神樹のアンバーニオン (2) 逆襲!神霧のガルンシュタエン!

芋多可 石行

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害 樹

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 脳の芯がザワザワする。
 宇留のすぐ側を、湿って重くなった霧風がムォォと吹き抜けて行く。
 それは何者かの声無き唸り声のようだった。宇留は警戒しながらも行く手を阻む男に問い掛ける。
「ミーレーヴァーの······シマサメ···さん、ですよね?」
「よくわかったね!、動画ボクの見てくれたの?ありがとう!お気に入り登録して頂いた方々もありがとうございます!」
 リキュストはわざとらしく返答した。一応宇留とリキュストは初対面では無い。軸泉市で一度会っており、宇留の知り合いの推理が正しければ、間接的接触は何度かあったかもしれない間柄だった。リキュストは続ける。
「こんな濃霧の日に、なんと!一部で有名なスマイ ウルくんに出会ってしまいました!」
 手には小さいビデオカメラを持っている。宇留の了承を得ない撮影、ある程度宇留を知っている言い回し、リキュストのもう正体を隠す必要の無い敵意が宇留のしゃくに纏わり付き翻弄しようとする。宇留は服の上からロルトノクの琥珀ヒメナを庇うように押さえて身構えた。
「と!言うわけで!これも何かのエン!どっちが早くロボを召喚できるかやってみたーーー!······」
 リキュストはセリフの後に少し沈黙する。後々今撮影している動画に効果音でも付けて編集でもするというのだろうか?
 (ロボ?、召···喚?まさか!街外れここで、こんな所で!?)
 想文でヒメナが驚く声が聞こえた。
 軸泉事件の後、正確には一ヶ月程前からアノ帝国の軍備が増強されているらしく、帝国側の兵器、アクプタンやクロヴァウタンなどの目撃が相次いでいる。という状況が国防隊のデータ、そしてアンバーニオンの出撃頻度からも明らかになっていた。
 しかし、アンバーニオンや国防隊の警戒、調査をもってしても原因や本拠を特定するには至っていなかった。そしてヒメナ曰く、念の為にアンバーニオンには帝国の新たな本拠相手に積極的になれない理由と可能性があるというのだが·····
「なっ···!」
 リキュストは機械的に、問答無用で宣言通りに行動を起こす。
「はい!サン!ニー!イチ!······来い!エグルドーゴォ!」

 キョビバッッ!

 ビニール袋を破く音に似た奇妙な轟音が聞こえた。そして霧の中に、そう高くない位置から巨人の影が現れて竹林の向こうに着地したようだ。轟音と局所的な地震が宇留の足下を揺るがす。宇留は負けじとランニングウェアの前を開けロルトノクの琥珀アンバーを握りしめた。
「行くよっ!ヒメナ!」
「ええ!」
 霧の中からズッと飛び出したエグルドーゴの足の爪先に備わった透明な球体にリキュストが吸い込まれていくと同時に、宇留とヒメナは叫んだ。
「!ーーーー、ウェラ!クノコハ!ウヲ!」

「「アンバーーーニオォーン!!」」


 召喚詠唱アイコトバに反応して、C県鍋子市沖の海底から龍人のような基本形態のアンバーニオンが現れ、T都内に向かって飛翔した。
 アンバーニオンと光になった宇留達はそれぞれ弓なりの軌道で合流する。

 
 ガゥ!···オオオオオオオォー!


