神樹のアンバーニオン

芋多可 石行

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慈しむ龍の剣

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 テットーラが倒れ、一瞬静かになった北部演習場。

〔アンバぁー······ニィオンッ!!······〕

 ガルンが目を覚ますと同時に、アクプタンヘッドの赤い目が再びギラリと灯る。

 地響きがアンバーニオンと重拳チームの足元を揺らし、それは段々と大きくなっていった。
 駐屯地周辺を飛び回っていた送電鉄塔群が次々と砕け、霧状になってテットーラの周辺に集まっていく。
「なんだ!?」
 百題が眼鏡の位置を整える。地響きが一段と大きくなった時、地中から巨大な手が現れた。

 それは大小様々な送電鉄塔を乱雑に組み合わせて固めたような巨人だった。腕に続き、頭部と胸部のみが現れてその形成が止まる。巨人は腕だけでも、テットーラより遥かに大きい。
 アクプタンヘッドはテットーラから外れると、巨人の額に合体した。テットーラだった送電鉄塔は中央の鉄塔を中心に束ねられ、巨人の眼前にに浮かんだ。

「どぉだ!オマエ達が地道に潰していたと思っていた奴らは、砂粒サイズのアクプタンの集合体だったんだ!そいつらは死んでなんかいない!オマエ達はほとんどコイツらを倒してなんかいないんだよぉ!」
 ガルンは自分に言い聞かせるように語る。その時、巻沢市全域が停電し、駐屯地のみが非常用電源で復旧する。
「!、今更遅い!コイツは充分エネルギーを蓄えた。来い!弾丸役ども!」
 しかし小型送電鉄塔は集わない。ガルンは周囲を確認する。
「な······!」
 ガルンの目に映ったのは、目をソイガターに潰され、脱け殻となった小型送電鉄塔の山。ソイガターはその山の上で手で顔を洗う仕草を繰り返している。
 一方わんちィとパニぃは、半透明化し目の瞳孔が✕になりピクピクして動かない小型送電鉄塔の群れを前に、ニヤリとした表情をアクプタンヘッドに向けていた。

「あ!あのネコどもがああ!」
 送電鉄塔の巨人は握った拳で一度地面をズドンと叩き、八つ当たりをする。そしてそのまま浮かんでいるテットーラ弾に手をかざす巨人。
「ならぁ!これでェ!······アンバーニオンッ!これを受け止め切れるかぁー!?ここいらのニンゲン達を吹っ飛ばしたくないよなぁ?!」
 駐屯地や南側方向の街に射線を向け、巨大なテットーラ弾はゆっくりとドリルのように回転を始め赤熱化していく。次第にその輝きは増していき、明かりの消えた巻沢市と上居脇山を赤く照らした。その光景を宇留とヒメナは黙って見据える。
「······」
「まさかここまで来て、重拳オレたちおっり出して自分らアンバーニオンだけで守りますとはいわねーよな?」
 はにかみいさむ藍罠が重拳を操作してみると、アンバーニオンの右腕の重拳が勝手に構えを取った。
「言いませんとも!お願いします!後ろにはみんなが、磨瑠香さんが居るんです。絶対守ります!」
 宇留と藍罠の決意を聞き、ヒメナが詠唱する、
救道スクアドゥ オン イロマム!」
 アンバーニオンの左肩アーマーが前方に倒れ、残された琥珀柱が変化して表面に亀甲のディテールが入った勾玉型のシールドを形成する。
「ヒメナ!」
「一枚だけじゃ不安だけど、ボク達なら出来る。護れるよ!」
「!、よーーーし!来い!」
「おっシャァ!」
 テットーラ弾に面と向かい、アンバーニオン ナックルは堂々と身構えた。
「うぁぁあァ~!クぅタバレぇーーー!!!!」


 宇留······


 テットーラ弾が放たれる瞬間、宇留を呼ぶ声が聞こえた。そしてヒメナがかつて呼んだ丘越 折子の本当の名を宇留は思い出す。

「バジーク···アライズ······?」


 放たれたテットーラ弾は粉々に砕け、全てアンバーニオンの前方数ヶ所に飛び散り爆発炎上した。
 アンバーニオンは宝甲にその炎の揺らめきを美しく照り返らせ、アクプタンヘッドをギッと睨んだ。

「な!なんだとッ!?」

 ガルンがアンバーニオンのその姿に怯む。
 
 救道スクアドゥ オン イロマムに変化していた筈の琥珀柱は大剣に変化し、テットーラ弾を切り伏せて振りかぶられた後のように切っ先は宙を向いていた。

「ああ!ずりーぞ!俺も暴れたかったのに!」
「やぁん!私も藍罠さんと一緒に戦いたかった!」
 小型送電鉄塔の脱け殻山の上で、ソイガターとオドデウスがそれぞれコメントする。

