神樹のアンバーニオン (2) 逆襲!神霧のガルンシュタエン!

芋多可 石行

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再 攻

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 早朝。
 宇留は既に目を覚ましていたが、あえてまぶたを閉じて横になったままでいた。
 静かだな······ 
 目だけ開けて窓の方を向く。カーテンの隙間からは紺色の光が漏れている。街の音も徐々に増えてくる時間帯にあって、重い静けさが宇留の家を押し潰していた。
 宇留は起き上がってカーテンを少しめくる。青白いベールに包まれ、向かいの家がボンヤリと視界ガラスの向こうに浮かんでいる。
「霧だ······」
 ここ最近、T都はあまり天気が良くなかった。太陽光をエネルギーにしているヒメナも少し元気が無い。
 それを気にした母の明日美が、昨夜にどこからか太陽光に近い光というのが売りの家庭用日焼けマシーンなるものを持って来たものの、結果は、足しにはなるにはなるけど···お母様のお気遣いの方が暖かい!という話題で家族四人、イマイチイマイチと笑い合ったばかりだった。
 今日はどうだろうか?
 いつ頃か知らない内に強化ガラスに変わっていた窓際を離れた宇留は、ヒメナの部屋はこが収納されているクローゼットヒメナの部屋の前に立った。
 宇留がクローゼットの扉をノックしようとするとヒメナの方から声をかけられた。
「ウリュ!おはよう!」
「!···お···はよぅ?」
 宇留はそのまま止められなかった人差し指の第二間接の先で一応ノックして扉を開け、箱の傍らのタッチライトを点灯し、ゆっくりと蓋を開く。
 ロルトノクの琥珀アンバーの中でヒメナはいつものように微笑んでいた。
「あれのおかげでちょっと調子イイかも!」
「!、はぁ···良かった···下行く?」
「うん!」
「?」
 僅かな灯りのクローゼット内。宇留は少しヒメナ本人に違和感を感じたが、ロルトノクの琥珀は今日もシャラララと気持ちのいい音でチェーンが具現化し、ペンダントモードに変化した。
 ロルトノクの琥珀ペンダントを手で持ちながら、宇留は階段で下階に降りる。丁度リビングの入り口から明日美が出て来る所だった。
「あらおはよう!すごい霧よ?」
「おはよう!そだね?···はい」
 宇留は普段いつもどうり、ヒメナに朝の挨拶をされている明日美にロルトノクの琥珀を預けて顔を洗いに向かった。
 身支度を終え、洗面所でランニングウェアの上着をハンガーから外して着ている最中に、宇留はリビングに居る明日美から呼ばれた。
「宇留ー?ちょっとー!」
「はーい!」
 リビングでは明日美が琥珀の中を覗き込み、ヒメナとにらめっこしている。
「どうしたの?」
 宇留は明日美の座っている椅子の背もたれに手を掛けて明日美の肩越しにロルトノクの琥珀の様子を見た。
「ん?」
 宇留はそのまま明日美からロルトノクの琥珀を受け取り、もう一度内部のヒメナを見る。
 宇留が目を細め真剣な表情で瞳を近付けて来るので、ヒメナは少し恥ずかしそうに視線を下に向けた。
 リビングの明るい照明に照らされてはいるものの、薄いオレンジ色の琥珀のせいで分かりにくかったが、ヒメナは少し日焼けしていた。
「······日焼けしてる?」
 (え!)
 ヒメナから思わずの想文そうぶみが届く。
「ひえええ!ど、どうしよう!昨日のアレ?ワアあ!ヒメちゃんが焦げちゃった!シミになるッ!」
 明日美はひどく狼狽する。しかし、
「お母様!大丈夫です。たま~にある事なので、ご心配無く。あ···シミは出来た事無かったかも?」
「羨ましいわね?」
 明日美の持ちネタ。急に落ち着くが炸裂する。
「じゃあヒメちゃん!せっかくだから夏ッッて感じのもぅちとせくすぃ!なドレスに変わっちゃうってノァどう?」
「母さん!まだ春だよう!」
 宇留はロルトノクの琥珀ペンダントを首に掛けてランニングウェアのファスナーを閉めた。その方が宇留もウレシイとかなんとか言い出したのを軽くあしらいつつ、宇留とヒメナは朝のランニングに出掛けた。
「視界悪いから気をつけるのよ~」
 玄関を出る間際、ザ·母親な気遣いの言葉がリビングから飛んで来る。
 宇留は国防隊SPの車に近付いて、両こぶしを握って両腕を振る、走って来ますジェスチャーをして霧の住宅街に駆け出した。
 宇留は今の時間に車に居たのが、どうやら女性隊員のような雰囲気だった気がしていた。





 眠っていても白いテキストカーソルの点滅が黒い視界の左上から消えない。
 何度バージョンアップしても、これだけは何故か変更出来なかった。
 もう慣れきったそれは長い長い間、自分プログラム世界サーバーに移してさえも変わらない事。

