神樹のアンバーニオン (2) 逆襲!神霧のガルンシュタエン!

芋多可 石行

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抗う記憶

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「パンチぃさん!わにィさん!」
 磨瑠香はいきなり二人の名前を間違えた。宇留と、わんちィ、パニぃの片膝がカクンと抜ける。
「逆!」
「なーんぼ♪したーってー♪ガンバレ!おお!読めィ!百文字目だ!(?)」

 二人···特にパニぃのツッコミは、宇留にはどうも情報量が多すぎたり分からなかったりで(スットボケ)混乱してしまった。そして磨瑠香がすぐに謝る。
「わー!ごめんなさい!わんちィさんとパニぃさんでした!」
「イーのイーの!同じようなモンだから」
「アンタはもうっ!初っぱなからイミフぶっ飛ばし過ぎだっつーの!···所で、さっきの話ですけど······?」
 わんちィは先の指摘にたじろぐ友植をジロリと睨む。
「!、エ、エホン!な!なんだね?せ、先日は···あ!そうだよ!予備配置に就いてたんだった!」
「本当にぃ?前も今日もそちらさん方の事、なんッにも聞いて無いッスよ?」
「うぐ!今日も今日トテ!···あ!今日は今後の警備計画について学園側と協議しに来た所だったんだッた!そーだった!ハハハ!それでは!後ァヨロシクーゥ!ハッハッハッハッ!」
 友植はそう告げると建物の物陰に向かってそそくさと歩いて行った。パニぃがそれをいぶかしむ。
「ぬ~ん、怪しい···」
「しかもあっち、職員室じゃ無いよ?」
 友植を警戒した磨瑠香はいつの間にか宇留の後ろに回り込んでいた。
 (ヒメナ!わんちィさん達だよ?)
 (くがか···くぅ··しゅやファ···ZZZ)
 (寝ちゃったかぁ···おやすみ···)
 気を取り直し、宇留は二人に話しかける。
「いやぁ!でもびっくりしましたよ!今日の警護、お二人だったんですね?」
「サプライズ」
「本当は今日で三回目だけどね?だって宇留くん全然車の中の私達に気付かないんだもん!」
「え!そうだったんですか!?くうっ!俺、修行が足りん!」
「ダイジョーブ!そっちの索敵能力と、私達の隠密能力が吊り合っただけだから(?)ダイジョーブ!」
「パニぃ?それ褒めてんの?」
「おにょ?」
 わんちィや宇留にはお馴染みの、パニぃが何か企んでいる時にするニンマリ目線が磨瑠香の手元に伸びる。
「?」
 磨瑠香は倉岸ママや友植に実は内心怯えていたのか、宇留の後ろに一歩引き、宇留の制服上着の裾脇をキュッと握ったままにしていた。
「あァ!ごめん!」
 恥ずかしそうに右手を腰の後ろに回して隠す磨瑠香。一方、宇留も頼られて嬉しかったのか、何気にまんざらでも無い表情になってしまいそうになる。
「!」「!」
 照れた表情同士で磨瑠香と目が合ってしまった宇留は、気マズさをごまかすかのように切り出す。
「あ···えっと、わんちィさん、パニぃさん、俺、もうちょっとしたら帰りますんで···」
「え?なんかしてくの?」
 ニンマリ目線はわんちィにも感染していた。
「用務員さんトコにちょっと約束が···草刈り機カッターの“アサリ割り„の事ちょっと教えて貰おうと思って···」
「へぇ!、勉強?」
「うーん、修···行···ですかね?」
「······ぬっ!」
 顎を指先でさすりながら天を仰ぐ宇留の後方、まだ玄関前に居た現は、修行という言葉を聞いて焦りの表情を浮かべる。
 その場に居る全員がアンバーニオンの技、涙光の閃ウキロウ オン ヒキエラム関連の為だと理解してしまった。
「!おぉー!修行!事情はわかったゼ!ちしも走って帰る!修行するっ!おし!···んじゃねー宇留くん皆さん!またあしたァ!」
 磨瑠香は、宇留達や現にまで目配せして振り返りながら手を振って走り出した。
「うーん!ごめん!また明日!」
「「ハイヨー!」」
 宇留達の挨拶を聞きながら磨瑠香は校門までこそダッシュで駆けて行ったが、そこから先は嬉しそうにスキップを踏み始めたのを、わんちィとパニぃは見逃さなかった。
「青春だにぇ~♪」

