魔王に捨てられた剣を振るのはパーティに捨てられた勇者 【Episode5連載中】

音喜多子平

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Episode5

驚かれる勇者

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 息の荒くなった面々とは対照的に、ザートレはふうっと簡単な呼吸で調子を整える。そしてボソリと戦いの感想を呟いた。

「何とも奇妙な獣だったな。相手の心を食うとは…アーコに初めて魔法を掛けられた時くらいに不愉快だった」
「お前の心を食っちまったら食あたり必至だな」

 などという軽口が盾から聞こえた。そう思った途端、ザートレの持っていた盾と剣が淡く光り輝き出したかと思えば次の瞬間にはルージュとアーコが人の姿となって現れた。初めて変身を目の当たりにしたジェルデとトマスは一瞬だけ驚きの表情こそ見せたが、彼女らの常識外れの能力に驚愕するのは今更な気にもなっていた。

 それにべそを掻いたり、底抜けの明るさを見せたり、飛びつきたいが恥ずかしさが勝ってしまったりしている少女たちに掴まってしまうと、今までの緊張感が嘘のように取り払われてしまった。

「よがっだでずぅ」
「泣き過ぎだラスキャブ。顔を拭え」

 ルージュが妹の面倒を見るかのように世話を焼き始める。するとアーコが改めて三人の魔法が解けていることに言及した。

「つーか俺のかけた変身術が解けてんな。さっきの化け物の影響か?」
「恐らくはそうだろう。アレはグリムと言って心に揺さぶりをかけてくる怪物だ。精神状態が正常に保てなくなったせいで魔法が維持できなくなったのだろうな」
「ふーん。じゃあ色々と正体もばれちまったな。俺らの変身も魅せちまったし」
「いいさ。別れる前に話そうとは思っていたんだからな」

 そう言ってザートレは自分の変身まで解いて元のフォルポス族の姿になった。流石にトマスとジェルデはこの事には目を丸くした。『囲む大地の者』だとまでは予想できていなかったのだ。

「正体を隠していたことをまず詫びる。万が一に備えてこちらの情報はできるだけ隠匿しておきたかったんだ」
「いや、当然だろう。ワシにもそんな能力があれば惜しみなく使っていたさ」
「そう言ってもらえると助かるよ」

 ザートレは長らく抱えていた心のつかえがとれたような気がした。そして握手のつもりで手を差し出しながら改めて自分の本当の名前を語った。

「ザートレだ。素性と名前は嘘っぱちだったが魔王を殺すという目的だけは本当だ。それさえ信じてもらえればそれでいい」
「「ザートレだと!?」」

 その名を聞いた瞬間、ジェルデは声を上げた。驚くというよりも信じられないといったような顔つきだった。いつしか『煮えたぎる歌』のギルド支部を尋ねた時にも似た様な反応をされたのを思い出す。恐らくだがあの時と同じように半ば伝説級の扱いを受けているのだろう。
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