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太 陽 航 路 【終】
しおりを挟むマーティア?
·!!!
おにかますから響く数度のノックに混じり、微かに聞こえた環巣の声。
·わあああ、よかっったああ!アキサ生きてた!よかったよーー!
海中でおにかますに巻き付いて支える鬼磯目は、抱き締めるように船体を捻る。結果おにかますの船体がギコッと軋んだ。
あぶねッ!壊れる!何やってんだ嬢ちゃん!
続いて執間の声、通信は途絶していたが、おにかますを叩いた捕獲爪でのノックは、鬼磯目が近くに居るとしっかりクルー全員に伝わっていた。
·うえええ!よかったー!どうしよう!泣きたいのに!目が無いよーー!
T都湾の海底には、マーティアの嬉し泣きの声がしばらく響いていた。
三体のエガスデライガを無力化したロウズレオウの影達は、エグジガンと二体の護衛エガスデライガに剣先を向けて襲いかかった。
護衛エガスデライガは腰の脇に携えた剣を鞘から引き抜き、先行してきた二体の影を両断する。
ジュバ!
「!」
切断された影達はツツジ色の液体に変化し、エガスデライガ達の剣が溶け落ちた。
装甲に飛び散った液体もブスブスと煙を上げて溶解し護衛達を怯ませる。
ツツジ色の溶解液は真っ黒になるまで大気と急速に反応し、即座に無害化した。
チャキッ!
!
後行に回っていた筈の影の一体が、いつの間にかエグジガンの側に立ち、首元に剣先を押し当てていた。
ギビっ!
相手の特殊性故に、対応を躊躇い混乱する護衛達。だがエグジガンは怯む事も抵抗する事も無く、ツツジ色の影を黙って睨んでいる。
ブワッ!
両脇に琥珀の巨人達を抱えたままのロウズレオウがビルの上から浮かび上がる。
「構うな!撃ち落とせ!」
エグジガンの指示で、今度は残ったエガスデライガ達による砲撃がロウズレオウに向けて再開される。だがエグジガンの側の影は何をするでも無く、剣先を突き付けたままで微動だにしない。
「?」
アンバーニオン達を抱えた上、巨体に似合わぬスピードで飛んだロウズレオウは、エネルギー光弾の軌跡の合間を掻い潜る。残像や分身といった芸当すら駆使し、一発も当たらないと思われた最中、ロウズレオウは突然爆発した。
ボグァッ!!
「!」
砲撃は止み、様子を見るエガスデライガ達。その時、上空のまるで見当違いの場所で光が輝く。
「ぬ!」
ロウズレオウが加速して、どんどんと上昇して行く。エガスデライガ達は砲口を向けるも時既に遅く、完全に射程範囲外だった。その時、エグジガンの傍らの影が口を開く。
「···逃げるが勝ちなら、逃げられるのは負けの内ってね?コウテイさん?」
「!」
剣先を引いた影は膝から崩れながら溶け、空気に混ざるようにボヤけて消えていった。
カッ!
「太陽航路!」
高空で輝きを増し更に加速していくロウズレオウ。その流星は星空輝く遥か水平線方面に向かって落ちていくように見える。
エグジガン達が黙って流星を見送っていると、白煙を上げて沈み行く氷結島で何かがキラっと光った。
ーーーーーーー!
ドギュッッッッッ!
以前よりも一回りだけ小さい慈龍剣バジークアライズがエグジガンの胴体を貫いていた。
〔ハアアアアアアアアッ!〕
バジークアライズからは、折子の声で勇壮な発声が響いた。
「ぬぅぐ!」
胴体の鎧と兜が砕け、エグジガンはエブブゲガの顔が露になっている。
やっとの想いで戦場に来る事が出来た折子は、砕かれたアンバーニオンの宝甲を用いてバジークアライズを急造し、エグジガンに一太刀だけ浴びせる事が出来た。
バ!シュッッッ!ーー
バジークアライズはそのままエグジガンの身体を通り抜け、超高速で北東方面へと飛び去っていった。琥珀の神剣を飾る装飾の一部に、アッカ入り琥珀を携えて······
ドズッ!ン!
