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第1章 中立自由都市エラリア
カレーを食べたら眠くなりますが町を目指すようです
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「さぁ!完成だよ!」
「──」
あれ?思ったような反応が来ないな。
見ると、イスカは複雑そうな顔をしている。 食べるか食べまいか、必死の葛藤をしているように、イスカの翡翠色をした瞳はカレーを睨みつけている。
「なんで、そんな見た目なのに香りは美味しそうなのですか」
イスカは恨めしそうに、カレーを眺めながらお腹を押さえている。 見た目だけが受け入れられない要素になっているようだ。
何か受け入れやすそうな言葉があればいいのだけど⋯⋯そうだ!
「この料理、カレーの材料はね。植物のスパイスを混ぜることによってできているんだ。植物からできた色って言われれば、大地の色に似ていて抵抗が少なくなるんじゃないかな」
うん、エルフと言えば森の民、植物由来だと伝えれば抵抗は少ないかもしれない。
「この色が植物から⋯⋯、うん、植物なら植物なら」
イスカは人差し指でこめかみを、つんつん押していたが踏ん切りがついたのか顔を上げた。
「よし、食べます!」
そう言ってくれると有り難い。
僕は炊きあがった米に、鍋からカレーを掬い飯盒へと注いでいく。 異世界に来て1回目の食事がカレーだなんて、まるで週末にキャンプにでも来た気分だ。
明らかに違うことは、僕の正面に座る少女がエルフのクォーターであり魔法を息をするかのように平然と使うことだろう。
鍋から解き放たれたカレーの香りは恐ろしい。 屋根のない屋外なのに、胃袋を刺激する香りは僕達の鼻孔をいたずらにつついてくる。
「はわわ、もう見た目なんか気にならない程、その『カレー』というものを食べてみたいです」
イスカ、食欲の限界なのか目が虚ろだよ。
でもまぁ、実のところ僕だって限界だ。
「はい、スプーン。結構熱いから気をつけて食べてね」
僕がスプーンを渡すと、イスカはカレーに手をつける前にスプーンを飯盒の蓋に一度置いた。 胸の前で左手を拳の形に、右手で左の拳を包みこむと瞳を閉じ頭を下げる。
これがこの世界の、食事前のしきたりなのだろうか。
10秒程経ち、ゆっくりとイスカは瞳を開けると僕に視線を向ける。
「作ってくれてありがとうございます。では頂きますね」
ニコッと笑うイスカの顔を見た瞬間、僕は思わずドキリとする。 出会ったばかりの僕達なのに、僕はもうこのエルフクォーターのイスカという女の子のことが気になってしまっていた。
「そうだね、僕も頂くとするよ」
僕の方は、死ぬまでに慣れ親しんでいた『頂きます』の姿勢を取った。
さて、スプーンを手にしたイスカは、納得はしたがまだ見た目とのギャップに躊躇いがでるのだろう。 イスカはスプーンにすくった米とその上にかけられたカレーを凝視していたが、意を決したかのようにパクッと、その小さな口にスプーンを投じた。
どうだ!?
スプーンを口から外すと、盛られていた米とカレーはイスカの口内へと消えている。 ゆっくりと咀嚼していたイスカの顔は、みるみるうちに喜びを噛みしめるような笑顔へと変わる。 そこからは凄いものだ。
一口、一口とカレーは次々にイスカの胃袋へとしまわれていく。 まだまだ熱い米とルゥに格闘しながら食べるものかと思えば、5口目には風魔法を使ってスプーンの上のカレーと米を冷ましているなんて!
あれ、魔法ってそんな使い方をするものだっけ?