 アンバーニオンの瞳と胸の赤い琥珀が輝いて、開いた口部宝甲から雄叫びが木霊こだました。
 アンバーニオンの操玉内コックピットに落ち着いた宇留は、着地前 いの一番にエグルドーゴが現れた付近をアンバーニオンの目でスキャンした。
 河川敷沿いに土手を挟み、田畑や開墾で残された森の名残や草むらがある地帯。しかしここはT都内、すぐ近くには住宅街が見えた。
 そしてエグルドーゴの姿。先程リキュストが吸い込まれた足の爪先だと思っていたのは、巨大な一本足?そうで無ければ蜻蛉トンボのような尾。エグルドーゴは人型の上半身に下半身は蜻蛉の尾、背中には薄いソーラーパネルのような羽根が左右二枚づつという昆虫のような姿をしていた。
 エグルドーゴの頭部、顔面の黄緑色のY字のようなプレートが光り、飛んで来るアンバーニオンの方向を見据えた。
 巨大な二体が向かい合えば、アップスケール的に丁度格闘技のリング程の狭さの土地。さらに宇留は畑の農作物が踏み荒らされてダメになる可能性を考えた。
 エグルドーゴはアンバーニオンが自身の近くに来る前に、尾の中間にある逆間接を曲げて踏ん張り、アンバーニオンに向かって高速で飛び立った。周囲の草花が土埃ごと巻き上がる。
 ガコ!
「!ッ」
 エグルドーゴは高速でアンバーニオンとすれ違いざまに、肩アーマー付近を軽く踏んで更に跳ねて飛んで行く。
こっちサービスだ!お坊っちゃんが何の気兼ねもなく動きやすい所に行こうゼェ!」
「待てー!」
 宇留は踏まれた肩アーマーに加えられた衝撃に逆らわず、その圧力を逃がす方向に無理せず反転しエグルドーゴを追う姿勢をアンバーニオンにとらせる。
 濃霧の雲海からまばらに突き出た高層ビル群を眼下に見て、二体は僅かに東寄りに旋回しながら飛んで行った。

 宇留に追い付こうとした国防隊SPの車は、エグルドーゴの影響で吹いた思わぬ突風で停車してしまった。フロントガラスに小石がビチピチと当たる。
「く!遅かったか!」
 運転席の女性隊員が悔やむ。助手席の女性隊員は既にアンバーニオンと敵の出現を報告していた。




 T都と隣県のS県の境目にある広大な再造成中の市民公園。
 この公園も馬瀬間区程ではないものの、濃い霧に包まれていた。
 園内の歩道を歩いて来た月井度 現は、公園内にある一番広い円形の池の前に立った。
 アラワルは池の前に揃えて並べられてあった二枚の三角形の板を踏みしめ、その後なんの躊躇ためらいも無く池に踏み込む。
 靴の裏に貼り付いた二体の小型アクプタンのせいか足は沈まず、陸上と何ら変わらない歩みで池の中心に向かう現。その時現の鼓膜に女性の声が響いた。

「準備はいい?ゲルナイド?、訓練通りにやるのよ?」
「わかった······」

 街に非常事態を告げる気持ちの悪いサイレンが鳴り響く。
「エギデガイジュと接続したら、以前まえの体と同じ要領で動かせば良いけど···なにぶん、重く遊ばせられるから少しの間ガマンして?」
「わかった」
「さぁ、開けて?」
 現は真剣な表情でポケットから黒い種を取り出し、指先で割り潰して池に落とす。すると水が消え、白と銀色がマーブル状にうねる空間が池だった場所に現れた。現は公園上空に飛来したエグルドーゴとアンバーニオンの空を裂く轟音を聞きながらその空間に降りて行った。

「「!ーー」」
 宇留が寒気を覚えるのと、アンバーニオンのアラートがディスプレイのふちに表示されるのは同時だった。恐らくヒメナもそれは同じだったのであろう。
 アンバーニオンはエグルドーゴの追跡を止めてまで、霧でボンヤリと見える公園上空から池の異変に釘付けになっていた。
 前方から旋回し戻って来たエグルドーゴが、アンバーニオンを挟んで池が見える位置に留まって様子を見ている。
「フッフッフ···」