膝を着く主に寄り添おうとした護衛エガスデライガを、エグジガンは手をかざして制止する。
「成る程、本当に死なん···土地神の力を持ってしてもな?」
もう既に傷口は塞がっていた。僅かに焦りの表情を浮かべ、微笑みながらエグジガンは確信する。
「帰還だ!そろそろヤツを迎えねば」
エグジガンの背後に特大の異空間扉が開く。
エグジガンに続いて、動かなくなった仲間達を回収し終えたエガスデライガ部隊は、異空間の拠点に向かって姿を消して行った。
I県巻沢市、国防隊駐屯地。
T都湾の異変に対応し、待機任務に就いている重拳隊。
藍罠は缶コーヒーを買いに行った椎山の事を考えていた。
「どうしたんですか?藍罠さん。口尖ってますよ?」
「え!嘘!?」
西和の言葉に、藍罠は驚いて姿勢を正した。
「いや、椎さんオセーなって思ってさ、やっぱり変なんだよな?いつもは買ってこよウカ?なんだけど、さっきは買って来てヤルって······」
「はぁ···でも何回目かの精密検査でもダイジョブだったんでしょう?」
「うーん、でもなぁ?······」
「おい!」「!!」
氷結島のライブ映像を見ていた隊員から声が上がる。と同時に······
バギャアアアッ!
「なんだ!」「ドッグの方?」
「!」
突然詰所に轟音が鳴り響く。
キュイー!
「!!」
自身の耳鳴りに背中をドッと押された藍罠は、脱兎の如く走りだし外に急いだ。
藍罠が走っている間も続く爆発音。
「!」
辿り着いたドッグ前の広場では、重拳がギュラギュラとタイヤを鳴らし、徐行前進している最中だった。重拳は掌を上に向け腕が少し浮いている。
「だ、誰が乗って···?!」
藍罠はドッグタグと一緒に付けている古いUSBメモリを握り締めた。そして掌の上に誰かが居るのに気付く。
「······椎さん?」
重拳の掌の上には、初夏だというのにロングコートを着た椎山が立って藍罠を見下ろしていた。その時ドッグの前で、潰された作業車両の燃料が引火爆発して広場を赤く照らす。
「何やってんすか!椎さん!」
椎山はギロッと藍罠を睨んだ。以前にもあった事、その人がその人ではないという現象によく似た感覚が藍罠の予想を満たす。
「この体はもうそろそろ俺の方に移行して貰う!」
「な!?」
「俺はアルオスゴロノ帝国の戦士ゴーザン!、今日はこの体を、裏切らせに来たんだ!」
ドシューーーーーーー!!
「椎さ!うわッ!」
椎山、改めゴーザンは、重拳の車体下部のメインブースターを容赦なく噴かし、重拳を敷地外へジャンプさせた。吹き飛ばされ、転がり、負傷して、ようやくそれを認識出来た藍罠。
ウーーーーーーーーー!
「!」
聞き慣れている筈の警笛。気の知れた仲間に向けられた、仲間からの厳しい敵意の音、その現実に藍罠の心が折れそうになる。
「う、うおおおおおお!」
重拳が去って行った方向に向かって、藍罠は叫ぶ事しか出来なかった。
T都西部、向珠町某所。
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その手に持った有毒ガス注意という手書き看板が、洞窟内の熱気により燃え上がる。
ヴァエトはゼレクトロン。つまり自分自身のサナギを見つめた。
「我よ」
ヴァエトの言葉に、ゆっくりと琥珀色の眼を開けていくゼレクトロンのサナギ。
新たな戦いが始まろうとしていた。
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完
〈つづく〉
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