気持ちのいい食べっぷりに、僕だって笑顔になってしまう。 作りたてのカレーを口の中に入れると、心は生前生きてきた日本へ飛んだ気がした。 美味しい、美味しい。 みるみるうちに飯盒に盛っていた米が減っていく。
「ユズキさん⋯⋯」
カレーに夢中と思っていたイスカの声で、僕は視線をあげた。
「──!!」
そこで初めて気がついた。 僕の両目からポロポロと涙が頬を伝っているということに。
「あれ?なんでだろ?」
気づいてしまうと、涙を止める術を僕は知らなかった。 あぁ、そうか。僕はもう日本という国ではカレーを食べることができないんだ。
カレーの懐かしい香りと、食欲が満たされたことで生まれる心の余裕は、張り詰めていた緊張を切ってしまうのには十分すぎるのだったのだろう。
「はは、ごめん。みっともなくて」
イスカに心配をかけさせてしまったことが恥ずかしくなって、僕は思わず左腕で眼を押さえる。 格好悪いところ見せちゃったな。 そう思って、自分の鼓動が収まるまで待とうとしていると、僕は小さく華奢な身体に抱き寄せられた。
イスカだ。
身体はベイルベアーの襲撃で土煙に晒されているのに、その小さな腕の中は心が落ち着く花のように優しい香りがした。 明らかに僕の頬はイスカの柔らかな膨らみに触れているのだが、下心は湧いてこない。
それほどまでに、僕の心は思った以上に消耗していたらしい。
『友好度が上がりました。同調シンクロ率が上昇したため、新スキル『魔力譲渡』を覚えました』
ほんとセラ様AIはタイミングが良いのやら悪いのやら。 お陰でもう少しイスカの柔らかさを堪能したいと思う、煩悩が生まれる前に僕はイスカの身体を優しく押し返す。
「ありがとう、イスカ。もう大丈夫だよ」
僕の照れた顔を見たのだろう、イスカの長い耳まで赤く染まっている。 思わず目と目が合ってしまった。
「フフッ」
どちらともなく笑い合う。 恥ずかしさを含んだ笑いは、川のせせらぎに静かに溶けていくようだった。
「なんでカレーって食べ物は食べると、こんなにも眠くなるんですか?」
僕の前を歩くイスカは、少しまどろむような声を上げながら湧き上がる欠伸をこらえるために、手を小さな口に押し当てた。
僕も陽が少し傾く午後の時間、眠気はカレーパワーによってピークに達しようとしていた。歩みの途中も少し気持ちはフワフワとしている。 前の職場だと確実に机で舟を漕いでいるパターンだよね。
「お米とカレーは炭水化物というものが多くて、血糖値が一気に上がったのを下げようとして眠くなるって、ふぁ~、聞いた気がするよ」
「ふぁ~、ユズキさんの言うことは難しいです」
二人してこの調子なのだから、周囲の警戒というものにはいささか不用心だったが、あの後には通行人と出会うこともなく魔物の襲来もない。 聞けば、本来この街道は比較的安全な幹線と認識されているらしい。
「多分、さっきのベイルベアーもドーラスの襲撃で、住処を失ってこの辺まで来たのかもしれないですね」
イスカはそう言うと、小さく声をあげると前方を指さした。
「町だ!」
僕達が抜けてきた森の先、開けた視界からは眼下に巨大な城壁に囲まれた都市が見える。城壁の周囲は川の水を引き込んでいるのか堀が巡らされており、吊り橋によって外界との交流が形作られていた。 凄い、ヨーロッパの町並みに出てきそうだ。
僕は、視界に映る光景を見て自分が中世のヨーロッパへ足を踏み入れたような錯覚を覚えた。
「ふふ、これが中立自由都市『エラリア』ですよ!」
イスカは嬉しそうに笑うが、その顔はどこか冴えない。
「どうしたの?」
僕が聞くと、イスカは少し居心地が悪そうに両手を後ろで組んだ。
「実は私、両親が亡くなってからは天涯孤独でして。⋯⋯この町に知り合いがいるわけでもないのです」
そして、何かに怯えるように地面を見るとイスカは言葉を続ける。
「中立といえども、この町の主体は人族です。また、私みたいなエルフクォーターは劣等種族といわれ、あまり亜人族からも良い目では見られないのです」
なるほど、思ったより種族差別というものは根深いらしい。 どこの世界でも、少数派の種族を迫害や偏見の目で見ることはあるが、イスカの表情を見る限り、この世界におけるエルフのクォーターの地位はかなり低いのだろう。
「僕からは、イスカのどこを見てクォーターと呼ばれるのかが分からないな。僕の知識だと、どう見てもエルフそのものだけど」
僕が首をかしげると、イスカは自嘲気味に笑う。
「ユズキさんの世界でなら、私みたいなクォーターでも差別を受けなさそうですね。でも、絶対一目で分かるんですよ」
イスカはそう言うと、右手で自分の両目を指さした。
「この瞳。この色がクォーターの証なんです。純粋なエルフであれば髪と同じ金色か黄色、ハーフエルフであれば青色、それ以下のエルフであれば黄色と青が混じった色。つまり私みたいな緑目は一目見ただけでクォーターだって、みんな分かってしまうんです」
外の世界から来た僕には、イスカに対して綺麗事は言えない。それを言ってしまえば、イスカの今まで生きてきた努力や受けてきた苦しみを否定することになってしまう。
だから、僕は素直に思ったことだけを口にする。
「僕は、イスカの瞳の色、凄く綺麗だって思うよ」
「──!!」
僕の言葉に、下がっていた耳がビックリしたように跳ねた。 イスカの宝石のような翡翠色の瞳が大きく見開かれる。
「僕はイスカがその瞳で受けてきた過去のことを知らない。でも初めて見た時、こんなに美しい宝石のような瞳を持っているイスカのことをとても綺麗だと思ったよ」
嘘はないけど、口にしてみると恥ずかしい。 思わず顔から火が出そうになる。 イスカの視線を直視できず、少し視線を下げてしまう。
チラと見上げた、イスカの顔を見れば勿論真っ赤だ。 顔に似合わない、いや、今の僕の顔はこんな台詞を言って許される顔なのだろうか?
前世の僕なら、後ろ指で「こいつはナルシストです」とレッテルを貼られただろう。
「え、えっと!イスカの瞳はその、僕の世界では『翡翠』っていう宝石の色に似てて、その石は『慈愛』『知恵』って意味があって、昔から魔除けの力があるって不思議な力を持っているって言われてるんだよ!」
あまりの気恥かしさから、小学生の頃必死に調べた石の図鑑の知識を早口で喋り続けてしまう。
僕の必死な説明が可笑しくなったのか、まだ耳を真っ赤にしたままイスカは吹き出してしまった。
「ユズキさんの世界では、この色にも素敵な意味があるんですね。⋯⋯ありがとうございます」
最後の「ありがとうございます」は、小さかった。
「町に入るのが怖い?」
僕の質問にイスカは俯く。 しかし、そっと僕の手を取るとイスカは顔をあげた。
「ユズキさんが一緒だと大丈夫です」
小さく震える手、その手を不安にさせないように握り返すと、僕達はエラリアへと向かって歩みを進めた。
「──」
あれ?思ったような反応が来ないな。
見ると、イスカは複雑そうな顔をしている。 食べるか食べまいか、必死の葛藤をしているように、イスカの翡翠色をした瞳はカレーを睨みつけている。
「なんで、そんな見た目なのに香りは美味しそうなのですか」
イスカは恨めしそうに、カレーを眺めながらお腹を押さえている。 見た目だけが受け入れられない要素になっているようだ。
何か受け入れやすそうな言葉があればいいのだけど⋯⋯そうだ!
「この料理、カレーの材料はね。植物のスパイスを混ぜることによってできているんだ。植物からできた色って言われれば、大地の色に似ていて抵抗が少なくなるんじゃないかな」
うん、エルフと言えば森の民、植物由来だと伝えれば抵抗は少ないかもしれない。
「この色が植物から⋯⋯、うん、植物なら植物なら」
イスカは人差し指でこめかみを、つんつん押していたが踏ん切りがついたのか顔を上げた。
「よし、食べます!」
そう言ってくれると有り難い。
僕は炊きあがった米に、鍋からカレーを掬い飯盒へと注いでいく。 異世界に来て1回目の食事がカレーだなんて、まるで週末にキャンプにでも来た気分だ。
明らかに違うことは、僕の正面に座る少女がエルフのクォーターであり魔法を息をするかのように平然と使うことだろう。
鍋から解き放たれたカレーの香りは恐ろしい。 屋根のない屋外なのに、胃袋を刺激する香りは僕達の鼻孔をいたずらにつついてくる。
「はわわ、もう見た目なんか気にならない程、その『カレー』というものを食べてみたいです」
イスカ、食欲の限界なのか目が虚ろだよ。
でもまぁ、実のところ僕だって限界だ。
「はい、スプーン。結構熱いから気をつけて食べてね」
僕がスプーンを渡すと、イスカはカレーに手をつける前にスプーンを飯盒の蓋に一度置いた。 胸の前で左手を拳の形に、右手で左の拳を包みこむと瞳を閉じ頭を下げる。
これがこの世界の、食事前のしきたりなのだろうか。
10秒程経ち、ゆっくりとイスカは瞳を開けると僕に視線を向ける。
「作ってくれてありがとうございます。では頂きますね」
ニコッと笑うイスカの顔を見た瞬間、僕は思わずドキリとする。 出会ったばかりの僕達なのに、僕はもうこのエルフクォーターのイスカという女の子のことが気になってしまっていた。
「そうだね、僕も頂くとするよ」
僕の方は、死ぬまでに慣れ親しんでいた『頂きます』の姿勢を取った。
さて、スプーンを手にしたイスカは、納得はしたがまだ見た目とのギャップに躊躇いがでるのだろう。 イスカはスプーンにすくった米とその上にかけられたカレーを凝視していたが、意を決したかのようにパクッと、その小さな口にスプーンを投じた。
どうだ!?
