神樹のアンバーニオン (2) 逆襲!神霧のガルンシュタエン!

芋多可 石行

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 K県、海上国防隊、朝香透あさかすか基地。

 その上空にやって来た裂断は、停泊している重深隊の艦船と巨大輸送船を眼下に見て、ヘリポートの一角に垂直着陸しようと試み高度を下げた。
 裂断は誘導に従い、推力偏向をAI任せで作動させ自動で降下していく。
 コックピットの鈴蘭は、遠目で見えた鬼磯目の捕獲爪グラップルクローの一部が、波間にキラッと八重歯のように覗いたのを見逃さなかった。
「うわ!本当にツメ!···ん?キバ?アゴ?」
 鈴蘭がそんな事を言っていると、鬼磯目の潜望鏡が遊ぶように伸縮を繰り返し、すぐに裂断を見た気がした。
 潜望鏡のレンズが太陽を反射する。···鈴蘭と目が合った。
「ハイハイ!お待たせ様ですよーだ!」

 巨大輸送船のゲートは開け放たれ、内部では陸上重拳じゅうけん隊のマシンが裂断の着陸完了を待っていた。
〔······裂断着陸完了、J4、誘導区域まで徐行前進〕
「J4、徐行前進了解」

  十一式多目的マニピュレータークレーン改 重拳J 四号機4

 その後に駐車している制御車輌内で重拳を操る走行担当隊員ランナー椎山しいやま  伊佐久いさくは、重拳をゆっくりと徐行前進させ、誘導員の居る位置で停車させる。
 そして重拳を追走してきた指揮車輌が重拳からやや離れて停車し、重拳隊隊長の茂坂 雄昌ゆうしょうが降り立った。
「揃ったな?······」
 基地の展望ブースに限定で集められたメディア関係者達が、一斉にカメラのシャッターを切る。
 国防隊対特殊事象対応分隊、重合隊の特殊兵器、重拳、裂断、鬼磯目が一堂に会した。

 2100年度、春期、重合隊会議。

 普段はシンプルに大衆へのアピール、的なイベントも兼ねている今会だったが、今年は毛色が違った。
 理由は勿論、アルオスゴロノ帝国とアンバーニオン関連の問題が山積だったからである。

「ちょっと君、今いいかな?」
 賑わう一般招待客の休憩コーナー。窓から重拳を見ていたニットキャップを被った少女が、取材プレスIDを身に付けたマスコミ関係者らしき男に呼び止められた。
「モデルヴィルって雑誌のインタビューなんだけど?写真とかもいいかな?」
「?······えぇ~?どうしよっかな~?」
 少女は華奢な指を握り固め、指をパキポキ鳴らしながらモジモジし始めた。「え?···」少女の奇妙なリアクションに男は不意を突かれ、勝手に撮影しようとした手が止まる。
「すいませーん、そこの人···」
 礼装した目付きの悪い隊員。陸上重拳隊、重拳オペレーターの藍罠 ヨキトが、男と少女の元へと近付く。
 藍罠と目配せした少女はその場を立ち去った。
「あ!ちょい!ちょっと!···」
 藍罠は、少女を追おうとした男のIDを少し強めに摘まみ、引っ張って男を止める。
「一般のお客様への取材はご遠慮下さい······?、うーん、モデルヴィルさん程の超硬派ホビー誌が女の子の写真とか使うんですか?沙魚上ハゼカミ編集長に、自分は編集長を存じているのですが?確認取ってもよろしいでしょーか?」
「う···!そ、それはっ!···?(あ、あれ、ファッション雑誌じゃねーのかよ!)」
「はいぃ?」
 言葉の圧力を高める藍罠。しかし男はたじろぐばかりでは無い。
「あれ?重拳の藍罠 ヨキトさんじゃ無いですか?今日は?あっちにお乗りじゃ?」
 男は窓から見える重拳の方を指差した。
「それは!······今日はお伝えした通り、機体敬礼は本日行う予定はありませんので···!」
「そうですよね?アノ帝国の被害者は増える一方ですからね?色々配慮ご苦労様です」
「!、とにかく、一般のお客様への声掛けはご遠慮頂きたい!」
「ハイぃー!申 し 訳 あ り ま せ ん っ!ではっ!」
「あ!ちょっと!」
 男はカメラを鳩尾みぞおちの前で構えながら、大袈裟に腰を深々と曲げて謝罪し、十秒も立たない内に藍罠の前から姿を消した。
 


