42 / 44
慈しむ龍の剣
しおりを挟むテットーラが倒れ、一瞬静かになった北部演習場。
〔アンバぁー······ニィオンッ!!······〕
ガルンが目を覚ますと同時に、アクプタンヘッドの赤い目が再びギラリと灯る。
地響きがアンバーニオンと重拳チームの足元を揺らし、それは段々と大きくなっていった。
駐屯地周辺を飛び回っていた送電鉄塔群が次々と砕け、霧状になってテットーラの周辺に集まっていく。
「なんだ!?」
百題が眼鏡の位置を整える。地響きが一段と大きくなった時、地中から巨大な手が現れた。
それは大小様々な送電鉄塔を乱雑に組み合わせて固めたような巨人だった。腕に続き、頭部と胸部のみが現れてその形成が止まる。巨人は腕だけでも、テットーラより遥かに大きい。
アクプタンヘッドはテットーラから外れると、巨人の額に合体した。テットーラだった送電鉄塔は中央の鉄塔を中心に束ねられ、巨人の眼前にに浮かんだ。
「どぉだ!オマエ達が地道に潰していたと思っていた奴らは、砂粒サイズのアクプタンの集合体だったんだ!そいつらは死んでなんかいない!オマエ達はほとんどコイツらを倒してなんかいないんだよぉ!」
ガルンは自分に言い聞かせるように語る。その時、巻沢市全域が停電し、駐屯地のみが非常用電源で復旧する。
「!、今更遅い!コイツは充分エネルギーを蓄えた。来い!弾丸役ども!」
しかし小型送電鉄塔は集わない。ガルンは周囲を確認する。
「な······!」
ガルンの目に映ったのは、目をソイガターに潰され、脱け殻となった小型送電鉄塔の山。ソイガターはその山の上で手で顔を洗う仕草を繰り返している。
一方わんちィとパニぃは、半透明化し目の瞳孔が✕になりピクピクして動かない小型送電鉄塔の群れを前に、ニヤリとした表情をアクプタンヘッドに向けていた。
「あ!あのネコどもがああ!」
送電鉄塔の巨人は握った拳で一度地面をズドンと叩き、八つ当たりをする。そしてそのまま浮かんでいるテットーラ弾に手をかざす巨人。
「ならぁ!これでェ!······アンバーニオンッ!これを受け止め切れるかぁー!?ここいらのニンゲン達を吹っ飛ばしたくないよなぁ?!」
駐屯地や南側方向の街に射線を向け、巨大なテットーラ弾はゆっくりとドリルのように回転を始め赤熱化していく。次第にその輝きは増していき、明かりの消えた巻沢市と上居脇山を赤く照らした。その光景を宇留とヒメナは黙って見据える。
「······」
「まさかここまで来て、重拳おっ放り出して自分らだけで守りますとはいわねーよな?」
はにかみ勇む藍罠が重拳を操作してみると、アンバーニオンの右腕の重拳が勝手に構えを取った。
「言いませんとも!お願いします!後ろにはみんなが、磨瑠香さんが居るんです。絶対守ります!」
宇留と藍罠の決意を聞き、ヒメナが詠唱する、
「救道 の 護!」
アンバーニオンの左肩アーマーが前方に倒れ、残された琥珀柱が変化して表面に亀甲のディテールが入った勾玉型のシールドを形成する。
「ヒメナ!」
「一枚だけじゃ不安だけど、私達なら出来る。護れるよ!」
「!、よーーーし!来い!」
「おっシャァ!」
テットーラ弾に面と向かい、アンバーニオン ナックルは堂々と身構えた。
「うぁぁあァ~!クぅタバレぇーーー!!!!」
宇留······
テットーラ弾が放たれる瞬間、宇留を呼ぶ声が聞こえた。そしてヒメナがかつて呼んだ丘越 折子の本当の名を宇留は思い出す。
「バジーク···アライズ······?」
放たれたテットーラ弾は粉々に砕け、全てアンバーニオンの前方数ヶ所に飛び散り爆発炎上した。
アンバーニオンは宝甲にその炎の揺らめきを美しく照り返らせ、アクプタンヘッドをギッと睨んだ。
「な!なんだとッ!?」
ガルンがアンバーニオンのその姿に怯む。
救道 の 護に変化していた筈の琥珀柱は大剣に変化し、テットーラ弾を切り伏せて振りかぶられた後のように切っ先は宙を向いていた。
「ああ!ずりーぞ!俺も暴れたかったのに!」
「やぁん!私も藍罠さんと一緒に戦いたかった!」
小型送電鉄塔の脱け殻山の上で、ソイガターとオドデウスがそれぞれコメントする。
宇留が気が付くと、ペンダントモードになっていた筈のロルトノクの琥珀は宇留の眼前に浮いて形が変化していた。ヒメナの入った琥珀の下方には剣の柄のような装飾が形成され、上方には琥珀が剣のように伸びて短剣のような形になっていた。
よく見るとヒメナの髪が長い。雰囲気も変わっていた。ヒメナ?は振り返り宇留に言葉を掛ける。
「やっと呼んでくれた······」
「ヒメ···ナ?、いや、バジーク···アライズ···オカゴエ···さん?」
「宇留?男の意地もいいけど、アンバーニオンはみんなで戦うのよ?」
ヒメナの顔でバジークアライズはニコっと宇留に微笑み掛ける。
「!、はい!」
土地神、丘越 折子こと慈神バジーク アライズはヒメナに宿り、アンバーニオンに慈龍剣の力を与えていた。
土地神 ー
それはかつて都市管理運用AIとして開発され、長い時間の中で自己進化する過程で自我や心、魂らしきものを獲得し万能を超え続けた結果、文明の晩年には崇拝すらされていた亜神化した力そのものである。
一度文明は滅び、システムは崩壊し、プログラムをこの世界そのものに移した今でもその力は存在し、新たな人々の心に拠り所になっているのである。
土地神が守護者との盟約により、護る為の力を思重合想する時、最終局面省認定終結現象にも指定されている、土地神精霊具現想武技が出現する。
ひょっとしたらあなたの好きな場所にも······
「ーなーんて!仰々しい名前が付いてるけど、あなた達人間がいつもやってることと同じよ?」
宇留は琥珀の短剣を手に取り、天にかざす。アンバーニオンもそれに習い慈龍剣を掲げると、先程砕けたもう一方の琥珀柱の欠片が慈龍剣に集い融合し、剣はアンバーニオンの身長よりも巨大化した。
重拳の腕は慈龍剣を軽々と扱い剣を後ろ手に構える。半身の向きを入れ換えたアンバーニオンの左手の爪五つがオレンジ色に輝き、送電鉄塔の巨人を掴むイメージで空を握る。
「「鼈甲空間!」」
ヒメナとバジーク アライズの声がハモって聞こえると同時に、巨大なオレンジ色の梵字五つが送電鉄塔の巨人に張り付き拘束した。
バギシィィィッ!
