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結び合う、痂
しおりを挟むアンバーニオンは送電鉄塔の巨人の爆心地から離れ、演習場の開けた場所に片膝を着いた。
慈龍剣バジーク アライズと重拳との思重合想を解き、慈龍剣は再び二つに別れ肩アーマーの琥珀柱に戻り、重拳は右腕との融合から解放され地面にゆっくりと降ろされた。アンバーニオンの戻った右腕の造形は少し歪んでいて、完全再構築には時間がかかりそうである。
アンバーニオンに向かって重拳の制御車二両と、反対側からはわんちィとパニぃ、磨瑠香の乗った四駆車が走って来る。
「重拳······」
制御車から身を乗り出した藍罠は、制御車のヘッドライトに照らされボロボロになった重拳を見て切なげに呟いた。
ヴァン!パッパッ!
「うおっ!」
重拳は藍罠達に答えるように一度クラクションを鳴らし、片目になったヘッドライトでパッシングした。
「ハハ···まだシんでネェってさ!」
椎山は嬉しそうだった。
宇留の手に握られた琥珀の短剣からは光の粒子が溢れ、いつものヒメナの姿、いつものロルトノクの琥珀の形に戻っていく。
「丘越さん······みんな···ありがとうございました······」
宇留は最後の光の粒子が消えるまでバジーク アライズの余韻を見送った。
「おニィ!」
四駆車から降りた磨瑠香は藍罠兄に駆け寄る。藍罠は微笑んでヨゥとでも言わんばかりに右手を掲げた。
藍罠は懐に飛び込んで来る寸前だった妹の両肩を抱いてゆっくりとアンバーニオンの方へと向かせた。
「セッティングならしといたぜ?どーせだったらあっち行って来いよ?」
「!、は······宇留くん!」
アンバーニオンが地面に下ろした左手が輝いて、そこから宇留が現れる。宇留は全員に気付いて歩いて向かって来た。
「皆さん!磨瑠香さん!」
磨瑠香も遠慮がちに兄の手の間からテイクオフして向かって行く。
その時何処かで照明弾が暴発して打ち上がり、アンバーニオンの巨体と宇留、そして宇留の胸に輝くロルトノクの琥珀とヒメナを照らし出した。
「あ············」
暗闇に浮かび上がるオレンジ色の琥珀の巨神。
そして晴れ晴れとした表情で堂々と歩む、ずっと想っていた少年。
まるで傍らに寄り添うようにその想い人の胸元で微笑む少女。
それは誰かの完成寸前のパズルのような雰囲気。手が出せない、踏み込めない。
今度はわざと転んでまた支えてもらおうか?
いや
あのコは新しいトモダチ。
そしてもう一度トモダチに戻れた事だけでも
カミサマに感謝しなきゃいけない。
感情が泳ぐ···騒ぐ······
でも······
磨瑠香の足は宇留の少し前で止まってしまった······
「お···かえり!」
「た!ただい···ま?······」
宇留は偶然、磨瑠香の一番かわいいと思う表情で照れる。
心が盛られているのか、抉れているのか分からなくなった磨瑠香は少し冷静になれた。
「······」
「宇留くん!私T都戻る!だから先に行って待ってて!?」
磨瑠香はアンバーニオンに向かって拳を突き上げた。
「うん!俺も戻る!また一緒にガンバろ!?」
「わかった!だから!」
「?」
「だから!それまで···にも······誰にも···」
「······?!」
「誰にも負けるんじゃねーゾ!?」
全員で同時に片膝がカクンと落ちる大人一同。
「な!なんでライバルっぽくなってんだよ?」
落ち込む藍罠の肩を椎山と茂坂がポンと叩いた。
「わかった!また会おう!」
宇留は久しぶりに満面の笑顔になった。
「百題さーーーん!」
宇留は磨瑠香の向こうに居た百題に声を掛ける。百題は涙と眼鏡を拭いていた。
「はい?」
「アンバーニオン!このまま補給の為、軸泉に帰ります!皆さんにどうぞよろしく!」
「え?ええ!困るよ···いきなり····」
指令室で茂坂と百題の音声を拾っていた高官たちはザワめいた。
「そんな!司令!最終局面省とかにどう報告するんですか?!まだ何も···」
「帰るってんだからしょうがないじゃん!今、何時だと思ってるんだ?補給は大事ダヨー?それとも止まった五百八十九トン持ち上げ隊かー?(スットボケ)」
「いや、それは······」
「では皆さん!またいつか!」
「「では宇留くんまた明日以降ーーー!」」
「またなー!」
仲間達と挨拶を交わし、戻って行った宇留が再びアンバーニオンの手に乗ると、宇留は光に包まれて消え、すぐにアンバーニオンが立ち上がった。
ガゥ!オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォ·····。
アンバーニオンは全身を輝かせ、少し長めに吠えるとゆっくりと垂直上昇していく。
ある程度の高度まで上昇すると軸泉市方面、流珠倉洞に向かって飛んで行く。
上居脇神社の境内では、山石 照臣が飛んで行くアンバーニオンの輝きを目で追っていた。
「宇留くん······アンバーニオンか!······」
その時、照臣の手の中で中心に穴が空いて焦げた白いカードが青緑色にボッと燃えて消えた。
「ありゃ?もう終わってる?」
巻沢市上空に戻って来た重翼隊にはそのまま帰投命令が下った。
「うっわ!太陽由来1速っや!」
レーダーのデータをチェックしていた鈴蘭は、補助席からガサゴソと物音がするのに気付く。
「ん?なんだ?」
「あー!追佐和さーん!ちょっと疲れたので送ってってくださーい!」
「なんで音出さんが乗ってんのーーーーー!」
[どうしたー?追佐和ー!]
