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ガルンシュタエン
しおりを挟む水光の跳ね、そして涙光の閃は、水を利用したアンバーニオンの技の一つである。
水を溶媒に、アンバーニオンの外骨格のような琥珀の鎧を形成する、宝甲、と呼ばれる物質の微細な欠片が混ざった溶液の循環を、任意の空間内で制御し超高圧で加速させ、主に切断技に用いられる。
琥珀の鎧···宝甲···と一概に言っても、地球上で確認出来る琥珀とは見た目以外は全く異なり、様々な環境の変化に対する高い耐久性の他、ロルトノクのの琥珀を持ったアンバーニオンのパイロットや、ヒメナのようなロルトノクの琥珀そのものの意思などにより、前述の技を含む機能や、エネルギー管理、組み換えによる形態の変化···と、言うなれば自由に動くマイクロマシンか、生物の細胞の集合体のような振る舞いをする物質である。
だが宇留は、この宝甲に潜む全ての力を、まだ引き出せてはいない。
エギデガイジュが突き出した両手の拳が手首の爆発と共に発射され、腕からワイヤーで繋がれた拳がアンバーニオンに向かって飛ぶ。
アンバーニオンは、そのワイヤーを切断する為、手首部に備わったブーメランに、水光の跳ねを形成しようと周囲に残る霧の水分にアプローチした。
だが、明らかにそれと分かるエラー警告が、アンバーニオンのシステムから宇留とヒメナに届き、水光の跳ねは発動しない。その隙にエギデガイジュの両拳を軸にしたワイヤーが、アンバーニオンの肩の付け根に巻き付くのを許してしまった。
「捕まえたぞ······」
エギデガイジュのコックピットで現が微笑む。
「かかったな!?、本当に神霧が本物の霧だと思っていたとはな!」
リキュストの駆るエグルドーゴの一本足が、アンバーニオンの背中からしなって伸びるスタビライザーを避けて背中を蹴り押し、アンバーニオンは一歩エギデガイジュに近付いてしまう。
「ヒメナ!大丈夫?」
ぎこちない動きのアンバーニオンから、僅かな異変を察知した宇留はヒメナを案じた。
「う···うん、···」
その時エギデガイジュの背で、魔獣入り琥珀の怪物、エブブゲガがヒメナを見下ろしているかのようだった。
かつてヒメナが宇留に語った昔話、エブブゲガの封印とアンバーニオンを結びつける事···接触させてはいけないという約束······
どうしてこんな事になるまで···
どうして誰も···
私も···アンバーニオンも···
気付けなかったんだろう?···
これじゃみんなの犠牲が···
無駄になってしまう···
ムスアウ···
ごめん!ムスアウ···
ムスアウ······
「ヒメナ!」
「!」
宇留はアンバーニオンに、エギデガイジュのアームワイヤーを掴ませると、掌から雷撃を発生させワイヤー越しにエギデガイジュへと流し込んだ。
「!」
しかしエギデガイジュと共に感電している筈の現は、苦しむどころか平然としながら歯を見せて嗤っていた。エギデガイジュは雷撃をものともせず、ワイヤーを巻き取りながらアンバーニオンへと歩み寄る。
「ヒメナ···」
宇留はロルトノクの琥珀を右手で掴み、更に左腕で右腕を抱き寄せ、自分の胸元にギュッと押し付ける。
「!、ウリュ···!」
「大丈夫!今は頑張ろう!後でいっぱい悩もう!俺たちなら出来る!守ろう!!···」
宇留の 今 という言葉で、ヒメナの瞳に光が戻る。
「ぅぬーーーー!」
「「ぅおおおおーーっ!」」
ヒメナの気合いを呼び水に叫ぶ二人。
ガゥアアアアアアーーーー!!
アンバーニオンが吠え、宇留とヒメナの本気に答える。
「ウルセイナァー!」
もう一度アンバーニオンの背中を蹴ろうとしたエグルドーゴだったが、今度はムチのようにしなり弾んだ背部スタビライザーによって、地面にはたき落とされる。
ズダァァァーーン!