「そ、そんな·····あれは、キネイニウムの採掘···坑···!?」
「採掘坑?」
 ヒメナは宇留の聞き慣れない物質の名を言った。
「ウリュ···あれはどこか別の次元の空間を満たす完全単一物質世界の景色!···前にボクが言ったのを覚えてる?帝国は人の心を汚し貪るって話···」
「うん···」
「帝国は人間の“関心„の力を強制的に集め、束ねて一点集中して、次元の壁に穴を開ける技術を造り出した。感情を伴って他者に向けられる思考、それが強ければ強い程その力も強まる。その力で穿うがたれ、あのゲートの先に今見えているのはあの世界を満たす完全単一物質、キネイニウム···帝国の兵器の材料に使われている物質。そのキネイニウムの採掘坑よ!」
「そういうこと···?···まさか!帝国あいつらあの採掘坑の向こうに!?拠点を?!」
「多分···道理で見つからないワケっ!!」
 アンバーニオンは採掘坑の様子を見ながら公園の未整地地帯付近に着陸する。
 そしてエグルドーゴもゆっくりとアンバーニオンの近くまで降下して来た。位置的にアンバーニオンは、エグルドーゴと採掘坑に挟まれたポジションに立ってエグルドーゴを睨む。
「さぁ!久々の今世いまよにおいでませェェ!」
「「!」」
 リキュストが叫ぶと、採掘坑からまるで目に見えるような嫌悪感を伴う雰囲気が噴出した。何かが来る。採掘坑から何かが出て来ようとしていた。

 ォォォォォォォォォォォォォ······

 痩せ枯れてミイラ化した巨大な手。
 そしてその手の主が囚われているオレンジ色の琥珀がり上がって来る。

「あ···!ああ···!そんな!」

 ヒメナが珍しく狼狽うろたえる。
 採掘坑から現れた丸い琥珀の内部、のけぞり仰向けになって苦悶の表情を浮かべた影は、左手で首元を押さえ、右手は何かを掴むように天に向かって伸びて微動だにしない。
 琥珀の上面から飛び出した右手それだけが痩せ枯れてミイラ化している。

 ···巨大な魔獣入り琥珀···見た目はそんな形容をせざるを得なかった。

 そしてその魔獣入り琥珀を背中に担ぐように搭載した禍々しいデザインのロボットは、頭部に赤いマークを付けた球体が収まり、重そうに腰を曲げながら不便そうな足取りで採掘坑空間から一歩、そしてまた一歩と踏み出す。

 ヅヴシィィーン!

「!」
 重苦しい足音に宇留が驚くと同時に採掘坑空間の扉は閉じて普通の池に変わる。そしてあれ程濃かった霧が僅かに晴れ始める。
「エブブ···ゲガ!どう···して!?」
 ヒメナが戦慄の様相で琥珀の中の魔獣の名を呼ぶ。
 しかし魔獣は琥珀の中で、表現は悪いが無様としか言い表せないような、もがき苦しむ姿で琥珀の外側に目を見開いた視線を向けている。そして宇留はかつてヒメナに聞いたその魔獣の名を思い出す。
「あ!あいつが!エブブゲガ?さわったらダメなヤツだったよね!?」
「ええ!絶対気を付けて!ウリュ!お願いっ!」
 二対一どころの騒ぎでは無い状況に、宇留の心に不安がよぎる。

「さぁ!始めるかー!」
「エギデガイジュ、進め···」
 気合い充分のリキュスト、そして魔獣入り琥珀を背負ったロボット、エギデガイジュのコックピットでアラワルこと本名、怪獣ゲルナイドは作戦を開始した。




 サイレンが響く街中、原付バイクを走らせる青年は、まだ霧が残る街中をあたかも見えているかのように走らせていた。
「そこを右、左サイドの電柱に注意、そのまま、対向車、歩行者三十メートルまで無し、減速···はいゴー!前、車、」
 青年の鼓膜には詳細なナビボイスが届けられ、視界は利かなくとも迅速な移動ができていた。
「!」
 坂の降り口まで走って来た青年は霧の晴れた向こうに見える琥珀の巨人とそれを挟む二体のロボットを確認した。
「······」
 青年は逃げ惑う人々や車の間を掻き分けて、アンバーニオンの居る市民公園に向かって原付バイクで走り出した。












 
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