彼女は恋愛事情よりも野望に夢中です

朝雨

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7 湖のほとり③

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「よいしょーっ!」

リリアが思い切り竿を振り上げると、釣り糸の先には銀色模様の魚がしっかりと食いついていた。
振り上げられた勢いのまま、魚は地面にどっと落ちるとピチピチと跳ね回る。

「す、凄いよお嬢さん!」
「お見事ですお嬢様」
「ふっふっふっ、これで5匹目。上々じゃない?」

釣り上げた魚を見下ろすように仁王立ちするリリアをよそに、ルークは慣れた手つきで魚の口から針を取り外した。

「ホントに釣りは初めてなの? こんなに釣れるなんてびっくりしちゃったよ」
「自分の才能が怖いわね。お魚はそんなに好きじゃないんだけど」
「えぇ…あ、そう…」

ルークが反応に困っていると、いつの間にか野草を刈ってきたアンネリースが火起こしを済ませていた。

「それではお嬢様、朝食にいたしましょう。腹を抜いてこの野草を詰め、蒸し焼きをご用意します」
「おいしそうね、お願いね。ねえルーク、貴方も食べなさいよ。お魚釣りすぎちゃったし」
「あ、ありがとう。じゃあ僕からはパンをお裾分けするよ。今朝焼いたばかりなんだ」
「パン焼いた!?」
「ひぃっ!?」
「貴方、パンが焼けるの!?  凄いわ! いろいろ教えてちょうだい!!」
「顔が近いよ! と、とりあえず持ってくるから待ってて。小屋にカバンを置いてきたんだ」 

ルークがカバンを取りに行っている間、アンネリースはナイフ一つで手際良く料理の下拵えを済ませていった。
とりあえず今朝の朝食はなんとかなりそうだ。ルークが戻るころには3人前の魚料理の準備がすっかり終わっていたのだった。


「はい、これがウチのパンだよ」
「あら黒焦げ」
「ちょっと焼き過ぎただけだって!」
「あ、美味しい!」

ルークからパンを受け取ったリリアは、焼き上がった魚料理とともにパクパクと口に運んでいった。

「お嬢さん、麦をひいてパンを作る気だったの? だったらウチに粉挽きがあるから使いにきていいよ」
「それは助かるわ」
「さすがに麦を分けることはできないけど。お嬢さんたちは麦をどこから…というか、なんで小屋で寝てたの? 迷子かい?」
「家を追い出されたのよ」
「ええっ!?」

素っ頓狂な声を上げるルークに、リリアは2日前に父アレクサンダーに呼び出されたこと、さっさと家を出てきたことを説明することにした。
その話を聞いているうちにルークはどんどんと顔色が青くなっていく。

「そ、そんなぁ! メイドさんがついてきてくれたから良かったものの、君一人だったらどうするつもりだったのさ!?」
「とりあえず路銀で人を雇う気だったわ。お金だけはいくらかあるから。あと、これでも最低限の護身術は身につけてるから安心して」
「そういう問題じゃないと思うけど…。小屋だって、昔の記憶を頼ってアテにしてただけなんだろ? そんな無茶苦茶な」

偶然出会った女の子は、まったくの無計画でバージンレイクに野宿しにやってきた。これがルークの素直な感想だった。
その表情を察してか、リリアは不敵な笑みを浮かべる。

「ふっふっふ、ルークの言う通り無茶苦茶だけど、やっぱり私、幸運よね」
「幸運?」
「だって元々は一人で飛び出してくるつもりだったのにアンネリースが一緒に来てくれたし。こうしてルークに会えて釣りも教えてもらえたわ。まあ、だいたい何とかなるものよ。心の努力と、準備したお金。使えるものは全部使って生きていくしかないし」
「幸運は、たしかにそうかもしれないけど。で、これからどうするつもりなの?」
「小屋を屋敷に建て替えたいのよねー」
「うわぁ大胆」
「そのためにはまずしっかり生活していかないと。とりあえず紅茶が飲みたいし、水浴びもしたいわ。毎日お魚じゃ飽きちゃうから、干し肉でいいから手に入る街も見つけておきたいわね。それから麦畑を作らないと」
「そんな勝手な…ここの領主様が怒っちゃうよ」
「その時はその時よ。で、次に商売よね。ねえルーク、貴方の街で仕事はない? お針子さんかお掃除メイドの仕事があると嬉しいんだけど。それからちょっとした学問なら教えられるわよ。教会が人手不足だったりしないかしら」
「また顔が近いって!」

まくし立てるリリアに気圧され、ルークは両手を振りながら
なんとか彼女を制しようとする。

「そんなに張り切ってお嬢さんは一体何をしようとしてるんだよ?」
「決まってるわ、父様を引き摺り下ろすの」

ルークの問いにリリアは間髪入れず答えたのだった。
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