スプーンを口から外すと、盛られていた米とカレーはイスカの口内へと消えている。 ゆっくりと咀嚼していたイスカの顔は、みるみるうちに喜びを噛みしめるような笑顔へと変わる。 そこからは凄いものだ。
一口、一口とカレーは次々にイスカの胃袋へとしまわれていく。 まだまだ熱い米とルゥに格闘しながら食べるものかと思えば、5口目には風魔法を使ってスプーンの上のカレーと米を冷ましているなんて!
あれ、魔法ってそんな使い方をするものだっけ?
気持ちのいい食べっぷりに、僕だって笑顔になってしまう。 作りたてのカレーを口の中に入れると、心は生前生きてきた日本へ飛んだ気がした。 美味しい、美味しい。 みるみるうちに飯盒に盛っていた米が減っていく。
「ユズキさん⋯⋯」
カレーに夢中と思っていたイスカの声で、僕は視線をあげた。
「──!!」
そこで初めて気がついた。 僕の両目からポロポロと涙が頬を伝っているということに。
「あれ?なんでだろ?」
気づいてしまうと、涙を止める術を僕は知らなかった。 あぁ、そうか。僕はもう日本という国ではカレーを食べることができないんだ。
カレーの懐かしい香りと、食欲が満たされたことで生まれる心の余裕は、張り詰めていた緊張を切ってしまうのには十分すぎるのだったのだろう。
「はは、ごめん。みっともなくて」
イスカに心配をかけさせてしまったことが恥ずかしくなって、僕は思わず左腕で眼を押さえる。 格好悪いところ見せちゃったな。 そう思って、自分の鼓動が収まるまで待とうとしていると、僕は小さく華奢な身体に抱き寄せられた。
イスカだ。
身体はベイルベアーの襲撃で土煙に晒されているのに、その小さな腕の中は心が落ち着く花のように優しい香りがした。 明らかに僕の頬はイスカの柔らかな膨らみに触れているのだが、下心は湧いてこない。
それほどまでに、僕の心は思った以上に消耗していたらしい。
『友好度が上がりました。同調シンクロ率が上昇したため、新スキル『魔力譲渡』を覚えました』
ほんとセラ様AIはタイミングが良いのやら悪いのやら。 お陰でもう少しイスカの柔らかさを堪能したいと思う、煩悩が生まれる前に僕はイスカの身体を優しく押し返す。
「ありがとう、イスカ。もう大丈夫だよ」
僕の照れた顔を見たのだろう、イスカの長い耳まで赤く染まっている。 思わず目と目が合ってしまった。
「フフッ」
どちらともなく笑い合う。 恥ずかしさを含んだ笑いは、川のせせらぎに静かに溶けていくようだった。
「なんでカレーって食べ物は食べると、こんなにも眠くなるんですか?」
僕の前を歩くイスカは、少しまどろむような声を上げながら湧き上がる欠伸をこらえるために、手を小さな口に押し当てた。
僕も陽が少し傾く午後の時間、眠気はカレーパワーによってピークに達しようとしていた。歩みの途中も少し気持ちはフワフワとしている。 前の職場だと確実に机で舟を漕いでいるパターンだよね。
「お米とカレーは炭水化物というものが多くて、血糖値が一気に上がったのを下げようとして眠くなるって、ふぁ~、聞いた気がするよ」
「ふぁ~、ユズキさんの言うことは難しいです」
二人してこの調子なのだから、周囲の警戒というものにはいささか不用心だったが、あの後には通行人と出会うこともなく魔物の襲来もない。 聞けば、本来この街道は比較的安全な幹線と認識されているらしい。
「多分、さっきのベイルベアーもドーラスの襲撃で、住処を失ってこの辺まで来たのかもしれないですね」
イスカはそう言うと、小さく声をあげると前方を指さした。
「町だ!」
僕達が抜けてきた森の先、開けた視界からは眼下に巨大な城壁に囲まれた都市が見える。城壁の周囲は川の水を引き込んでいるのか堀が巡らされており、吊り橋によって外界との交流が形作られていた。 凄い、ヨーロッパの町並みに出てきそうだ。
