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声 (1)
しおりを挟むT都内。
高級カーディーラーとブランドアウトドアショップに挟まれた小さなとある交通安全の神社。
その御神体の奥に隠された鉄鉱石に宿る、電想空間にある精霊用ホテル(ペット可)の一室。
シルバーの丸穴パターンがプリントされた壁や、ハニカム構造風のパーティション、油光鉄板風ペイントなどの、まるでメカの内部のような奇抜なデザインの部屋でくつろぐ丘越 折子は、誰かからの手紙を読んでいた。
「ふにゅー!サッパリ!」
風呂上がりのアッカがオレンジブラウンの毛並みをフォッサファッサと揺らしながら大浴場から戻って来た。
「ここは付喪神のドライヤードローンさんが居るから最高だぜ!」
どうやらアッカは自分の意思で宙を舞いうドライヤーに、全身ブローをしてもらったらしい。
「んの?誰からだ?」
アッカは折子の読んでいる手紙を覗き込む。
「えらい達筆だナ!?あのジーさんからか?」
折子はアッカの尾の付け根付近を軽く叩き、腰ポンする。「ンヲ~」アッカは目を細め、おちょぼ口になって一瞬悶える。
「ええ、この間のおみやげのお礼とゼレクトロンの洞窟の事」
「ん?ナんか動きがあったんかナ?」
「洞窟内の温度が少し上がったって···少しずつ動いてる?のかも···」
「そうか······ん?ナレ?」
「どうしたの?」
「あすこはあのジーさん一人だったよナ?この手紙とあの有毒ガスの看板の筆跡、違くね?猫の俺でも分かるぞ?」
「!、そうね······!?」
「ん~、考えてても仕方ナい!メシ行って来る!」
「うん、たくさんでどうぞ?」
「ナァ、いっぱい食って力付けんと······」
「?」
「セツコさん····」
部屋の入り口に立ったままでアッカは少し沈黙する。
「今度は···俺が行く···」
やけにシリアスに、アッカは振り返り折子に告げた。
「ぅふふふ···!」
「ブニャ!笑うトコじゃニャイでしょ!」
「フフ···ごめんなさい!そうね?宇留達にも悪い事しちゃったし···ちょっと顔出してこようかしら?」
「マジで?」
折子はしばらく手紙を見つめて考えていた。
五月。
初夏の陽気が降り注ぐ衣懐学園では、衣替えフリー期間に入り、生徒達は夏制服と冬制服の割合が半々になっていた。
「みんなー、転校生の山石 照臣くんだ!よろしくな!」
「山石デスー!よろしくお願いしまーーす!」
「「あああ!」」
アルキ先生の紹介で黒板の前に立った手からビーム疑惑のI県からの転校生、山石 照臣は無難な挨拶をクラスメート達と交わした。
「ひ、ヒィィ!」
彼の事を知っている宇留と磨瑠香は驚きの声を上げ、そんなあらぬ三人の関係性を想像したマユミコ委員長は呼吸をひきつらせる。
「ぃえい!」
宇留と磨瑠香にダブルピースで答えた照臣は、ふと現と視線が重なる。
「!」
現は、友植と似たような感の良い視線を照臣に向けられた気がしたので、目を逸らしてしまった。
休憩時間。
「ナニヲシニキタノ?!」
「なーにをしにって?、転校!(すぐ戻るケドね?)」
磨瑠香に訝しまれた照臣は彼女のプレッシャーに押され、前後に揺れながら答えた。
「宇留くん久しぶり!元気そうで良かったよ!」
「う、うん···よろしくね?」
「あ!ちょっと来て?」
「?」
照臣は立ち上がり、
来たばかりにも関わらず、
まるで勝手知ったる自分の学校かのように、
宇留をどこかに案内し始めた。
一度勝手に一緒に付いて来た磨瑠香に 君は呼んでないよ という意味で目配せしたが、それは磨瑠香に伝わる事は無かった。
宇留達が照臣の後を付いて行った先には、廊下の窓を開けてサッシに両肘を置き、窓から吹き込む春風に長いストレートヘアをなびかせる女子生徒が居た。
「!」
「じゃあ宇留くん、まーたあーとで!?」
照臣は女子生徒の後ろを通り過ぎる。
「!、ありがとう!」
照臣に気付き、礼を述べながら振り返る女子生徒。
「丘越さん!」
「お姉さん!」
顔は多少中学生のようにあどけなくなっていたが、宇留と磨瑠香はすぐに共通の知人である折子だと気が付いた。
そこへ通り過がった眼鏡に小太りの男子生徒が、折子の笑顔にノックアウトされ、引き千切れんばかりに鳩尾を押さえながら廊下を通り抜けて行く。
バッギュウウウウウウウウンンン!
