩斗もエオイルの人達も。自分たちの都合で無理矢理召喚しておいて、期待外れだったから処分するって事? あなたたちの方がよっぽど凶悪じゃない!」
「話にならない。どけっ!」
「どかないっ!!」
アタシは万年筆を取り出してペン先を彩斗に向けた。自分でも名前が付けられない感情が魔力に乗っかっているのが感じられた。
ペン先から飛び出すインクは、いつかの時のような細い蛇とは違う。
どんどんと寄り集まっては人の形を成していく。そして最後にはいつか絵本で見たことのある魔法のランプから現れる魔人のような大男になった。
「なっ!?」
立て続けに予想外のことが起こり過ぎたのだろう。流石の兵士たちもとうとう体が反応しきれなくなっている。その隙をついて筋骨隆々のイフリートは丸太のような太い腕でアタシの前にいた兵士と彩斗を無理から壁に押し込めた。
「ぐあぁぁっ!!」
その声をきっかけにアタシは後ろの四人に向かって叫ぶ。
「逃げるよっ! 着いて来て!」
アタシは四人の吸血鬼たちと徒党を組んで地上へ出る階段を駆け上った。出口には恐る恐る様子を伺っている人たちがいたが、アタシの後ろを駆ける吸血鬼を見た瞬間に叫び、蜘蛛の子を散らす如く逃散し始める。
走り出したはいいものの、どこに行けばいいかは全然わからなかった。だってエオイルに来てから城壁の外に出れたのは一度きりの事だったから。いや、だからこそ城から抜け出すには、唯一知識として知っている城の裏にある出入り口を目指すしか選択肢がなかったのだ。
すると逃げる途中で騒ぎを聞きつけたのか、メイリオが廊下の角から顔を出した。まさか召喚に応じたのが吸血鬼だとは思いもしていないだろう。走り寄るアタシ達を見た瞬間、「は?」というなんとも間抜けな顔を晒してきた。そしてその顔を見たアタシの右手が勝手に動き、すれ違いざまに思い切りよくビンタを食らわしていた。
メイリオがその時にどんな顔をしていたのか、走り去ってしまったのでそれは分からない。
けれども「ぎゃぉっ!?」という、普段の彼女からは想像できない程に素っ頓狂な悲鳴と壁に頭をぶつけるような鈍い音は耳に届いていた。それだけで十分だった。
唐突に四人もの吸血鬼が城内に現れたものだから、瞬く間に火をつけた様な混乱が広がる。
そのおかげかアタシ達は大した障害もなく城を抜け出すことができた。唯一知っている出入り口のすぐ近くは鬱蒼とした森が広がっていたはず。ひとまずはそこに身を隠すことだけを考えていた。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
召しませ、私の旦那さまっ!〜美醜逆転の世界でイケメン男性を召喚します〜
紗幸
恋愛
「醜い怪物」こそ、私の理想の旦那さま!
聖女ミリアは、魔王を倒す力を持つ「勇者」を召喚する大役を担う。だけど、ミリアの願いはただ一つ。日本基準の超絶イケメンを召喚し、魔王討伐の旅を通して結婚することだった。召喚されたゼインは、この国の美醜の基準では「醜悪な怪物」扱い。しかしミリアの目には、彼は完璧な最強イケメンに映っていた。ミリアは魔王討伐の旅を「イケメン旦那さまゲットのためのアピールタイム」と称し、ゼインの心を掴もうと画策する。しかし、ゼインは冷酷な仮面を崩さないまま、旅が終わる。
イケメン勇者と美少女聖女が織りなす、勘違いと愛が暴走する異世界ラブコメディ。果たして、二人の「愛の旅」は、最高の結末を迎えるのか?
※短編用に書いたのですが、少し長くなったので連載にしています
※この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる