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神鳥の剣
しおりを挟む「あーあ、やっちゃった。ここまで来てこれか···」
怪物に接触した裂断は、回転しながら砕けた部品と共に前方に投げ出される。緊急脱出は作動しなかった。
しかし様子がおかしい。
「本当にこんな時ゆっくりになるんだ?」
鈴蘭はその時、機体上空にオレンジ色に輝く鳥が飛んでいるのを目にした。
光っている、という以外はクチバシが短めの猛禽類のような鳥で種類までは分からない。
「こんな私でも戦闘機乗りのヴァルハラに連れてってくれるの?」
鈴蘭が鳥を見ていると、鳥が鈴蘭の方を向いてウインクしたように見えた。
「は?······ヌヌヌ!なんかイラつく~!ちゃんと飛べよってか!?」
鳥は裂断の下面まで降りて来ると、ためらいも無くソージウムブレードの中に吸い込まれるように消えた。
鳥を見送った鈴蘭はふとコックピットのディスプレイを見た。
全て緑色で表示されているはずの文字の一部がオレンジ色で表示されている。
視界が歪んでいるので文字を解読しようと身を前に乗り出した時だった。
ゾコッ!
まるで砂山にスコップを刺し込んだような音がして、裂断は怪物のコブ突起部とその次の並びの突起部末端を両断した···
鈴蘭は次に起こる事を知っている。
次の瞬間、裂断はすぐに横ロールを水平に戻し、“先程„より早めに若干上昇する。
後ろでゴソッと怪物のコブが動く音を追い越して、裂断は怪物のキルゾーンから離脱した。
鈴蘭はディスプレイを見た。オレンジ色の文字の表示が消える瞬間だったが、鈴蘭の動体視力はそれを読んでいた。
「自分を···信じて···?」
その時、裂断のコックピットの灯りが消えた。
一方、アンバーニオンの操玉内。
(あれは!◦.'^¡»!あの鋼の鳥の中に居る!一体何故?)
宇留はヒメナの声の一部に、ノイズのようなものを感じて聞き取れなかった。
〈おぉーい!アンバーニオン!君達も行こう行こー!〉
操玉内に女性の声が響いた。
「?!」
(◦.'^¡»!なの?どうすればいい?)
ヒメナがあの戦闘機の中に居ると言った声の主の名は、宇留にはまたもや聞き取る事が出来なかった。以前にもこんな事があった気がするが、今は怪物を追い返す事に専念しようとした。
〈この子も今そっちに行く。挟み撃ちだ!〉
(分かった!ウリュ!)
「うん!」
ヒメナから先程の水光の跳ねとよく似たマニュアルが想文で届く。
宇留はアンバーニオンをホバリングで後退させ、怪物と距離を取りながら想文を着想する。
腰を落とし、右足を引き、その三日月型宝甲の一方だけに水流の刃片を凝縮させていく。
「隊長!裂断の全てのリンクが切れました!通信も途絶!原因不明です!」
「······」
裂断はレーダーや目視では問題無く飛行しているように見えるが、状況から搭載型の最小限のAIと自立操縦だけで飛行しているのは明らかだった。
「何があった?」
「敵の攻撃でしょうか?いずれにしてもこれでは···」
隊員の声を八野が遮る。
「支えると言った···!頼むぞ?追佐和!」
黙した裂断は沖合いで急旋回すると再び怪物に向かって加速していく。
「確信が···あったんだよね···信じる、時でも···無いと!」
裂断は斬撃モードのまま無茶な加速を決行し、遂には音速を超えて凄まじい破裂音を伴い雲の傘まで羽織った。そして······
ジャキィィーーーーーーーーーン!
ソージウムブレードがオレンジ色に輝き、およそ三倍強の長さにまで伸長する。
裂断はアンバーニオンと睨み合う怪物の元へ一直線に飛んで行く。
怪物はアンバーニオンの攻撃を予見し、口から高圧の水流を吹き放った。
アンバーニオンは一歩引いて力を溜めていた足を前に出すと、その水流すら膝の三日月型宝甲の力場に巻き込ませ集約して巨大な水の丸ノコギリを形成してみせた。
(涙光の閃!)
「ウキロウ···オン···ヒキエラム·····!」
宇留の詠唱と共に水の丸ノコギリの回転数は、シュイィィーーンと音を立てて高くなっていく、そしてサッカーのシュートのようにアンバーニオンは力を込めた方の足を振りかぶる。
「ウ·ゴータ!!」
アンバーニオンが虚空を蹴ると同時に水の丸ノコギリが放たれ、一度海面で水切り石のように跳ねて飛ぶ。
「断ぁぁぁぁっ!」
シャンッッッッッッ······!
滑らかな切断音を残して、同時に背後から迫っていた裂断が怪物の背中を袈裟斬りにして飛び抜けて行く。
続いて水の丸ノコギリは怪物の顔面に刺さって食い込み破裂した。
「グッッッアアアア!!ーーー」
怪物は悲鳴を上げて、両方の傷口から緑黒い体液を一瞬吹き上げる。
すぐに血は止まったが、怪物は戦意喪失したのか海面に顔を沈め、突っ伏して動かなくなりその場に浮かんだままになった。
死んではいないようだが、その様子から宇留は戦いの構えを解き様子を見た。
東の空が白み始める···
裂断はいつの間にか刀を納め、それを慌ただしく追う仲間達と共に本土の方に戻って行った。
(や、やりすぎた?大丈夫?)
······
静かになった海上に、アンバーニオンと動かない怪物が取り残された。
(さっき君の想文みたいなのが聞こえた)
······
(これに懲りたら、もう俺達の所に来ないって約束してくれる?)
······ゥ
「!」
アンバーニオンの感覚に、遠くを飛ぶ飛行機と向かってくる艦隊が捉えられる。
宇留が反応の鈍い怪物にこれからどうしようかと思案に暮れている時だった。
アンバーニオンの体よりも大きい顔の怪物がいつの間にかすぐ後ろに居た。アンバーニオンの感覚でも分からなかった宇留は驚き距離を取る。恐らく体の全長は千メートル前後はあろうか。
(準帝ゴライゴ!!)
(久しいのぉう、琥珀の姫!)
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