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Episode5
再び挑む勇者
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一時はどうなるかと思ったが、終わってみれば色々と実りのある一日で結べそうだ。そう思って全員がふうっと息をついた時の事。
オレ達は有事というのは立て続けに訪れる事を理解した。
昼間に登ってきた山道に何やらのっそりと動く者の気配を感じた。その刹那、六人が思い思いの戦闘態勢を取りつつ、様子を伺った。明るいうちに岩壁を砕いて障害物を作っておいて正解だった。
それぞれが息をひそめて様子を見ると、ルージュとアーコが再び精神をリンクさせてくれたのが感覚で伝わった。これで声やアイコンタクトを用いず、パーティで連携を取ることが可能だ。
するとその時、脳内に自分が見ている光景とは別の映像が反映された。
これは…ピオンスコの視点か。
手早く鞘付きベルトを締め直し、ミラーコートを着たピオンスコは周囲の不敬に溶け込みながら岩陰から出たようだ。
なるほど。これなら敵に気が付かれるリスクを下げながら周囲の様子を見ることができる。暗殺者に求められるスキルと偵察に求められるスキルは広い範囲で被っている。優秀なアサシンであるピオンスコは、同時に優秀なスパイ役もこなせるという訳だ。
だが、オレ達にはそんな関心に浸る暇は与えられなかったのだ。
ピオンスコの見定めた敵はこの上なく厄介な存在だったからだ。
…グリム
全員の心の声が重なった。
山道を登り、突如として現れたのはトマス達といた森の中で見たグリムという一つ目の怪物。魔王の城の中で飼育され、人心を餌にすると言っていたか。何故かは知らないが城を抜け出して『螺旋の大地』を徘徊しているらしいが…。
何故、ここに現れたんだ? いや、それも気になるが、まずは安全確保が優先だ。
《ピオンスコ、よくやった。正体は分かったし、奴はオレ達に気が付ている様子もない。素性が分からない怪物とわざわざ戦う必要もないだろう。少々不気味だが、隠れてやり過ごすぞ。目を伏せてこっちに戻ってこい》
《…》
《ピオンスコ、どうした?》
《ザートレさん、みんな。何かグリムが沢山いるんだけど…》
《何だと?》
大人しくピオンスコの見ている光景をテレパスで感じればいいものを、オレ達は好奇心を抑えられず岩陰からそっと当たりの様子を見まわした。するとオレの施した炎の魔法が程よい照明となり、列をなして行進しているグリムの群れの姿が徐々に明るみにさらされているところだった。
ただでさえ異形の姿をしている怪物が群れているという事実に、オレ達は心を奪われて少しの間、誰一人として動けないでいた。
どういう事だ? 確かにグリムが一匹だけというのは思い込みも甚だしかったが、それにしても群れでここに集まった理由はなんだ?
俺がそう思ったのも束の間、大小様々なグリム達はのっそりとしたペースを一分も崩す事なく門の中へと入って行く。
最後尾の一頭が中に消えていくまで、俺たちは何も言わずただただ不気味で幻想的な光景に目を奪われるばかりだった。
そうして一抹の不安や不信感を植え付けられたのが昨日の事。
起きてみれば自分の心とはまるで正反対の晴天が俺たちの上にあった。
昨晩の出来事には誰も触れなかった。精々寝ずの番をしてくれていたルージュとアーコの二人がグリムが引き返して来ることはなかったと報告をしてくれた程度だ。
だがこの沈黙と厳粛な雰囲気は丁度いい緊張感を作ってくれたのも事実。和気藹々とした語り合いも嫌いではないが、これから臨むのはこの世界で最も難しいとされるダンジョンだ。
黙々と朝食を済ませるとそれぞれが手甲やベルト、あるいは靴の紐を結び直して最後の支度に取り掛かる。言わずもがな、それと同時に自分の中の気合も締め直していた。
◇
「行くか」
俺が言いながら立ち上がると皆がそれに続く。一夜限りのベースには乾いた風が吹き抜けて行った。
内側から破砕された門の前に立つと遥か上にあるはずの魔王の居城を見据えた。生涯で二度もここを訪れた『囲む大地の者』は俺一人だろうな。そんな考えが何故かツボに入ってしまい、口角が上がる。俺はそれを武者震いの一つに置き換えた。
二度目の来訪は中々に刺激的だ。