 倉岸ママの件で、近くで打ち合わせ中だった教師達が磨瑠香が帰ってしまった事に気付いて、警察に話しないとなのに···などと慌てていたが、宇留はとりあえず用務員室に向かおうとした。
「じゃーちょっと待ってるね?」
「はーーい!お願いします!」
「お!···俺も一緒に行くぞ!」
「!?」
 唐突に現に話しかけられ、一瞬固まる宇留。現がしまったと言うかのような表情をしていたので、宇留はパッと笑顔を現に向けた。
「うん!こっち!案内するよ?」
「?···!」
 現は自分自身が理解出来ないとでも言わんばかりの困惑の表情で、踵を返し目的地に進む宇留の後に続く。
 校舎の裏手にある用務員室と資機材倉庫に向かって角を曲がった時、唐突に現は何者かに声を掛けられた。
「少年!」
「!」
 玄関前から死角になった建物の壁に腕を組んでもたれ掛かった友植が、サングラスの奥で真っ直ぐに現を見つめていた。
 先程までの露骨なチャラさは消え、やけにハードボイルドな雰囲気を纏っている。
「?」

「見てたよ?君とアンバーニオンの海での戦い」
「!ーーーー」
「まーソー驚くな?中々良ぃ戦いだったよ?···で、何で人間に化けてまで彼に会いに来たのかは今は詮索しない。彼に余計な事さえしなければ···ね?」
「!············」

アラワルくーん!」
 五十メートル先で宇留が振り返り現を呼ぶ。友植に気付いた宇留は交互に二人を見た。友植は宇留に指先をヒラヒラさせて笑顔で合図し、再び何処かへと歩いて行ってしまった。「?······」どうやら今の会話は宇留には聞こえていなかったようだ。
 現は動揺を気取られまいと、平静を装い宇留の元へと向かう。

 (なんで俺の事がわかった?なんだ?あのニンゲン!)

 宇留は近付いてくる現を確認すると、再び歩き出した。



 


 
 その頃、
 重深隊。環巣 束瀬のオフィス。

 束瀬は先日の重合隊会議で、マーティアが話した会話の記録を調べていた。
 録音された会話内容は、マーティアと晶叉が重拳隊と重翼隊の若者メンバー達と自己紹介し合った時のものだが、個人情報保護の観点から、一応マーティア以外の隊員の音声は入っていない。束瀬は聴こえない他のメンバーのセリフを想像しながらパソコンを操る。
「ふぅ!······」
 束瀬は何を思ったか作業を中断し、極秘と書かれたファイルを二重パスワードで開き、記録映像を再生する。
 動画序盤のテロップによると、鬼磯目が三度目の改修を受ける前、言うなれば三度目の改修のきっかけとなった状況の記録映像、という事だった。


 高波が荒れうねる快晴の洋上。
 小破し、ヒビが入った揺れるだいしろの窓から撮影された映像には、海中から響く轟音と爆発の閃光が記録されていた。
 続いて写し出されたのは、海中から突き上がる甲冑かっちゅう魚のような頭部。アルオスゴロノ帝国の半魚人型水中ロボット、コードネーム·ディープトゥースの頭部。
 束瀬は動画をスロー再生に設定する。
 次に千切れたディープトゥースのその頭部を捕獲爪グラップルクローで挟み込んだ鬼磯目が艦首を垂直に立て海上に姿を現した。
 しかし様子がおかしい。水圧を利用することで可動する筈の捕獲爪は、何らかの力で任意に噛みつきを繰り返し、ディープトゥースの頭部を何度も咥え直している。
 艦首側面装甲の一部分には、吊り上がった目のような形の謎の赤熱化が確認でき、付着した海水が時折湯気となって蒸発しているのも確認出来た。
 やがて捕獲爪は何度目かの噛みつきの末に、ディープトゥース頭部の機能の確信を破壊。爆発した。

 グギャァァァァァァァァァァン!

 スロー再生で引き伸ばされた独特の轟音が響く。それは爆発音だったのか、ディープトゥースの断末魔だったのか、鬼磯目の咆哮だったのか······

 爆発したディープトゥースの破片がだいしろの窓ガラスにぶつかり、撮影者が驚きカメラを落とした所で映像は終わっていた。

 束瀬は終始、瞳にパソコンのディスプレイを照り返らせ、その映像を笑顔で追っていた。





 人気ひとけの無い鬼磯目のドッグ。
 波音に混じって、良く耳をすまさなければ聴こえない音量で、女性のすすり泣く声がかすかに聞こえている。
 それは鬼磯目からこぼれる涙が落ちぜるような囁き声······



 ·クスッ!ヒック!······みんな···ゴライゴ様···ゲルナイド!···戦争なんて···みんながウッ···みんなが心配···私は···私はどうしたらいいの?···クスンッ······










 
 
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