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1 呼び出しと旅立ち①
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カールセリア自治領区の三貴族といえば、浮き沈みの激しい貴族社会にあっていずれも100年の歴史を持つ名家である。帝国の支配を逃れ、抗い、渡り合う…それはまさに三貴族の存在があってこそのことだった。
東の平野に広がる街ザーラの中心部に、この一帯を実質的に支配するベルガルド家の大屋敷はあった。
一世代前の勇壮な建築様式で建てられたそれは、まるで砦のような威圧的な佇まいだ。しかしその物々しさが逆に興味をそそるようで、屋敷付近の観光を目的に、自治領内をはじめ他領・他国から訪れる者も多い。
「あーあ、あんなに集まっちゃって。人の家の前だってわかってんのかしら?」
よく晴れた日の朝、ベルガルド家の娘・リリアは窓辺で頬杖をつきながら観光客の様子を眺めていた。
屋敷で生まれ育った16年、物心ついた頃から見慣れた景色ではあるが、煩わしさ、鬱陶しさは変わらない。
うっすらと窓ガラスに映り込んだクセのある赤毛の毛先を摘み、ぼんやりとした表情の自分の碧眼と視線が交わった。
「あんまり気分が良いものじゃないのよねー。出掛ける時も人の目が気になるし。大体ウチの街、似たような感じの屋敷っていくつかあるんだけどな」
(愚痴も相手の耳に届かなければ何も伝わらないか。ま、別に伝える必要ないんだけどさ。)
ふっと小さくため息をついて、リリアは窓辺から離れた。
コンコン。
ふいに部屋の扉がノックされる。どうぞと呼びかけると、現れたのはメイドのアンネリースだった。
鮮やかなブロンドの髪と冷ややかな目つき、その長身のおかげで氷の美人などと言われているが、本人はまるで気にする様子がない。今日も淡々と仕事をしているのだろう。
「お嬢様。旦那様がお呼びでございます。謁見の間までどうぞ」
「あら、何かしら。呼んでくれれば部屋に行くのに」
「お嬢様だけでなく、皆様をお呼びです」
「皆様…ってことは…」
「はい、お察しの通りかと」
アンネリースのその声に、リリアは一瞬目を見開き、次に大きく息を吸った。
来たんだ、この時が。
表情を引き締め、リリアは謁見の間に向かった。
「来たか、リリア」
「はい、父様」
謁見の間なる、一介の貴族にはどう考えても不要なその部屋の奥でベルガルド家当主は玉座に肘をつき座っていた。
その目つきは鋭く、岩でできたような凛々しく冷たい表情。コロコロと変わる髪型はここ最近両分けの長髪が好みのようだ。リリアの赤毛は父譲りなのだと対峙して改めて感じる。
赤ワインで染め上げたような赤紫の分厚い生地に金の刺繍が施されたジャケットとズボン、柱を蹴飛ばしても平気なくらい頑丈そうな光沢のあるブーツ。
(まあ端的に言って、今日も派手よねー)
父だけではない。そのそばに立つ3人の妻も負けず劣らず華美なドレスを身に纏っていた。
「こちらへ」
父の声に、リリアは無言で歩を進める。
(地方貴族が玉座って何様? というか謁見の間って何なの。いまだに必要性がよくわかんないんだけど)
ここに呼ばれるたびに浮かぶ胸中の本音はもちろん発しない。
東の平野に広がる街ザーラの中心部に、この一帯を実質的に支配するベルガルド家の大屋敷はあった。
一世代前の勇壮な建築様式で建てられたそれは、まるで砦のような威圧的な佇まいだ。しかしその物々しさが逆に興味をそそるようで、屋敷付近の観光を目的に、自治領内をはじめ他領・他国から訪れる者も多い。
「あーあ、あんなに集まっちゃって。人の家の前だってわかってんのかしら?」
よく晴れた日の朝、ベルガルド家の娘・リリアは窓辺で頬杖をつきながら観光客の様子を眺めていた。
屋敷で生まれ育った16年、物心ついた頃から見慣れた景色ではあるが、煩わしさ、鬱陶しさは変わらない。
うっすらと窓ガラスに映り込んだクセのある赤毛の毛先を摘み、ぼんやりとした表情の自分の碧眼と視線が交わった。
「あんまり気分が良いものじゃないのよねー。出掛ける時も人の目が気になるし。大体ウチの街、似たような感じの屋敷っていくつかあるんだけどな」
(愚痴も相手の耳に届かなければ何も伝わらないか。ま、別に伝える必要ないんだけどさ。)
ふっと小さくため息をついて、リリアは窓辺から離れた。
コンコン。
ふいに部屋の扉がノックされる。どうぞと呼びかけると、現れたのはメイドのアンネリースだった。
鮮やかなブロンドの髪と冷ややかな目つき、その長身のおかげで氷の美人などと言われているが、本人はまるで気にする様子がない。今日も淡々と仕事をしているのだろう。
「お嬢様。旦那様がお呼びでございます。謁見の間までどうぞ」
「あら、何かしら。呼んでくれれば部屋に行くのに」
「お嬢様だけでなく、皆様をお呼びです」
「皆様…ってことは…」
「はい、お察しの通りかと」
アンネリースのその声に、リリアは一瞬目を見開き、次に大きく息を吸った。
来たんだ、この時が。
表情を引き締め、リリアは謁見の間に向かった。
「来たか、リリア」
「はい、父様」
謁見の間なる、一介の貴族にはどう考えても不要なその部屋の奥でベルガルド家当主は玉座に肘をつき座っていた。
その目つきは鋭く、岩でできたような凛々しく冷たい表情。コロコロと変わる髪型はここ最近両分けの長髪が好みのようだ。リリアの赤毛は父譲りなのだと対峙して改めて感じる。
赤ワインで染め上げたような赤紫の分厚い生地に金の刺繍が施されたジャケットとズボン、柱を蹴飛ばしても平気なくらい頑丈そうな光沢のあるブーツ。
(まあ端的に言って、今日も派手よねー)
父だけではない。そのそばに立つ3人の妻も負けず劣らず華美なドレスを身に纏っていた。
「こちらへ」
父の声に、リリアは無言で歩を進める。
(地方貴族が玉座って何様? というか謁見の間って何なの。いまだに必要性がよくわかんないんだけど)
ここに呼ばれるたびに浮かぶ胸中の本音はもちろん発しない。
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