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しおりを挟む夜は更け始めていたが、本土、北西方向に向かって進んでいるせいか、夕日はいつまでも前方の視界に入っていた。
アンバーニオンは、宇留のスマホに届いた国防隊からのメールに添付されていた鬼磯目のドッグ、重深隊基地の住所を元にマップのナビを利用し、海上をホバリング走行して鬼磯目を運んでいた。
「うーん、カーナビ使うとこんな感じかぁ」
宇留がそんな事を言っていると、鬼磯目が僅かにゴッと動いた。
「あ!気がついたみたい。大丈夫かな?」
ヒメナのその心配に、思いがけない返事が返ってくる。
あ、ありがとう···サニアン ワン。
「こ、このコ!想文まで使えるの!?」
私の名前は···マーティア、この潜水艦のオペレーションAIです!本当に助かりました。アンバーニオンの琥珀が無かったら、真っ二つになっていました。
(女の子の想文だ!)
(宝甲の事?あなたどこまで宝甲の力を?)
ヒメナ達は想文に切り替える。
宝甲?って言うんですね?でもこの構成は私本人の意図した計画では無いと理解してほしい。
(それは理解出来る···)
返事をしてすぐにヒメナは宇留に告げた。
「ウリュ!これ!絆創膏にした琥珀柱を経由して変換した想文、でもこれは···?、今しか···出来ないかも!」
「うん!無理させないようにお話しよう!」
「ええ!」
(~むぅ?これは···似てる···巨獣の使う想文に···~)
マーティアは少し躊躇するように言葉を詰まらせ、宇留達に告げた。
あの!私、あまり強く考えると記録されちゃうので!出来れば、秘密で聞いて欲しい事が·····
(?、なぁに?)
私にはAIになる前、前世?とでも言いましょうか?その記憶が戻っています。
((!))
私の以前の名はコティアーシュ、準帝の一族、アルオスゴロノ帝国の女巨獣···でした。
「えええ!」
ですが現在は、重深隊所属の兵器運用AIとしての存在意義と、システムに裏打ちされただけでは無い人々との仲間意識も同時に持っています。私の維持生存には人の存在が不可欠であり、人間側の兵器として活動する為の、それに対する等価交換を自己了承しています。
(どうしてそんな話を私達に?)
一つはこのデータの少ない宝甲の運用方法参考の為のコラボを希望する事。
もう一つは、気になってしまったから、かな?
この絆創膏を通して感じる事は···何かの
“縁„のようなものを······
「縁?···!······」
ヒメナは、琥珀柱にくるまれた鬼磯目が、擬似的なロルトノクの琥珀のような状態になっているのでは?と推測した。同時に宇留とヒメナは、マーティアの事を良い意味でAIらしくないと感じた。
彼女の説明は彼らにとっても、何故か不思議と縁のようなものを意識出来たからであった。
この話は人に打ち明けても、私の希望通りにして頂いても構いません。この体になっても私はかのゴライゴ様の弟子!覚悟を持って正々堂々としております。
(秘密は可能な限り守るわ、かくいう私も似たような事にしててね?)
そうだったんですか!それでしたらもしあなた達が黙っていて問題になったのなら、この私への宝甲の無断使用のお話を出されては?私もなんですが本当の所、そちらもあまりいい気分ではないのでしょう?
(それも···まぁ···中々お考えが深いようで?じゃあ、協力するわ!コティアーシュ!)
ありがとう!えっと?
(ヒメナ···)
ありがとうございます、ヒメナ!ヒメナの事も秘密にするね?あと、オペレーターの須舞 宇留さん!
(わぁ!俺の事知ってんだ!?よ、よろしく···!)
ヒメナの見た目は、小さくて宇留と同世代っぽくありながら、たまに妙な大人力を見せる。そこにギャップ萌え的な頼りがいを感じつつ、宇留は自分でもこんな会話が出来たらなぁ?と目標が出来た。
そうこうしている間にアンバーニオンは、夜のK県湾岸に入る。そこは港街の明かり、サーチライト、誘導ヘリのライトなどで眩しい位だった。そして琥珀色に巨体を灯すアンバーニオンも、一風変わった美女をエスコートして夜景の一部に溶け込んで行く。
(こてっちゃんサンってゴライゴさんの弟子だったんだね?世の中狭いね?)
ウフフ!こてっちゃんサン、おっちゃんって···アハハ!あ!スマイさん!普通のメルアドで良いので教えておいて頂きますか?
(うん!いいよ!想文で送るね?)
