魔王に捨てられた剣を振るのはパーティに捨てられた勇者 【Episode5連載中】

音喜多子平

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Episode2

言葉詰まる勇者

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 商隊は遅鈍ながらも、着実に峠を登っていく。終着のおよそ半分に差し掛かった辺りから足場は更に悪くなり、勾配も突然に急なモノになるので、歩くくらいの速度でも十分すぎる速さだ。



 道は細く、砂利に足を取られ、崖とは隣り合わせの状況が延々と続く。ニドル峠の本領が見えてきていた。崖の下には荒く砕けた岩が見える。万が一落ちようものなら、岩石に叩きつけられるか、尖った場所に突き刺さるか。運が良ければ何にもぶつからず、はるか下の海面までの滑り台が楽しめる。



 やがて七合目付近まで辿り着く。本来はこの辺りからレイダァを警戒し始めなればならない。案の定、崖の上の岩陰にチラホラとレイダァの影が見える。バズバたちリホウド族は、耳が良く利くので、気配くらいは察知している事だろう。



 しかし、やはりというかレイダァの様子がおかしい。偵察するくらいの知能はあるだろうが、それにしては数が多すぎる。かと言って襲ってくるような気配はない。むしろ、どちらかというとどこかに誘導されている様な印象さえ受ける。



だが、ここは峠の一本道。



 誘導されようが、されなかろうが行き先は決まっている。



 オレが何となく感じている違和感は、ルージュとアーコも感じ取っていたようで、妙な事を聞いてきた。



「なあ、お前らはさっきから気持ち悪くなってないか?」



「気持ち悪い?」



「ああ。何となく気分が悪ぃんだよ」



 一瞬、標高の影響からくる高山病かとも思ったが、それにしては低すぎるし、アーコがそんな事を聞くとは思えなかったので飲み込んだ。



「主も魔獣の動きで何かを感じ取っているようだが、この居心地の悪さは私とアーコには直接へばりついてきている。お前たち二人はどうだ?」



 念のためにと尋ねられたラスキャブとピオンスコも、何が何だか分からないという風に首を横に振った。



「ルージュとアーコが感じ取り、オレ達が気付けないというのなら・・・精神系の術師に影響のある何かがあるのか?」



「核心はないが、消去法的に考えるならば主の推測通りの可能性が高いな」



 オレも思い付いた事を口にしただけで、何かの根拠があった訳じゃない。記憶を巡らせて原因を考えてみるが、ニドル峠でそのような事が起こると言う話は聞いたことがない。尤も、以前にここを通った時、パーティに精神感応系の術師はいなかったから、断定はできないが。



 とは言えど、この二人の違和感を無視するという選択肢はない。現に、オレ自身も峠を登れば登るほどに毛穴がくすぐったくなる。一介の戦士としての勘が働いている。



何かがある。そのことだけは本能が告げ知らせてくる。



 そして、その時。



 叫び声と共に金属同士がぶつかり合う音が、一番後ろのオレ達のところにまで届いた。



 これは、どう考えても戦闘が起きたことを物語っている。だが、散々警戒していたレイダァは未だに崖の上で燻っていて大きな動きはない。



 一体、何と戦っている!?



 商隊が視界の邪魔をしてバズバ達の様子はまるで窺えない。



 状況を確認しつつ、護衛の戦力も確保しなければならない。前は不確定要素があり過ぎる。未熟な二人を連れていくには危険・・・。



 そして始めから決まっていたような答えを、改めて導き出して命じる。



「ルージュ、俺と来い! 残りは後方の護衛と万が一の援護を頼む」



「あいよ」



 アーコの返事を合図にオレとルージュは全力で駆け出す。右側は岩壁だったが、今の脚力をもってすれば走って通り抜けるくらいは造作ない。



 瞬く間に商隊の馬車の群れを追い抜かし、『果敢な一撃』のいる商隊の最前線に辿り着く。そこで、オレもルージュも目に入ってきた状況を理解できず、言葉に詰まってしまった。



『果敢な一撃』のパーティが戦っていたのは、彼らのリーダーたるバズバ本人だったからだ。
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