神樹のアンバーニオン (2) 逆襲!神霧のガルンシュタエン!

芋多可 石行

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 左肩を押さえ、デリューワールドの暗い廊下を歩く折子。
 時折、肩に添えた手の隙間からは赤紫色の光がほとばしっている。
 苦痛に耐えるように廊下を進む折子の前に幾度目かとなる本人間達が現れた。
 開かれた頭部の表紙からは、飛び出す絵本のように不気味なラクガキが飛び出し、声を上げながら折子に近付く。本人間達は、比較的先程よりも力を増しているように見えた。
 折子は抵抗せずにただ彼らをジッと見つめる。この空間を経由して、本人間達の存在意義にアクセス、自身への攻撃を否決させた。しかしその手段は彼女にとっても、自身のデータ汚染を進行させるリスクがあった。
 途端に紙の束になって崩壊する本人間達。するといつの間にか、暗がりのその向こうにクイスランの足下だけが姿を現した。
「いつまで持つかしらね?」
 カコックコカパァ···
「!」
 折子のアーカイブにある音。人間の顎の間接と開口の音によく似た奇妙な音がした。
 暗くて良く見えないが、音の反響から割り出したクイスランのその口の開いたサイズは、折子が先に計測した頭部の大きさを遥かに超えていた。

-___.▫.▫-▫_____------▫▫▫▫.....,――――

 一瞬の内に、人間の脳では数え切れない程のアクセス合戦を繰り返した折子とクイスラン······。「!」最後の一手はギリギリ折子が上回り、足だけのクイスランはボフッと綿埃の塊になって崩壊した。
「またダミー、ダミーでこれ······?」

 ドドッ!

 クイスランのトラップを一度退けた折子の十数メートル背後で、重い物が廊下に落ちる音がした。
 折子の頭上からパッ、パッ、と裸電球がその音源に向かって灯り、不気味な廊下を照らしていく。最後に灯った電球の下には巨大な本が置かれていて、その表紙がゆっくり開かれると巨大な本は丁度廊下の幅と同じになった。
 
 アアアアアアアアアアアア!

 巨大な本に描かれていた歯と歯茎だけの絵が叫ぶ。その巨大な本が折子に向かって突進して来た時だった。

 ビシュ!ビシュ!ビシュッッ!

 巨大な本の背後から、青緑色のレーザー光線のような閃光が貫き通った。
 裸電球が一つ割れたものの、閃光は折子に当たる事無く両脇を通り抜ける。
 エエーーー!
 オォオーーー!
 前方の巨大な本と、折子の背後からも断末魔が響き渡る。ズズンと音を立て二つの巨大な本は倒れて消えた。
「!」
 前方の巨大な本が居た後ろには、私服に帽子を被り右手を前にかざした照臣が立っていた。
「ダイジョブですか?遅くなりました!」
 照明の下を、照臣はそそくさと折子に駆け寄る。
「ありがとう···」
「!」
 照臣は折子の肩の“傷„に一瞬気を取られる。
「···全然おねえさんのトコに辿り着けないなと思ってたら、あちこちにスッゴい数のなんか変な機械が仕掛けてあって、ブッ壊して回ってました」
「この空間せかいを維持する増幅器ブースターね?それさえ壊せば、う!ぅ!」
「あ!動かないで下さい!」
 痛みとして発現している折子のデータ汚染。照臣は左手で折子の左肩に触れた。手の内がボォッと青緑色に光る。左手の光は若干緑色が強く出ていた。照臣が手を離すと、赤紫色に輝いていた折子の傷口は跡形も無い。
「どうして!?ちゃんとした生き物でも無い私が······!」
「おねえさんいつも頑張ってるから“ひかり„が認めてくれたんですよ、きっと!」
 照臣は笑顔で答えた。
「!···皆さん、ありがとう!」
 照臣の左手を両手で包み、目を閉じてうつむき感謝を込める折子。照臣は一瞬ドキッとしかけたが、背後からすぐに巨大な本達が行進してくる気配に気付いて臨戦態勢に入る。
「行きましょう!時間が無いっす!」
 回復したとはいえ、まだダメージの残る折子の肩を支えながら照臣達は増幅器を探しに歩みを進めた。





