神樹のアンバーニオン

芋多可 石行

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海を踏む

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 海上に降り立ったアンバーニオンは、足首と背部スタビライザーから出る何らかのエネルギーで器用にホバリングして海面に立ち、怪物を睨んだ。
 向かい合った怪物もゴルゴル···と唸り声を出して威嚇している。
「···戦うつもりか?!」
 八野が目を見張る。
「···!あっち行けぇえええ!」
 そう叫び先に飛び出したのは宇留、アンバーニオンの方だった。
 背後に巨大な水柱が上がり、海上を滑り怪物に突進して行くアンバーニオン。
 迎え撃つ怪物は頭部前面の一際ひときわ大きな突起の着いたコブを震わせたかと思うと、それが突如として突出した。
「ーーーー!!」
 突起は左脇腹をすり抜け、アンバーニオンはそのままその突起基部のコブを押さえ込む。
 もう一つ、筋肉の触手で繋がれたコブが放たれ、アンバーニオンの右肩に当たる。
「ぐあっ!」
 ヒットしたコブはシュルシュルと本体に戻され、ゴチンと音がして元に収まった。
 アンバーニオンが掴むコブも、なんとか引き戻そうと怪物がもがく。
「ならっ!これでー!」
 宇留はコブを掴む腕を触手のコブ側根本に持って行き、手の平から雷撃らいげきを流した。
 バヅンッ!
「ギベェェェェーーー!」
 雷撃に驚いた怪物は無理矢理コブを引き離し、アンバーニオンはバランスを崩して後退した。
「ふぅう!コンニャロ!」
 (ウリュ!雷撃レイはもうダメ!)
「え?!」
 (準帝の一族は雷を食べる。元気にしてしまうだけ!)
「じゃあ!あの虎魂龍血雷電轟ココン ケテュールレイデンでもダメって事だね?」
 (ウリュ!違う力の方法を送る···)
 二人が打ち合わせをしている間にも、怪物は五~六個のコブを外し、それらを打ち付けようと触手群の鎌首をもたげさせる。
「ホントだ···元気になってる···!」
 宇留はそう言いながらも、ヒメナの想文から着想インストールした方法で新技を繰り出そうと集中し始めた。
 怪物は一度、若干前のめりに沈んで浮かぶと猛スピードでアンバーニオンに突撃を仕掛けて来た。その反動で全ての触手ハンマーを纏めて垂直に振り下ろす。
 アンバーニオンはそれを右方向にホバリングし滑って避け距離を取り、更に水上ドリフトで怪物に向き直った。
 怪物もアンバーニオンに顔を向け、再び睨み合う両者。その時アンバーニオンのひざからすねにかけてそなわっている巨大な三日月型の宝甲のエッジに付着した水滴が、チェーンソーの刃ようにふちを走り始めた。







 推奨行動結果

 指揮支援機と裂断に敵情報の分析結果とそれに伴う最適な攻撃方法が、AIからようやく推奨プレゼンされる。

 目標組成 未知の物質の含有可能性。サンプル試験必須 耐衝撃性不明 構造都合により接触事故の可能性。特 体表顕著
 
 推奨行動 通常攻撃のち帰還 または消極的攻撃アプローチ

 攻撃結果 有効不明

「な········!」
 重翼隊の全員が驚く。
「どういう事だ!」
 「リサーチャー1の超音波エコーが目標外骨格を九十九パーセント強通過、反対側のリサーチャー2のパッシブがそれを受け止めました!」
「バカな、エコーを吸収ではなく透過?あそこで物質として存在しつつ、そこに無い?とでも?」
 八野を始め更に全員が疑念を抱く。
 裂断の方はAIの推奨にもとづき攻撃形態に自動移行したのだが、アームとブレードはわずかしか下方に傾斜せず、はたから見れば敵にかすり傷しか与えない気満々という有り様だった。
「なッ!?何これー!ビビって尻尾丸めた犬じゃあるまいし!」
 鈴蘭が憤る。
 [ウチは尻尾丸めないと斬れんけどな?]
 [隊長、冗談じゃありません]
「···(···く···背も成績もチンチクリンだったタシーが、重翼隊ここで特性見出みいだされて二年間。いくらフルバックアップで実戦以外の事故回避率九十パーセント以上とはいえ恐怖の突撃訓練ばっかり頑張ってきて、その上今回お嬢様を超えてお姫さま扱いで色々お膳立てされた上で初戦がこんななんて!!!!)」