僕は、視界に映る光景を見て自分が中世のヨーロッパへ足を踏み入れたような錯覚を覚えた。
「ふふ、これが中立自由都市『エラリア』ですよ!」
イスカは嬉しそうに笑うが、その顔はどこか冴えない。
「どうしたの?」
僕が聞くと、イスカは少し居心地が悪そうに両手を後ろで組んだ。
「実は私、両親が亡くなってからは天涯孤独でして。⋯⋯この町に知り合いがいるわけでもないのです」
そして、何かに怯えるように地面を見るとイスカは言葉を続ける。
「中立といえども、この町の主体は人族です。また、私みたいなエルフクォーターは劣等種族といわれ、あまり亜人族からも良い目では見られないのです」
なるほど、思ったより種族差別というものは根深いらしい。 どこの世界でも、少数派の種族を迫害や偏見の目で見ることはあるが、イスカの表情を見る限り、この世界におけるエルフのクォーターの地位はかなり低いのだろう。
「僕からは、イスカのどこを見てクォーターと呼ばれるのかが分からないな。僕の知識だと、どう見てもエルフそのものだけど」
僕が首をかしげると、イスカは自嘲気味に笑う。
「ユズキさんの世界でなら、私みたいなクォーターでも差別を受けなさそうですね。でも、絶対一目で分かるんですよ」
イスカはそう言うと、右手で自分の両目を指さした。
「この瞳。この色がクォーターの証なんです。純粋なエルフであれば髪と同じ金色か黄色、ハーフエルフであれば青色、それ以下のエルフであれば黄色と青が混じった色。つまり私みたいな緑目は一目見ただけでクォーターだって、みんな分かってしまうんです」
外の世界から来た僕には、イスカに対して綺麗事は言えない。それを言ってしまえば、イスカの今まで生きてきた努力や受けてきた苦しみを否定することになってしまう。
だから、僕は素直に思ったことだけを口にする。
「僕は、イスカの瞳の色、凄く綺麗だって思うよ」
「──!!」
僕の言葉に、下がっていた耳がビックリしたように跳ねた。 イスカの宝石のような翡翠色の瞳が大きく見開かれる。
「僕はイスカがその瞳で受けてきた過去のことを知らない。でも初めて見た時、こんなに美しい宝石のような瞳を持っているイスカのことをとても綺麗だと思ったよ」
嘘はないけど、口にしてみると恥ずかしい。 思わず顔から火が出そうになる。 イスカの視線を直視できず、少し視線を下げてしまう。
チラと見上げた、イスカの顔を見れば勿論真っ赤だ。 顔に似合わない、いや、今の僕の顔はこんな台詞を言って許される顔なのだろうか?
前世の僕なら、後ろ指で「こいつはナルシストです」とレッテルを貼られただろう。
「え、えっと!イスカの瞳はその、僕の世界では『翡翠』っていう宝石の色に似てて、その石は『慈愛』『知恵』って意味があって、昔から魔除けの力があるって不思議な力を持っているって言われてるんだよ!」
あまりの気恥かしさから、小学生の頃必死に調べた石の図鑑の知識を早口で喋り続けてしまう。
僕の必死な説明が可笑しくなったのか、まだ耳を真っ赤にしたままイスカは吹き出してしまった。
「ユズキさんの世界では、この色にも素敵な意味があるんですね。⋯⋯ありがとうございます」
最後の「ありがとうございます」は、小さかった。
「町に入るのが怖い?」
僕の質問にイスカは俯く。 しかし、そっと僕の手を取るとイスカは顔をあげた。
「ユズキさんが一緒だと大丈夫です」
小さく震える手、その手を不安にさせないように握り返すと、僕達はエラリアへと向かって歩みを進めた。
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