96 / 347
Episode2
言葉詰まる勇者
しおりを挟む
商隊は遅鈍ながらも、着実に峠を登っていく。終着のおよそ半分に差し掛かった辺りから足場は更に悪くなり、勾配も突然に急なモノになるので、歩くくらいの速度でも十分すぎる速さだ。
道は細く、砂利に足を取られ、崖とは隣り合わせの状況が延々と続く。ニドル峠の本領が見えてきていた。崖の下には荒く砕けた岩が見える。万が一落ちようものなら、岩石に叩きつけられるか、尖った場所に突き刺さるか。運が良ければ何にもぶつからず、はるか下の海面までの滑り台が楽しめる。
やがて七合目付近まで辿り着く。本来はこの辺りからレイダァを警戒し始めなればならない。案の定、崖の上の岩陰にチラホラとレイダァの影が見える。バズバたちリホウド族は、耳が良く利くので、気配くらいは察知している事だろう。
しかし、やはりというかレイダァの様子がおかしい。偵察するくらいの知能はあるだろうが、それにしては数が多すぎる。かと言って襲ってくるような気配はない。むしろ、どちらかというとどこかに誘導されている様な印象さえ受ける。
だが、ここは峠の一本道。
誘導されようが、されなかろうが行き先は決まっている。
オレが何となく感じている違和感は、ルージュとアーコも感じ取っていたようで、妙な事を聞いてきた。
「なあ、お前らはさっきから気持ち悪くなってないか?」
「気持ち悪い?」
「ああ。何となく気分が悪ぃんだよ」
一瞬、標高の影響からくる高山病かとも思ったが、それにしては低すぎるし、アーコがそんな事を聞くとは思えなかったので飲み込んだ。
「主も魔獣の動きで何かを感じ取っているようだが、この居心地の悪さは私とアーコには直接へばりついてきている。お前たち二人はどうだ?」
念のためにと尋ねられたラスキャブとピオンスコも、何が何だか分からないという風に首を横に振った。
「ルージュとアーコが感じ取り、オレ達が気付けないというのなら・・・精神系の術師に影響のある何かがあるのか?」
「核心はないが、消去法的に考えるならば主の推測通りの可能性が高いな」
オレも思い付いた事を口にしただけで、何かの根拠があった訳じゃない。記憶を巡らせて原因を考えてみるが、ニドル峠でそのような事が起こると言う話は聞いたことがない。尤も、以前にここを通った時、パーティに精神感応系の術師はいなかったから、断定はできないが。
とは言えど、この二人の違和感を無視するという選択肢はない。現に、オレ自身も峠を登れば登るほどに毛穴がくすぐったくなる。一介の戦士としての勘が働いている。
何かがある。そのことだけは本能が告げ知らせてくる。
そして、その時。
叫び声と共に金属同士がぶつかり合う音が、一番後ろのオレ達のところにまで届いた。
これは、どう考えても戦闘が起きたことを物語っている。だが、散々警戒していたレイダァは未だに崖の上で燻っていて大きな動きはない。
一体、何と戦っている!?
商隊が視界の邪魔をしてバズバ達の様子はまるで窺えない。
状況を確認しつつ、護衛の戦力も確保しなければならない。前は不確定要素があり過ぎる。未熟な二人を連れていくには危険・・・。
そして始めから決まっていたような答えを、改めて導き出して命じる。
「ルージュ、俺と来い! 残りは後方の護衛と万が一の援護を頼む」
「あいよ」
アーコの返事を合図にオレとルージュは全力で駆け出す。右側は岩壁だったが、今の脚力をもってすれば走って通り抜けるくらいは造作ない。
瞬く間に商隊の馬車の群れを追い抜かし、『果敢な一撃』のいる商隊の最前線に辿り着く。そこで、オレもルージュも目に入ってきた状況を理解できず、言葉に詰まってしまった。
『果敢な一撃』のパーティが戦っていたのは、彼らのリーダーたるバズバ本人だったからだ。
道は細く、砂利に足を取られ、崖とは隣り合わせの状況が延々と続く。ニドル峠の本領が見えてきていた。崖の下には荒く砕けた岩が見える。万が一落ちようものなら、岩石に叩きつけられるか、尖った場所に突き刺さるか。運が良ければ何にもぶつからず、はるか下の海面までの滑り台が楽しめる。
やがて七合目付近まで辿り着く。本来はこの辺りからレイダァを警戒し始めなればならない。案の定、崖の上の岩陰にチラホラとレイダァの影が見える。バズバたちリホウド族は、耳が良く利くので、気配くらいは察知している事だろう。
しかし、やはりというかレイダァの様子がおかしい。偵察するくらいの知能はあるだろうが、それにしては数が多すぎる。かと言って襲ってくるような気配はない。むしろ、どちらかというとどこかに誘導されている様な印象さえ受ける。
だが、ここは峠の一本道。
誘導されようが、されなかろうが行き先は決まっている。
オレが何となく感じている違和感は、ルージュとアーコも感じ取っていたようで、妙な事を聞いてきた。
「なあ、お前らはさっきから気持ち悪くなってないか?」
「気持ち悪い?」
「ああ。何となく気分が悪ぃんだよ」
一瞬、標高の影響からくる高山病かとも思ったが、それにしては低すぎるし、アーコがそんな事を聞くとは思えなかったので飲み込んだ。
「主も魔獣の動きで何かを感じ取っているようだが、この居心地の悪さは私とアーコには直接へばりついてきている。お前たち二人はどうだ?」
念のためにと尋ねられたラスキャブとピオンスコも、何が何だか分からないという風に首を横に振った。
「ルージュとアーコが感じ取り、オレ達が気付けないというのなら・・・精神系の術師に影響のある何かがあるのか?」
「核心はないが、消去法的に考えるならば主の推測通りの可能性が高いな」
オレも思い付いた事を口にしただけで、何かの根拠があった訳じゃない。記憶を巡らせて原因を考えてみるが、ニドル峠でそのような事が起こると言う話は聞いたことがない。尤も、以前にここを通った時、パーティに精神感応系の術師はいなかったから、断定はできないが。
とは言えど、この二人の違和感を無視するという選択肢はない。現に、オレ自身も峠を登れば登るほどに毛穴がくすぐったくなる。一介の戦士としての勘が働いている。
何かがある。そのことだけは本能が告げ知らせてくる。
そして、その時。
叫び声と共に金属同士がぶつかり合う音が、一番後ろのオレ達のところにまで届いた。
これは、どう考えても戦闘が起きたことを物語っている。だが、散々警戒していたレイダァは未だに崖の上で燻っていて大きな動きはない。
一体、何と戦っている!?
商隊が視界の邪魔をしてバズバ達の様子はまるで窺えない。
状況を確認しつつ、護衛の戦力も確保しなければならない。前は不確定要素があり過ぎる。未熟な二人を連れていくには危険・・・。
そして始めから決まっていたような答えを、改めて導き出して命じる。
「ルージュ、俺と来い! 残りは後方の護衛と万が一の援護を頼む」
「あいよ」
アーコの返事を合図にオレとルージュは全力で駆け出す。右側は岩壁だったが、今の脚力をもってすれば走って通り抜けるくらいは造作ない。
瞬く間に商隊の馬車の群れを追い抜かし、『果敢な一撃』のいる商隊の最前線に辿り着く。そこで、オレもルージュも目に入ってきた状況を理解できず、言葉に詰まってしまった。
『果敢な一撃』のパーティが戦っていたのは、彼らのリーダーたるバズバ本人だったからだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる