神樹のアンバーニオン (2) 逆襲!神霧のガルンシュタエン!

芋多可 石行

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家 路

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 青年は自動販売機の前に立ち、適当に飲み物を選びボタンを押した。
 電子マネーを選択せずに持っていたカードをリーダーにかざすと、ガタンと選んだ炭酸飲料が取り出し口に落ちて来る。
「あ!ちょちょ!君!」

 この世界の日本国首都、T都。
 その某所、年期の入ったラーメン店と自動販売機だけの狭い一般道のパーキングエリア。
 その日の夕方、青年は自転車でパトロール中の警官に呼び止められた。
「そのカードどこの?何の電子マネー?」
 青年は振り向かない。
「ちょっとお話いいですかー?もしもし?」
「······」
 その時、東の空に目映く光る飛行物体が現れ降下して行くのが警官と青年の目に写った。警官はしばらくそれを見ていたが、気を取り直して職務質問を続ける。
「?······んっ!······もしもし?聞こえていますか?」
 青年は飛行物体が飛んでいた方角を向いて無視を決め込んでいる。そして何事か呟いた。
「アンバー···ニオン···」
「え?何?」
 警官は思わず青年の持っていたカードに目配せする。カードに描かれたキャラクターの目がキロリと動いて警官を睨んだ。
「へっ?」

 ···スーザ!··ガガ!ピ!···ロノ···アルオスゴロノ···アルオスゴロノ···アルオスゴロノ··アルオスゴロノ··アルオスゴロノ······ザヒュ··ゾノ··ア···

 次の瞬間、警官の無線からおぞましい声で何事か囁く声がしたかと思うと、警官の膝の力が抜けて警官は自動販売機に寄りかかりながら倒れてしまった。
「く···な···!」
 引き続き不気味な声は無線から流れている。青年は何故かその声を聞いても冷静さを保っていた。そして自動販売機から炭酸飲料を取り出すと、体の自由がきかずパニックになっている警官の眼前にそれを置いた。
「心配いりません。今は何もしませんよ?」
「な!···まっ!···」
 青年はなんとか立ち上がろうとする警官を尻目にその場を後にした。青年の持っていたカードに描かれたキャラクターはニヤリと口元を歪めていた。




 
 C県、鍋子なべこ市。
 アンバーニオンは暮れなずむ海の上空で、岬の最南端の少し沖。その海底にある琥珀の泉ドッグに向かっていた。
「今日はどこで降りる?」
「またウチの近くでお願いいたしまする!」
 海に向かってゆっくり降りて行くアンバーニオン。航空国防隊の協力の賜物か、首都圏にも関わらずほとんどすれ違う飛行機には出会わなかった。そんな中、宇留はヒメナに尋ねられて答えた。
 
 地球の各地には、アンバーニオンをはじめとする“琥珀の戦士„と呼ばれる存在と、それをサポートする人々や、亜神という神々のネットワークが秘密裏に存在する。
 宇留もアンバーニオンやヒメナと出会い、そんな人々、神々と交流する中でそれを知ったばかりである。
 宇留が最初に使用したI県、軸泉市にある琥珀の泉同様、ここ鍋子沖海底の琥珀の泉もアンバーニオンが待機と回復、エネルギーの補給を行える言わば基地のようなものである。
「最初はあの岬の白い鳥居の所で降ろして貰ったんだよね?神社で土地神サマに挨拶したなぁ」
 岬と言ってもほぼ海岸と地続きのような岩場の突端を見ながら、宇留は僅か数十日前を懐かしんだ。
「はい!自動着晶リンクオン調整終わり!あとは転送までアンバーニオンの準備が出来るまで少し待ってて?」
「ありがとね!···········ねぇヒメナ」
「ん?」
「ここは東だけどさぁ、T都とか西の方にはこういう所無いのかなぁ?悪いけどここ微妙に遠くて、ヒメナもアンバーニオンも大変じゃない?」
「そこは大丈夫だよ?ありがとう!、でも············あるには、ある」
「え!」
 驚いて返答しようとしつつあった宇留の言葉に被せ気味にヒメナが続ける。
「ある、でも使用中。そして居る、問題児が」
「問題児!?」
 次の瞬間、宇留とヒメナは光に包まれてアンバーニオンの操玉から消えた。



