魔王に捨てられた剣を振るのはパーティに捨てられた勇者 【Episode5連載中】

音喜多子平

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Episode2

不安にさせる勇者

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 ピオンスコは眉間に皺を寄せて記憶を呼び起こそうとした。あるいは身体的特徴をうまく言葉にできていないのかもしれない。



 すると見兼ねたルージュがピオンスコの頭の上に手を置いた。



「へ?」



「いいから。お前はそのトスクルとやらの姿をできるだけ鮮明に思い出せ」



「うん」



 途端にルージュの手が淡く光る。恐らくはピオンスコの記憶を覗いているのだろう。



 事実、これは妙手だ。



 記憶を他人に転換できるのなら、わざわざ口や絵で説明する必要がないのだから。考え得る中で最も確実性のある情報のやり取りだ。ルージュは早速、読み取った記憶を全員に反映させた。脳裏に一人の少女の姿が思い描かれる。



 身長はラスキャブやピオンスコと同じくらい。紫色の長い髪を二つ結いにして、それの毛先は肩を越している。そして背中からはイナゴと同じく葉脈状の筋のある翅が四つ出ているのが見えた。そして足の先は昆虫類のそれと同じく節があり、鉤状に引っ搔けられるような形を成していた。



 甲虫の特徴を色濃く持つラスキャブ、サソリの特徴を色濃く持つピオンスコと同じように、トスクルという少女はイナゴの特徴を反映された魔族のようだ。



 記憶を見終えると、アーコが素朴な疑問を投げかけてきた。



「なあ、こいつ翅はねがあるけど、飛べんのか?」



「うーん…飛べるっているか、物凄いジャンプができるって感じかな。空中に浮かんでたりもできるけど、鳥みたいに飛び回るっていうのはできなかったと思う」



「なるほど、そこらへんもイナゴと同じだな。しかし問題は…機動力があるってことは変わらないって点か」



「機動力?」



「ああ。早い話が、何らかの理由でこのダブデチカを攻撃し、町民たちをどうにかしたとして、この近くに居続けているかどうかは判断が付けられないって事だ。詳しく調べていないから断定はできないが、街の様子や外にいる奴らの反応、噂が広がっていないというような事を鑑みると、恐らくダブデチカがイナゴに襲われたのは一日か二日前くらいだろう。人並みの移動力だったら追いかけようもあるが、短時間とは言え飛行ができる奴の後を追うとなると途端に難しくなる」



 オレは可能性を示唆したつもりだったのだが、ピオンスコにはトスクルを見つけ出すのが困難だ、という意味に捉えてしまったようで表情がみるみるうちに暗くなってしまった。すかさず言葉の綾であることを伝えようとしたが、先にアーコとルージュが落ち込む二人を宥めてくれた。



「そんな顔すんなって。一つ大きな手掛かりがある」



「その通りだ」



「え?」



 ピオンスコとつられたラスキャブが二人の顔を交互に見比べる。



「トスクルってヤツは見つけづらいのは事実だけど、これだけの大きな街を襲ったイナゴだ、それ相応の数がいたはず。そっちならまだ目撃者がいるかも知れないだろ?」



「事情は分からぬし考えたくもないが、またイナゴを使役して再び人や街を襲う事だってあり得る。そうすればやはり目立つ。そもそもこのダブデチカの住人が見つかることだって追跡の上では前進になるのだ。私達が思っているよりも追跡は絶望的なものではないはずだ。そうだろう?」



「そっか・・・そうだよね」



 ルージュたちの言葉に希望を見出したピオンスコは、すぐさま明るさを取り戻してラスキャブに抱きついた。やはりこの二人が気落ちすると、パーティ全体の気分も落ち込んでしまう。きっとそれがわかっているからこそ、二人を励ます様な物言いをしてくれたのだろうと、オレはそう思った。



 だが、ルージュたちの見解は正しくその通りで、恥ずかしい話だがオレは思いつきもしなかった。



 確かにこのダブデチカの住民が見つかれば詳しく話を聞き、そのトスクルという少女がどちらに去ったのかも判明するかもしれない。むしろ可能性としては住民を見つける方が遥かに高い。イナゴにしても、移動しているのなら誰かに目撃されている確率は同じくらいにあるはず。



「善は急げだ。そうと決まれば周囲の商人や旅人たちに聞き込みを始めよう」



 オレがそう言うと、「おー」という愛くるしいような鬨の声が街に響いたのだった。
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