悪役令嬢は氷結の戦乙女

marumarumary

文字の大きさ
上 下
10 / 40

帰路 ~聖騎士候補者2オクティビア~

しおりを挟む
翌朝
庭先には、剣を振るって舞うカサンドラの姿があった。
その剣技は踊り子の舞の様でもあり、東洋の武術の様でもある。
辺境の地は、いわゆるのどかな土地であり早朝には人の姿もあまり見られない。
だから、カサンドラは軽装でのびのびとしているのだ。
現世でも、美しい女子が半袖、半パンの軽装で体操していたら、男子たちはどうなるであろう?
ましてや、こちらの世界ではあられも無い姿であり、普通の令嬢ではありえない姿なのだ。
そして、アランはその美しい姿に目を離す事が出来ないでいる。

「あら、アレン様、おはよう御座います。昨晩は楽しめました?」
 屈託ない笑顔を向けられ、アレンは嬉しくなる。
「ええ、まあ。」
アレンは、少しはにかみながら答えた。
「それよりお嬢、いつもその様な出立ちで?」
「まさか。こんな格好お父様に見つかったら幽閉されちゃうわ。」
「・・・(ごもっとも。充分承知の上ですね。)
 それで、お嬢、その剣技と体術を足した様な舞は誰から教わったのですか?」
「誰も居ないわ、独学よ。」
(現世のアクションゲームや映画とは言えないよね。)
「俺にも教えて下さい。」
「え、こんなの役に立つかしら?」
「良いんです。少しでも貴女のそばに近づきたいので。」
「?、ふふっ、熱心ね。じゃあ、剣を回すところから始めましょうね。」

アレン(つ、伝わらなかった。昨日の酒の手伝いもあって、結構勇気を持って言ったのにー!)

一方、邸の入り口で仁王立ちするオクティビア。
「そろそろ朝食だそうだ。」
と怒気を含めて二人を呼ぶ。
「ところで、カサンドラ嬢。いつもその様な格好で?」
「いえ、もちろん違いますわ。本日だけですの。(このやり取りって続くのかしら)」
客観的に見てカサンドラの出立ちは、男どもに昨日の事を思い出させるのに充分刺激的であった。
もちろん、カサンドラにはその自覚は無い。
「では、以後その様な格好は私の前以外ではなさらないように!」
「は、、、い?」
「アレン殿は残っていただきたい、少し話がある。な~に、心配には及びませんよ。男同士の話ですから。な、アレン殿!」
「はい、別に良いですよ。お嬢は、とにかく早く着替えて下さい。」
「分かってるじゃないか!アレン殿。」

しばらく男同士の話が続きそうなので、カサンドラは邸内にそそくさと入った。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

朝食後、王都へ戻る為馬車へ向かう。
使用人達に感謝の言葉をかけ、執事に礼を言う。(突然迷惑かけました。)
クリスティン領は、広く、自然豊だ。ここが全てでは無いが良いところだ。
できればまた来たいなと思う。
さて、馬車に乗り込もうとすると…。

どうしてこうなった?
「オクティビア様?」
「あゝ、気にする必要はない。さすがクリスティン家、良い馬車だ。」
いや、そこじゃない。
オクティビアにエスコートされ席に座る。
そして、なぜか隣へ。(居心地悪いわ~。私、この人苦手かも。)
「ん?少し窮屈なのかな。それなら公爵家の馬車へ移りましょうか?」
「はい。ではそうして下・・・」
すると、再びオクティビアは私の手を掴んで、ニッコリと笑った。
(あゝ、私も連れて行かれるんだ。)
「あ、いえ、こちらで結構です。」
と諦めて席に腰を据えると手を放してくれた。
アレンは、何をしているかと言うと、、、、憮然として見てるゎ。
打合せ済と言う事かしら。

程なく馬車は出発したが、、、き、気まずいわ。
オクティビア様、何か近いですねと思っていたら目が合った。
「カサンドラ嬢、今朝のような鍛練はいつもアレンと?」
「いえ、いつもは私一人ですわ。アレンは、朝食以降からお出でですね。」
「うむ。それは良かった。では、魔法なのですが、詠唱の短縮はどのような鍛練をしているのですか?」
「特に何も必要ありませんよ。」
「え?」
「ちょっと、やってみますね。」

「古の光の聖霊よ、我に従い魔力を供与せしめ光をともせ。」
すると、ピカっとカサンドラの人差し指が小さく光った。
「これが通常の詠唱ですね。」と言いながら、”ふっ”光を消す。
「次に、同じ感覚で、、、慣れるまでは心の中で詠唱したつもりで、”LIGHT!”と唱えるのです。」
そうすると、カサンドラの指先が再びピカっ光った。
「ね!簡単でしょ! 別に”ライト”でなくても何でも良いのですけれど。記号のようなものです。」
「ほうー、分かった。やってみる。」
オクティビアは、人差し指を突き出し「”ライト”」と唱えてみた、、、が、指先に変化はない。
”ライト!”
”ライト!!!”

見かねたカサンドラがオクティビアを止めた。
「はい、分かりました。う~ん、オクティビア様、お手を貸していただいてもよろしいですか?」
「どうぞ」
カサンドラは、オクティビアの手を握り、いつもの探知魔法を使って魔力を探った。
(なんだろう?魔力に混ざって淀んだ気が流れている。おそらく、これが障害となっているのだろう。)
「オクティビア様、失礼ですが御歳をお聞きしても?」
「ん?17だが。」
アランが、”プっ”と噴き出した!
それを見てオクティビアがジロリと睨み返す。
「すみません。もっとおっさんかと思ってました。」
とアランが半笑いの顔で詫びる。
(・・・私も思ってたよ。)
オクティビアがカサンドラの方を覗いてきたので、カサンドラは素早く目線を逸らす。

気を取り直して
「オクティビア様、今度は楽にして私の方へ頭を傾げて下さい。」
そう言うと、カサンドラはオクティビアの頭を両手で包み込み、頭を優しく撫で始めた。
オクティビアは、真っ赤になりながらも素直に従い、カサンドラに頭を預けた。
そして、カサンドラは優しく語り出す。
「オクティビア様は、多くの困難な問題を抱え込んでいますね。
 私には政は分かりませんが、たまには失敗しても良いのでよ。自分を許してあげて下さいませ。」
そう言うと、続けてカサンドラは魔法を唱えた。
「~メンタルヒール~(精神治癒魔法)」
優しい光がオクティビアを包み込み、灰色の蒸気が霧散していく。

アレンが呟いた。
「・・・聖、女・・・様の光?」
オクティビアは、頭を上げて目を見開く。
その表情から、これまであった険しいものが取れていた。
「聖女? なのか?」
「まさか! 私が聖女な訳ありませんよ。単なる回復魔法ですよー。
 それよりも、もう一度やってみて下さい。オクティビア様」
「あ、ああ、そうだな。 ”LIGHT!” 」
すると、オクティビアの指先がピカっと光出す。

「「「おおー!」」」

オクティビア、アレン、カサンドラの3人は顔を見合わせ、、、、急に笑いだす。

ビックリしたのか、嬉しいのか、はたまたつられたのか、3者3様の理由だが、その笑い声は車中を和ませるには十分だった。
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

入社した会社でぼくがあたしになる話

青春 / 連載中 24h.ポイント:1,334pt お気に入り:64

Tokyo2100

SF / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:0

或る実験の記録

BL / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:34

TS戦士見習い、女人禁制スパルタ学園の賞品になる

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:8

ニューハーフな生活

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:255pt お気に入り:26

処理中です...