 
 T都西部、向珠むかいたま町某所。
 軸泉の土地神こと、亜神である慈神じじんバジーク アライズ、丘越おかごえ 折子せつことそのお供である巨大猫のアッカは、作務衣を着た白髪髭が美しく整ったおきなに先導され、森の中の小さな石鳥居の前に赴いた。
 翁に礼をして、ここまでの道案内を感謝する折子。二人は鳥居をくぐると、細い獣道を進んで行く。途中には有毒ガス注意の看板があった。
「んぉ!これ、サッキの結界越えてここまで来れる人間が居るって事だナ?」
 アッカが折子に尋ねた。
「そうね?まぁ有毒ガスはブラフでしょうけど」
「お!スマイがあっちに着いたみたいだナ!」
「ええ、近い内遊びにいきましょ?」
 そう雑談している間に二人は、崖に空いた裂け目に到着した。
 裂け目からは熱風が吹き出して周囲の気温を高めていた。
「ダメだ!アッチぃ!変身する!」
 アッカの赤い首輪の黄色い琥珀が輝いて、ジャカンとアッカに琥珀の鎧が装着される。
 大型犬並みの大きさだったアッカが、更に虎のような姿と巨躯に変わる。
「フュィー!セツコさんは大丈夫かぃ?」
「へーき」
 折子は裂け目に一歩踏み出す。長い髪が優雅に熱風になびく。二人は熱い洞窟を先に進んで行く。途中で目に見えない結界を幾度もくぐり抜け、行き止まりに突き当たる。
 しかし行き止まりの岩さえすり抜けた先には透明なオレンジ色の樹脂、全方位琥珀の洞窟が待ち構えていた。
 温度はプラス六十度程、その琥珀らしき物質で構成された洞窟を涼しい顔で進んでいく折子とアッカこと琥珀の虎、ソイガター。

 そしてその先にそれは居た。

 乳白色に濁ったオレンジ色のサナギにくるまれたカブトムシのような頭部や肩の鎧。胸元から上の部分が光の池から突き出して微動だにせず、その巨人は眠っているようだった。

 巨人の深奥からは、自動車のアイドリングのような重低音と、人間とは異なる心臓の鼓動が合わせて微かに響いてくる。

「おょーい!ゼレクトロン!起きてるかー?寝てるかー?どっちでも良いけど?」
 ソイガターがサナギの巨人に語りかける。

「お変わりなく···あなたまで出番る事が無ければ良いけど······」

 ゼレクトロンと呼ばれた巨人は、様子を見に来た二人の声に反応する事は無かった。





 T都、馬瀬間まぜま区。須舞邸周辺。
 光に包まれた宇留とヒメナが庭先に姿を現した。
「お疲れサマ!」
「ふぅー!ありがとうね!」
「フフフ···」
「ェへ!どうしたの?」
「アンバーニオン···ボク達出すのに慌てちゃって、そんなに彼の話が聞きたくないのかなぁ?」
「そんなにイヤな奴なの!その問題児?」
「そんな事は無いんだけどね?想像して?いつも建物壊さないように気を付けて戦ってる宇留の爪の垢を煎じて飲ませたい位なんだよね?」
「あぁ、なんか、こう!ね」
「うーん······ねぇ···」
「でもなんで教えてくれなかったの?」
「うーん、聞かれなかったから、それに······」
「それに?」
「彼はもうしばらく動けないから」
「···そうなんだ······」

 ヒメナと話終えると宇留は立ち上がり、閉じていた門を開けて家の前の静かな通りに出た。
 近くの駐車帯に停まっていた国防隊の車の窓をノックして口パクで、戻りました。よろしくお願いします!と挨拶して礼をすると今日のSP達はピシッと軽い敬礼を返してくれた。
 宇留が玄関前に戻ると内側から玄関扉が開いて宇留の父、須舞 春名ハルナが顔を出した。
「よぅぃ!お帰り!」
「父さん!」
「今メシ食いに来てたんだ。食ったら終業に戻るんだ···けどぉ······宇留!ちょっといいか?」
「?」
 春名は玄関扉を閉じて照明の下で切り出した。
「宇留、今度さ、いつでもいいから少し時間ある?通帳と契約書の勉強しよう?」
「え?なんで?」
「お前にさ、カンケーカクホーメンからお給料振り込みたいって!」
「マジで?えー?なんか変な感じー···ねぇ、父さんたち管理してヤッテー?」
 宇留は少しねだってみた。
「ダメだ!いつかは自分でする事なんだから、早くてもいいだろ?じゃホラ!今日はメシ食って休め」
 春名に促されて宇留とヒメナは帰宅した。
「あらお帰り!」
 宇留の母、須舞 明日美あすみが玄関まで出て来た。
「ただいま!」
「ヒメちゃんこっち!お風呂入ろ?」
「ただいまお母様!分かりました!」
 明日美は宇留からペンダントモードになったロルトノクの琥珀ヒメナを受け取った。
 宇留は背伸びをして、一旦リビングに置いてある友人へのお土産の包みを持って玄関まで戻り靴箱の上に置いた。靴を揃えて、食事前にどこかで手を洗おうとしていると、洗面所から明日美の大きな声とヒメナの会話が聞こえてきた。

「ヒメちゃん!宇留と大分派手にやってるみたいじゃない?すごいわね······おぉ!相変わらず琥珀の中でも一瞬で着替えれるのね?」
「気分なんですけどね?お母様!···あのですね?また服の本見せてくれると嬉しぃ···ガチャン!

 浴室の扉が閉じる音からワヤワヤと反響して、くぐもって聞こえる女子トークに、宇留が玄関で靴を揃える手が止まってフリーズしていると、宇留の肩は春名にモシャモシャと揉まれた。
「ワ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ !」
「コッてんなー!ワケーのに大丈夫か?明日からガンバレよ~~?」
「うん!ありがと父さん、ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ!」

 明日は宇留の学校の植樹会である。






 
 





 
 

 
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