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趣きの午後
しおりを挟むアンバーニオンがクロヴァウタンを撃墜した翌日の正午。
重翼隊基地の隠れ蓑にして、航空国防隊第二資料館。
本日雨天、入館料百円引き。
「ニッヒッヒっひ!」
「な!なんですか?ぃきなり!」
鈴蘭は午前中の訓練を終え、早めの昼休憩をはさみ、午後からは資料館の受付待機業務に入る。という日々をほぼ毎日過ごしている。
午前中の受付シフトに入っている一般職員。音出 深侑里は、鈴蘭との交代の挨拶の終わりに思わず笑ってしまった。
「ん?ま、また藍罠さんが来るとかですか?」
「いいえ、違うヒト」
「はい?」
「いえんいえ!何でも何でも······」
そう言うと音出はニヤニヤしながら控室に戻って行った。
「なんだァ?」
受付の席に座った鈴蘭は、どしゃ降りの外のエントランスで百円均一ショップの商品であろう小さいビニール傘を畳んで、同じく百円均一ショップの商品であろう使い捨て雨合羽を脱ぎ、バサバサと振るって雨粒を払う人影を目にした。
「おお!こんな日に珍しい!少年だ···」
鈴蘭は中学生以下無料券とパンフレットを用意して客の少年を待った。受付のバックヤードで古いコーヒーメーカーがグヅグズと言い出していた所だった。
古い自動扉がガタゴトウーと音を立てて開く。帽子を目深に被り、ベージュのウインドブレーカーを着た少年が受付までやって来た。
「いらっしゃいませ!」
「えっと、あの、オイサワ···さんですか?」
「?!」
宇留は帽子を取って鈴蘭のネームプレートをふと見ながら尋ねる。
ふ!ふわぁあああ!
鈴蘭は驚きと態度を隠して平静を装う。
整った顔立ち、長い睫毛、ごく若干うねりの混じった頭髪。鈴蘭が幼少時に恋をしたアニメのキャラクターと宇留の見た目や声などが完コピだったのである。
しかしすぐに受付としての使命を思い出し、冷静さを取り戻そうとする鈴蘭。
い!いかん!落ち着けェ!私はそんな趣味じゃ無い!そんな趣味じゃ!無い!
「あのー?」
「はっ!はい!私ですが、お、追佐和に何かゴヨーでしょうカ?」
鈴蘭はなるべく冷静に答えた。
「お世話になっています。アンバーニオンの須舞です。昨日は急にすいませんでした」
「!」
深々と頭を下げる宇留。
「あ!ああ~~!キノー、キノーの!」
なんで私を知ってるんだ?
、と思った鈴蘭だったが、エントランスの外に居る国防隊のSPらしき人影を見て、まぁそんなもんか?と察した。
「いや!キノーだけじゃないか!は、っはじめマシテ!生身でわはじめまして!追佐和です、どうも!」
鈴蘭は立ち上がり受付カウンターの前に回り込み、ワタワタと名刺を取り出して宇留に手渡した。
「あ!ありがとうございます!お返し出来る名刺がまだ無くて···」
「はい、ダイジョブですよ?で?今日は···」
「近くまで来たので、ご挨拶でもと思って···」
ちゃんとしてんなぁ?ドコ仕込みだろ?
「そうですか!えっと、今後も···って今後の案件なんて出来れば無い方がイインですけど、よろしくお願いしまっすね?」
「はい!お願いしまっす!···あ、ぁと!···見学も良いですか?」
鈴蘭からドーゾドーゾと両手で差し出されたチケットとパンフレットを受け取った宇留は何度か会釈しながら展示室の順路に消えて行った。鈴蘭は宇留が角を曲がるまで手を振って笑顔で見送りながらも予想していた。
「······フフフ···何分持つかな?」
第二資料館は玄人向けの施設である。中学生男子の平均見学時間は十分未満。ほぼ展示を素通りの計算に値する。鈴蘭は受付のタブレット端末に監視カメラの項目を呼び出して表示した。
するとSP三人の内一人が入館し、鈴蘭に手帳を見せて宇留の後を追う。鈴蘭は頷いて、会釈だけでパスさせた。
「あ!そうだった!」
鈴蘭は受付のバックヤードでコーヒーを残り三人分用意し始める。
エントランス外の隅では、SPの蛍沼と赤永がエントランスの屋根からボタボタと流れ落ちる雨水を眺めながら雑談していた。
「昨日落ちた敵ってー、例の煽り飛行の奴なんですよね?」
赤永が蛍沼に聞いた。
「ああ」
「でも煽られた旅客機とかに犠牲者はいなかったんですよね?そんぐらいで撃墜とかってずいぶん厳しい話じゃないですか?」
「それがな赤永、被害者には鬱、パニック、その他の精神的な被害が出ている」
「まぁそりゃ!怖い思いすれば誰だって···」
「被害者、全 員 だ、これがどういう事か分かるか?乗員乗客には元軍人や格闘家、敏腕ビジネスマンにベテラン職員、メンタル強めの人間が多数居たのにも関わらずだ」
「?何かの···攻撃があったって事ですか?」
!
