くのこは奇妙現象集

芋多可 石行

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輪 切 り

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 あまり長く一つの街に暮らし過ぎていると、近距離ドライブに限って大抵の所には行き飽きちゃって······


 、という訳でドライブが趣味のWさんの近距離ドライブの目的に、重箱の隅をつつくような新しい項目が加わりました。
 行き飽きてしまった場所でも、もし何処かの道の途中で遊歩道らしき道を見付けたら、そこから先を歩いてみる。という目的です。


 なんとなく遊歩道っぽい脇道については覚えがあったんで、なんとなく見当は付けといたせいかピックアップははかどったですね。なんか楽しくて。
 マップの衛星写真を眺めたり、立ち入っていいのか調べたりとか······

 それで、次の休みに行ってみたのは隣街の海沿いを走る道路の駐車帯から、下へと降りていく事が出来る遊歩道ですよ。
 案内看板によると、岬の先と手前にある浜を行き来する遊歩道に繋がる階段になっているようでした。
 海沿いと言っても道路の標高は結構高くて道路は峠みたいだし、降りていく階段も結構な段数がありそうだとその時は思いましたね?


 Wさんが階段を降りて遊歩道へと辿り着くと、例の如くと言ってはおかしいですが遊歩道は異様な雰囲気に包まれていました。

 
 なんていうか?まぁ登山道をやや平面にしたようなよくある遊歩道なんですけどね?なんか何処かから風が通り抜けているようなコーフーコーフーって音というか、息遣いみたいなのがうっすら聞こえるんですよ。まぁ天気も良かったし気のせいだろと思って、とりあえず岬方面にでも行こうかなと決めたんです。

 遊歩道の風景を眺めながら少し歩いてたら、なんか違和感があって二~三歩戻りました。木、あるじゃないですか?普通の木、なんて木かはわかんないんですけど、海側に下って行く斜面に生えたその木の幹にですね?なんか他の木の枝とか葉とかの影が映ってる事あるじゃないですか?そこいら辺ももう森みたいでしたし、で、その映ってる影。
 枝に止まった小鳥の影だったんですよ。


 Wさんはふと眼に止まった木の幹に、枝に止まった小鳥の影が揺れている事に気が付きました。


 ただ、それだけなんですけどね?その影が風に揺れてるだけだったら、他の木の枝とか葉っぱとかがそう見えるだけなんだろうと思ってたんですね?
 でもその影?、本当に鳥みたいに動いたので!ちょっと羽根をバタつかせたり、クチバシで自分の体つっついたり!
 それで、影の元を探しますよね普通。近くに居るんじゃないかって。
 振り返ったり、上を向いたり、他の木の枝だけじゃなくて、その木の枝とかも探すんですけど·····鳥は何処にも居ない······。


 Wさんはすぐ近くに居るであろう影の主である小鳥を探しますが、その小鳥は一向に見つかりません。Wさんがその状況に戸惑っていると、ふと一歩、その木に歩み寄ってしまいます。


 そのまま色々眺めてたら?ズルッと滑っちゃって!、木の生えてる斜面に滑って落ちちゃったんですけど、止まらないんです。
 なんか、氷の上か、石鹸の上か、ってくらい!落葉とか草とか小枝とか石とか、普通はそういう所に引っ掛かって止まりそうなものだと思うんですけど、全然止まらなくて、どんどんその木が小さくなってくんですね?ああヤバい!落ちる!って······
 そのうちドズッと脇腹に何かがぶつかりました。他の木です。
 すぐに激痛を覚悟したんですけど、その木の表面すらズルルっとゆっくり弾かれてまだ下に滑ってったんです。それにいくら待っても痛くならない!
 滑ってる地面も見た目は普通の森の斜面で、氷ってるとか···ああ!当時は冬じゃ無いですよ?、あと何かの粘液が溢れてるとかも無くて、世界がバグってるんじゃねーか?とか考えながら滑ってったんでスよね?
 それで !ついに下まで滑り落ちちゃったんですけど······


 Wさんが滑り落ちた先には、広大な砂浜。そして海が待ち構えていました。


 海が見えた時、マジか!ですよ?このまま止まらないでドボンとかあり得ないだろうって!もう怖くって!
 けど幸いというか、何故か砂浜に突入した頃から減速が始まって、波に押し返されて若干盛り上がった砂の返しみたいな所でやっと止まれたんですね?
 ホッとして立ち上がろうとしたら、靴の爪先がズルッとしたので!うわ!まだダメか!ってもうパニックですよ!
 砂なのに体は少しも地面にめり込まないし!なんだコレって!?下手すればせっかく止まったのに海の方へまだ滑ってきそうだし!海水の中は中で、どんな事になるんだ?とかその時は色々考えが巡ってグルグルでしたよ!

