魔王に捨てられた剣を振るのはパーティに捨てられた勇者 【Episode5連載中】

音喜多子平

文字の大きさ
116 / 347
Episode2

確信する勇者

しおりを挟む
 オレはアーコを乗せてカルトーシュという店を目指して走っていた。フォルポス族の時とは違い、足の裏に地面から直接温度を感じ、整備された道に爪がこすれる音がしきりに耳に届いている。



 件の店は予想以上に街の名所になっているらしく、二度ほど人に聞くだけで簡単に辿り着くことができた。



 看板が街の外れの通りに出ていたので、近くにくれば誰でも見つけることができるだろう。ここでルージュたちが店を見つけられないのでは、という懸念が一つ消えた。坂の斜面を掘ったかのように階段が下に続いており、その先に入り口がひっそりと顔をのぞかせていた。



 入り口の脇にはあからさまに武闘派な魔族が二人、門番よろしく立っている。万が一にも本来の主人が殴り身を仕掛けてきたとしても、太刀打ちできる準備が整えてある証明だろう。



「な、なんだ?」



 門番の二人は階段を降りてきたオレの姿を見て、目を丸くした。魔族が逃げてくることは日常茶飯事でも、狼が逃げてくるなんてのはきっと初めてなのだろうと思った。すかさずアーコが芝居を始めた。



「なあ、あんたら」



「どうした?」



「ここは逃げ出した魔族を匿ってくれるって聞いたんだが、本当か」



 その言葉に困惑していた魔族二人は、朗らかな顔になって教えてくれた。



「ああ、本当だ。詳しくは中で教えてやる。お前の主人がおってこないとも限らない、早く中に入れ」



「あ、ありがとう。この狼も平気か?」



「いや…どうなんだ?」



「狼が逃げてきたってのは初めてだが、まあ大丈夫だろ。鎖で繋がってるから、どの道一緒に入れ」



 そう聞くと、アーコはオレに抱きつき心底嬉しそうに、



「良かったな、ズィアル。お前も助けてもらえるぞ」



 と言った。



 予想はしていたが、物凄い変わりようだ。



 そうして門番の片割れに連れられて、オレ達はカルトーシュの中に入って行った。すかさず、アーコはオレに、「ちょろいな」というテレパシーを飛ばしてくる。だからオレは警戒の意味も込めて、「精々楽しむとしよう」と返事をした。



 中は狭いだろうと勝手に思っていたが、入り口の外見からは予想できない程に広い。ざっと見ただけでも数十人の客たちが飲み食いをしている。酒場というからカウンターで一杯ひっかける様な店か、さもなくば和気藹々と飯も頬張れるようなところを想像していたが、実際にはまるで違う。



 区切られたスペースの奥に座る羽振りの良さそうな『囲む大地の者エンカニアン』を相手に、如何わしい恰好をした女の魔族が接客をして、男の魔族は給仕をしている、そんな店だった。それぞれのスペースの会話に耳をそばだてて分かったのは、ここにいる魔族たちは資金力のある『囲む大地の者』に身受けをねだっているという事だった。



 なるほど。魔族を『囲む大地の者』に紹介し、斡旋するというのはこういう事か。『煮えたぎる歌』の連中が気に食わないと言ったのが痛いほどよく分かった。



(っへ。良い趣味の店じゃねーか)



 アーコがそう念じていると、店の奥から近づいてくる女がいた。



「あら? 珍しいお客さんね」



「ノウレッジ様。今、お伺いしようかと思っておりました。いつもの『逃亡者』です」



 …こいつがノウレッジか。



 ラスキャブがフェトネックだと本名を暴き出してくれた女。



 こいつを見た途端、オレの心は騒めいた。



 たまたまの偶然に名前が被っている訳じゃない。ましてや何かしらの繋がりがあるだとか、関係を持っているだとかいう話でもない。



 この女はフェトネック本人だ。



 他人にその根拠を聞かれても困るが、オレの本能がそう告げ知らせてくるのだから仕方がない。



 オレはつい、変身を解いて心の赴くままに剣を抜き放ち、目の前の女を殺してしまいたい衝動に駆られていた。だがそれよりも早くアーコがオレの頭を叩く。すると再び変身の自由権が奪われてしまい、自らの意思で元の姿に戻ることができなくなってしまった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

処理中です...