 よく見ると黒い視界のその向こう。琥珀色の両目がこちらを見ていた。
 何かを訴えかけるように······

 丘越 折子は質素ながらも気品のある旅館の和室で目を覚ました。上半身を起こし、浴衣の襟を整える。すると隣の部屋のふすまがポスボスとノックされ、アッカが前足で襖を開いてイソイソと折子の布団の側に寄ってきた。
「セツコ!見たか?夢!ゼレクトロンだ」
「ええ、見たわ、あの目···どうしたのかしら?」
 折子は正面を向いて、遠い目を正面の壁に向けて少し考えた。
「早めに出掛けましょうか?」
「!、よしきた!カブトムシの知らせって言うしナァ!」
「······」
 アッカの一言も成る程。だが折子はその語源を検索する。しかしあえてその内容を説明する事まではしなかった。

 着替えて旅館のフロントにやって来た折子達に気付き、従業員が二人の前まで出て来た。
「オカゴエシャマ?お帰りですか?」
 従業員、可愛い河童の仮面を被った小さい男の子が折子に尋ねた。折子は腰を曲げて河童の男の子に目線の高さを落として柔和に答える。
「はい、急にすみません。お願いします···」
「はーーい!」
 河童の男の子はトコトコとフロントに戻り「チェックアウトでしゅ!」と叫んでチリーンと呼び鈴を鳴らした。

 ボフス!

 霧雨が降っていたので折子は白い蝙蝠傘を広げた。
 折子とアッカはの向珠町のどこか往来の脇、何らかの石碑のような物の側にいきなり立っていた。
「···行きましょう···」
「ブニャ!」
 折子達は馬瀬間区の方向に顔を向けてそのまま歩き出した。




 ランニング中、住宅街の狭い丁字路付近に居た宇留は向かって来るバイクの音を聞き、近くのアパートのゴミ集積所のそばでバイクの様子を見る事にした。
 やがてやって来た原付バイク、その運転手は宇留に一瞥いちべつして、ゆっくり通り抜けて行った。
 宇留は丁字路から顔を出して左右を確認し、左方向へと進む。
「濃いなぁ·····」
 視界は五メートル程、こんな濃い霧は滅多に体験出来ないので宇留は少しテンション高めだった。見慣れた街の風景がガラッと変わって、まるで違う世界に来たと空想するには充分な状況。
 その時、突風が強めに吹き下り宇留の周囲の霧を掻き回した。風で開けた霧の合間に送電鉄塔が姿を現す。送電鉄塔の足下に纏わり付く霧と、背後の霧の流れの向きがそれぞれ逆方向に向いている為、目の錯覚で送電鉄塔が雲海の上を滑って移動しているように見えた。
「!」
 その光景、宇留の意識に一瞬よぎるある男の気配······宇留は送電鉄塔が再び霧に包まれるまで足を止めていた。

 キィッ!

 後ろの方、宇留がやって来た方向から軽い急ブレーキの音がした。

 宇留の護衛をする為に追跡していた国防隊の車、その前方に先程宇留とすれ違った原付バイクが道の真ん中に停車して、国防隊の車の進路を妨害していた。運転手はフルフェイスヘルメット越しに車と睨み合っている。
「あーもう!私らの初っぱなからコレダモン!」
 運転席の女性隊員が憤る。助手席の女性隊員は何かの機械を操作した。

 宇留のポケットの中で防犯アラームが震える。取り出して見ると黄色い注意ランプが点灯していた。
「ヒメナ!なんか来た!」
「うん!」
 宇留は弾かれたように走り出す。そして近くの橋を渡り、その河川敷沿いに広がる畑や雑木林の多い地域に向かう。

 国防隊の車と睨み合っていた男はきびすを返し、原付バイクでもと来た道を戻って行く。運転席の女性は一瞬ヘッドライトをハイビームにして追跡を開始した。助手席の女性隊員がどこかに連絡する。
「こちらプリンスガード。任務妨害の不審者一名、原付バイク、キファド社製、白い···恐らくシュタエン、ナンバーはあっち向いてホイ!上を向いて曲がっている!身元がバレないように?」
「真面目にヤレー!モーー!ん?!」
 原付バイクが宇留の向かった逆方向に曲がるのを運転席の女性隊員は確認した。
「く!しまった!宇留くんの行った方じゃ無いけどマガレン!」
 丁字路の突き当たりの左右は、暗渠あんきょに蓋をしたような造りの狭い道で、セダンタイプの車では徐行して曲がり通らざるをを得ない道だった。しかも車は左方向に一方通行でなおかつ右には行けない狭さ。
「あー!やっぱりT都の道わからんわ!」
 やむ無く宇留の追跡に移る国防隊の車は左方向に曲がった。


 宇留は河川敷沿いのランニングコース、その途中にある手入れされていない竹林の脇に誰か居るのに気付いた。霧で見つけるのが遅れたのを後悔した。
 宇留がそのまま通り抜けようと思っていると、その男は道の真ん中にフラ~と移動する。
 しまった、SPの人達はまだ自分に追い付いていない。最悪、アンバーニオンをぼうか···?と宇留が思っていると男は口を開いた。
「やぁ!久しぶりだね?洞窟以来かな?」
「!」
 宇留の前に居たのは、縞雨 休利しまさめ やすとし。そこそこ有名だったアマチュアの動画職人。最近フォロワー数1万人を目前にアカウントを削除して消えた有名人で宇留にとっての要注意人物の一人。そしてその正体は、アルオスゴロノ帝国の戦士、リキュストだった。
 
 
 



 
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