神樹のアンバーニオン (2) 逆襲!神霧のガルンシュタエン!

芋多可 石行

文字の大きさ
29 / 52

跋 扈

しおりを挟む

 休憩やすみ時間の図書室。
 照明も付けずに刷依と現は、二人だけで向かい合って六人掛けの長机に座っていた。
「土地神が近くに居るわね?気配がする」
「!」
 月井度 刷依、本名クイスランは伏せ目がちだった視線を周囲に向け僅かに微笑んだ。
「まだトラップデコイも少ないから早く来て正解だったわ」
 その時、図書室までやって来た女子生徒が居たのだが、カギが掛かっていたので諦めて教室に戻って行った。扉の窓からは二人の姿は見えず、カギは開いていたのだが······
「あなたの“体„の方は順調よ?そっちは?」
「···国防隊はスマイウルに異能力者の隊員を差し向けている可能性がある。他にも琥珀の姫に引かれて変なのが集まってるみたいだ。思ったより隙が無い、ごめんクイスラン」
「まぁいいわ。あのね?ゲルナイド?、今回の大収集作戦の前にアンバーニオンの彼を学校ここに釘付けにしようと思うの?。ガルンシュタエン·ユニットの発進前にちょっと手伝って貰える?」
「!······」
 クイスランは目の前に開いて置かれたビジュアル鉱物図鑑の琥珀のページを閉じて、元あった本棚の下段に図鑑を戻しながらゲルナイドに告げた。





 宇留は外に出て、校舎の裏手に回った。
 角を曲がる際には、ゆっくりと死角の様子を見ながら進んで行く。
 ついに体育館の裏手にまで来てしまった宇留の頭上。曇った空から雨が降る前の冷たい風が吹き降りた時だった。
「······ぉ!」
 よぉ、とも、やぁ、ともとれる曖昧で小さな声に、宇留は振り返った。
 倉岸が居た。
 明らかに勉強しに登校したのでは無い私服姿。白いパーカーの黒いフード紐がだらしなくプラプラしていた。そして霞んだ黒目が伸びた前髪の黒と地続きになって、歪んだ口元と共に宇留をニヤニヤと眺めている。以前とは明らかに別人のようだった。
「倉岸···こんなトコで何やってんだよ?どうせなら教室来いよ?」
「行くわけナイダロ?あ!母親連れてってくれてスマンな?お蔭で動きやすい!」
「な?!何を!?わざわざ連れてって貰いたかった訳じゃ無い!変な事ばっかりするからだろ!」
「ィィねぇ!またノってくれて助かるよ?」
「!?」
 ···話が通じない?宇留は出来れば怯みたく無かった。同級生同士の話だったらどうにかなると油断していた。目前の倉岸から感じるのは大人の余裕。
エシュタガのような、覚悟を持って我を通す意外な突破力だった。
「なにやってんだ?」
「「!」」
 体育館の角にいきなり立っていた大柄な少年が二人に声を掛けた。
「くっ!」
 突然余裕が崩れた倉岸が苦虫を噛み潰したような表情で宇留の脇を抜け去って行く。倒されそうになり、敗走していくファンタジーアニメのザコモンスターのような表情だった。
「おぃ!倉岸っ!!」
 呼び止める宇留の背後に少年が近寄る。振り向いた宇留は、いかにも喧嘩の強そうな少年の印象を先輩の番長?と思ってしまった。宇留は居るかどうかも分からない学園の番長?に会った事は多分無いのだが···
「······」
 少年は、倉岸の後ろ姿が見えなくなるまで向けていたジロッとした視線を宇留に向けた。
「!」
 宇留は久しぶりに、こういう時イケメンだと決まるなぁと思った。
「···お前、スマイ···二年の須舞だろ?」
「は、はい···」
「俺、オマエんのスーパーのお惣菜好きなんだ。この前タントのおばちゃんが出来立てだよって出してくれてさ、キナリでテンパって何にもイエネかったからさ、れ、礼言っといてくれねーか?」
 威圧感のある少年の口調だけから、徐々に角が取れて行く。
「あ!はい!いつもありがとうございます!」
「よ!よせって!こまで······んじゃ、気をツケロよ?」
 少年は少し恥ずかしそうに倉岸の去った方向に向かって歩き始める。
「ヴァエト?」
「!」
 唐突にヒメナが声を上げた。
「え?ヒメ···ナ?」
「···」
 少年は一瞬立ち止まったがまたすぐに歩き始め、体育館の角を曲がって姿を消した。今日日きょうびの少年がこんなに哀愁を背負えるのか?という余韻を背中に乗せて······
「ヴァ···エト?ヒメナ!知ってるヒトなの?」
「声が似てたから···ウリュ?西の琥珀の泉に眠るゼレクトロン、その操珀パイロットだった·  ·  ·ヒトに···」
「ゼレ···クトロン?の人?」
 そういえば名前を呼ぶのは初めてだと思った宇留は、かつての琥珀の戦士の心意気のようなものを感じていた。
 
