くのこは奇妙現象集

芋多可 石行

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絆 の ト ゲ

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 閲覧注意。






          *


 とある本を、こちらでお預かりしています。




 とりあえず、この本は何処でも作れるような厚さ五センチ程のハードカバーの装丁が施された一見普通の本に見えます。
 
 しかしこの本は、どんなに取り除いたとしてもカバーから滲み出る生乾きの泥で覆われるという異常な性質を示しています。ご紹介しているこの段階で発生原理は不明です。
 青いカバーの表表紙、背表紙、裏表紙の表のみに現れる泥の最大総量は平均六十グラム前後。除去後約一ヶ月程かけてその分量まで発生したのち増量は停止し始めます。

 除去した泥の下からから読み取れた本の名は、
 “ハブツグホッユトゥの襲い„。

 タイトルと言っても、手書きのサインペンであまり達者ではない文字で表表紙のみに書かれたそのタイトルが本当のものなのか、カバーなどがかつて存在したのかどうかは不明です。
 出版記録等も確認出来ませんでした。

 隠し事が大好きな我々の分析者によると、泥の成分は何処にでもあるありふれたものらしいのですが、水田の泥のようでいて塩分が多く含まれ、汚染物質が無ければ生物の痕跡も無いという安心という心配を招く奇妙な物質だと聞きました。
 そんな自汚的とでも言える本にも関わらず、無線綴じで繕われた中身のこの本は殆ど劣化しているように見えません。

 目次が無く、活字で印刷された本の中身は大きく三章に別れています。


 解読困難な未知の文字、文章から構成される前章。

 タイトル同様日本語で書かれた三編によるドキュメント的ストーリーからなる中章。

 アラビア数字を適当に並べただけに見える暗号文?の後章。

 当然ではありますが様々な機関で解析が進行中です。



 さて、このような内容ですと分かりやすいものは中章のみという事になりますが、ご紹介にあたり上から許可が下りたのは一編のみでした。
 残り二編は誰か、または大衆が知り得る事で、何らかの世界的危機発生の可能性があると判断されたからです。

 ここからは中章の内の一編。

 絆のトゲ。

 について簡単にご紹介します。


          *



 劇中ではパンデミックにより、ある伝染病が流行しています。
 登場するウィルスは血縁関係者と異性以外、人と人が出会うと感染している方、もしくは感染者同士の両方が凶暴化して殺し合いにまで発展するという、危険な症状を示しています。
 先に血縁関係者、異性以外は安全という書き方をしましたが、凶暴化のリスクが極端に低いというだけで、無症状化の可能性は百パーセントではありません。現に家族同士で犠牲者が出たという描写も存在します。
 劇中の世界観では、既にこの病原体に対応した社会が構成されており、我々の世界と比べてよりパーソナルかつ公衆衛生的な、孤独を尊ぶ社会感が詳細に描写されているように見えます。
 そんな社会で、感染者であり主人公の“僕„は一人の女性と出会います。この世界では安全を見極める為、他人との接触は遠隔制御による機械を通して公的なチェックが必要なのですが、女性はパンデミックは既に終結していると主人公に語りかけます。
 現に、例え異性相手だとしてもタブーとされる行動を試してみても、主人公に凶暴化の兆候は無かったのです。

 これは個人的感想になります。主人公はくしゃみや耳鳴りで他人から自分への陰口や噂話を感知出来る能力を持っているのですが、この能力が効果的に生かされているシーンは物語全体のボリューム的にも少なく、必然性が感じられない部分が残念でした。

 やがて二人は世界の真実に迫っていくのですが······

 と、いう所でご紹介を止めておきます。
 たとえ存在しない物語であっても、ネタバレは礼儀に反するというのが私ドモの考えでございます。
 閲覧を禁止されていル本を相手に確認する術も無くネタバレもッタクレもあるか!と思われる方もいらっしゃるのでしょうガ、コレハあなたのタメナノ!知り合いの妄想家が、この本は本当は何処か異世界に埋まっていて、影の魂だけがこちらにキテイルといふ考えがじつに的を得ているナと私はオモフのであ。




          *




 皆さんこんばんは、管理人の競流です。

 大丈夫ですか?凶暴なお気持ちになっていませんか?もしそんなお気持ちであれば冷静になってぜひ落ち着いて頂ければ幸いです。もう大丈夫ですのでぜひご安心して、ですが決して警戒心だけは緩めぬよう、続きをお読み下さい。


 *印の間に描写されていましたのは、
 奇書、ハブツグホッユトゥの襲い。
 の序文を抜粋したものです。
 私の解説文ではありません。


 ハブツグホッユトゥの襲いは表紙に泥が溢れる訳でも、異世界由来でも無い、著者不明ではありますが過去に少数自費出版された普通の本です。
 しかしながら、この本の一冊は我々の手元、コレクター、警察の保管する証拠物品、閉鎖した地方の図書館、廃墟など様々な場所を渡り歩き、少なからず所有者に何らかの悪影響を与え続けているようなのです。
 そしてこの一冊は現在、我々の手元にありません。
 我々の上層部は全十五冊の所在を早急に確認するよう関係各方面に指示しました。ですがこの一冊だけがどうしても発見出来なかったのです。
 そして先日、警察が乱闘事件を起こしたある少年の自宅から泥まみれの本を回収したとの報告が入りました。犯人である少年の自宅から押収された異様な物品。警察は泥の成分を知りたかったようですが、いつの間にかその本は警察署から消失し、行方が分からなくなったのです。
 そしてその本がハブツグホッユトゥの襲いであったのかどうか···泥の下のタイトル同様、今となっては不明のままです。



 皆さんも空想と現実の区別はしっかりとご判断頂き、不自然に泥まみれの本にはぜひご注意下さい······。

 フ···フフふ············













 
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