宇留は改めて普通の女の子と話してるようだなと思った。
基地に近付いたアンバーニオンは、浅瀬前でホバリングを停止し、ゆっくりと、朝香透基地の前の海をザバザバとゆっくり歩いて進む。
巨大なクレーン車が二台配置に着く基地前の広場と、巨大な作業船が浮かぶ船着き場には、既に鬼磯目用の緊急仮設収容ドッグが用意されている。
宇留がスマホを確認すると、画面が少しバグっていた。
「あれ?なんだこれ?」
一方、S県の沿岸部にあるパーキングエリア。そこに停められた高級キャンピングカー。
「やべっ!」
機器が並ぶキャンピングカーの中で、友植がタブレットPCのバックボタンを連打してホームに戻し、何かを終了させた。
「ふぅ!なるほどネェ?······」
「あ!治った!」
宇留は、メルアドの想文をマーティアに送りながら、誘導通りに船尾側を海に浮かべ、鬼磯目の船首側を一度飛び石に並んだクッションの上に仮置きする。
[良いですか?剥がしますよ?]
「お願いしまァァーーす!」
科学消防車などの作業車両数台や数十人の防護服スタッフが遠目に見守る中、アンバーニオンは琥珀の絆創膏を剥がす旨を伝えた。
本当に、ありがとうございました。また会いましょう!····
(うん!お大事に!またね?···じゃあ剥がすよ?)
マーティアの仲間達の長い夜が始まった。
地球のどこか、深海。
綺麗に堆積した白砂の積もった巨大なクレーター。その真下からは光源不明の青い光が白砂を透かして直上をボンヤリと照らし、その上でくつろぐ超巨大怪獣、アルオスゴロノ帝国準帝、巨獣長ゴライゴがビィブァと対面していた。
クロエドゥマを降りたビィブァは、側頭部から伸びた二本のかわいい腕をヒラヒラさせた巨大なヌタウナギのような姿をしている。ビィブァは自身の前にクロエドゥマの残ったローターブレードを置き、完全に萎縮してカタカタと震えていた。
(間違いない!墓所にあの娘の遺骸は無かった。お主の見た潜水艦、それにこの武器に残った雰囲気、安寧を人間に奪われ、武具にされるとは······)
ゴライゴの口調は静かだったがビィブァは途方も無い怒りをゴライゴから感じた。まるで海水ごと自身の保護粘膜を渇き切らせる程と思わせる怒りの炎を······
(ビィブァよ!臆するでなィ!お主は何も知らんかったのだ!お主は悪くないわ!だがよく教えてくれたのぅ!)
ぉ!ォロー!······
ゴライゴの労りに、ビィブァの小さい目の周囲の海水が蜃気楼のように揺らぐ。
(それでも自分が許せんか···イイヤツじゃの?。······人に化けておるゲルナイドからもコティアーシュの声を聞いたと伝え聞いた!もしかしたら·····いや!ビィブァ、その潜水艦はどんな姿だった?)
ビィブァは想文で鬼磯目の特徴を伝える。海蛇のように長くくねり、虫のような殻と節と牙を持つ潜水艦、そして······
(オレンジ色のキラキラ?とな?)
ビィブァはゴライゴの目を見て頷く。
(ムッ!ムハハハハハ!)
!!
(さすがアンバーニオン!スマイウル!琥珀の姫よ!敵に!仲間に!力を喰われ!なお、その上で突き抜けようとする気概!まさに王の器よ!益々気に入ったわい!)
?
(心配するなビィブァ、この件取り暴き、必ずやコティアーシュに永遠を取り戻そうぞ!)
!
ビィブァは手で涙を拭い、信頼の眼差しをゴライゴに向けた。
関東地方某所。
とある民俗学系の博物館。
重深隊とクロエドゥマの戦闘の影響で、今日は客足が少ないナイトミュージアム。
琥珀で作られた仁王像を眺める老人メイクで変装したエシュタガは、後ろから近付いて来た女性に気付いて振り返った。
アルオスゴロノ帝国研究員のクイスランは、前に向き直るエシュタガの横に立って呟いた。
「目覚められたわ······」
「そうか······」
「もう少し万全には少しかかるケド···ガルンシュタエンの事にもアドバイスを頂けるそうよ?」
「戻ってご挨拶を···」
「私とあなた、三連休、頂いたわ!ゲルナイドの様子もそろそろ気になるし···」
「そう···か、ハグスファンは?」
「せっかく再会した相棒にプンプンよ?“今回は„あのお巡りさん」
「······」
「じゃあね?!いい嵐を期待して···」
立ち去るクイスランが、対人センサーの前を横切ったギミック展示。
その中で女性の能面がカシャッと鬼面に変形した。
エシュタガはその変形が戻るまで、能面を横目で睨んでいた。
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