 本来の予定では、オーバーホールや改修を終えた重拳と鬼磯目のスペック説明から会議が始まる筈だった。だが緊急の議題として、国防隊の上層部でも議論に上がっているという昨日さくじつのアンバーニオンの都内戦闘についての説明が議長の胡桃下からあった。
「至急の議題ですまない、諸君も知っての通り、昨日、サニアンワン···アンバーニオンとアノ帝国の戦闘が都内で勃発した。これは特査課が一般から収集した情報の一部なのだが···」
 ホール正面の巨大なディスプレイに一枚の写真が表示され、会場の全員が驚きどよめく。
 写真には濃霧に隠れそうに霧の切れ間に立つアンバーニオンともう一体、アンバーニオンと向き合うよく似た敵ガルンシュタエンの上半身が見えているのが確認出来た。
「な!なんだありゃあ!」
 藍罠が思わず声に出す。
「そう···この敵、アンバーニオンによく似ている、それとだ。昨日早朝の都内の濃霧は気象条件が揃っていないにも関わらず発生したものであるとの情報が入っている。敵は僅か二十分程の間に、未確認ではあるが二体から三体、敵の状況作成下でアンバーニオンへと差し向けられたと考えられている。それがこれだ」
 次の写真にはエグルドーゴと、魔獣入り琥珀を背負ったエギデガイジュらしき画像が二枚並んで表示された。
「···?···う!···ぐ!」
 エギデガイジュの背負う琥珀の中で、反射して光ったエブブゲガの眼を見た椎山を急な頭痛が襲う。
「?、椎さん?ドシタンスカ?大丈夫?」
 隣に座る藍罠と茂坂が椎山を案じた。
「だ!大丈夫!いつものだ。(ちょっと強かったけど)おかしいな?今更ゲシュタらなんちゃらでもあるまいしな?申し訳ない···」

「なんだ?中のアレは?ヒト型の怪獣か?珍しい」
 八野がペットボトルの水を飲みながら写真を観察する。
「虫型は何処かで見た覚えがある。樹脂持ちの奴の方、さっきの敵と造りが一部相似しているように見える。同型か変化した物では無いですか?」
 茂坂は手を肘から先だけ上げて議長席に質問した。
「······現在、これ等の敵性体に関しては過去の記録も含めて調査中、尚、この件についてアンバーニオンパイロットの証言から、元アマチュア動画職人ミーレーヴァー、縞雨 休利の関与を確認した。現在手配中の鍵村 跑斗と合わせ、その追及を···」
 胡桃下が説明している間に、表示された写真は三体の巨大兵器を纏めたものに変わる。
 藍罠はガルンシュタエンの写真を睨みながら、かつて拳を交えた事のある鍵村エシュタガを思い出していた。
「あいつじゃねーだろな?、宇留···みんな大丈夫かよ?」


 初弾の議題は加熱してしまい、予定の一時間目を消化してしまった会議。
「あ!つい来てしまった、席に水あるのに」
 休憩になった段階で自販機コーナーにやって来た鈴蘭は、自分の行動パターンに呆れながらブロックチェアに座る。
 話には聞いていたが、海上国防隊、特に重深隊の基地内は軍用施設とは思えないようなお洒落な造りだった。
 木目を生かしたインテリアやペレットストーブがあるかと思えば、間接照明や絵が飾ってあったり、自販機もあまり見かけないデザインが施してあった。
 その施設のそれらの装備は組合がどう···こう、など書いてある銀色のプレートがあったが、今は読まなくてもいいだろうと鈴蘭は思った。
 そんな居心地の良い基地に対して、隊員達の雰囲気は微妙に良くなかった。
 噂の鈴蘭とツーショット撮影を願い出た女性隊員が先輩に怒られたり、平気で仲間の影口を囁き合いながら歩く隊員。夜になるとドッグから女の子の啜り泣く声が聞こえる···と誰も居ない方向から話が聞こえ出したり、男性隊員がさっきすれ違った重翼隊のナイスバディ女性隊員にグッと来た!などと話していたので、あの人連れて来て無かったハズだヨネ?と思い鈴蘭は、この話は聞かなかった事にした。
「やっぱりなんか飲んでくか!」
 立ち上がって自販機に近付く鈴蘭。すると自販機から何かが一缶ガタンと落ちて来た。
「あれ!何だろ!」
 鈴蘭が取り出し口から缶を取り出すと、それは鈴蘭が買おうとしていた愛飲の友、焦げ紅茶てぃーだった。

 ·はじめまして、オイサワ レイラさん!

 自販機が喋った。

 ·裂断さんのAIさんから、これがお好きと教えて頂きました!よかったらお近づきの印にどうぞ!
「うぇー!??」
 ·ホントに、うぇー??ですね?

 自販機の声とは、会話が出来そうな雰囲気だった。

 ·申し遅れました!レイラさん!わたくし!鬼磯目のメインオペレーターAI。コテ···じゃないや!マーティアと申します!






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