くのこは奇妙現象集

芋多可 石行

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監視カメラ

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 過去に勤めていたブラック企業において、不本意ながら不法投棄の片棒を担がされてしまっていたというLさん。
 彼がその会社で最後に携わってしまった違法行為の最中に目撃してしまった異常な存在とは···?


「少し昔の事ですけど···最悪なクレーンゲーム。って今では呼んでます。あれは···」


 事情が事情だけに、比較的軽微な罰則を以て罪を償ったというLさん。
 詳細な場所などを読者の皆様にお伝えしないという約束の下、その時起こった事をお話して下さいました。


「捨てに行くぞっていう先輩の指示で、軽トラに事業系の廃材を積み込みました。その時は普通にゴミ処理場とかリサイクルセンターに持って行くもんだと思ってました。でも未舗装の道路を日が暮れるまで長々と走ってようやく着いた所は只の林道脇で、この下に処理場があるんだヨって騙されて暗い斜面の下にポンポンとブン投げるよう指示があったんです。毎回毎回明らかに違う場所だったんで、そんな搬入形態の処理場が幾つもポンポンポンポンあってたまるか?!って思ったんですけど、その先輩がどうもDQNっぽくて、揉めたくなくて指摘しづらかったっていうのも変な話なんですけどね?あ!絶対マネしちゃいけませんよ?!···それで最後に連れて行かれた時、もうこんな変な感じの仕事なら辞めていいし、捕まってもいいから次の休みの日にタレこんじゃおうと思って、妙に開き直ってたんですね?」


 やがて迎えた勤務最終日と決めたその日。
 裏道、回り道、私道不法走行、時間稼ぎ······実に回りくどい方法で辿り着いたその道路は、通行止めの廃道に沿った海沿いに向かって降りて行く道だったそうです。

 
「当時の先輩に言われた手口の詳細は省きますが、どうにか誰にも見つからないようにその道に入りました。さっきも言いましたがこっちも開き直ってたんで、そのせいか先輩もすっかり勘違いして問題発言連発ですよ?こっちが証拠録音してるのにも気付かないで。何がサマになってきただよ?!ってね?!やっぱり悪い事させてたって自覚があったんじゃねーか!って感じですよ!···で、その道を進んでたら急に先輩が軽トラを徐行させ始めて···」


 車両を減速させたその先輩は、何かを探しているようです。
 するとLさんが驚くのも構わず、先輩は車両を思いがけない方向に向けました。


「軽トラを徐行させてた先輩がいきなりココだ!って言っていきなり草むらに軽トラを侵入させたんです。ウオオって思って驚いたんですけど、その草むら、なんか道だったんですよ!」


 車体の下を擦る不快な草木の音。
 かつて道だったらしい草むらを通り抜けた車両は、新たな道に侵入しました。
 

「草むらを50メートル位走って抜けたらいきなり、ボロボロのアスファルト道になったんです。今思えば道の入り口を意図的に潰してたんじゃないかな?入られても困るし入れなくても困るみたいな?入ってすぐタイヤがチャリっと鎖を踏む感覚があったんですけど、多分あれ封鎖用の鎖だったんでしょうね?それからちょっと走った時ですよ。アレを見たのは···」


 夕闇が忍び寄る薄暗い森に伸びる林道。先輩は静かに車を停車させ、Lさんにアレを見ろと外の何かを探させたそうです。


「先輩が小声で恐る恐る指し示した所を見たら、なんか変なのが上から吊られてたんです。クレーンのフックの先っちょみたいな?でもなんか虫の口先みたいな顎というか爪というか骨というか白い肉みたいな?アレはぁ?挟む為···なのかなぁ?とりあえず牙を二つ持った生き物っぽいけど鎖みたいなので上からぶら下がってるしで良くわからないのが居たんです」





 先輩はLさんに静かに車を降りるよう促すと、荷台の覆いをコソコソと外し、試しに軽めのゴミ袋を【フック】の下に投げてみるよう指示しました。道は丁度【フック】に向かってやや傾斜していた為、試しに放り投げたゴミ袋は、地上4メートル程にぶら下がっている【フック】の真下に転がっていきます。


「そしたら予想通りというか、アレが凄い速さで下がってゴミ袋をガブッと噛むように掴んだというか咥えたというか?とにかく上に持っていったんですよ!動きも素早かったですけど上昇していく速度もハンパなくて!んでもって最初は木の枝とかにぶら下がってるのかなと思ってたんですけど、もっと高い所からぶら下がってたっぽいですねぇ!?でももうすぐ夜だったし、木の枝は繁り放題だし、何処に行ったのかもわかんなかったんですよね?」


 Lさんが驚いていると、先輩は何事も無かったかのように次の指示を出しました。


「先輩があれを見ろって言うからその方を見たんですよ。そしたらさっきの【フック】が奥の方にもいっぱい居るんですよ!なんか果物みたいに沢山実がってるって感じでぇ······」