 大変な所、様子を見に来てくれたんですね?ありがとうございます先輩!混岡まぜおかさんには俺からよろしく言っておきます!


 休憩時間終了のチャイムが響く中、わんちィとパニぃは、体育館の角の前に駆け付けながらも、宇留の側まで近寄れずに居た。
 二人共に普段とは違う普通のヒロインのような慎ましい表情で体育館の外壁にもたれ掛かっている。
「ねぇ?わんちィ?」
「わかってる···今のが、バカ兄貴の訳が無いんだ······」
 わんちィは曇天どんてんを見上げる。


「ねぇ?パニぃ、どうして私達、帝国の戦士でも無いのに前世まえの記憶があるんだろうね?」




 下校時。
 十三人程が残る二年B組。
「あぁ~雨が降りソォー♪」
 歌のような独り言を言う菖蒲摘しょうぶつみ イサヤは連絡メモをまとめ終え、教室を出ようとしていた。
「······どうしようかな?」
 宇留が倉岸の事を磨瑠香に伝えようか迷っているとイサヤの声が響いた。
「あれ?扉の音がいつもと違う?」
「?」
 残っていた全員が教室の扉を開け閉めするイサヤに注目していた。そして何度目かの開閉の段階で廊下と窓の外がブラックアウトした。
「!」
「なに?」「キャー!」
 照明が光る教室だけが暗闇に放り込まれたようだった。パニックになりかける教室、停電?ゲリラ豪雨?など生徒達が騒いでいると、どっちもかも?という現の言葉が聞こえた。
 よく見ると廊下は闇に沈んだのでは無く暗いだけで、スマホのライトで照らすといつもの廊下がそこにあった。だがそれだけではクラスメート達の不安は消えなかった。

    ベレレレ···

「!」
 磨瑠香があえて宇留の近くに行くのを我慢していると、廊下の奥から聞き覚えのある声を聞いたような気がしてフリーズしてしまった。

 (ウリュ!大変!)
 (どうしたの!ヒメナ!)
 (敵のトラップ空間に放り込まれたかも?)
 (え!)
 (バジークアライズが居るのにこんな事が出来るなんて、相当な使い手か、仕込みか、そのどちらもか?···)
 (いつもの俺達の世界じゃ無いって事ね?みんなを守らないと!)
 (ここは多分···デリューワールド!想文で編み込まれた疑似空間!···あ!折子バジークアライズも来てくれたから証拠を見せるね?)
 (え!?ヒメナ?!)

 暗い廊下を誰かが小走りする音が聞こえ、教室の前後の扉から一人ずつ、夏制服を着た美少女二人が教室内に駆け込んで来て扉を閉めた。
「え!なになに?!誰?」
 少女達は黒板の前に立ち、控えめに腰に手を当て軽くポーズを取る。
「「ぁ······!」」
 二人を見た宇留と磨瑠香は開いた口が塞がらなかった。
「皆さん!今から私たちの指示に従って貰います!」
 とロングヘアーの女子生徒。
ボク達は、教師候補生クラスからやって来た特別生!」
 と小柄な女子生徒。
「丘越 折子です!」
空気乃くうきの 姫菜ヒメナです!」

「教師候補生!なんかカッケェー!」
 宇留と磨瑠香を除き、残った生徒達からは喝采かっさいが上がった。











しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

悲報 スライムに転生するつもりがゴブリンに転生しました

ぽこぺん
ファンタジー
転生の間で人間以外の種族も選べることに気付いた主人公 某人気小説のようにスライムに転生して無双しようとするも手違いでゴブリンに転生 さらにスキルボーナスで身に着けた聖魔法は魔物の体には相性が悪くダメージが入ることが判明 これは不遇な生い立ちにめげず強く前向き生きる一匹のゴブリンの物語 (基本的に戦闘はありません、誰かが不幸になることもありません)

処理中です...