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気の丈
しおりを挟むまぶたを閉じた目の上には、ぬるい濡れタオルが乗っていて視界がきかない。
全身が痛いので動きたくない。
もういいや、と思ってしまいそうになっていた時、軽く握っていた右手に何かスベスベした石?が滑り込んできた。
「ナッツ!」「ナツユキ!」
「!、ムスアウ···兄ぃ?、ヒメ、ちゃ···」
何てこった!もう喋りにくい···
「ごめんな?!もうお前を助けんのにはこれしかないんだ!許してくれ!」
「ふぇ?」
気が付くと掌の中の石?は無くなっていた。
全身の痛みに比べたら、どうって事無い痛みが掌に一瞬走る。
その後はどんどん回復していった。
あと、もうひとつ。
ムスアウ兄ぃとサヨナラした最後の日。
近くに居た幻影のような少年を思い出す。
「やっぱり宇留くんだったのか···?···未来から想いを馳せてくれいたんだな······?」
I県、軸泉市。
護ノ森諸店本店。
十四時五十六分。社長の老紳士、護森 夏雪は、寝起きのようなボンヤリ感を伴って回想から帰還した。
護森は椅子を回して窓際を向き、右手を外明かりにかざす。掌の中には、うっすらとオレンジ色の琥珀が手の中で透けてその存在を示していた。
社長室には護森がひとりだったが、窓際に差し出していた右手を顔面まで持って来ると、人差し指と親指で閉じた瞼をマッサージする振りをして、涙ぐむ表情を誤魔化す。
デスクのスピーカーがピコン!とアラームを奏で、午後三時を告げる。そして従業員からの呼び出しコールが響く。
[社長、所長と店長がいらしてます]
「ああ!すまない!今行くよ?」
護森はプリントアウトしたガルンシュタエンの資料を自分のデスクの引き出しに隠し、席を立つ。間を置かずしてデスクの引き出しからはオートロックのカチャコ!という音がする。
護ノ森諸店の窓の外には、木の枝に増え始めた緑の若葉がまだ冷たい夕方の春風に耐えていた。
衣懐学園中等部。
放課後。
一通り生徒達が下校か部活に散り分けられ、静かになった昇降口。時折聞こえるのは、校庭から響く部活の元気な掛け声やホイッスルなどの音。
誰も居ない頃合いを見て下駄箱にやって来た宇留は、廊下の反対側から角を曲がってやって来た磨瑠香に声を掛けられた。
「ハァーァーイ!今帰りぃ?」
「ハァーァーイ!マルカ!今帰りダヨー!」
「!」
宇留はヒメナの声に合わせて口パクで返事をした。
「えーwww!新技ー?」
磨瑠香はニッコニコで答える。
「アハハ、そんな事も無いんだけど、磨瑠香さんは?」
「私も今から······ねぇ!途中まで三人で一緒に帰ろ?女子トークに巻き込んダゲルゼぇ?」
「いいねー!ウリュ!覚悟しろ!」
「ええーやめといた方がイイヨ!」
「え!」
宇留は磨瑠香が一瞬この世の終わりのような顔をしたのが気になったが、そのまま説明を始めた。
「今ね?例によってね?」
「あ~!···うん?(アンバーニオンの事ね?)」
「国防隊さんの護衛を付けて貰ってるんだけどね?皆さん強そうな人ばっかりじゃん?」
「うん!それでそれで?」
「なんか隣のクラスで須舞は悪のヒミツケッシャと繋がりがあるとかなんとか噂になってるみたいでね?」
「たはははは!そんな!」
「そんな噂に誰も巻き込まない為にコウヤッテコソコソしながら、噂が消滅する七十五日目を待ってイルノですよ!」
「ええー!気にしないよそんな事ー!だって!今週は引っ越し荷解きの都合ですぐ帰るケド······」
「部活始まっちゃったら···あんまり一緒に、帰れないよ?」
磨瑠香は宇留の男心のポイントを衝くつもりで仕草や口調にこだわってみたが、宇留が丁度下駄箱から靴を取り出す瞬間だったので見事にスルーされてしまった。
「(くっ!)」
「ぅむぅ!それは由々しき事態!ウリュ!ツモル話!ツモル話させろ~!」
「ハハ···ヒメナ···う~ん、やっぱり考えすぎかな?、あっ!磨瑠香さん!靴替える間カバン持つよ?」
「(がっ!)!」
「「?」」
「おぉ···アリガト!······」
だが宇留のこの冗談は建前で、本当はもし良くない事が下校中に起こった場合、誰も巻き込みたくないというのが本音だと磨瑠香が気付くのは、家に帰ってからであった。
磨瑠香は靴を取り替え、宇留がハイと差し出したカバンを受け取った時だった。
「ごめん···俺、負けちゃった」
二人で一つのカバンを持ちながら、一瞬フリーズする宇留と、かつて勝手に宇留とした約束を思い出す磨瑠香。丁度そこへやって来た現は、昇降口の手前の角で止まり聞き耳を立て、宇留の言葉を聞いてニヤリとする。