門はこの有り様だし、一度目の記憶を思い返すと怨嗟と憤怒が込み上げてくる。
俺は感情をコントロールするのと索敵の二つを期待して狼の姿へと変わった。前回の試練の門の踏破の記憶に更にこの鋭敏な感覚が加わればより盤石に歩みを進められる。
すると何を言うでもなく、昨日の夜の御伽噺代わりに提案した隊列が組まれた。
例によってルージュは首輪に、アーコは鞍になって俺の身体にぴったりと収まる。その上にトスクルを跨がせ、両脇をラスキャブとピオンスコで囲む。
トスクルにはイナゴの操作と感知に専念してもらいつつ、両脇の二人は有事の際に戦闘を熟してもらう。
この陣形が未知の要素が多いダンジョンに挑む場合の最適な解答のはずだ。
全員が神経を研ぎ澄ませつつ、いよいよ門を潜る。外から予見できる通り内部もすっかりと瓦解した石が散乱しているありさまだ。
ただ機能自体が完全停止している訳でもない。前回同様に通路を形成している石自体が淡く光っており、屋内でもある程度の視界は確保できていた。
(どうだ?)
誰に問いかけるでなく、俺は念を飛ばす。今の俺たちには野生の勘なんて不確定なものの他に、イナゴを使っての直接的な探査と精神感応魔法を用いての間接的な探査方法がある。万に一つも敵を見逃すはずもなかった。
(近くに脅威になりそうなものはありませんね)
(だな)
(動物を含めても近くに気配がない。その意味では安心だが…そうなると昨日のグリムの一団がどうなったのかが気になる)
(確かにな)
近くに気配がないということはダンジョンの深奥、つまりは上層や魔王の居城まで行っていると考えるのが自然か。
どの道、ここは一本道のダンジョンだ。道中で出くわしす可能性が高いと用心して進めばいいだけ。
そう結論付けるとキッと行く先にある最深部を睨みつけ、歩みを再開したのだった。
オレ達は有事というのは立て続けに訪れる事を理解した。
昼間に登ってきた山道に何やらのっそりと動く者の気配を感じた。その刹那、六人が思い思いの戦闘態勢を取りつつ、様子を伺った。明るいうちに岩壁を砕いて障害物を作っておいて正解だった。
それぞれが息をひそめて様子を見ると、ルージュとアーコが再び精神をリンクさせてくれたのが感覚で伝わった。これで声やアイコンタクトを用いず、パーティで連携を取ることが可能だ。
するとその時、脳内に自分が見ている光景とは別の映像が反映された。
これは…ピオンスコの視点か。
手早く鞘付きベルトを締め直し、ミラーコートを着たピオンスコは周囲の不敬に溶け込みながら岩陰から出たようだ。
なるほど。これなら敵に気が付かれるリスクを下げながら周囲の様子を見ることができる。暗殺者に求められるスキルと偵察に求められるスキルは広い範囲で被っている。優秀なアサシンであるピオンスコは、同時に優秀なスパイ役もこなせるという訳だ。
だが、オレ達にはそんな関心に浸る暇は与えられなかったのだ。
ピオンスコの見定めた敵はこの上なく厄介な存在だったからだ。
…グリム
全員の心の声が重なった。
山道を登り、突如として現れたのはトマス達といた森の中で見たグリムという一つ目の怪物。魔王の城の中で飼育され、人心を餌にすると言っていたか。何故かは知らないが城を抜け出して『螺旋の大地』を徘徊しているらしいが…。
何故、ここに現れたんだ? いや、それも気になるが、まずは安全確保が優先だ。
《ピオンスコ、よくやった。正体は分かったし、奴はオレ達に気が付ている様子もない。素性が分からない怪物とわざわざ戦う必要もないだろう。少々不気味だが、隠れてやり過ごすぞ。目を伏せてこっちに戻ってこい》
《…》
《ピオンスコ、どうした?》
《ザートレさん、みんな。何かグリムが沢山いるんだけど…》
《何だと?》
大人しくピオンスコの見ている光景をテレパスで感じればいいものを、オレ達は好奇心を抑えられず岩陰からそっと当たりの様子を見まわした。するとオレの施した炎の魔法が程よい照明となり、列をなして行進しているグリムの群れの姿が徐々に明るみにさらされているところだった。
ただでさえ異形の姿をしている怪物が群れているという事実に、オレ達は心を奪われて少しの間、誰一人として動けないでいた。
どういう事だ? 確かにグリムが一匹だけというのは思い込みも甚だしかったが、それにしても群れでここに集まった理由はなんだ?
