神樹のアンバーニオン

芋多可 石行

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重き翼

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 I県の隣県、軸泉市からも程近いA県三螺旋みつらせ市の沖合い。
 海上には二つの灯浮標とうふひょう付きの巨大な浮きブイに両端を固定された鉄骨が波間に浮かんでいる。
 上空には二機の戦闘機にエスコートされた青黒い機体が到着した。
 戦闘機より一回り大きいその機体は、巨大な尾のようなユニットを機体の後部に備え、今はホバリングする蜂のように下方に向けられたその尾の先端には、にび色のブレードが光っていた。

 [目標確認、訓練攻撃、アプローチする]
 [リーダー了解、一本集中]

 青黒い戦闘機の女性パイロットの声に応答した後方を飛ぶ指揮支援機には、JSSG 重翼隊 と文字が描かれている。

 近接特殊攻撃戦闘機 裂断レツダン

 最大の特徴は機体後部のアームテールと特殊金属、ソージウム製ブレードである。
 衛星、指揮機、基地のコンピュータと機体のAIをリンクさせた計算能力に支えられた高い環境対応瞬発微調整性を誇るアクチュエーターを搭載したアームにより、戦闘機でありながら敵性体に対してのすれ違いざまによる精密な“斬撃„を可能にしている。
 またステルス性もさることながら、世界でも指折りの対空気抵抗技術も加えられている。
 裂断は海上に向けて降下しながら加速するも、レールの上のに乗っているかの如くスムーズに水上飛行に移る。
 そのまま徐々に高度を下げ、ブレードの切っ先が海面に付くと一拍遅れて凄まじい勢いの水柱が連続で上がっていく。
 水柱にギリギリ追いたてられるように、更に裂断はターゲットに向けて全開で加速した。
 様々なパターンを予測したAIによって目標の測定が完了したテールアームとブレードは、ミリ単位の誤差修正のみで鉄骨に切り込む。
 
 ーーカッ、ッ!

 呆気あっけない音を立て一瞬で両断される鉄骨。

 鉄骨は、掻き回された波間の中心に折れた部分から海中に没し、それを支える浮きブイはよろけて海面ににユラユラと揺れていた。

 [訓練攻撃終了、ありがとうございました。海上班、あとはよろしく···]

 上昇した裂断の高度と比例して小さくなっていく水柱の名残が、重翼隊の帰投を見送っていた。







 十一時五十八分、飛行場の近辺でありながら人影もまばらな国防隊航空第二資料館。
 アミューズメントに特化し子供達にも人気の第一資料館とは異なり、飛行場を挟んでその反対側にあるこの施設は重翼隊の基地であると共に専門性の高い玄人好みの資料を展示しているせいか、敷居が高いと勘違いされており一般的には入りづらいと評判だった。

 静まり返った受付でコーヒーを飲みながら企画展の資料を暗記する一般職員の女性、音出 深侑里おとで みゆりの元に、交代の職員で先程まで裂断の操縦をしていた小柄なショートカットの女性隊員、追佐和 鈴蘭おいさわ れいらが交代を告げた。
「···交代です。音出さん」
「お疲れー!早かったね、今日も飛んだの?」
「教えられません音出さん、タシー達は一応マル秘戦隊ですので!受!付は!世を!忍ぶ!仮の姿っ!」
 ビシィッ!
「おぉ!いかんいかん!それは失敬」
「交代です、?、なにかあるんですか」
 それを聞いた音出は飲みかけた残りのコーヒーをンムッと飲み止める。
「!、あのね?藍罠さんがくるの~」
 うっとりとした表情で自身の体をギュッと抱き締め、そのせいで持ち上がった音出の過積載ペイロードを見た鈴蘭は少し怯んで目を背ける。
「ヌぅ···昨日の実動戦闘データの直渡じかわたしかな?」
「え?なぁに?」
「いいえ、なにも」
 すると入り口の古い自動ドアがガタゴトウーと音を立てて開き、セカンドバッグを肩にかけた私服の藍罠が入って来た。
「ええ!追佐和ちゃんだけじゃないのか?···まぁいいか」
「お疲れ様です~」
 ズイッと音出が近寄る。
「音出さん!近い、ょ」
 マスクをしている藍罠は、熊鍋の影響で体が少し臭···ワイルド旨しになっていたので、どことなく遠慮がちだった。
 鈴蘭は音出を押し退けて割って入り藍罠に挨拶する。
「お、疲れ、様、です!(グイ!)音出さん!藍罠さんはお疲れですから、早くご用件を」
 ごめんごめんと謝る音出を尻目に、すぐにデータの入った記録媒体メモリの受け渡しは手元だけで速攻終了する。
 互いに二歩程引いて、鈴蘭と藍罠は敬礼し合う。