「全部、喰わすぞ?」
 先輩はLさんに一言だけ、事務的に指示しました。
 ところが車両に乗り込み、次の【フック】に近付こうとしたその時、先輩を悲劇が襲います。

「軽トラに乗り込もうとした先輩がいきなり降ってきたあいつらに持って行かれちゃったんです。自分の方にも降って来たヤツは自分の代わりに助手席の開いてるドアを咥えて持って行きました。ガラスが割れてあちこち切っちゃうし、ドアを無理矢理引き千切って持ってくもんで、あいつら軽トラを片輪浮かせる程の力があるらしくて、もう!怖くて怖くて!先輩が逆バンジー状態で絶叫が遠ざかってくもんですからパニックになっちゃって!なんでその時軽トラ運転して前に行ったんだろうって自分でもおかしいと思いますよぉ···」

 
 パニックになったLさんは、道を戻るのも忘れ、恐怖の林道を突き進んでしまいます。
 その途中にも車両は【フック】の襲撃を受け、後輪は時折浮き、フロントガラスは割られ、天井はひしゃげ、牙で穴が空きます。


「逃げて走ってたら、信じられない位に赤い夕焼けで染まったバカデカイ橋が見えたんですよ。解体途中なのか途中折れて鉄筋が剥き出しで。それで遠目で良く見えづらかったんですけど、その橋からもあいつらがぶら下がってるのが見えた気がして···」


 解体途中と思われる橋と、その橋からもぶら下がっていた【フック】の群れ。
 Lさんはその光景に見入ってしまい、前をよく見ていませんでした。


「知らない内にY字路の右側に進んじゃってて、なんかコンクリート製の生け簀?に突っ込んで停まったんです」


 その生け簀らしき跡があったのは、廃墟のような民家の庭でした。
 Lさんは痛む体で周囲の確認を行います。暫く様子を見ていましたが、あれだけあった【フック】の猛攻は影を潜めています。


「民家の様子を見ていたら、なんか光が隙間から漏れてるんで?ヒト住んでるのかなって思いました。あの照明消してテレビだけ付けてるだけのあの光?でも随分と派手な音がしたのになんで庭に出て来ないんだろう?って思いながらどうしようか迷ってました」


 そのうちLさんは、意を決して民家に助けを求めようとしました。
 灯りが漏れる玄関前まで行ったものの施錠されており、玄関は開きません。声を出せば【フック】に見つかるような気がしたLさんは、他の出入口を探します。


「···廃屋の裏に回ったら、壁に大きな穴が空いてたんでそこから中に入りました。でも変な家なんですよね?外見は民家ですけど、民家というよりは事務所とかの土足で入れるような家で···」


 薄暗く奇妙な民家の中を、隙間から漏れる灯りを目指して進むLさん。
 暗幕の隙間からようやく灯りの正体を目にしたLさんは、その意外な光景に目を疑いました。


 「テレビの灯りの正体は、全部監視カメラのモニターの灯りだったんです」

 モニターにはおぞましい光景が映っていました。
 密閉された貯水槽の中で蠢く無数の【フック】幼体らしきもの。森を映した暗視定点カメラ。Lさんが通って来た道を映す監視カメラ。画面いっぱいに映った明らかに巨大サイズの【フック】。そして解体途中の橋を映す定点カメラモニターの一つを見たLさんは愕然としてしまいます。


「橋の付け根というか、暗がりの奥の方になんかヤバいのが居て、2~3個のデカイ目がギョロギョロってこっちを見てるんですよ?!明らかに目が合ってる。そう感じたんです!で、ああ、こいつ、あいつらの本体かなんかだなってわかったような気がしたんですよね?!で、ここに居たらヤバいと思って外に出ました。そしたら以外と雰囲気というか気配というかが軽くなったみたいで···」


 そのまま廃屋を出たLさんは、車両に乗って元来た道を戻ります。
 帰り道で何も無かった事を考えると、【フック】達は昼行性だったのでしょう。

 その足で警察へ出向き、全てを記録したボイスレコーダーを提出すると共に状況を説明。警察は先輩の行方を捜索する事になったのですが、その脇道がどうしても見つからずに先輩の捜索は難航。
 Lさんの勤めていた会社は事業停止に追い込まれ、そして職場から去ったLさん本人は前述の通り、不法投棄関連の罰則のみを受けたという事になります。

 しかしLさんが目撃したという生け簀のある民家の廃屋、そして解体途中だったという巨大な橋は、その廃道付近には存在しない建造物だという事が分かっています。

 一体【フック】の正体はなんだったのか?それにしてもLさんのお話に出て来た廃屋。壁が壊れていた···というのが、何処かで聞いた事のあるお話のような気がしてなりませんねぇ···?
 


 フフ···フフフ······







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