 某所。
 自動販売機が一台だけ設置された人気ひとけの無い峠道のパーキングエリア。
 そこに停車された怪しいキャンピングカーの中で、対戦ゲームに勤しんでいる一人の男。
 友植はロボット対戦ゲーム、テラギガメカイザーで自らが編集エディットしたアンバーニオン風のキャラクターの2Pカラー(レベルマックス+ホープレス)、を相手に互角の勝負を繰り広げていた。
 友植の操る自機は主観視点の為、どういうデザインかはわからない。そしてお互いに、あと一撃で勝負が決まる!という時、扉が開いてサングラスを掛けた金髪美女が友植に声を掛ける。
「ヨウ!モーソロソロゥ!」
「あっ!」
 集中力が切れた友植は黒いブラックアンバーニオンの攻撃を受け敗北した。「俺は···出来損ないじゃ無い···」CPU勝利!の表示と共にクールボイスのパイロットが勝ち名乗りを上げた。
「あ~あ、負けちゃったよ」
 そう言いながら友植がゲーム機を片付けようとしていると金髪美女が扉の前に立ったままで友植に語り掛ける。
「ネー、今度私モアソバセテーヨ?」
「君コントローラー壊すからダメ!この間もプロレスゲームで審判レフェリーと戦えるって裏技にツボって笑いが止まらなくなっちゃったじゃん!エキサイトしてコントローラーぶん投げちゃったし!もう!」
「···っていうかカタコト演技飽きた!」
 金髪美女はいきなり流暢りゅうちょうな日本語で会話を始めた。
「はぁー!もう行こうかな?」
 ため息をついた友植と金髪美女は運転席と助手席に座り込み、どこかへと走り去って行った。






 衣懐学園の近所。
 広域避難場所に指定されている広い公園の一角で、地下シェルターに続く地下鉄駅の出入口のような階段フロアが二ヵ所開放され、反射ベストを着用したボランティアによる避難民の誘導が行われていた。
「······うー!磨瑠香達まだかなー?」
 シェルターの行列の合間で、まだ来ない磨瑠香達を案じ連絡をしようか逡巡しているマユミコ委員長は、誰も居ない公園広場の中央に向かって歩く人影を見つけてスマホを眺めるのをやめた。
「?、月井度くん?」
 マユミコ委員長が雰囲気だけでそうだと思った現のような人影は、広場の中央に立って天を見上げる。そして···

 ドゥドゥォオオーン!

 夜の闇よりも黒い影が公園を横切ったかと思うと、公園の中央にいきなり降って来たもの。
 竜のような怪獣が人影の居た辺りの地面に口先を突き立てていた。
 悲鳴や絶叫でパニックになる公園。
 竜は翼を広げ地面から頭を離すと、なに食わぬ顔で東へ飛び立った。
「やだー!怪獣やだー!」
「!」
 マユミコ委員長はシェルターに無理矢理注ぎ入ろうとする人の波の中で、ラーヤの悲鳴を聞いて無意識に避難民の流れから抜け出していた。
 そこには膝の力が抜け座り込んで怯えるラーヤと、ラーヤを励ます空手部のミタバ主将が居た。
「ラーヤちゃん!」
「ううう!」
「大丈夫?しっかり!」
 ラーヤはミタバ主将にしがみついて目をギュっと閉じていた。ミタバ主将はそんなラーヤの背中をさすり励ましている。
「大丈夫!ほら!もう居ないよ!大丈夫だよ!」
 ラーヤを落ち着かせようとした二人だったが、避難民の一部から 男の子が一人食われた という悲鳴が上がり、パニックの火に油が注がれていた。少なくとも一部の避難民にはそう見えたらしい。
「あなたも怪獣シロガタ事件の被害者なのね?」
「え?」
 ラーヤをなだめるミタバ主将は、彼女の極端な怯えの原因を探った。
「私も小さい時に、おじいちゃんが···」
「!」
 
 十二人。

 あの時折子は言った。
 まだ不思議な事は続いている。

 震えるラーヤを二人で抱えながら、マユミコ委員長は巨大な竜、ゲルナイドが飛び去った方向を見上げていた。



 強化再生されたゲルナイドの怪獣体。
 リゲルナイドは、中枢活動体であるアラワルとの接続を完了した。
 体は五十~六十メートル程と小型化したが、龍人のようなスタイルはより戦闘向きになり、相変わらずの大小様々なキネイニウムハンマートゲコブも体を飾り彩る。

 飛行しながらまぶたが開き、金色の目が光る、リゲルナイドはT都湾を目指し飛行速度を上げた。



 ビィブァの言う事がホントなら···
 
 コティアーシュ姉ちゃん······!
 




 
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