俺がそう思ったのも束の間、大小様々なグリム達はのっそりとしたペースを一分も崩す事なく門の中へと入って行く。
最後尾の一頭が中に消えていくまで、俺たちは何も言わずただただ不気味で幻想的な光景に目を奪われるばかりだった。
そうして一抹の不安や不信感を植え付けられたのが昨日の事。
起きてみれば自分の心とはまるで正反対の晴天が俺たちの上にあった。
昨晩の出来事には誰も触れなかった。精々寝ずの番をしてくれていたルージュとアーコの二人がグリムが引き返して来ることはなかったと報告をしてくれた程度だ。
だがこの沈黙と厳粛な雰囲気は丁度いい緊張感を作ってくれたのも事実。和気藹々とした語り合いも嫌いではないが、これから臨むのはこの世界で最も難しいとされるダンジョンだ。
黙々と朝食を済ませるとそれぞれが手甲やベルト、あるいは靴の紐を結び直して最後の支度に取り掛かる。言わずもがな、それと同時に自分の中の気合も締め直していた。
◇
「行くか」
俺が言いながら立ち上がると皆がそれに続く。一夜限りのベースには乾いた風が吹き抜けて行った。
内側から破砕された門の前に立つと遥か上にあるはずの魔王の居城を見据えた。生涯で二度もここを訪れた『囲む大地の者』は俺一人だろうな。そんな考えが何故かツボに入ってしまい、口角が上がる。俺はそれを武者震いの一つに置き換えた。
二度目の来訪は中々に刺激的だ。
門はこの有り様だし、一度目の記憶を思い返すと怨嗟と憤怒が込み上げてくる。
俺は感情をコントロールするのと索敵の二つを期待して狼の姿へと変わった。前回の試練の門の踏破の記憶に更にこの鋭敏な感覚が加わればより盤石に歩みを進められる。
すると何を言うでもなく、昨日の夜の御伽噺代わりに提案した隊列が組まれた。
例によってルージュは首輪に、アーコは鞍になって俺の身体にぴったりと収まる。その上にトスクルを跨がせ、両脇をラスキャブとピオンスコで囲む。
トスクルにはイナゴの操作と感知に専念してもらいつつ、両脇の二人は有事の際に戦闘を熟してもらう。
この陣形が未知の要素が多いダンジョンに挑む場合の最適な解答のはずだ。
全員が神経を研ぎ澄ませつつ、いよいよ門を潜る。外から予見できる通り内部もすっかりと瓦解した石が散乱しているありさまだ。
ただ機能自体が完全停止している訳でもない。前回同様に通路を形成している石自体が淡く光っており、屋内でもある程度の視界は確保できていた。
(どうだ?)
誰に問いかけるでなく、俺は念を飛ばす。今の俺たちには野生の勘なんて不確定なものの他に、イナゴを使っての直接的な探査と精神感応魔法を用いての間接的な探査方法がある。万に一つも敵を見逃すはずもなかった。
(近くに脅威になりそうなものはありませんね)
(だな)
(動物を含めても近くに気配がない。その意味では安心だが…そうなると昨日のグリムの一団がどうなったのかが気になる)
(確かにな)
近くに気配がないということはダンジョンの深奥、つまりは上層や魔王の居城まで行っていると考えるのが自然か。
どの道、ここは一本道のダンジョンだ。道中で出くわしす可能性が高いと用心して進めばいいだけ。
そう結論付けるとキッと行く先にある最深部を睨みつけ、歩みを再開したのだった。
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