 鈴蘭が嘆いている間にも、アンバーニオンは触手ハンマーの突出を繰り返す怪物相手に反撃のタイミングを狙っていた。
 時にらい、時に受け流し、防ぎ、叩き落とし、それは殴り合いの様相を呈している。
 そのうち、飛び出していた全ての触手ハンマーが一旦戻りそうになる隙を宇留は待っていた。
「今だ!」
 アンバーニオンは背部スタビライザーをしならせ海面をビシャンと叩き飛び上がると、怪物の顔面中央に飛び蹴りをうずめる。
「ブゴェェェェーーー!」
 キックの乗った部分のコブは若干本体に沈み込み、怪物は苦悶の雄叫びを上げながらその衝撃を後ろに流すように海中に沈んだ。
 波打つ海面に着水してバランスを取るアンバーニオン。だがすぐに小型の触手ハンマーが海中から姿を現し両手足に絡む。
 再び水中から現れた怪物は、拘束したアンバーニオンの浮遊能力を利用して空中に張り付けにした。
 「ヴゥルオォゥルククク······!ツカマエタゾ
「!」
 巨大な触手ハンマーの一撃がアンバーニオンの腹部に命中する。幸い衝突した突起の先端は、海水で濡れた腹部宝甲の曲面を滑り逸れて、必殺クリティカルとまではならなかったが、それでも大ダメージに変わりは無かった。ボヤけたような不思議な痛みが宇留の腹部を襲う。
「うぐぁ···!」
 怪物が次の一撃を放とうとしたその時···
 (ウリュ!体支力フロートを一瞬解除カットする!重いよ?)
「え?」
 次の瞬間には宇留の細胞全てが下方に引き伸ばされる感覚·····。
 拘束していた触手ハンマーが、アンバーニオンの変化した急な重さを支えきれずにたわみ、ほぐれそうになる。
「そういう···事!か!」
 ヒメナのサポートの意味を理解した宇留は、体勢を整え脱出を試みる。

「!!······イウコウス··· オン··· エンハ···」

 宇留の詠唱に応じて脚部三日月型宝甲の表面を循環していた水滴の流れが、加速と圧縮を伴いエッジに殺到する。
 水滴には細かい宝甲の粒子が混ざり、加速と共にオレンジ色に発光する刃となった。

「!、キ·ゴータ!!」

 浮遊能力を取り戻したアンバーニオンが蹴るように足を払うと、近場にあった怪物の触手が二本両断された。

 (水光の跳ねイウコウス オン エンハ····)

 続いて残りの触手も切り離し、アンバーニオンは後ろに飛び退いて距離を取った。
「ゲァァァァ···!」
 怪物は失ったコブの隙間の合間にあった目でアンバーニオンを睨みながらも驚いているようだった。
 切断されたコブが海に落ちて行く。その中の一つが白い火花を吹いて爆散し、虚空に消える。

「!」 
 その場に居た誰もがそれを見た。
「何て事だ、考え過ぎだったとはな、確かに稼働中のアレに大気中でエコーを当てたデータは無かった」
 八野が若干ニヤリとしながら言うと隊員のほとんどが合点がいったようだ。
「サンプルにコードネーム、三角パタパタの装甲表面の十倍強化データを登録!再設定だ!」
 八野の一言で静まりかえっていた指揮支援機の管制室は、エサをバラ撒いた生けのように波打つ。
 [聞いてくれ追佐和、奴の外骨格とおぼしきコブは後付けの人工的な鎧の可能性がある。再設定データを待っていてくれ、それと···]
 [いつもの事だが、お前の覚悟は俺達が支えている···思い斬ってくれ!]

 いつの間にかAIの判断が攻撃有効に変わっていた。裂断のアームとブレードが訓練時と同じく、全開まで傾斜する。

 [···ありがとうございます。裂断了解、目標、敵装甲突起部···アプローチする!]

 裂断はアンバーニオンと睨み合う怪物最大のコブの突起めがけ、推力全開で突撃して行く···
 怪物は裂断に気付き少し振り向くも、裂断のAIにとってはそれすら想定内だった。
 天めがけそびえる突起のすんでで横ロールした裂断はそのまま斬り込んで行った。

 ゾコッ!

 まるで砂山にスコップを刺し込んだような音がして、裂断は突起部とその次の並びの突起部末端を両断した。

  [!や、った]···ゴンッッッッ!!

 次の瞬間、持ち上がった前方のコブの曲面に接触した裂断は、あらぬ方向に弾き飛ばされていた。
 重翼隊の面々も宇留達も、その光景に戦慄する。
 切断された時は静かな印象の音だった突起部は打って変わって、ガチンゴワンと激しい音を立てて怪物の体表を転がって行く。

 それすらスローモーションで見ていた鈴蘭は、自機の上空を飛ぶオレンジ色に輝く鳥を見ていた。






 


 
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