魔王に捨てられた剣を振るのはパーティに捨てられた勇者 【Episode5連載中】

音喜多子平

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Episode5

出発する勇者

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 次の日。

 頗る不機嫌なアーコと上機嫌なルージュを先頭にして、オレ達は宿を出た。当然ながら試練の門をくぐるためだ。

 二人の機嫌の善し悪しについてラスキャブら三人は何も知らない。あの場にいなかったこともそうだが、二人が頑なに厨房で起きた出来事について口を噤んでいるのが主たる原因だった。

「喧嘩でもしたのかな?」

 ピオンスコが率直な感想を述べる。

「た、多分そうなんじゃないかな。ルージュさんがご機嫌だから、アーコさんが負けちゃったのかも」
「しかしどっちが勝ったとしてもあの二人はこんな感じでしたよ、きっと」
「それは否めないな」

 オレはしんがりを務めながら三人の会話に交じっている。あの二人の戦場はオレが唯一高揚感を覚えない場所だった。それにトスクルの指摘通り、ルージュとアーコは互いにけん制し合っている方が二人らしいとも思える。

 するとラスキャブが意味深な事を呟いた

「ひょっとするとあのお二人の喧嘩も見納めになるかもしれませんし」
「ん? どうしてだ?」
「あ、いえ。もしも魔王をやっつけてしまったら…きっと離れ離れになってしまうと思いまして」
「…そういうことか」

 確かにいつまでもこの6人で居続けるというヴィジョンはオレにも見えない。遺憾ではあるがオレ達を繋ぎ止めている理由もまた魔王なのだから。

 そしてそれ以上にオレは戦いの終わった後の事を考えるのが好きな性分じゃない。なので少々強引だったかもしれないが、話を違う方向に変えた。

「しかし保存食の出来が良かったな。食事が楽しみだ」
「そうだよね。美味しそうだった!」
「ふふ、期待しているからね。ラスキャブ」
「うん。頑張るよ」

 苦し紛れに出した話題だがうまい具合に軌道に乗ってくれた。それに食事が楽しみなのは事実だ。不安が残らない訳ではないが準備としては万端と言っても差し支えない程の量を仕込むことができた。

 こういう場合、往々にして重すぎる荷物に苦労をするところだが、魔法の扱いに長けた姿を獲得したことに加えてルージュとアーコの手助けもあり亜空間に大体の荷物を収納できたのが大きい。これから待ち受ける数々の戦闘についても十分なパフォーマンスが発揮できそうだ。

 するとルージュが振り返り、オレ達に言った。

「まもなくゴトワイの街を出る。テレパシーを復活させるぞ。以後はなるべく気配を消し、周囲に気を配った行動を心がけるように」

 そういって順番に身体に触れてテレパシーのネットワークを全員に共有させたのだった。

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