「おトドケしました」
「受領しました」
「お疲れ様でした」

 音出は藍罠の隣で敬礼をしている。
「音出さんはこっちィ!」
「え~私もう今日上がりなんですものー、藍罠さーん、私今日I県の方の実家に帰るから送ってってくださーい?」
「いやー、俺今日も軸泉で待機だから内陸ちがうとことか行けないよ···?」
 困る藍罠。
「(くぅー!イラつく~!同じ重合隊じゅうごうたいのメンバーとしての世間話もアルのに!藍罠さんもタシーみたいなのより音出さんみたいな健康的ドわオな方がいいのかよ!)」
 しばらくの押し問答ののち、音出は満足したのかニコんニコんしながら手を振って職員控え室に戻って行った。

「藍罠さん!来るって連絡しましたか?」
「んと···したよ?隊長ヤノさんに。追佐和ちゃんヒルマルマルにはもう受付に居るって聞いたんだけど?」
「(んもう!作戦以外マーイーダロなんだから!ちゃんと下ッ端まで情報下ろせよ!···てか!、音出さんなんで藍罠さん来るの知ってんだ!?)」
「くぁ···!」
 藍罠はアクビを顔の奥で押し潰していた。
「ん~、寝たの今朝だよ。でも高速完成したし近いから行ってこいって···」
「お疲れ様です、活躍拝見しますね?」
「押忍!ではヨロシク」
 藍罠は一度帰ろうとしたが、気になった事があったのかもう一度鈴蘭に向き合って聞いてきた。
「······あのさ、音出さんっていつもあんな感じなの?」
「うへぇ···ええマァ···黙ってれば美人なんですけどね······あと変な意味は無いっぽいですけど、なんか藍罠さんと遊びたいって言ってましたよ。ブランコに隣同士で座ってニコんニコん見つめ···合い、たい、そうですよ?」
「あのテンション弱るんだよなぁ···」

 鈴蘭にもからかわれて藍罠は、肩を落として今度こそ帰って行った。
 それを見送った鈴蘭は受付の席に戻りテーブル下の棚の鍵二ヶ所を解錠し、中身の拳銃一式を確認して再び棚の扉を閉める。

 そしてそのまま静まり返ったエントランスで、ちょこんと受付に座って待機任務に就いた。




 重翼隊、隊長室。

 半分ほどに減った仕出し弁当の上に箸を置き、隊長の八野 やの は自分の席で軽く眼鏡を押さえ資料に目を通していた。
「今日までの挙動データのAI抜き平均です」
 応接席の下座で整備長が弁当の封を開けながら言った。
「間違い無い?」
「ええ九割、そして今日の分をご覧下さい」
「?」

 突貫でコピー用紙に印刷された本日分のデータファイルには、AIの有り無し比較グラフが並んで描かれ、どちらのグラフもほぼ同じ値を示している。
 パッと見、数字の差異を見なければ同じものにしか見えない。

「うー···今はいいか」
「はいっ」

 八野は二度目の、整備長は最初のいただきますを、二人同時に手を合わせて昼食をとった。








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