男子生徒の手と鳩尾に間にブラックホールのような現象が出現し、彼の慟哭は歪みに歪みまくった。
「?」
「磨瑠香ちゃん!」
「お姉さん!」
折子は磨瑠香に躊躇いなくハグをした。
磨瑠香は嬉しいやら、美少女オーラがすごいやら、まるで母親のような包容力やらに包まれ腰の骨がゆるむ感覚に陥る。
そこへ通り過がったやたら瞳孔の小さい怖そうな生徒が、ダブル美少女の尊い光景を目にし、両手で口を押さえて涙ぐみながら廊下を通り抜けて行く。
バッギュウウウウウウウウンンン!
「?」
「宇留も磨瑠香ちゃんも元気そうで良かった!」
折子は磨瑠香の懐から離れつつ言った。
「丘越さんこそ!すごい!こんな事も出来るなんて!」
「お姫様は?」
「それが、服の中だと日光浴あまり出来ないから省エネで寝たり起きたりで···」
「ミぃウ···私は!おつぅ、かれさまれぃしゅ」
「あぁ!いいわよ寝てて!また今度ゆっくり···フフ!」
そこへ通り過がった恐らく付き合っているであろうカップルの男子生徒の方が折子に視線を釘付けにしたままでいたせいで、隣の女子生徒に耳たぶをつねられながらタイタイタイタイタイタイ!と悶絶しながら廊下を通り抜けて行く。この二人は折子のご利益で将来結婚する事になるのだが、それはまた別の話。
バッギュウウウウウウウウンンン!
「?」
「宇留、彼らの事はごめんなさい、私が情けをかけ過ぎてしまったせいでガルンシュタエンが···」
「ダイジョブです!どんとコイですよ!むしろ丘越さんの優しさ無駄にしたアイツらは許せんッス!絶対ギャフンといつか言わせます!」
「?」
磨瑠香がイマイチ話が読めないという顔をしていたので、宇留は剣を天空に掲げるポーズをとり、折子はガッツポーズを天に突き上げる。かつて自分達の戦いを見守ってくれていた磨瑠香のガッツポーズに感謝を込めて···
「ああ···」
磨瑠香の脳裏に、かつて目撃した琥珀の慈龍剣士、アンバーニオン(ナックル) バジーク アライズの勇姿が浮かぶ。直感で察した磨瑠香は片手で口元を押さえ涙ぐむ。
「今度はちゃんと近くにいるからね?今度も頑張りましょう!」
「はい!······?!···」
折子の言葉は頼もしかったが、宇留には折子が少し疲れているような印象が見て取れた。やがて戻って来た照臣と入れ替わるように彼の後ろに隠れて行く折子。
照臣の背後で、バイバイと手を振りながら、物憂げな微笑みで姿を消した折子に切なイイを発見した宇留は、思わずドキッとしてしまった。
「はい!今度はこれ!」
「?」
照臣はレシートのような紙に印刷されたQRコードを宇留に見せる。
「はい!10、9、8······」
「わ!ちょマッって!」
宇留はスマホでQRコードを読み込む。やがてカウントが0になった紙は、一瞬で青緑色の炎を上げて燃え尽きた。
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