磨瑠香はカバンを受け取りきる事が合図かのように切り出した。
まぁ、戦いで負けるんなら···そういう事じゃなくて···ーポツリ。
「え?」
「いや!何でもない何でもない!ん~、私も微妙~~、威張って帰ってきた割には、師匠ミッションも中途半端だったし!」
「照臣くん捕獲作戦はどうだったの?」
三人はゆっくりと昇降口を歩いて出る。玄関の外から脇に避けて、そのまま立ち話に移行した。
「なんかヤマイシクンパパと師匠の間でお話があったらしくて、それで終了···ナントモハヤナントモハヤ?······成る程!それで宇留くんちょっと元気無かったんだね?なんかヒメナちゃんは二日酔いっポイだし!」
「ヘベらぃ!フィックィー!」
「うぅ···昨夜に母の晩酌トークにちょっと付き合ったら、何も飲んでないのにこうなっちゃッたんだ」
「私はイテぃマンナンサ···あれ?れット···?」
磨瑠香は、服に隠れて見えないヒメナが居るであろう宇留の胸元に顔を寄せて話し掛ける。
「ウチも昨日おニィと伯父さんやけ酒だったよ!寝る前に二人で大爆笑して伯母さんに超怒られてたけど!」
「え!藍罠さんも都内に来てるの?」
「!」
その時、校門で警備員が突き飛ばされ、警備員の両足が逆ハの字に開いて転倒するのが見えた。警備員は、ズンズンとこちらへ向かって来る中年女性の後ろで腰を押さえて立ち上がれないでいた。
「あ!倉岸ママだ!」
「え!?」
「ェ、エヴィスッ!」
中年女性を名指しする磨瑠香、驚く宇留、妙なくしゃみをするヒメナ。ぶつぶつ文句を言いながら向かって来る中年女性は、宇留と磨瑠香の因縁のクラスメート、倉岸 騰の母親だった。
「······んだよぉ!なんで、とーとクンが部屋で嫌ナンモイしてんのに、どっちも戻ってキトンじゃお!······だいたい!······」
訳のわからない事を喚きながら宇留たちに近付く倉岸ママ。かつてクラス内での息子が起こしたトラブルを棚に上げ、難癖を付けて磨瑠香をも逆恨みして更なる問題を起こしていたモンスターペアレント。
だがしかし、睨むでもなく倉岸ママを見つめる宇留と磨瑠香、そして玄関の手前にわざと鬱陶しそう出てきた現、二日酔いで虎?になっているヒメナ。それなりに修羅場をくぐって来た少年少女達の無言の覇気が、倉岸ママを圧倒する。
ゴゴゴゴゴ······
「う!···な!ナニトンじゃ!······ぐ!」
倉岸ママは歩みを止める。
「はーい!そこまで!」
倉岸ママが更なるトラブル起こす前に、国防隊のSP達が現着した。
「ん?」
倉岸ママの前に出たSPは、チャラそうなアラフォー男と、付き添いの背の高い金髪美女。どちらも漆黒のサングラスを掛けている。宇留は違和感を感じた。
男の方が倉岸ママに、何かの紙を見せる。
「あの?このコ達はコレコレこういう訳でダメなんですよ~?倉岸さん?分かります?コレ?、テヘペロなんちゃら法であなたを連行します」
金髪美女が倉岸ママの腕を捻り上げて、引きずって行こうとする。他の警備員や先生も現れて手伝い始める。
「んな!離せよ!ーらー!ッジコ!ルゲモコ!あでだでィ」
「コチコイヨォー!!」
金髪美女は、尋常では無い腕力で倉岸ママをしょっぴいて行った。
「······」
宇留は服の上からロルトノクの琥珀を左手で押さえ、庇うように顔と右半身だけをトラブル先に向けていた。ヒメナを守るその真摯な姿勢に磨瑠香はグッと来る。
「······」
「ふう!大丈夫ですか?」
男のSPが宇留に声を掛ける。宇留がお礼を言おうとすると、磨瑠香が声を上げた。
「あーっ!その声は!ニセ記者だ!」
「うぐっ!」
「?」
「重合隊会議の時の盗撮男!おニィが編集長さんに聞いたら、京上さんなんて記者は居ないって言ってたですってよ?」
「え?ええ?ひ、人違いではありませんか?(スットボケ)私は、友植と申しまするのでありますござるのですが······だいたい会議の日も須舞くんの護衛で······」
「えー?会議の日は私タチでしたよ?」
「?」
宇留達が声の方を見ると、見覚えのある女性SP二人が歩いて来ていた。
「わー!わんちィさん!パニぃさん!」
それは宇留と磨瑠香が良く知る二人。コードネーム、パン屋ケ丘 わんちィと、駅弁ケ駅 パニぃ。護ノ森諸店から国防隊に出向しているエージェント達だった。
「がんすー!」
「つづく!」
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