裂断は珍しくフラフラと飛びながら帰って行く······
巻沢市には灯りが戻り始め、深夜だというのに騒がしくなってきた。
「負けないから······!」
磨瑠香は見えなくなるまでアンバーニオンを見つめていた。
わんちィとパニぃはそんな磨瑠香の後ろでダレニ?ナニニ?と劇中一番のいい笑顔で微笑み合っていた。
一週間後。
I県は住民のイイカゲンニシテの一声で鎖国が解かれ、出入りが自由になった。
アンバーニオンはエネルギーの補給だけではなく、度重なる思重合想と激闘の回復を行う為、琥珀の泉にて暫く静養させておく事に決まった。
宇留達はというと、すぐにでも自宅に戻る為、一旦軸泉を離れる事にした。
祖父の頼一郎達とは家で別れ、神社に寄り、護森達と少し話をしてきた宇留は、柚雲と共に駅のホームに辿り着く。
しかし柚雲は荷物類を持っていない。
三角パタパタ騒動の影響で再就職先に悪影響が出た為、引っ越しは後廻しで早急に職場入りする事になったのだった。
宇留はなんとはなく想像していたが、少し涙腺にちょっとキていた。わかっていた、わかってはいたのだが······いきなり······長年共に暮らしてきた家族との別離、会えなくなるワケでは無い別れでも、進化の根元にはまだ便利な乗り物が認識されておらず長距離イコール再会の可能性の低下が不安として残されているのであろうか?などと考えてみた所で結果は同じだった。柚雲は何かしら話していたが宇留はあまり聞いていなかった。しかしある話が耳に止まる。
「······でね?調べたんだけど、琥珀の元になる樹液って木にとってね?私達と同じで痂と同じ役割があるんだって!だからさ、きっと琥珀のロボットは宇留の心が治るまでのバンソーコーになってくれたんだよ?······ってあー!コッ恥ズカシーーー!」
宇留は様々な思いが重なってもう涙を流すしかなかった。
黙って宇留の頭をワシワシと撫でる柚雲。
「ヒメちゃん、宇留をよろしくね?」
「うん!」
宇留の上着の中でヒメナが答えた。
女性車掌のアナウンスの後、発車のベルが鳴り列車が走り出す。柚雲はいつまでも手を振っていた。
柚雲が見えなくなって程無く駅前の建物風景が切れ、宇留は反対側の車窓から内陸方向、流珠倉洞の方に柔らかな笑顔で視線を向ける。
「···また来るからね?···アンバーニオン!」
よく晴れた春めいた日、しかしこの辺りは暖かくなるには程遠いという。帝国はまだ自分達を狙ってくるだろう。でも今のように自分の力で暖かい場所へ向かう事も出来る。
「ウリュ、海は見えた?」
「うん!待ってて?」
宇留はロルトノクの琥珀を取り出し、琥珀の中のヒメナを窓側に向ける。
車窓には来た時と同じく薄い水色の切なイイ海と空。
「いい人生が出来ますように······」
ヒメナが祈る。その時太陽を反射した琥珀が、これから多くの行く先を示すであろう少年の指先をオレンジ色に照らしていたのだった。
〈つづく〉
神樹のアンバーニオン(1)
完
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