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Episode2
確信する勇者
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オレはアーコを乗せてカルトーシュという店を目指して走っていた。フォルポス族の時とは違い、足の裏に地面から直接温度を感じ、整備された道に爪がこすれる音がしきりに耳に届いている。
件の店は予想以上に街の名所になっているらしく、二度ほど人に聞くだけで簡単に辿り着くことができた。
看板が街の外れの通りに出ていたので、近くにくれば誰でも見つけることができるだろう。ここでルージュたちが店を見つけられないのでは、という懸念が一つ消えた。坂の斜面を掘ったかのように階段が下に続いており、その先に入り口がひっそりと顔をのぞかせていた。
入り口の脇にはあからさまに武闘派な魔族が二人、門番よろしく立っている。万が一にも本来の主人が殴り身を仕掛けてきたとしても、太刀打ちできる準備が整えてある証明だろう。
「な、なんだ?」
門番の二人は階段を降りてきたオレの姿を見て、目を丸くした。魔族が逃げてくることは日常茶飯事でも、狼が逃げてくるなんてのはきっと初めてなのだろうと思った。すかさずアーコが芝居を始めた。
「なあ、あんたら」
「どうした?」
「ここは逃げ出した魔族を匿ってくれるって聞いたんだが、本当か」
その言葉に困惑していた魔族二人は、朗らかな顔になって教えてくれた。
「ああ、本当だ。詳しくは中で教えてやる。お前の主人がおってこないとも限らない、早く中に入れ」
「あ、ありがとう。この狼も平気か?」
「いや…どうなんだ?」
「狼が逃げてきたってのは初めてだが、まあ大丈夫だろ。鎖で繋がってるから、どの道一緒に入れ」
そう聞くと、アーコはオレに抱きつき心底嬉しそうに、
「良かったな、ズィアル。お前も助けてもらえるぞ」
と言った。
予想はしていたが、物凄い変わりようだ。
そうして門番の片割れに連れられて、オレ達はカルトーシュの中に入って行った。すかさず、アーコはオレに、「ちょろいな」というテレパシーを飛ばしてくる。だからオレは警戒の意味も込めて、「精々楽しむとしよう」と返事をした。
中は狭いだろうと勝手に思っていたが、入り口の外見からは予想できない程に広い。ざっと見ただけでも数十人の客たちが飲み食いをしている。酒場というからカウンターで一杯ひっかける様な店か、さもなくば和気藹々と飯も頬張れるようなところを想像していたが、実際にはまるで違う。
区切られたスペースの奥に座る羽振りの良さそうな『囲む大地の者エンカニアン』を相手に、如何わしい恰好をした女の魔族が接客をして、男の魔族は給仕をしている、そんな店だった。それぞれのスペースの会話に耳をそばだてて分かったのは、ここにいる魔族たちは資金力のある『囲む大地の者』に身受けをねだっているという事だった。
なるほど。魔族を『囲む大地の者』に紹介し、斡旋するというのはこういう事か。『煮えたぎる歌』の連中が気に食わないと言ったのが痛いほどよく分かった。
(っへ。良い趣味の店じゃねーか)
アーコがそう念じていると、店の奥から近づいてくる女がいた。
「あら? 珍しいお客さんね」
「ノウレッジ様。今、お伺いしようかと思っておりました。いつもの『逃亡者』です」
…こいつがノウレッジか。
ラスキャブがフェトネックだと本名を暴き出してくれた女。
こいつを見た途端、オレの心は騒めいた。
たまたまの偶然に名前が被っている訳じゃない。ましてや何かしらの繋がりがあるだとか、関係を持っているだとかいう話でもない。
この女はフェトネック本人だ。
他人にその根拠を聞かれても困るが、オレの本能がそう告げ知らせてくるのだから仕方がない。
