神樹のアンバーニオン (2) 逆襲!神霧のガルンシュタエン!

芋多可 石行

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階 調

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「待てハッ部活に乗ハッ込んでバチっハッ?早くねハッ
「参っちゃハッますよね?ハハハ···ハッ
師匠せんせいハッコぁ、相変わらずハッ成栽培だからハッぁ······!」

 I県、巻沢市。
 国防隊駐屯地。
 グラウンド。重拳隊揃ってのランニング中。
 藍罠と椎山は並走しながら次々と他の隊員を追い抜いて行く。既に何周か差がついているようで、追い抜かれた隊員はその度にヘバりそうな表情を浮かべる。
 重拳隊ランニングにおいて、無駄話は一周回って殿しんがりを追い越した者から順次解禁されていくルールがある。
 二人の話題は妹(分)である磨瑠香の道場破りの件だった。
「俺ハッ移動予定イドスケハッったんで、朝にT都立っハッて、巻沢こっち着いたよっハッて、夕方に連絡したら、ハッ!宇留連れて来て会わせたかっハッたって、ハッ!言うもんだから、ハッ···」
 回想。
「宇留と一緒に帰るとか“今は!„ダメだぞ?俺も出来るんなら一回顔出したかったけどな?あいつァ今狙われたりでデリケートなんだ?もし一緒に居てお前になんかあったら宇留だって困っちまう!」
 
「···って言ったらハッあいつ涙声だったんで、ヤベっハッて思ったんスけど、そうだったんだ!ちゃんハッと、ハッ!考えててくれてたんだーってハッ嬉し泣きハッ
「キューン♪セースンだにぇ~♪、ゲホん!」
 前方を走る藍罠と椎山から聞こえてくる、野郎同士の甘酸っぱそうな恋バナ“らしき„会話にドン引きした他の隊員達が減速し二人と距離を空けていた時だった。
「おーい!休憩だ!息きのルビフリが大変だそうだ!」
「?」
 茂坂が休憩の号令を出したが、全員言葉の最後の方の意味が分からなかった。

藍罠アイさんの初恋っていつ位でしたか?」
 グラウンド脇に隊員全員でドへッと座り込み、ペットボトルや水筒を傍らに置いて少しだけ雑談で気を抜いていると、重拳のバックアップ車班所属、まかない板長こと西和 記望きぼうが話をふっくらと蒸し返した。
「···裏でコソコソあんまり込み入った話すんのもなぁ···それでな?特定の方に対して、あんまり陰口ネタバレマンだと!···ひっぱたかれるだああ!」
「うわああ!」
 藍罠は顔をグワッとさせながら西和の両肩を掴んで驚かせた。隊員達の間に笑いが起きる。
「ひぃ!」
「ぞぉぉ!」
「なんかあったんだな?」
 最後に椎山が何かを語り始める。
「みんな?誰の事とは言わないが、こんな話があってな?」


 え!もうそんなにっちゃったの?!と、言うくらいのちょっとムカシ···
県北のとあるキャンプ場に家族と共にやって来たある少年がいました。わかった!その少年があいちゃんだな?シッ!ちょっと待って?···少年はカブトムシを探すのに夢中になるあまり、森の奥深くまで迷い込んでしまいました。ほう!······少年が道に迷い途方に暮れていると、正面から歩いて来たキレイなお姉さんに、どうしたのん?と声を掛けられました。
おお!······お姉さんは、キャンプ場まで連れて行ってあげると、少年と手を繋ぎ歩き始めました。うおお!

 椎山の話の最中、シチュエーションにツボった隊員達に、見えない得点ポイントプラカードを上げる仕草が一人、また一人と蔓延し始める。

 ところがドッコイ!そのお姉さんも道に迷ってしまいました。スッ···(?ポイント)···少年はお姉さんが普通の時も、困った顔も、そし!そして!···何より!···エヘヘへへ···!、なんだよ?!どうしたの?、あ!ちょ···あの?ポテトが貰ったおみくじにお色気禁止って書いてあったんでよしましょうか?···!はい!すいませんでした!ポテトって誰だ?スッ···(?ポイント)···少年はお姉さんが普通の時も、困った顔もちょっとかわいいと思ったので、なんか帰りたく無くなっていました。でもそんな時間は長く続きません。お姉さんは、本当はもう落ち込んでなんかいない少年を頑張って励ましてくれながら、キャンプ場の見える所まで案内してくれました。スッ···(?ポイント?ポイント)···お姉さんは少年の後ろで言いました。

 振り向いたらダメだぞーん?頑張ってん?

