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Episode3

別れる勇者

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 トスクルの掌の上で蠢いていた十数匹のイナゴたちは、近くにいればこそ存在感を放っていたが、遠ざかるにつれて一粒の砂のように矮小になっていく。イナゴがいると知っているオレ達ですら見失ってしまうのだから、門衛たちがそれに気が付けるはずもない。案の定、トスクルはすぐに町の中の様子を伝え始めた。



「…ザートレ様の言う通り、『囲む大地の者』が見当たりませんね」



「一人もか?」



「ええ。ざっと見た限りですが」



 予感は当たっていたという事か。ともすれば、何故こんな状況になったかを考えるのはひとまず置いておいて、どうしたら町の中に入れるかが次の課題だ。門が開いているということは、出入りは認可されていると見て間違いはないだろう。問題は誰が入れるのかという点だ。フォルポス族の姿で行くべきか、魔族の姿を取るか…。



 街の中がそのような状態であるなら、フォルポス族の姿は排除の対象とされる可能性があるし、かと言ってオレまで魔族となってしまっては魔族だけで旅をしているという別の疑念を生み出してしまう。



 オレが思い当たることを網羅しながら思考を巡らせていると、ルージュがばっさりとそれを切り捨て、提案をしてきた。



「ならば幾つかに分かれてみればいいのではないか?」



 それは子供でも思い付きそうな発想だった。いや、むしろだからこそ思い付かないオレは自分で自分がおかしくなってしまった。



「確かに、姿を変えられるんだから入り方を試してしまえばいいんだな」



「ああ。ここでダメなら姿を変え、別の入り口を使ってしまえばいい。しかし、保険もかけておきたい」



「保険?」



 どんどんと話がまとめって行く中で、それの速さに今一つついてこれないピオンスコが小首を傾げた。オレもルージュのいう真意を測りかねているので続けさせた。



「まず主とラスキャブが今見えている門に向かい中に入れるかを試みる。通れれば良し、ダメなら姿を変えて別の入り口を目指す。私とピオンスコ、トスクルの三人はその様子次第でどう動くかを判断する」



「なら、俺は?」



 唯一名前の出なかったアーコが尤もな疑問を口にした。それに対してルージュは笑みと共に答える。



「お前が保険だ。小さい上に飛べるのだから、わざわざ馬鹿正直に門をくぐる必要はないだろう」



 ルージュのその弁に、アーコは瞳を爛々と輝かせた。そしてルージュと鏡写しのように不敵な笑みを見せたのだった。



 こうして早々に話がまとまると、オレ達は三手に別れてルーノズアへの侵入作戦を開始した。
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