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Episode4

囚われた造反者

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 魔王の襲来により陥落してしまった港町・ルーノズア。



 地上はすでに魔族に支配され、無知な「囲む大地の者エンカニアン」たちを引きずり込み、捕獲するための巨大な罠と化している。そしてその街の地下には巨大な迷宮が存在していた。



 かつては有事の際に町民を避難させ防空壕の役割を担っていたその迷宮は、皮肉にもルーノズアの町民や旅人たちを捕らえておく巨大な檻となっていた。ほとんどの者は魔族の指示の下、登録印を作るための強制労働を強いられているものの、必ずしも全員が労働をしている訳ではなかった。



 今では町民たちにとっての檻と成り果てている迷宮にも、本来の目的のために使われていた時代に捕虜や犯罪者を一時的に収監しておくための部屋があった。その監獄には魔王によって蹂躙されたあとも、この迷宮の中において抵抗の色を見せた造反者たちが十数名から閉じ込められている。



 檻は数個あるのだがここまでの大人数を収監するのは想定外の様で、どの檻も囚われている者が全員で横になると寝返りをうつ事も出来ない程だ。



 そして、その中でもひと際厳重に拘束され、ひどい折檻を受けた囚人がいる檻があった。



 どの檻にもキャパシティを越える人数が入れられているのにも関わらず、部屋の最奥に構えられたその檻の中には二人分の気配しかない。



 一人は蛇の特徴を色濃く持つニアリィ族の男性。



 そしてもう一人は、魔族の女だった。



 二人ともが全身に痣や切り傷を蓄え、至る所から出血している。当然ながら満足な手当ても受けておらず、それは二人を繋ぎ止める鎖を伝い、冷たい床へと滴り落ちていた。



 その二人の陰惨たる様子に目を奪われてしまいそうだが、他の牢に閉じ込められている者たちも決して無事ではない。全員が身体のどこかしらを負傷しており、疲労困憊の雰囲気が漂っている。



囲む大地エンカーズ」に存在している五種族がそれぞれ見受けられるものの、魔族は例の女が一人だけだ。



 全員の瞳の光が今にも消え入りそうで辛うじて持ちこたえている。そして、その視線の見る先は最奥の檻の二人を案じるものか、さもなくばその真反対にいる自分たちを捕らえ責め苦を与える任を預かっている魔族に向かって敵意を飛ばすかのどちらかだった。



 そんな幾名の敵意に気が付いたのか否かは定かではないが、重苦しい扉が開いて病的にこけた頬に嗜虐的な眼が印象的な魔族がお供を連れて入ってきたのである。
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