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植樹会
しおりを挟む「えー!宇留!ゴノモリゾート行ったの?」
新学期、中学二年生になった宇留は、親友の七継 五雄と教室で語り合っていた。
「ゴノモリ リゾートね、リ! リ!」
気持ちと予算を出して頂いている関係先である。間違った認識は修正せねばなるまい!キリッ!
「俺、小六の時に行ってお昼にテイクアウトで食べたハンバーグ弁当が忘れられなくてさ!モッカイ行きたいなって思ってんだよ!」
話題が膨らませられない。宇留は滞在中、ハンバーグ系にノータッチだった枯れ趣味の自身を悔やんだ。
T都、馬瀬間区、私立衣懐学園中等部。
数年前の怪獣災害で以前の校舎が破損し、宇留の入学前に中等部以下だけが現在のちょっとした高台に移転した経歴を持つ学校。
早朝、早目に登校した宇留は、今年度も自分達のクラス担任の続投が決まった男性教師、手句藤 アルキと話をして担任の変化というか成長ぶりに驚いた。
以前はどちらかと言えば事なかれ主義的だったのが、ふと生徒の心情に寄り添う姿勢が自然になっていた。
リモート授業中には勿論話した事はあったのだが、実際会うとそれがしっかり伝わってきた。「優秀な生徒達で助かってるよ、フフフ···」と少し皮肉もあったが······。
アルキ先生は日米クォーターだという少し彫りの深い顔で爽やかに微笑みヒソヒソと宇留にとある注意をした。
「それでね須舞くん、君の持ってるアクセサリー、特に問題にしないから。生徒や他の先生、だれかにちょっとでも指摘されたら俺か校長先生に言いなさいね?」
宇留は滞りなく、アンバーニオンの関係者である自分の周りに伸びている大人達のチカラに少しビビった。恐らく護ノ森リゾートの社長であるあの人のサシガネであろう······
続いて、前年の一年B組こと、現在の二年B組。
かつてトラブってしばらく通えなくなっていたクラス。
クラスメートの入れ替えは殆ど無く、宇留以外四人減り、宇留含め六人増えた。
親友はハグする程宇留の再起を喜び、他何名かも笑顔で声を掛けてくれた。勿論興味無さげであったり、腫れ物に触れないようにする者、奇異の目で見る者、ピリつく者も居た。
しかし自分は自分の判断で自信を持ってここに居る。他力本願的な自信かもしれない。虎の威を借るナントヤラと誰かが言った。(実際、虎『猫』の友達も居るから屁理屈だけど嘘じゃ無い)
けどそれでも十分だった。ありがとうと思えた。
一方、なんか言ってやろうと思っていた奴、そして再会を約束した友人の姿はまだ無かった。その代わり······
「初めまして、月井度 現です」
転校生の月井度 現。
ひょっとしたら女の子のような中性的な顔立ちに、額の左上から斜め下の頬に向かってに傷痕のような痣がうっすらあるどこか影のある少年。
早速、クラスメート数人に取り巻かれて質問責めに合っている。初対面で傷痕の事を誰も聞かないのには、宇留が思うのもなんだがみんな大人に向かって一歩進んだなと感じた。
しかし現が返す答えの数々は何か浮世離れなものだった。
「現って漢字がカッコ良かったから」
名前の話題に対して、まるで自分で自分に命名したかのような言い方。
なんでも、記憶喪失で街を彷徨っていた所を現在の後見人に引き取られ今に至るらしく、名前は自分で決めたとの事だった。
宇留は何か引っ掛かるものがあって、取り巻きには加わらずに聞き耳だけ立てていたのだが、すぐに始業式の呼び出しがあった。
始業式が終わると、全員学校指定のジャージに着替え、軍手を持って急かされるように校庭の隅に集合した。
微妙に小高い丘のなだらかな芝生地帯には、道具や資材、そして桜の苗木が既に用意して置いてあった。
一学年につき四本から五本、等間隔に植えるように指示があり、クラスごとにそれぞれの場所で、一人一人スコップを地面に入れて土を少しずつ抉っていく。
宇留は一度土を掘り返し、苗木をリレーして穴に据え付けたりした後にどうしても手持ち無沙汰気味になってしまった。意外に器用な作業が必要で、その段階の生徒達が釘付けになったからだった。
黙って見ていてもしょうがないので、他のグループの偵察をしようと考えた。
同じ事を考える生徒は居るようで、ウロウロしている生徒は多数居るようだ。
宇留がフラフラ歩いていると、植樹会場の隅でキラッと何かが反射して光った。
丘の上の学園の下の方、傾斜が急になっている箇所の草刈りを終えて戻って来た壮年の用務員が、エンジン草刈り機の丸ノコのような草刈り刃を外した所だった。
用務員は一輪手押し車から塀用のブロックと雑巾、丸棒ヤスリを取り出してブロックの上に雑巾を敷き、草刈り刃を置いて丸ノコの一刃一刃部分を研ぎ始める。
手慣れたその音のリズムに引き寄せられ、宇留は用務員の居る場所に向かいメンテナンスの見学を始めた。
宇留はしゃがんで用務員の仕事を見つめる。
用務員は一瞬珍しげな表情を浮かべたが、すぐに刃研ぎへの集中を再開した。
「(ウキローみたいだ···)」
宇留は丸ノコ刃を見てアンバーニオンの技の一つを連想する。技を研ぎすますイメージ。大分参考になった。
すると宇留の隣にもう一人座った。現だった。
「······」
現は宇留の近くにしゃがんで目を細め用務員の作業を見ている。宇留とは一言も会話を交わさない。近くを通った女子生徒グループの一人が「あ!仲良し!」と宇留と現を茶化したのに対し、宇留だけがニコッと笑顔だけで返答する。
物好きな少年二人に見つめられ用務員の男性の集中力に僅かな揺らぎが見えた頃、現が顔を押さえながら口を開いた。
「こんなのに···やられた気がする···」
宇留と作業の手を止めた用務員はギョッとして現の顔の傷痕に目を向けてしまった。
「ひでぇ···」
思わず宇留から率直な感想が漏れる。
現は一瞬少し呆れたような表情で宇留に微笑みかけた。
「!?」
宇留の脳内に微かな悲鳴が響く。その確かな空耳の元を立ち上がって探す宇留。
その時、宇留に一番近い植えられたばかりの桜の苗木。そのすぐ側にカラスが一羽居た。
すで植え終えられたその苗木の周りに人影は無く、まばらに芝生の上に散った土の中に虫でも探しているようだった。
カラスには悪いが、宇留が一歩だけ強めに踏み出して苗木に近寄るとカラスは飛び去って行った。宇留はそのまま苗木に近寄ると小枝の一つをそっと手に取る。
(もう大丈夫だよ?)
宇留は想文の要領で苗木に語り掛ける。通じたかどうかはわからない。
そうして宇留はイツオ達の所へ戻って行った
それを見ていた現は立ち上がる。
用務員の目には、現が逆光で影になったように見えた。
現の金色の瞳孔がギラリと光る。
「アンバー···ニオン···スマイ···ウル!···」
用務員には聞き取れ無かったが、現は何事か呟いて宇留に続いて二年生組の居る所に戻って行った。
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