 と、言って少年を家族が待つキャンプ場に送り出しました。  イテっ!


「!」
 藍罠はハッとした。
 この話はかつて藍罠が椎山に打ち明けた話を、椎山が脚色してこの休憩時間に転載したものだ。
 改めて自分以外の口からその話を聞いてみた藍罠の脳裏に、元気に話す知り合いの女性の口元がフラッシュバックする。
(まさかな?···十何年も経ってるのに···同じ人って事ぁ無いよな?)

「ぬぅ!まだピュアな少年のハートにそんな幻想残して行くとか罪ッですわァ!」
「隊長!ドキドキしませんでしたか?」
「······」
 隊員達に感想を聞かれた茂坂は、美味いコーヒーの余韻を噛み締めるような雰囲気でしみじみと告げた。
「お前ら···ッ全員二十周追加だ!」
「「「えええええ!」」」
「ちょ!椎さん!椎さんのせいですよ!隊長になんとか言ってやってくださ···?」
 藍罠が詰め寄った椎山の飲んでいた水のペットボトルがブトンと倒れ、中身がコプトプと地面にこぼれる。
「椎さん?」
 椎山は片膝が横に崩れた体育座りのままうなだれ、両手の力も抜けて目を閉じ反応が無い。体は僅かに揺れているので呼吸はしているようだ。
「椎さん?椎さん?本気まじですか?」
「椎山!」
 藍罠はペットボトルを立て直し、茂坂と共に椎山の肩を揺さぶる。立ち上がり心配する隊員達の合間から、西和が電話をかけながら訓練棟に駆け込んで行った。
 


 
 
 駐屯地、男子浴室、脱衣所。
 黒い肌着を上下二枚だけ羽織った風呂上がりの藍罠が、横に三列並んだ中央の洗面台の鏡の曇りを手でキュッと拭き取り、鏡面に現れたもう一人の自分を睨んだ。
「······」
 明らかにバランスの悪い鍛え方をしている藍罠の右腕。左右非対称とまではいかないものの、常に重拳隊の看板を携えているかのような強靭に絞られた右腕が、ギシッと縁を掴んだ洗面台をきしませる。
 メンズケア用品の悪くない香りのする、藍罠以外人気ひとけの無い脱衣所に、弱風で回る扇風機の音だけが響いていた。

 帰り支度のままで医務課棟にやって来た藍罠は、廊下の窓から差し込む夕日を浴びて立つ茂坂の姿に気付く。
「隊長?······椎さんは···?」
「大丈夫だ。すぐに目を覚ましただろう?だがな···」
「?」
「精密検査が明後日に決まった···」
「!」
「まぁ···よくある事だ。考えておいてくれ?お前も早く帰って休め?」
 茂坂は寂しそうに藍罠に缶コーヒーを一本渡して歩いていった。買ったばかりなのか、まだキンキンに冷えていた。
「······お疲れ様···でした···」
 藍罠はそのまま立ち尽くす。そして椎山は廊下の物陰に隠れて二人の会話を偶然耳にしてしまっていた。
 (うわあ?これドラマとかでよくあるヤツ!、宣告か?宣告なのか?······俺、重拳を降ろされる?)
「······イヤになったら、いつでも委ねてくれよ?」
「?!」
 廊下の灯りが届かない影に誰かが居て、大きな声で椎山に話しかけてきた。声の音量は余裕で藍罠の立つ辺りまで聞こえそうではあったが、しまったと思う椎山とは裏腹に、何事もなかったようにその場を去って行く藍罠。
「?」
「フッフッフッ···」
 影に居る人物は、足首周りだけを覗かせ何処かに歩いて行く。椎山は影を追ったが、その先に誰かが歩いて行けるスペースは無かった。
「ヤベー!幻覚の上に幻聴······俺もシオドキか······ぁーあ······」
 


 自宅の部屋に戻った藍罠は、早速タブレットPCを起動させ、自室に戻る前に空き缶を台所のシンクですすいでゴミ箱に捨てた。
 藍罠は着替えながらタブレットPCに語り掛ける。
「なぁ!よくある事だってよ?どーしよ?」

 キュイーーーーー!

 悩む藍罠の耳に、どこからか耳鳴りが着信した。








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