「ぐわ!」
アンバーニオンは巻き付いたアームワイヤーをあしらいながら首だけ振り返り、エグルドーゴを見下ろす。
「そこに居ろっ···!」
怒れる宇留とアンバーニオンの威圧感がエグルドーゴにのし掛かる。
「く···フフ···」
リキュストは一瞬ふと驚くも、作り笑いで耐えるフリをした。
「?」
ワイヤーを使い、アンバーニオンと力比べでもしているかのように腕を振るエギデガイジュの動きやクセに、宇留は何か覚えがあった。
アンバーニオンに乗ったばかりの頃にケンカしたコブ付き触手で戦う怪獣に似ている。
「······ゲルナイド?」
宇留はエギデガイジュに想文で語りかけてみた。
「······!、フフ···ハハハハ!、アンバーニオン!スマイ ウル!」
ギャリィィィィィィンンン······!
次の瞬間、エブブゲガを包んでいた琥珀が砕け散った。
「「ああ!!」」
ヒメナと共に声をあげる宇留。エギデガイジュはアンバーニオンを絡め取っていたアームワイヤーをほどき、巻き取りながら、ゆっくりと地面に膝を突きしゃがんでいく。
「どうして?どうして!まだアンバーニオンに触れていないのに!!」
「そんな···!」
エギデガイジュの背部、魔獣入り琥珀がセットされていた部分で巨人の影がユラリと立ち上がる。
つり上がった目は薄く開かれ、こめかみ付近から生えたバラのトゲに似た小ぶりなツノ、無いように見える程潰れた低い鼻に、牙が見える裂けた口。
鬼の巨人のような姿のエブブゲガは、ミイラ化した右腕を気にする素振りも無く、エギデガイジュの上に朦朧としながら立っていた。
違和感·····先程まで、苦悶の表情でもがいていた瞬間を切り取ったように琥珀の中に入っていたエブブゲガとは雰囲気が全く違う。
背筋の張り、足の力み、そこはかとない落ち着き様と気品さえ感じさせるオーラ······
しかしエブブゲガは、すぐに膝が崩れ、エギデガイジュの上から落ちそうになる。
「陛下!!」
素早くアンバーニオンの横を飛んで回り込み、エギデガイジュの前でエブブゲガを抱き抱えるエグルドーゴ。
「······フフフ、ご苦労だったなアンバーニオン。ではまたヂカイ!」
リキュストが陛下と呼んだエブブゲガを、エグルドーゴは抱えて上昇していく。
「待て!」
アンバーニオンはエグルドーゴとエブブゲガを追う為に一歩前に踏み出す。そして正面の地面にある、砕け散り散乱する琥珀の合間に誰か居るのに気付き、慌てて足を止めた。
「あ!あいつは!」
宇留が見付けたその青年は、一際大きい琥珀の欠片に貼り付けられていたカードを剥がし、朝の光にかざしてカードの様子を見ていた。
「······エシュタガ···!」
青年の名は鍵村 跑斗。またの名をアルオスゴロノ帝国の戦士、エシュタガ。
「エシュタガ!ここにあるアンバーニオンの宝甲はまだ活性化中!陛下に続いていけるよ!」
エシュタガのカードの中心に描かれたキャラクターで、相棒のガルンが報告する。
二人共に、アンバーニオンとは一度戦った事のある間柄である。
自身に気をとられ、エグルドーゴとエブブゲガを逃がしてしまったアンバーニオンを気にするでも無いエシュタガは、ガルンのカードの縁を左手親指の先に当てるとカードをピッと引き、切れた指先から出た血液をカードに含ませた。
カードの縁から吸収されたエシュタガの血は、毛細管現象によってカードの回路模様の機構に流れ込み、そこだけが赤いマークに変化する。
「······ガルン!再び第一歩だ、改めて宜しくな?」
「うん!エシュタガ!······」
エシュタガが人差し指と中指だけで挟んだカードを天にかざす。するとカードは目映くオレンジ色に輝く。
「うわっ!な!何をする気だ!」
「······」
宇留とヒメナはエシュタガから目を離せなくなっている。
「我が操珀よ!心夢の内より!怪物を引き連れ現れたまえ!」
ガルンが叫ぶと、エブブゲガを封じていた砕けた琥珀が全て浮かび上がり、エシュタガとエギデガイジュの周囲に集まり始めた。
そしてエシュタガは、そのままカードを眼前にかざしながら詠唱する。
「ウェラ···クノコハ···ニアジェム·····」
「「ガルン···シュタエン····」」
エシュタガの詠唱に応じ、砕けた琥珀が大挙してエシュタガに押し寄せ、溶け合い、形を変えながらエギデガイジュの目線の上まで上昇する。
やがてうねる琥珀の塊は、アンバーニオンによく似た頭部を形作り始め、そして霧の粒子が集まり青白い仮面に変わった。
何かが、何かが生まれようとしていた······
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