神樹のアンバーニオン

芋多可 石行

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玉なる座

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 初見はフィギュアだと思った。
 透明なオレンジ色の樹脂にくるまれた精巧な人形?だがリアル過ぎる。写実的な造形とでも言うのだろうか?
 年齢は宇留と同じくらいか?肩まで伸びた色素の薄い頭髪に、シンプルな銀色の髪飾り、胸元に金色の装飾が付いたノースリーブの白いドレス、両手首にはオレンジ色のバングルを付けている。
 小人の少女?はまるで水中に漂うかのようにリラックスした体勢で琥珀の中に入っていた。
 睫毛まつげの一本まで確認出来そうな位、ここまで細かく作れるものなのかと考えていると、はっきりとした存在感すらも漂って来る気がしてならなかった。
 そしてどこか気品もあって、どこかのお姫様がモデルなのか?とも宇留は思った。
 
 ついでになんか可愛い。

 知らぬ間に数分見とれていた。

 コト!
という音に宇留は後ろを振り返る。

 “入って„来た岩壁の辺りに人影が見える。そしてそれはあのスーツを着た男だった。
「う、うわぁああ!」
 男の殺気めいた雰囲気に圧倒された宇留は叫んでしまった。男はそのまま宇留めがけて全力で走って来る。
 その時、両方の岩壁に梵字のようなオレンジ色の紋様が複数浮かぶと共に、何か力のようなものが宇留の手前から通路方向に満ちたように感じた。
 男はまるで空間に繋ぎ留められたかのように前のめりの姿勢で停止し、僅かにしか動けないようだ。
 しかしその視線はしっかり前を見据え、苦痛に耐えつつ強い意思を保っているように見える。
 それを見た宇留は内心怯えつつ、こういう時イケメンだと決まるなぁと場違いな事を考えていた時だった。

 (アルオスゴロノて······)

 女の子の声が聞こえた。
 宇留は周囲を見渡し、声の主を探し··········見てしまった。琥珀の中の少女の目が開いていた。
 驚こうとした時また声がする。

 (ボクを手に取って)

 声は聞こえたのでは無かった。マンガやアニメでよくある意識の中に響く、という感覚を初めて体験したのを理解した。
 男が無理矢理一歩前進する。この現象は長続きしないという答えが示されたかのようだ。なりふり構っていられない。
 宇留は少女の言う通りに琥珀を手に取る。
 少女の体勢に合わせ、縦に楕円形だった琥珀のふちに銀色の装飾が現れ、どこからかチェーンも伸びて宇留の首にぶら下がり完全にペンダントに変わった。
 チェーンは一瞬熱かったが、すぐに人肌の温度になった。
 
 (ウェラ クノコハ ウヲ アンバーニオン!) 



 少女の掛け声と共に、衛星軌道上のアンバーニオンの目と、胸元の夕日のように赤い琥珀が輝く。

 宇留は体が細かい粒に分解され、上方に引っ張られる感覚に陥る。恐怖心はあったが、苦痛は無かった。
 そして宇留と琥珀の少女は閃光と共に祭壇の前から消えた。





 スーツの男は力から解き放たれ、その場に片膝を突いてうずくまり一つ息を吐いた。
 その時、地響きと共に透明な天井が一センチ程下がる。男はしばらく天井を睨んでいたが、“入って„来た所まで戻ると、岩壁にもたれて黙って目を閉じた。
「アンバー·····ニオン」
 男の一言の後、また天井が一センチ、ゴソンと下がった。






 宇留はなめらかな粘性のある液体の中に居た。だが体は動かない。目も開けないが目蓋まぶた越しにオレンジ色の光にさらされているのが分かる。呼吸もしていないのに何故か苦しくない。
 体が前方に押し出される感覚と浮遊感で目を開ける事が出来た。
 「ここは?」
 宇留は濃いオレンジ色をした球体カプセルの内部に浮かんでいた。上下は二メートル強はあろうか?先程まで居た場所の液体のベタつきなども体には一切無い。
 カプセル越しに白や赤や黄色、オレンジ色の光が、幻灯か万華鏡のようにゆっくりと周りを不規則に移動するのが透けて見えた。
 琥珀の少女の事を思い出した宇留は、胸元のペンダントを確認した。
 土壇場で向かい合わせ、もとい前後逆に“身に付けられた„ハズだったペンダントは前後正しく身に付いていた。
 恐る恐る琥珀を覗き込むと、内部の少女は真剣な眼差しで既に宇留を見つめていた。そして一つまばたきをする。
 間違い無く、琥珀の中の少女は生きている存在のようだ。
「こ、これは?ここは?」
 宇留が質問すると少女は答えた。

 (アンバーニオンの操玉そうぎょくの中)

 操玉という言葉に機械の操縦席の印象がダブる。日本語に聞こえるが、単語に様々なイメージが重なる不思議な会話だった。 
 宇留はこの少女が、宇留の脳を使って会話しているという確信がもう既にあった。
「アン······バーニオン?」
 宇留がアンバーニオンの名を呼ぶと、操玉の前面の空間が炭酸のように泡立ち、風景が見えた。

 宇宙と地球

 上は暗く、下は青い。超高画質の“ディスプレイ„は遥か下方に浮かぶ雲の形を克明に捉え宇留に認識させていた。そして画面の端々に写るクリアオレンジの外骨格を纏った腕や装飾のようなもの······
 宇留が驚き、身を震わせるとその腕も動いたような気がする。まさかと思い自分の腕を目の前に伸ばすと、その腕も同じ動きをした。


 宇留は、琥珀で出来たロボットか巨人か、そんな存在、アンバーニオンの中に居た。
 
 





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