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唸る声
しおりを挟むT都湾上に吹き降りて来たモーニンググローリーは、海水の上で爆煙が弾けるように広がり、霧を辺り一帯一面に敷き詰め撒き散らした。
その霧に包まれた氷結島は、平均直径ニキロメートルを目前にしてその成長を止め、一度沈黙する。
相変わらず立ったままで背負ったレンズを都内の方向に向けているエギデガイジュ。コックピットの内部でアンバーニオンの気配を察したリキュストがポツリと呟く。
「む!、来たか?アンバーニオン。お前も早く来い小僧···!」
(······交代だ、リキュスト)
リキュストの鼓膜にエシュタガの声が響く。リキュストは歯噛むような表情で右肩を僅かに縮こめた。
「へぇよ!」
ズドォォォ!
エギデガイジュは、背負っていたレンズを地面に立てて置く。そうなってもレンズの面は都内を向いたままだった。
一段と濃い霧が流れて来てエギデガイジュの周囲を包みはじめると、霧のベールはそのままその機体を覆い隠していった。
比較的湾内よりは霧がまばらに立ち込めるT都の空港。航空機の離発着は制限され、待避する人々と、駆け付ける国防隊が互いにすれ違い合っていた。
···ズン···ズ···グズン···ゴ···
滑走路先端の作業道路で、氷結島の監視準備を行っていた国防隊の隊員達は、一瞬地面を揺らした地鳴りのような音に反応して作業の手を止める。
···ズグン···ドズグン··ドズグン·ドズグン!······
「なんだ?!」
「足音?」
隊員達が注目する音源の方向。霧が切れた暗がりの空間から、滑走路を照らす照明に浮かび上がったアンバーニオン ソイガターがその姿を現し、肉食獣のように四つん這いで滑走路脇の土地を疾走してきた。
「!、うわああ!」
[!、······っかれさまでーーす!]
隊員達に気付いた宇留。アンバーニオン ソイガターは隊員達に声を掛けるや否や、滑走路の先端から猫のように数百メートルジャンプして海へと飛び込んだ。
ドゥシャアアアアッ!!
「あ···あ···アンバーニオンか?今の?」
「本部!王子様出陣!海へ入っ···」
ヴゴッッ!
その小隊は遅れてやってきた突風に煽られた。
サンプル回収ミッションの為に氷結島へとやって来た鬼磯目は、接触後即帰還の命が出ているにも関わらず、その場で数秒氷結島の様子を海中から伺っていた。
寒くないから氷じゃないよね?やっぱりフェルメプンなの?おーい!フェルメプン!
「······」
一秒にも満たない僅かな時間の中で、考え事と想文の送信を行うマーティア。しかし想文で語りかけた氷結島···、マーティアが知り合いの怪獣が氷結島の正体では?と思ったその疑念に、氷結島は何も答えなかった。
やっぱり似てるんだけどな~?違うのかな~?んじゃちょいと貰っちゃうよ?
鬼磯目が捕獲爪で氷結島の一部に突撃して即、捕獲爪をガギンと閉じる。
捕獲爪の間には、しっかりと氷結島のサンプルが挟み込まれていた。
これでよしと!じゃあ寄り道ついでに島の上でもパッと見て来て、パッと報告するかぁ!
鬼磯目は氷結島の縁に回り込み、機動用船胴の推進機を全開にして船体を垂直に立て、船首をまっすぐに海面上に押し出していく。そのままクッと鎌首をもたげ、氷結島の方向と思われる方を向いた。
すごい霧···(視えてないケドわかる)······
ビシュィーーーーー!グカッ!
「!」
突然霧の中から飛んできた拳付きのワイヤーが、様子を伺っていた鬼磯目の捕獲爪をガシッと掴む。
そのまま巻き取られたワイヤーによって無理矢理氷結島の方へ引き寄せられた鬼磯目は、霧が立ち込める白い大地に叩き付けられると共にズルズルと内陸方向へ引きずられる。
ガキン、とワイヤーの巻き取りが終わる音がして、霧の中から拳の主が鬼磯目の顔前に姿を現す。
既にエギデガイジュとの合体を終えたガルンシュタエンが、珍しげに鬼磯目を覗き込んでいた。
くぐっ!お、女の子の口をつねり上げるなんて最低ですね?!
(む!···想文か??···何者だ?潜水艦?)
!聞こえちゃった?じゃあ、こ、コイツが······
(答えろと言っている!)
エシュタガはガルンシュタエンの腕で、掴んだ鬼磯目を一度ガクンと揺らした。
······ゴゴゴゴゴゴ···
地震。海上に浮かび、殆ど地震の影響の無い筈の氷結島が揺れていた。
琥珀色の目で周囲を睨み、地震の原因。その気配を探るガルンシュタエン。
やがてその原因が足下まで迫っていると悟ったエシュタガとガルンは鬼磯目の牙を離し、ガルンシュタエンを一歩だけ後退させる。
その瞬間、亀裂の入った白い地面から、琥珀色をしたドリルの先端が二つ、バキャンと現れたかと思うと、亀裂から一気に海水が吹き出した。
まるで逆さまの滝のような凄まじい水量。
ひええ!
地面に落ちた鬼磯目は、ここぞとばかりに流れる落ちる海水の上をニョロニョロと滑り、海に戻って行く。
「!」
先程まで鬼磯目を掴む為に伸ばしていたガルンシュタエンの腕が動かない。何者かが水柱の中で腕を掴んでいる!
エシュタガがそう思った時、水柱の中で琥珀色の目が揺らめき、ガルンシュタエンの目と鼻の先にアンバーニオン ソイガターの顔が突き出て来た。
ガ!ヴォォォォオオオオゥゥ!!
アンバーニオン ソイガターと共にアッカが吠える。エシュタガのブレスレットの中でキョトンとしていたガルンは、負けじとガルンシュタエンにも吠え返えさせる。
キギョォォォォォォォォオオン!!
水飛沫の中で二体が至近距離で睨み合う様は、今にも殴り合いを始める闘士達のような蛮勇に溢れていた。
アンバーニオン ソイガターが頭突きをしようと頭を引いた瞬間、ガルンシュタエンは掴まれていた腕を振り払い後退し、霧の中へと姿を消す。
「待て!」
宇留の叫びと共に、天面を向きドリル形態になっていた琥珀柱が前傾して、再び琥珀の牙に変わる。
ガルンシュタエンが退いた霧の中へと踏み出したアンバーニオン ソイガターだったが、ガルンシュタエンと入れ替わるように姿を現したのはエグルドーゴだった。
かつて宇留達が相対した時とは異なる蜻蛉の尾、エグルドーゴのテールユニットは違うものに換装されていた。
バシュンッッ!
目の前で伸縮した削岩機の先端を持ち前の瞬発力でかわすアンバーニオン ソイガター。パイロットのリキュストが悔しそうな声でスピーカーをハウリングさせて挑発する。
[アンバーニオン!今度は本気だぜェ!砕いて加工して磨いてやッからこっちへ来い!]
バシュンバシュンと削岩機のピストンを見せつけるエグルドーゴの挑発にあえてアッカが乗る。
「来いよ虫ヤロウ!琥珀ん中に閉じ込めてやるぜ!」
ガ!ヴォォォォォォォオオオオウ!
宇留達とエシュタガ達の次のラウンドは、虎の雄叫びと共に始まった。
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