蛍沼は首筋に刃物を当てられた感覚に陥り思わず振り向く。ガタゴトウーと自動扉が開いて丁度鈴蘭がコーヒーを二人分持って出て来る所だった。自動扉が開く直前、一瞬鈴蘭はカミソリのような鋭い目つきをしていたが、すぐに微笑んだ表情になる。鈴蘭は二人のクロヴァウタンの話題に聞き耳を立ててしまっていたようだった。
「お疲れ様です。これ、もし良かったら?···」
「ああ!こりゃどうも!いただきます!」
鈴蘭はエントランス外の、かつて喫煙テーブルだった所にコーヒー、砂糖、ミルク、マドラーの載ったプレートを置いて受付に戻った。
「追佐和 鈴蘭···昨日のミッションの当事者か······?」
「ぷぁ!あったまるー!ん?なんです?」
「いや!なんでもない」
受付に戻った鈴蘭は、シメシメとタブレット端末の館内監視画面に向かって、展示に見入る宇留を確認した。
「お!まだ初っぱな!ちゃんと見てくれてるね?」
次の瞬間、宇留を写したカメラがブラックアウトしシグナルロストの表記が出た。
「あちゃ!さすがサンキュッパカメラ!くそ~···」
その時、宇留はガラスケース内の古い教本を律儀に読もうとしていた。
「んーー?かすれてて読めない······」
その時、後ろから宇留の両目を柔らかな指先が覆い隠した。
「うわ!」
宇留が思わず振り返った後ろには音出が立って微笑んでいた。
「いらっしゃいん!」
「?え、えーと?」
「こんにちは、オドデウス」
宇留の上着の中でヒメナが挨拶する。
「え!オドデウスさん?」
「この姿では初めてだよねん。読めた?ウリくん?」
そう言うと音出 深侑里ことオドデウスは、再び両手で宇留の視界を覆った。アンバーニオン オドデウスの操縦時と同じく、何故か周囲がよく見える。
「あ!捻り!って読むのか!へぇ!」
「前にも言ったけど、この術は目が良くなったり、一段と速く見れるん!」
宇留はそれを聞いて、動体視力や反応力が上がる事なのか?と思った。
遠くで宇留の会話を聞いたSPの徒建は、話相手を特定しようと館内の曲がり角から顔を出して様子を見た。
その先には曲がり角から顔を出して様子を伺う見覚えのある黒いスーツの男の背中が見えた。
「?」
徒建は一度顔を引っ込めて深呼吸してまた角を覗き込む。
「?」
今度は後ろに向けて指先でサインを送る。
前に居る男も、後ろに向けて全く同じサインの仕草をした。
「えええええ?お、俺こういうのダメなんだよ!」
頭を戻した徒建は目をギュッと閉じて放心状態でフリーズしてしまった。
「どうしてオドデウスさんは国防隊の施設で働いてるんですか?」
率直に宇留が尋ねた。
「ここの人達がね、戦勝祈願でお参りした神社に私がお世話になってた時にね。ちょっとキミしばらく此処をお守りしてみてって代わりに派遣されたん!」
重翼隊のオフィスでは、そのオドデウスの力が込められた神棚の御札を一瞥して、八野が受付に向かう所だった。
「それでね?影に日向にイイ方になるように、ちょこんちょこん活躍しとるんですん!」
「へぇ!スゴイっすねー!」
結局宇留はオドデウスと話しながら、しばらく時間を掛けて見学した。
「粘るな~?」
鈴蘭は腕時計を見ながら宇留が戻るのを待った。結局蛍沼と赤永の二人にはロビーのソファーに座ってもらっている。
「よ!パイロットくんが来てるって?」
受付に有り合わせの私服を着た隊長の八野がやって来た。何故かヒソヒソと鈴蘭に語りかける。そこに丁度宇留が戻って来た。
「あ!昨日はどうも!重翼隊隊長の八野です」
宇留と話す八野の向こうに、ゲッソリとした徒建が現れる。それを確認した蛍沼は手招きして残り一つのコーヒーを薦めた。
「どうだったかね?ここの資料館は役にたったかい?」
「おかげさまで!空に駆ける人達の熱さが!なんと言うか!こう!」
「そう!かい!わかってくれるか!ぅぅ!」
こ、この枯れ様は······
嘘泣きで感慨深がる八野。それと宇留の意外な枯れっぷりに鈴蘭は少し冷静になれた。
「で、須舞くん!、この後ホントにC県の鍋子辺りまでアンバーニオンで帰るんだね?」
「はい!お手数お掛けします!!」
ま、マジですか?!
鈴蘭はギョッとした表情を向ける。
「航空国防隊としてはもう準備オッケーだから!気を付けて行きなよ?」
ど!ドンだけ優遇?!と鈴蘭は心中で嘆いた。
資料館周辺は雨が小降りになってきたが、その代わり霧が濃くなりつつあった。
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