「おのれ!洞窟と同じ手をぉ!」
ガルンが憤ると鼈甲空間に潰されつつある送電鉄塔の巨人も苦悶した。
「詠唱を!その技、すなわち·····!」
バジーク アライズから周囲で戦っている者全ての魂に想文が着信する。
敵目掛け飛び込んで行くアンバーニオン。
宇留と全員が、その技を声と共に押し込んだ。
「琥珀王! 琥珀慈龍剣斬ッッ!!!」
ズ!バッシュッッ!!!
キギョォアァァァァァァーーーーーーーー!!!!!
断末魔を上げた送電鉄塔の巨人は一撃で袈裟斬りに両断され、斬られた部分から連続で大爆発を起こしていく。
アンバーニオンは振り返り慈龍剣を掲げた。それを遠くで見ていた磨瑠香は笑顔とガッツポーズで応える。
ドグァァァァァーーーン!!!
アンバーニオンの背中で、送電鉄塔の巨人は大爆発を起こして消滅した。
アクプタンヘッドの内部ではガルンが送電鉄塔の巨人の爆発を確認していた。
しかし外の時間の進みが遅い。ガルンが再び憤る。
「おのれ!土地神ッ!脱出の余裕を与えるとはッ、余計な情けをぉぉお!くそぉう!」
「······ガルン···撤退だ···」
「エシュタガ!目が覚めたの?!」
「俺の不手際だ。真剣じゃ無かったな······」
「まだやれる、アクプタンだけになっても···」
その時エシュタガの鼓膜に通信が入る。
「エシュタガ?今いいかしら?」
「クイスラン!」
「戻って来て?次段階の目処が立ったわ?」
「どういうことだ?」
「······ガルンシュタエンの······そして、あのお方の復活よ」
「!······」
エシュタガは目を見開いた。
「エシュタガ!?」
「戻るぞ!ガルン!······いつまでもお前をアクプタンなんぞの体に入れて置くわけにはいかんからな······」
エシュタガはガルンに優しげに微笑んだ。
「エシュタガ······!」
爆発のどさくさに紛れ、送電鉄塔の巨人から離れたアクプタン マスターは、光学迷彩を使用して密かに巻沢市から飛び去って行った。
0
あなたにおすすめの小説
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活
まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳
様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。
子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開?
第二巻は、ホラー風味です。
【ご注意ください】
※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます
※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります
※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます
第二巻「夏は、夜」の改定版が完結いたしました。
この後、第三巻へ続くかはわかりませんが、万が一開始したときのために、「お気に入り」登録すると忘れたころに始まって、通知が意外とウザいと思われます。
表紙イラストはAI作成です。
(セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ)
題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております
異世界ランドへようこそ
来栖とむ
ファンタジー
都内から車で1時間半。奥多摩の山中に突如現れた、話題の新名所――「奥多摩異世界ランド」。
中世ヨーロッパ風の街並みと、ダンジョンや魔王城を完全再現した異世界体験型レジャーパークだ。
26歳・無職の佐伯雄一は、ここで“冒険者A”のバイトを始める。
勇者を導くNPC役として、剣を振るい、魔物に襲われ、時にはイベントを盛り上げる毎日。
同僚には、美人なギルド受付のサーミャ、エルフの弓使いフラーラ、ポンコツ騎士メリーナなど、魅力的な“登場人物”が勢ぞろい。
――しかしある日、「魔王が逃げた」という衝撃の知らせが入る。
「体格が似てるから」という理由で、雄一は急遽、魔王役の代役を任されることに。
だが、演技を終えた後、案内された扉の先にあったのは……本物の異世界だった!
経営者は魔族、同僚はガチの魔物。
魔王城で始まる、まさかの「異世界勤務」生活!
やがて魔王の後継問題に巻き込まれ、スタンピードも発生(?)の裏で、フラーラとの恋が動き出す――。
笑えて、トキメいて、ちょっと泣ける。
現代×異世界×職場コメディ、開園!
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
秘書と社長の秘密
廣瀬純七
大衆娯楽
社内の調査のため、社長・高橋健一はこっそり秘書・木村由紀と不思議なアプリで入れ替わることに。
突然“社長役”を任された由紀と、自由に動ける立場を手に入れた高橋。
ふたりの秘密の入れ替わり作戦は、どの様な結末になるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる

