悪役令嬢は氷結の戦乙女

marumarumary

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魔人ハー

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~クリスティン家邸外~

クリスティン家に突如姿を現した禍々しい者、
魔人ハー・ピグマン。
貴族然とした前回とは違い、今回は臨戦態勢だ。
ざんばら髪に、鋭い眼光が光る。
数十匹の魔獣を引き連れ空間を捻じ曲げ転移して来た。
中にはCランクと言われる魔獣も数匹いる。
これ等を束ね、同時に瞬間移動できる力を持つ。

「おっと待ちな。ここから先は通さないぜ、魔人さんよ。」
門の陰からひょっこり顔を出したランバート。
ランバートは一人、魔人ハー達の前に立ちはだかった。
業物であろう大剣に、腰の脇差はなぜか女性もの日傘を差している。

「ランバートか。C組の筋肉馬鹿が・・・(本当に居やがった)。きさま1人か?」
「もちろん。護衛の皆さんは大切な人を守っているぜ。」
と不敵に笑うランバート。
「さぁ、とっととやろうか!」
ランバートは、自信満々に剣を構えた。
「馬鹿め、魔法の使え無い奴なんざ敵じゃない。」
ランバートは、無詠唱で強化魔法を使いつつ、渾身の剣は振り降ろす。
「それは昔の話だな。それに、俺に”馬鹿”と言って良いのはカサンドラだけだ!」

ー・ー・ー・ー

「はあ、はあ、はあ、・・・」
肩で息をする魔人ハー。
中々手強わかった。
”勇者ランバート。”

魔獣の死体の傍らで横たわるランバート・・・。 もうピクリとも動かない。
単独行動でなければ恐ろしい敵になっていただろう。
だが、もう済んだ。
こいつは、もう2度と剣を持つことは出来まい。
「俺は、役目を果たした。」
カサンドラのことは惜しいが、命令には逆らえない。
魔人ハーは、残りの魔力を使い転移魔法を唱えた。

~~~~~~

ランバートがやられた。
屋敷に運ばれる瀕死のランバート。
駆け付けるアレンとカサンドラ。
カサンドラには状況が飲み込めない。
どうして?ランバートが?禍々しい気配も魔力も何も感じなかった。
けれど、目の前に瀕死の友がいることは確かだ。
カサンドラは、ランバートの手を握り、血だらけのその顔を拭う。
自然と涙が零れていた。

「はは、何とか追い払えた様だな。良かった。これってカサンドラを守れたのかな?」
ランバートは、今、自分の手を握っている者がカサンドラだと気づいていないのか。
もう、それすら分からないほど衰弱していいるのか。
そう言うと、意識を失ったランバート。

「バカ・・・・、貴方って本当、バカね。」
そう言うと、カサンドラはランバートを抱きしめた。
アレンは、それを黙って見ている。

・・・しばし沈黙が続いた後、意を決したカサンドラは、魔道具の小瓶を取り出す。
「キャシー! 何を?」
「今ならランバートの魂を呼び戻せるわ。」
「くっ。」
拳を握り締めるアレン。

カサンドラは、魔道具の小瓶を開け、蓄えていた魔力を全身に浴びる。
干からびたスポンジの様に魔力を吸収していくカサンドラ。
すると、全身から魔力が発揮し、神々しく光り輝き出す。
 ・・・まるで聖女の様であり、決意を秘めた瞳は戦乙女の様である。
そして、動かなくなったランバートの傍にそっと寄り添い、抱きしめる。

「本当に良いのかキャシー? 今までの苦労が無に帰すよ。」
「良いのよそんな事は、ランバートの命には変えられないもの。」
アレンは思う、慈悲の女神・・・。
カサンドラは、青白くなったランバートの頬に顔を寄せ、口付けをする。
さっと目を背けるアレン。
すると、カサンドラが放っていた光はランバートを包みこみ、そして収束していく。
「戻って来なさいランバート。」
みるみるランバートの傷が癒えてゆき、青白い肌が薄く赤みを帯びていく。
「・・・今度は自分の為に生きてね。」
そう言うとカサンドラは、もう一度ランバートに熱いキスをする。
「ありがとうランバート・・・そして、さようなら。」
立ち上がったカサンドラは日本刀を手にした。
魔力が蘇った今のカサンドラには、封印は意味を成さなかった。

「私、行くわ!」
驚くアレン。
「まさか、仇を撃ちにか? 奴の居場所が分かるのか?」
「ふふっ。今ならね。」
そう、カサンドラは魔力探知が十八番なのだ。
禍々しい魔力はそう多くは無い。
アレンは、それ以上何も言わない。
ただ、哀しそうにカサンドラを見つめていた。

”グレーター・テレポーテーション ~上位転移魔法~”

カサンドラの姿が徐々に薄くなり、そして消滅していった。
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