 そのままもう身動き一つ出来なくなったのは言うまでも無いです······

 どうしようかとか、天気が悪いなとか?こんな事あり得ないとか途方に暮れてたんですよね勿論。気を抜くとまた海の方へ滑り出しそうでもう···
 そうしてただ黙ってたらですね?さっきのコーフーっとか聞こえてた息遣いみたいな音がするのに気が付いたんですよ。
 そん時は寝そべってたんですけど、じわりじわりと首を上げて海の方を見てみました。


 僅にもやのかかる海上には、海苔巻きの化け物としか例え様のない生物がWさんを見ていたと言います。


 なんか茶色い肉を表面がゴツゴツした海苔で巻いたような、バカデカイ芋虫みたいなのが海面から体を突き出してこっちを覗き込んでました。
 靄で良く見えなかったんですけど?頭?かな?茶色い肉の部分は薄皮で覆われてるようなんですけどなんか痛々しくて、中央に口みたいな小さい穴と、その上に白いワンポイントの模様?ですかね?なんかそこが眼?って印象でした。
 なんか海苔肉巻きみたいだな?って思いながら固まってましたね?
 でもあれ?怪獣なのにあんま怖くないな?って第一印象でした。やっぱり殺気とか敵意とかの有る無しって本当にあるんだなとか考えたり?

 
 ですがWさんがもう少し体を起こして怪物の周囲を見ると、その光景に唖然としました。


 いっぱいね?いるんですよ。
 同じのがソイツの向こうで飛んだり跳ねたり、海面に体を突き上げたり、追いかけっこしたり。
 でもですね?直径五十メートルくらいある輪切りになった芋虫みたいな怪獣の群れがあんなに海で暴れて遊んでるのに不思議と波風が立ってなくて?今思えばそこだけちょっと不思議ですね?でもまぁそんな状況良くは無い?とは思うんですが、良かったのはそこまででして······
 
 ボゥ!
 と、いきなりソイツが一声、そこで鳴いたんですよ。
 
 ああ、仲間を呼んだな?と思いました。
 すぐにみんな遊ぶのを止めてこっちに近寄って来た時はちょっと神経がどうにかなりそうだったんですけど、未だに砂浜はツルツルだし動きようがなくて、ソイツらが集団でこっちを高いトコから見下ろすのを黙って見てるしかなくてですね?···
 

 しばらくWさんを観察していた怪獣達でしたが、何を思ったか一頭、また一頭と海中に潜り始めます。


 なんか気付いたら奥の方に居るヤツから順に海に潜り始めてたんですよ。
 最初に会ったヤツも後退りするように海に沈んで行きました。
 ソイツが潜って消えた時に気付いたんですけど、ソイツらなんか?潜ったり浮き上がったりしながら動いていたんで何やってんだろ?と注意深く見てたんですよ。
 そしたら、あれ···アイツら繋がってってないか?って形と動きしてて···。
 遅いジェットコースターみたいに海中から飛び出しては潜りを繰り返しながら顔?でいいんですかね?輪切りになったトコ?で明らかに繋がってて······最終的に頭の無いデカいヘビみたいなのになったアイツらがスッ···と先端を海上に向けたんですよ。

 そして、そのままドプンと先端を海中に沈めるとですね?何かを探すようにゴソゴソと海中に沈めた先端を動かしてたと思ったら、用が済んだように先端の方を海上に引き上げる感じで動いてから?えっと、そこでですね?なんかもう一匹先端にくっ付いてたみたいにぃ···見えたん···ですけど······?


 そこで急に、Wさんを取り巻く状況が変わったそうです。


 その先端に追加されたヤツ?なのかはわからないんですけど、ツノ?が見えたな~と思ったら、自分、いきなり違う海岸に居て!
 あれ?って思って体を動かしたら地面が全然ツルツルじゃない普通の砂浜で!?
 良く周囲を見たら見慣れた岬の方の海岸なんですよね?いきなり夕方になってて面くらいましたけど······

 結局あの変な海岸に落ちてから七時間近く経ってまして!?道路伝いに歩いて車まで戻って帰れたからイイんですけど?

 こんなウソの夢みたいな話で良かったですか?なんなら痛く無いのに出来てた脇腹のアザとかも見てみますか?



 アザの拝見まではお断りさせて頂きました。
 Wさんが遭遇した奇妙な空間に現れた存在。
 Wさんはその後、両親にもこのお話をしてみた所、その岬の神様では?という推論に至り、形だけでもお礼の参拝をしようと目につく祠を探して再び岬の方へと車を走らせました。
 Wさんはもしかして?という道路際にある祠も覚えていたので、そこを目的地にする事にしたそうです。

 するとそこそこ大きな祠を祀るその鳥居の周囲には黄色い規制線が張られ、立ち入り禁止になっていたといいます。
 車内からパッと見えた木製の祠は砕け散ったように崩れ、何か大変な事があったのは明らかだったそうです。


 Wさんの身に起こった出来事とは一体なんだったのでしょうか?
 その奇妙な世界の住人に、Wさんがお礼出来る日が来る事を、切に願います。
 

 
 
 

 





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