くのこは奇妙現象集

芋多可 石行

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○○の峠

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 ○○県○市内の峠道に出没する異常存在。





 目撃例A

 国道の事故渋滞により、この峠道を迂回路として走行していた長距離トラックのドライバーが、道路を横断する【カーブミラーのようなもの】を目撃。
 夜間だった為、詳細な姿は判別出来ず。しかしミラー部分以外は緑色でペイントされていたという。
            

        
 現地調査初日の報告

 この峠道は上り下りが少なく、山沿いに沿うタイプのカーブが連続する市道。
 気になった事と言えば、ガードレールがやけに歪んでいる箇所が多いという印象。
 倒木が上にのし掛かったのか、上部から加わった力によって歪み、若干ひしゃげている。

 しかし道路舗装整備後40数年間、倒木やガードレールを破損させるような事故は数える程しか起きておらず、この状況が例の異常な物体と関連があるかどうか、その時点では確認出来なかった。
 自治体によれば、ガードレールの破損は把握しているが、損傷は軽微かつ予算の問題もある為、改修は見送り中との事。

 今回は異常物体の件について聞き取りは無し。

 ちなみにガードレールの向こうは河川。
 その河川には所々、近世以前の砂防ダム跡があり、一定の距離毎に水が若干堰き止められつつ流れている。



 目撃例B

 深夜、峠の中頃にあるチェーン着脱用パーキングで、カーナビの不具合を調整していたドライブ中の男性の証言。

 カーナビの調整が終了し、出発の為ヘッドライトを点灯したところ、車体前方から車内を覗き込んでいた【カーブミラー】を目撃。
 ヘッドライトの点灯に驚いたらしいカーブミラーは、ミラー部分が車体の前に来るようグニャリと曲げていた支柱を真っ直ぐに戻し、ガードレールの向こう、河川方面へと移動したらしく、闇に紛れてそれきり見えなくなった。
 ミラー部分以外、支柱等のペイントは緑色。驚いたらしいというのは、その時「ウヴョウ!(?)」と聞こえるようなカーブミラーの声?と思しき音を男性が聴いているからである。



 目撃例C

 過去にロードサービスの仕事をしていたという人物が、数年前の事としてSNSに上げていたエピソード。

 その人物が深夜の作業後にその峠道を通り掛かると、見通しの良い直線区画であるにも関わらず、ガードレールの向こうに立つ【カーブミラー】を目撃。
 仕事柄直ぐに違和感に気付いて様子を見ると、カーブミラーが河川側に転倒した。
 路肩に作業車を停め、降りて様子を見にガードレールに近付くと、周囲には生ゴミの野菜クズのような臭いが立ち込めている。
 倒れた場所にカーブミラー本体は無く、代わりに何者かが川の上を走るような、バシャバシャという音がその人物の耳に届いていた。

 


 目撃例D

 
 会社員のA氏が、よりみちとして仕事帰りにその峠を車で軽く流していると、急に山際から飛び出して来た牡鹿を追う何かと衝突してしまった。

 ヘッドライトに照らされたそれは、ぐちゃぐちゃに畳んだ緑色の布団のような物体だった。追われていた牡鹿の姿はもう見えない。
 良く見ると苦しげに大口を開ける全身緑色人間達の塊がそこに寝そべっていた。

 目と体毛が無く、彼らの皮膚境界は液状であるかのように溶け合い、手足がジタバタと踠いていた。
 やがて衝突のダメージが治まり、体を支える複数の手足の役割が決まったのか、向こう側に倒れていた【カーブミラー】がヌッと手前に立ち上がった。
 カーブミラーはしばらくA氏の車のヘッドライトを照り返していたが、まるで瞬きをするように一瞬鏡面を何かが覆う。
 瞬きの後、ミラー部分が消失する代わりにそこにあったのは、大小様々な大きさの眼球の集合体だった。

 A氏はその後の記憶が無く、気が付いた時には自宅のガレージに停めた車の車内で震えていたという。
 車のフロントグリル破損はごく僅かで、3メートル近くある物体と衝突したキズとはとても思えなかったそうである。
 


 この他にも目撃情報は多数あり、追ってこの存在の調査を続行するものとする。





 追記。


 かつてこの地域一帯では、建造物に捧げる人柱の代わりに、野菜の詰め合わせで作った人形を生け贄にする風習があった。

 その詰め合わせ人形がこちらの考えているようなものである、○○であるというのなら···




 以下報告書文削除済により、閲覧不可能。


 ~ とある研究施設から回収された資料による ~























         ※






 

 
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