 宇留が気が付くと、ペンダントモードになっていた筈のロルトノクの琥珀は宇留の眼前に浮いて形が変化していた。ヒメナの入った琥珀の下方には剣のグリップのような装飾が形成され、上方には琥珀が剣のように伸びて短剣のような形になっていた。
 よく見るとヒメナの髪が長い。雰囲気も変わっていた。ヒメナ?は振り返り宇留に言葉を掛ける。
「やっと呼んでくれた······」
「ヒメ···ナ?、いや、バジーク···アライズ···オカゴエ···さん?」
「宇留?男の意地もいいけど、アンバーニオンはみんなで戦うのよ?」
 ヒメナの顔でバジークアライズはニコっと宇留に微笑み掛ける。
「!、はい!」


 土地神、丘越 折子こと慈神じじんバジーク アライズはヒメナに宿り、アンバーニオンに慈龍剣じりゅうけんの力を与えていた。


 土地神 ー
 それはかつて都市管理運用AIとして開発され、長い時間の中で自己進化する過程で自我や心、魂らしきものを獲得し万能を超え続けた結果、文明の晩年には崇拝すらされていた亜神化した力そのものである。
 一度文明は滅び、システムは崩壊し、プログラムをこの世界そのものに移した今でもその力は存在し、新たな人々の心に拠り所になっているのである。
 土地神が守護者との盟約により、護る為の力を思重合想シンクロスコラボイドする時、最終局面省認定終結現象にも指定されている、土地神精霊具現想武技ゲニウスロキイメージングウェポンが出現する。

 ひょっとしたらあなたの好きな場所にも······

「ーなーんて!仰々しい名前が付いてるけど、あなた達人間がいつもやってることと同じよ?」

 宇留は琥珀の短剣を手に取り、天にかざす。アンバーニオンもそれに習い慈龍剣を掲げると、先程砕けたもう一方の琥珀柱の欠片が慈龍剣に集い融合し、剣はアンバーニオンの身長よりも巨大化した。




 重拳の腕は慈龍剣を軽々と扱い剣を後ろ手に構える。半身の向きを入れ換えたアンバーニオンの左手の爪五つがオレンジ色に輝き、送電鉄塔の巨人を掴むイメージでくうを握る。

「「鼈甲空間キャンディフィールド!」」

 ヒメナとバジーク アライズの声がハモって聞こえると同時に、巨大なオレンジ色の梵字五つが送電鉄塔の巨人に張り付き拘束した。

 バギシィィィッ!

「おのれ!洞窟と同じ手をぉ!」
 ガルンが憤ると鼈甲空間に潰されつつある送電鉄塔の巨人も苦悶した。
「詠唱を!その技、すなわち·····!」
 バジーク アライズから周囲で戦っている者全ての魂に想文が着信する。
 敵目掛け飛び込んで行くアンバーニオン。
 宇留と全員が、その技を声と共に押し込んだ。



琥珀王アンバーーーニオン! 琥珀慈龍剣斬コハクラッシュッッ!!!」

 ズ!バッシュッッ!!!


 キギョォアァァァァァァーーーーーーーー!!!!!

 断末魔を上げた送電鉄塔の巨人は一撃で袈裟斬りに両断され、斬られた部分から連続で大爆発を起こしていく。
 アンバーニオンは振り返り慈龍剣を掲げた。それを遠くで見ていた磨瑠香は笑顔とガッツポーズで応える。

 ドグァァァァァーーーン!!!

 アンバーニオンの背中で、送電鉄塔の巨人は大爆発を起こして消滅した。

















 アクプタンヘッドの内部ではガルンが送電鉄塔の巨人の爆発を確認していた。
 しかし外の時間の進みが遅い。ガルンが再び憤る。
「おのれ!土地神ッ!脱出の余裕を与えるとはッ、余計な情けをぉぉお!くそぉう!」
「······ガルン···撤退だ···」
「エシュタガ!目が覚めたの?!」
「俺の不手際だ。真剣じゃ無かったな······」
「まだやれる、アクプタンだけになっても···」
 その時エシュタガの鼓膜に通信が入る。
「エシュタガ?今いいかしら?」
「クイスラン!」
「戻って来て?次段階の目処が立ったわ?」
「どういうことだ?」
「······ガルンシュタエンの······そして、あのお方の復活よ」
「!······」
 エシュタガは目を見開いた。
「エシュタガ!?」
「戻るぞ!ガルン!······いつまでもお前をアクプタンなんぞの体に入れて置くわけにはいかんからな······」
 エシュタガはガルンに優しげに微笑んだ。
「エシュタガ······!」

 爆発のどさくさに紛れ、送電鉄塔の巨人から離れたアクプタン マスターは、光学迷彩を使用して密かに巻沢市から飛び去って行った。









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