オレはつい、変身を解いて心の赴くままに剣を抜き放ち、目の前の女を殺してしまいたい衝動に駆られていた。だがそれよりも早くアーコがオレの頭を叩く。すると再び変身の自由権が奪われてしまい、自らの意思で元の姿に戻ることができなくなってしまった。
件の店は予想以上に街の名所になっているらしく、二度ほど人に聞くだけで簡単に辿り着くことができた。
看板が街の外れの通りに出ていたので、近くにくれば誰でも見つけることができるだろう。ここでルージュたちが店を見つけられないのでは、という懸念が一つ消えた。坂の斜面を掘ったかのように階段が下に続いており、その先に入り口がひっそりと顔をのぞかせていた。
入り口の脇にはあからさまに武闘派な魔族が二人、門番よろしく立っている。万が一にも本来の主人が殴り身を仕掛けてきたとしても、太刀打ちできる準備が整えてある証明だろう。
「な、なんだ?」
門番の二人は階段を降りてきたオレの姿を見て、目を丸くした。魔族が逃げてくることは日常茶飯事でも、狼が逃げてくるなんてのはきっと初めてなのだろうと思った。すかさずアーコが芝居を始めた。
「なあ、あんたら」
「どうした?」
「ここは逃げ出した魔族を匿ってくれるって聞いたんだが、本当か」
その言葉に困惑していた魔族二人は、朗らかな顔になって教えてくれた。
「ああ、本当だ。詳しくは中で教えてやる。お前の主人がおってこないとも限らない、早く中に入れ」
「あ、ありがとう。この狼も平気か?」
「いや…どうなんだ?」
「狼が逃げてきたってのは初めてだが、まあ大丈夫だろ。鎖で繋がってるから、どの道一緒に入れ」
そう聞くと、アーコはオレに抱きつき心底嬉しそうに、
「良かったな、ズィアル。お前も助けてもらえるぞ」
と言った。
予想はしていたが、物凄い変わりようだ。
そうして門番の片割れに連れられて、オレ達はカルトーシュの中に入って行った。すかさず、アーコはオレに、「ちょろいな」というテレパシーを飛ばしてくる。だからオレは警戒の意味も込めて、「精々楽しむとしよう」と返事をした。
中は狭いだろうと勝手に思っていたが、入り口の外見からは予想できない程に広い。ざっと見ただけでも数十人の客たちが飲み食いをしている。酒場というからカウンターで一杯ひっかける様な店か、さもなくば和気藹々と飯も頬張れるようなところを想像していたが、実際にはまるで違う。
区切られたスペースの奥に座る羽振りの良さそうな『囲む大地の者エンカニアン』を相手に、如何わしい恰好をした女の魔族が接客をして、男の魔族は給仕をしている、そんな店だった。それぞれのスペースの会話に耳をそばだてて分かったのは、ここにいる魔族たちは資金力のある『囲む大地の者』に身受けをねだっているという事だった。
なるほど。魔族を『囲む大地の者』に紹介し、斡旋するというのはこういう事か。『煮えたぎる歌』の連中が気に食わないと言ったのが痛いほどよく分かった。
(っへ。良い趣味の店じゃねーか)
アーコがそう念じていると、店の奥から近づいてくる女がいた。
「あら? 珍しいお客さんね」
「ノウレッジ様。今、お伺いしようかと思っておりました。いつもの『逃亡者』です」
…こいつがノウレッジか。
ラスキャブがフェトネックだと本名を暴き出してくれた女。
こいつを見た途端、オレの心は騒めいた。
たまたまの偶然に名前が被っている訳じゃない。ましてや何かしらの繋がりがあるだとか、関係を持っているだとかいう話でもない。
この女はフェトネック本人だ。
他人にその根拠を聞かれても困るが、オレの本能がそう告げ知らせてくるのだから仕方がない。
オレはつい、変身を解いて心の赴くままに剣を抜き放ち、目の前の女を殺してしまいたい衝動に駆られていた。だがそれよりも早くアーコがオレの頭を叩く。すると再び変身の自由権が奪われてしまい、自らの意思で元の姿に戻ることができなくなってしまった。
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